後輩の経験のために
「というわけで俺の知り合いと戦ってもらいたい」
「・・・どういうわけなんすか・・・?いきなり呼び出されたと思ったら・・・もうちょっと説明してくれないっすか?」
翌日、康太は屋上に船越を呼び出していた。晴の言うようにとりあえずは話を通しておくのが筋だと思ったからである。
さも当然のようにというわけでという内容から始めた話に船越がついていけるはずもなかった。
当たり前のように仕方ないなとため息をついてから康太はとりあえず説明をすることにした。
「なるほど・・・とりあえず実戦を積ませたいと・・・」
「そう、そいつら時々俺らの補助をしてもらってる立場なんだけど、もうちょっと実力がないといろいろ不安でな・・・そこで都合よく強くなりたがってたお前を思い出したわけだ。どうせやるなら実力が近いほうがいいだろうと思ってな」
実力が近いという表現に船越は少しだけ眉をひそめていた。
「実力が近いっていうのは・・・具体的にはどれくらい?」
「俺より弱い者同士ってことだ。それ以外はよくわからん」
康太より弱いという具体的だがそれ以外の判断材料が皆無の尺度に船越はあきれてしまっていた。
それでは康太よりも弱い人間は全員実力が近いということになってしまう。そんな無茶苦茶な実力差などあってないようなものだと船越はため息をつく。
「そいつは・・・どういう魔術師なんですか?」
「それは教えない。基本的に相手の情報はほぼないと思え。俺はお前たちを引き合わせるだけだ」
「・・・なんか話聞くだけだとすごいいやな話に聞こえますけど・・・もうちょっといい話はないんすか?」
「いい話?そうだな・・・ぶっちゃけそいつらに勝ったらお前は十分強い部類にカテゴリーされると思うぞ」
「・・・へぇ・・・じゃあ相手・・・そいつらってことは複数なんですか?」
「双子だ。といっても一人ずつ相手をさせるけどな。現状。お前が勝つビジョンが浮かんでない状態だ」
相手は強く、自分がその双子に勝てば強いと認められるという事実に船越は少しやる気を出したようだった。
だんだん船越の性格がわかってきたぞと康太は文が作った弁当を口に含みながらその扱いやすさに感謝していた。
勝てないだろうといわれても、そんなことは彼の耳には入っていないようで黙々と頭の中で双子相手のシミュレートを重ねているようだった。
勝気が強すぎるというか、考えが戦いに向きすぎているというか、なんとも戦闘向きな奴だなと康太は小さくため息をついていた。
「ちなみにそれはいつやるんすか?」
「別にいつでも。そいつらは時間に余裕あるからいつでもこっちに呼べるし、お前は基本夜暇だろ?」
「えぇ、まぁやることは修業くらいで」
「なら一回実戦を挟んでみてもいいと思うぞ?相手は二人だから一人ずつ・・・二日に分けるか」
「別に俺は二人同時でも・・・」
「アホ。一人ならまだしもあいつらを同時に相手にするのは俺でもちょっと骨が折れる。同時に相手しても問題なく倒せるのは文くらいだろうな」
この場にいない自分の相方を思い出しながら康太は大きなため息をつく。
何せ土御門の双子は素質だけを見れば天才だ。康太とは比べるべくもないほどに。
康太のような貧弱な素質では、その優劣がはっきりと出るだろう。さらに言えば土御門の二人は予知を使う。康太の攻撃をとにかく回避、対処し続け長期戦に持ち込まれた場合かなり厄介だ。
それに引き換え文ならばとにかく圧倒的な魔力量を継続して扱えるために、長期戦にも向いている。
実戦経験も豊富であるためにあの双子をうまくいなせるだろう。
「ふぅん・・・本当に先輩あの人に頭が上がらないんですね」
「才能も素質もあいつのほうが上だからな・・・ぶっちゃけ俺はそこまで才能があるわけでもないから」
康太は今まで努力でここまで強くなったタイプの人間だ。土御門の双子のように素質にも恵まれ努力もしているタイプにはいずれ抜かされるだろう。
文ならば同じように才能も有り努力もしている。彼女を持ち上げるのは半ば当然かもわからない。
「んじゃとりあえず明日戦うってことでいいか?良ければ向こうにもそういう風に伝えておくけど」
「俺はいつでも。受けて立ちますよ。完膚なきまでに叩きのめしてやります」
「その自信がどこから来るのか不思議でならないけど・・・まぁいいや・・・とりあえず頑張ってみてくれ。相手にもそう伝えておくから・・・」
あれだけの大敗をした後にこれだけの自信があるというのは何かしらの隠しだねがあるということなのだろうかと康太は少し考える。
どのような手段にせよ、予知を攻略しない限りどうあがいても船越に勝利はないだろう。
康太も予知の攻略には少々てこずる。それをこの一年生がどのように攻略するのか少し楽しみでもあった。
 




