表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/1515

支部長への報告

「なるほど・・・事情は理解した・・・災難だったようだね二人とも」


康太たちは支部長のいる部屋へと赴くと今回の事件に遭遇したいきさつや自分たちが見て聞いたことなどを事細かに報告していた。


方陣術によってどのような効果が発揮されていたか、相手の魔術師がどのような対応をとっていたか等々、聞かれた内容や話した内容は多岐にわたる。


それらを聞き終えた魔術協会日本支部支部長は小さくため息をついた後で書類を書きながら康太たちの方に視線を向けていた。


「今回のことに関しては君たちのお手柄だったね。場所が場所なだけに我々も少々動きが鈍くなってしまったのは情けない限りだよ」


「もう少し早く来てほしかったっていうのはありますけど・・・まぁ事情が事情なだけに仕方ないです。私だってあそこには可能な限り行きたくないですし」


魔術師だって人間だ。自らの能力が制限されるような場所にこのんで行きたがるようなものは少ない。


支部長としてもそれなりに早く人員を派遣したかったのだろうが恐らく専属魔術師たちもマナの薄い場所にはいきたがらなかったのだろうことが予想できる。


「ところであの魔術師って結局どうなったんですか?俺らあの後完全にそっちに任せて帰っちゃいましたけど」


あの魔術師というのは康太と文が打倒した氷を扱う魔術師の事である。気絶したところを拘束して無力化した後、協会の魔術師が引き取ったのだがその後どうなったのかは康太たちもまだ知らされていないのである。


「えっとだね・・・今回の首謀者『タリス・ワイズマン』に関してなんだけど、協会に所属する魔術師であることは確認できているよ。その後事情聴取などをしてるんだけど・・・」


相手の術師名が判明しているという事もあり、恐らくどのような人物であるか、どのような魔術師であるのかなどは容易に突き止めることができたのだろうが、支部長は妙に言いよどむ。


何やら不穏な空気が流れているのが感じられる中、康太と文、そして真理は眉をひそめていた。


「なにか問題でも?もしや逃げられたとか?」


「いやいやそこまでの失態はしていないさ。いやね・・・彼がどのように禁術の術式を入手したのか、そのあたりが判明しないんだよ」


「・・・ベル、禁術って普通に見たりできないのか?」


前に禁術という単語は聞いていたが実際どういうものなのかを知らない康太は小声で文に問いかける。彼女はそう言えば説明してなかったわねと康太の耳に口を近づける。


「禁術っていうのは文字通り、協会が危険と判断して使用とか閲覧とかを禁止した術式のことを言うの。その理由はいろいろあるけど今回の方陣術もそのうちの一つね。普通厳重に管理されてるんだけど今回の場合その出所が不明なのが問題なのよ」


康太たちが今回関わった事件には禁術、つまりは魔術の存在の露見の可能性があるために協会そのものが禁止している術式が用いられていた。


禁止しているという事もあってその術式は厳重に保管、あるいは封印されているはずのものである。当然そう易々と閲覧できるものでも、ましてや行使できるものではない。


「彼の背後関係などは?そのあたりで何かしら情報はなかったのですか?」


「ん・・・その線ももちろん当たって見たさ。彼の師匠筋の魔術師などにもあたってみたのだけれどね・・・魔術などを用いて尋問しても全くと言っていいほど術式の入手経路がつかめない・・・少々・・・いやかなり妙な状況になっているね」


術式の出どころがわからない。そして魔術による尋問を行ったという事は恐らく自白剤かそれに近い効果を持つ魔術を用いて今回の首謀者、タリス・ワイズマンを直接尋問をしたのだろう。もしかしたらその師匠筋という魔術師にも同様の措置をした可能性が高い。


だがそれでも何の情報も得られなかったという事は明らかにおかしい。仮にどこかに偶然落ちていたとかそう言う間抜けな事態だったとしても記憶に残るはずである。魔術を修得するには時間が必要だ。それが難易度の高い方陣術であればなおさらである。


「つまり、何者かに術式の情報を与えられ、その人物が記憶を消去した・・・と?」


「その可能性が高いとにらんでいるよ。たぶんだけどワイズマンはただの尻尾同然・・・体よく利用されたというところだろうね」


魔術には記憶操作や消去という魔術も存在する。見聞きしたものは一定時間以内であれば改変が可能なのである。


つまり今回の術式の情報を与えた何者かは、ワイズマンに術式の情報を与えた後自分の存在に関する記憶を消去したのだ。


そうするとワイズマンの中には唐突に禁術の術式だけが残されることになる。


「ですけど・・・それって痕跡とか残らないんですか?それだけ唐突な記憶操作なら何かしら矛盾がありそうですけど」


「そう・・・その線ももちろん調べてみたんだけどね・・・彼は何も思い出せなかったよ。どうやら相手は随分とこの手の魔術に精通しているらしいね」


記憶というのは基本的にパズルのようなものだ。前後の記憶に整合性がなければ当然矛盾や痕跡が残るものである。


魔術における記憶操作や消去は基本的にその矛盾がないように行うのが基本とされている。だが特定の情報だけを与えてその情報の入手経路だけを消去するというのはかなり大きな矛盾が生じることになる。


仮に記憶を操作して禁術を自分の力で手に入れたと『思い込ませる』ことができたとしてもそこに至るまでの前後の記憶や思考全てを改竄することなどほぼ不可能である。


支部長率いる協会の魔術師はそう言った記憶の矛盾からその前後になにがあったのか、そして矛盾している記憶を掘り起こすことで情報を得られないかといろいろ手を尽くしたらしいのだが、重要な情報は一切得られなかったらしい。


