唐突のご挨拶
「ねぇ康太・・・あの家ってさ、どうすればいいと思う?」
「どう・・・とは?質問が漠然としすぎてて返答に困るんだけど」
一通りの家具を選び終えた康太と文は一度昼食をとるべく近くのファミレスにやってきていた。
学生らしくないデート内容で、学生らしいデートの昼食ということでようやく康太と文の正しい年齢に近づいた形だが、その会話内容はやはり高校生らしくない。
「二人の空間ができるってことでさ二人の時間を大事にしたいっていうのはよくわかるのよ。でも考えてみたら私たちって基本ずっと一緒にいるわけじゃない?」
「そうだな、学校の時以外はほとんど一緒にいるか・・・」
二年生になってもクラスが違い、部活動も違うということもあり基本的に康太と文は学校の中では一緒にいる時間は少ない。
だが逆に言えば学校にいない間のほとんどの時間、康太と文は一緒にいるのである。二人きりではないかもしれないが。
「なんていうかさ・・・あの家でしかできないことをするべきだと思うのよ・・・そのために家をコーディネートするべき・・・というか・・・」
「ふむふむ・・・具体的には?」
「ぐ・・・具体的・・・には・・・」
文の口からは言えなかった。康太とイチャイチャするためにあの家をそれ専用に作ろうなどと口が裂けても言えるはずがなかった。
文だって思春期の女の子だ。そういった行為に興味があるし、何より康太とそういう行為をしたいとも思っている。
だがだからと言って自分からそれを口に出すと、まるで自分がそれを求めているように思われると考えたからである。
要するに恥ずかしいのだ。
「ほら、住みやすさとか、暇なときにいられるようにとか、退屈しないようにとか・・・いろいろあるじゃない?」
「ふむ・・・なるほど・・・確かになんかコンセプトを持ってたほうが家具も選びやすいか・・・最低限のものは適当でもいいけどそこから先を考えていくべきかもしれないな」
上手く康太の思考を誘導できたのはいいものの、そこから先が問題だった。ここからどのように方向性をもっていけばいいのか、文は悩んでしまっていた。
「じゃああれだ、とりあえずあの拠点は俺ら二人の拠点なわけだし、二人でいられる空間を作ろうぜ」
「そ、そうね。それがいいわ」
康太もしっかりと文と一緒にいるということを意識してくれていたようで、話の流れを勝手に構築してくれた。文からすればありがたい展開である。
だが問題はこの先、一緒にいるだけではだめなのだ。可能ならば恋人らしく甘い空間を作り出したいと文は考えている。
そうなるとただの家具ではだめだ。やはり実際に見て使ってみない限りそれを理解するのは難しい。
「ちなみにさ、恋人ってそもそも具体的に何するべきなんだ?一緒にいるだけじゃダメだろ?」
「そ、そうね。それじゃ今までと変わらないわ。さっきあんたが言ってたみたいなことも積極的にやってく感じになるんじゃない?」
「マジでか。よし、ならそのつもりで選ぶか」
さっき言っていたこと。文と循環呼吸状態で深呼吸したいなどという康太の少し曲がった欲求をこなしていくということに、康太は少しやる気が出たのか注文した食事を口の中に次々と放り込んでいく。
その様子を見て文は少し早まったかなと思いながら同じように食事を口の中へと運んでいく。
「そういえばさ、ふと思ったんだけど」
「何?」
「文の家っていうか文の両親への報告はいつすればいいのかなって」
康太の言葉に文は口の中にあるものを噴出しそうになってしまう。
康太の考えは基本的には突拍子ないものが多いが、まさかここで自分の両親の話が出てくるとは、文も予想できなかったのである。
「ちょっと待って、なんでうちの親が出てくるわけ?」
「だってさ、一緒にいるわけだろ?さっき言ってたみたいなことをするわけだろ?最終的にはいろいろする可能性もあるじゃんか。そうするとやっぱり将来を考えてきちんと親に話は通しておいたほうがいいと思ってさ」
文だけではなく康太も一応そこまで考えが至っていたというのは文としては非常にうれしいところなのだが、ここで両親が出てくると少し話が違ってくる。
すでに康太は文と結婚まで視野に入れているのだ。男として責任を取る、などという考えからきているのかもしれないが、まだ両親への挨拶は時期尚早のように思える。
もっとも、文の母親にはすでに大まかな事情は伝わっているかもしれないが、そのあたりは今言っても仕方のない話だろう。
「う、うちの親への挨拶はそこそこでいいわよ。あんた一度会ってるんだし」
「会ってるって言ってもあれ一般人としてじゃないじゃんか。ちゃんと普通の交際相手として会ったほうがよくないか?」
「どっちにしろあの人たちだってあんたとあったらそっち系に話をもっていっちゃうわよ。そのあたりは気にしなくてもいいわ」
いずれはきちんと報告をするべきなのかもしれないが、少なくとも今はその時ではない。文はそう考えていた。




