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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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才能の片鱗

「互いに準備はばっちりって感じね・・・合図はどうするの?」


「合図なんてないだろ。互いにやりたいと感じたらやればいい。俺らはとりあえず観戦してようぜ。あとのことはあの二人が決めるだろ」


片や刀を構え、片や距離を取ろうとじりじりとすり足で移動を始めている。すでに戦いが始まっているかのような雰囲気である。


何かを切っ掛けにして、いつ戦いが始まっても不思議はない。康太は二人の様子を見てそれでもなお問題ないと判断していた。


いがみ合っているように見えるが、その実相手の出方をうかがっている。特に晴のほうはすでに予知の魔術を発動しているような気配も感じとることができていた。


「どっちが勝つと思う?」


「・・・ハレのほうが優勢であるとは思うけど・・・どうだろうな・・・良くも悪くも苦戦すると思うぞ?」


「へぇ・・・トール君が頑張って抵抗するってこと?」


「たぶんな・・・気合のノリがいい気がする・・・ハレのほうはちょっと気負ってる感じかな?」


康太に言われて文は二人を見比べてみるが、どちらが気負っているのかなどまったく判別できなかった。


最近晴のことを見る機会の多かった康太だからこそ分かったのかもわからない。どちらがより気合が入っているかなどという抽象的すぎる判断材料を文は理解することはできなかった。


「で、このままにらみ合いをさせるってのはどうなの?いつまでたっても始まらないじゃない」


「んー・・・案外相手と波長が合って戦いが始まるってのを期待したんだけど・・・やっぱなんか合図がないとまだ無理か・・・」


康太などは特に合図もなくいきなり戦いを始めるというのを何度か経験している。別に相手と示し合わせたわけでもなく、本当に自然に二人同時に動き出すのだ。


呼吸を合わせるという表現が最も適切だろうか。味方とであれば互いに良い連携を生み出し、敵だったとしても互いに無理のないタイミングで戦いを始められる。


意識せずに康太はいつの間にかそれができるようになったが、まだ実戦を知らない二人では無理なのだろう。


互いにタイミングを取って攻撃しようとしては、相手の行動に邪魔されているように見えた。


「しょうがない、合図を出してやるか・・・二人とも、こいつが合図だ」


そういって康太は自分が持っていた盾を思いきり上空へと放り投げる。


康太の声は晴にも船越にも聞こえていた。勝手に合図だなどと言われては、先ほどまで集中を高めていた二人からすればその盾の存在を意識せざるを得なくなってしまった。


盾が地面に落ちるその瞬間、二人は魔術を発動していた。


船越は光の弾丸の魔術を放ち牽制、晴は予知の魔術に加え肉体強化の魔術を発動していた。


襲い来る無数の光る弾丸に対し、晴がとった行動は回避だった。光の弾丸はまだそこまで数が多くない。さらにわずかに外套に触れさせ、あえて着弾したことでわざと光の弾丸を炸裂させその攻撃の性質をほぼ正確に理解すると、自身の体の周りに小さな氷の粒を大量に顕現させていた。


そういえば晴がまともに魔術を発動している姿は初めて見るなと、康太は少しだけ意識してこの戦いを眺めようとしていた。


晴の体の周りを飛翔し続ける氷のつぶては晴の体を守るように船越が放った光の弾丸を防いでいく。

予知の魔術によって正確に弾道を見切り、氷のつぶてを操って完璧に防御していく。


貫通力のない炸裂する光の弾丸では小さな氷のつぶて一つで防ぐことができてしまう。康太ほどの回避能力のない晴でも、問題なく対処できてしまう攻撃だった。


攻撃を防ぎながら晴は一気に彼我の距離を詰めていく。刀を持っているというその威圧感はしっかりと船越に圧力をかけていた。


未だ牽制、未だ様子見。船越とて何もせずにこのまま押され続けるつもりは毛頭ないようだった。


近づくなと言わんばかりに地面に思い切り足を叩きつけると、叩きつけた地面から炎が噴き出し、波のように地面を伝播して晴めがけて襲い掛かる。


だが晴はすでにその攻撃を予知しているようだった。そしてここからが予知の魔術の本当の戦い方だった。


晴は自ら持つ刀を地面に向けて振るう。瞬間、その切っ先をなぞるように冷気が地面に伝わりほんのわずかな氷の壁を作り出す。いや大きさからして氷の壁というよりは氷の塹壕というべきだろうか。


壁にも満たない小さな塚にも見えるその氷に、船越の放った炎の波は簡単に防がれてしまっていた。


炎の波はそれ以上進むことができずに氷の塚によってせき止められその場で消滅してしまう。


炎が消えると同時に、氷の壁もほぼとかされてしまうが完璧に攻撃を封じて見せた。それも何の苦労もなく。


船越は自らの攻撃が完全に見切られたように見えただろう。出力、性質、属性、それらを完璧に見切ったうえでの対処をしたように見えただろう。


だが実際は違う。これこそが予知の本来の戦い方といえるのだ。


康太はその恐ろしさの一端を体感している。実際にあの戦い方をしてきた魔術師と戦ったことがある。


相変わらずいやな魔術だなと思いながら、康太はその様子を見ていた。攻略法があるのかもわからないその予知の魔術を再び目にし、わずかにため息をつく。


予知の魔術によって得られる情報は多岐にわたる。晴は小百合との訓練の中であることに気が付いていた。


未来とは自らの行動によっても変化するものである。この特徴を用いて晴はどの対応が最も適したものであるかを予知によって把握し実行に移したのである。


炎の波、この魔術に対して晴は三つの魔術を発動しようと試みた。そして発動しようと考えた瞬間に予知の魔術を発動し、それぞれの魔術によってどのような効果を得ることができるかを把握した。


その結果、最も消費が少なく、効率的に防御できる魔術を選定したのだ。


本来であれば実戦などを繰り返し、経験によって培うような対応能力を晴は予知の魔術によって補完している。


小百合の攻撃のように瞬間瞬間の判断能力を求められるような攻撃に比べれば、遠くから一定の法則で近づいてきている攻撃など遅すぎて話にならない。


訓練が実を結ぶというのはこういうことを言うのだろう。晴にとっては射撃系の魔術はもはや恐れるに足らないものとなっていた。


苦し紛れに船越は先ほどとは違う射撃系の魔術を放つ。光の弾丸とは少し違う、まるで光が糸を形成するかのように空中に筋を作りながら晴のもとに襲い掛かってくる。いくつもの光の線が形成されていく中、晴は前進を全く緩めることはなかった。


軌道がはっきりとわかる分、距離感が曖昧になるが晴は全く意に介していないようだった。


攻撃魔術とわかっていながら前進する。攻撃しているにもかかわらず前進してくる。まるで康太と同じように。


一瞬晴の体がぶれて康太と重なるような錯覚を受けた船越は、一心不乱に魔術を操り晴を攻撃する。


だが晴はその手に持っている刀を構えると小さく、だが鋭く切っ先を動かしていく。


刀の先端からわずかに光る何かが飛んでいき、船越の放った光の線をそれぞれ切断していく。


光の線はそれ以上動くことなく徐々に消滅していってしまった。


攻撃を次々に無効化していく。さらに言えばほとんど労力を使うこともなく。


そんな光景を目の当たりにして、船越の頭の中には一時撤退の文字しか浮かばなくなっていた。


康太よりも弱いという評価しか受けていなかったにせよ、この差は明らかにおかしい。何か種があるとわかっていてもそれでも動揺を隠せなかった。


大量に周囲に攻撃をばらまき、晴の行動を制限しながら距離を取ろうとするが、晴は船越が崩れかけているのをしっかりと把握できているようだった。


こここそ勝機であると察したのか、晴は姿勢を低くして一気に接近しようと試みる。


途中襲い掛かる船越の攻撃を適度に回避したり防御したりしながら徐々にその距離を詰めていく。


康太のそれには及ばないにしろ、予知を使った回避と防御は的確で、逃げる船越に対して確実に距離を詰めることができているように見えた。


船越の攻撃が悪いわけではない、的確に攻撃できているし、遠ざけたい、あるいは足止めしたいという意図に対してしっかりと適切な位置や威力で攻撃できている。


だがその攻撃を読み取る晴の予知の魔術はやはり高性能すぎるのだ。


晴のほうはまだほとんど攻撃をしていないというのに、船越はすでにかなり追い詰められてしまっていた。


相手の魔術を丸裸にする。相手を追い詰めれば追い詰めるほどに得られる情報は増えていく。


何をするまでもなく晴はすでに船越の使える魔術の七割程度を把握しつつあった。


徐々に近づいてきている晴に対して、船越はこのままでは逃げ切ることはできないと判断したのか、その体の目の前に強力な火の塊を作り出す。


そして晴が近づいてくるのを確認すると同時に、その炎を周囲に拡散させていった。


広範囲に広がっていく炎に対して、晴は一瞬とはいえ立ち止まらずにはいられなかった。怯んだというのもあるが、可能な限り魔力を抑えた状態での防御が難しく、魔術の発動に集中しなければいけなくなったのだ。


晴はまだ体を動かしながら魔術を発動するということに慣れていない。康太たちのようにさも当たり前のように魔術を発動するための訓練がまだ途中の段階なのである。


いくつかの魔術、簡単な魔術であれば動きながらでも発動できるようになってきたが、晴の主力ともいえる魔術に関しては未だ集中しなければ発動すらおぼつかないのである。


広がっていく炎に対して、晴は刀を構えたまま集中する。


そして刀を思いきり横に振り回すとその眼前に大きな竜巻が現れる。


文の作り出すそれに比べれば小規模ではあるが、むしろ小規模というところに康太と文は驚いていた。


周りにまき散らされる炎を、その小規模な竜巻がすべて吸い込み、炎の竜巻へと変化していったのである。


いくら風と火の相性がいいとはいえ、あれほどの広範囲の攻撃をあの程度の竜巻で防いだという事実に文は驚きを隠せなかった。


的確な判断、それは経験によって得られたものではなく、ひとえに予知の力によって得られた能力だ。


逆に言えば予知があれば戦闘経験の少ない魔術師でもあれだけの戦いができるということになる。


船越は晴が予知の魔術を使えるということを知らない。だからこそこれだけの攻撃を簡単に防いでいる晴が圧倒的な格上に見えていることだろう。


だが実際はほとんど経験に違いはないのだ。あるとすれば素質の差、そして生まれた家の違いというべきだろう。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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