分かったのは唐突に禁術の術式という情報を彼が入手したというだけ。それ以外は彼は今まで通りの魔術師としての生活を送っていたようだった。


不自然なところは基本的には無い。唯一ある大きな矛盾は彼が唐突に禁術の術式を手に入れたという一点に限られる。


その経緯も状況も一切不明。本当に唐突という言葉以外に言いようがない程にその経路が謎に包まれているようだった。


「姉さん・・・つまり、誰かがあの魔術師を利用して何かしようとしてたってことですよね?しかも結構厄介な魔術師が」


魔術の事情などに詳しくない康太もなんとか頭を働かせてこの事件が何者かの策略によって引き起こされたものであるという事を把握していた。


「まぁまとめるとその通りですね。記憶操作などに長けた魔術師であれば不可能ではないかもしれませんし・・・」


「禁術の閲覧が比較的容易な魔術師も容疑者に入りますね・・・全く面倒な・・・」


真理と文のまとめに支部長は頭が痛いよとうつむいてしまう。


禁術の情報というのはおいそれと閲覧できるようなものではない。それが可能になる魔術師というとかなり絞られる。さらに記憶操作に長けた魔術師となればさらにその数は絞ることができるだろう。


「ちなみにさ、今回の禁術って今までに似たようなことが起こったから決められたんだろ?それならその関係者辺りを調べれば・・・」


「確かにその通りなんだけどね・・・同様の事件が起こったのはもうだいぶ前で当時のことを知っている魔術師はもうほとんどいないんだ。書物で当時のことを残すのが限界でね」


そう言えば文も今回のと同様の事件を書物で見ただけだと言っていた。恐らくは先のような事件を起こさないように当時の魔術師たちが記述を残していったのだろう。


万が一にも魔術の存在が露見しないように後世に伝えるために。


「誰が禁術の情報を手に入れたのか、そして何が目的でワイズマンに提供したのか、それを捜査する必要があるだろうね・・・まぁどちらにしろ君たちにできることはもうないかな。今回は助かったよ」


「いえ、うちの生徒たちを守るのが第一の目的でしたから」


文が堂々とそう言ってのける中康太はふと思う。あの方陣術を一度解体したのは文だったなと。


だがこの場でそれを言えばまたややこしいことになるだろうなと康太はあえて口にすることはなかった。


せっかく聞きたいことはすべて聞かれたようで話が終わろうとしているのだ。これ以上話をややこしくすることもないだろう。


「とりあえず今後また進展があったら伝えるよ。君たちはもう関係者になってしまったからね。とりあえず少し評価が上がったと思ってくれればいい」


「評価・・・上がっていいものなんですかね・・・?」


「評価はあげておいて損はありませんよ。私だってしっかり評価をあげて今こうして普通に近い魔術師になれているのですから」


真理の言葉に康太は眉をひそめる。真理も自分と同じように小百合の弟子だ。恐らく昔からいろいろと面倒事を押し付けられたり巻き込まれたりしてきただろう。


魔術協会の評価をあげるという事はそれだけ優秀な魔術師であるという証明に繋がる。つまりは評価をあげることで手ごわい魔術師、あるいは手が出しにくい魔術師であるということを証明することができるのだ。


現に真理は魔術協会にそれなりの頻度で顔を出している、そして小百合に比べて周囲の魔術師からの敵意の視線が少ないことから比較的にまともな部類に入るのだろう。


だが彼女は今普通に近い魔術師といった。つまり評価をあげたところで普通の魔術師には到底なれないという事でもある。


「ブライトビー、君の場合は評価をしっかりあげておいたほうがいいよ。君の師匠はまぁその・・・ちょっとあれだからね。協会に恩を売っておいて損はない。こっちからも君の評価をあげるように掛け合ってあげるよ」


支部長がここまで康太のためにしてくれるのは恐らく康太が小百合の弟子になるきっかけを与えてしまったことに関して今でも負い目を感じているからなのだろう。


贔屓するのもどうかと思ってしまうのだが、それでも康太が少しでも生きやすくなるのであればそれに越したことはない。


少しでも周囲の魔術師からの敵意の目が軽減されるのであればそれに越したことはないのである。


「よかったじゃないビー、支部長にプッシュされるなら評価がきっとうなぎのぼりよ?」


「もちろんやってもいないことを評価することはできないさ。あくまで後押しするくらいのものだよ。ライリーベル、君はこれから彼と行動を共にすることが多くなるんだろう?それならたぶん君も一緒に評価に色を付けてあげられるよ」


本当ですかと文は嬉しいのかそれともあまりうれしくないのか非常に複雑な声を出していた。


評価をあげてくれるというのは嬉しいのだろうが正当な評価を受けられないという意味では少し残念でもあるらしい。


正直者というかプライドが高いというか、文は他者の評価に関しても厳しく裁定する性格のようだった。


「ちなみにその評価が高いと何かもらえたりするんですかね?」


「一応一定以上の評価をしたものには勲章・・・みたいなものをあげる制度になっているよ。貢献度と言ってもいいかもしれないけど、まぁどれだけ活躍したかを表す指標みたいなものだと思ってくれればいいよ」


評価をあげる項目としては魔術的な事件の解決や新魔術の開発、あるいは魔術の改良等々、様々な項目があるらしい。


今回の場合は魔術的な事件の解決がそれにあたる。


逆に面倒事を起こしていたり、悪質な行動をとっていれば当然評価は下がるらしい。


小百合の評価が気になるところだが、評価だけ上げても敵をあれだけ作っていてはあまり変わらないなと思いながら敵を作らないように評価をあげることが必要なのだと理解した康太だった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