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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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二人の場所で

奏に休みをもらった次の日、康太と文はさっそく手に入れた拠点にやってきていた。


いろいろと準備をしたいというのが正直なところだが、そもそもこの家の中に何を置くか、どのような建物にするかで悩んでいたのである。


部屋の数は十分。これらをうまく使って快適な魔術師生活を送るためにはどのような家具などを置けばいいか、ここは悩みどころである。


「キッチンとかリビングの配置は大まかイメージできてるんだけど・・・問題なのはそれ以外の部屋なのよね」


「そうだな・・・水回り関係はどうしても必要な物多いし・・・冷蔵庫とか電子レンジとか食器棚とか」


キッチン自体の広さにも限りがある、そして何より機能的に使うためには置く家具の大きさや機能なども配慮するべきである。


ついでに言うとリビングも大まかにおける場所に限りがある。康太と文としてはリビングらしいテーブルとソファを置きたいと考えていた。そしてテレビをよく見られる位置にそれらを配置するとなると自然と配置は決まってくる。


テレビそのものが置ける場所、そしてソファが置ける配置など、電源コードやそれぞれの場所を考えたときにそれらは自然と決まってくる。


そうなってくると悩むだけの余地はあまりない。そのため考えるべきはキッチンとリビングではなく他の空間である。


いくつかある部屋にいったい何を置くのか、それを考えるべきである。特に魔術師としての拠点にするためにどのような配置をするのかは重要である。


「ぶっちゃけどうしようかしら・・・寝室もほしいでしょ?」


「そりゃほしいな。寝室は洋室がいいと思ってるんだけど・・・どうよ」


「そうね、異論はないわ。それじゃこの部屋にベッドを置いて・・・つかぬことを聞くけど・・・どんなベッドがいい?」


「ダブルベッドで。今更恥ずかしがることもないだろ。もう一カ月くらい一緒に寝てたんだから」


「そりゃそうかもしれないけどさ・・・」


恥ずかしがりもせずにさも当然のようにダブルベッドを所望する康太に、文は少しだけ複雑な気分だった。


魔術師としての拠点となるとはいえ、奏の許可がある以上この建物は康太と文の家と言っても過言ではない。


以前のような奏に頼まれて調査するという名目ではなく、本当の意味で康太と文のものに近い状況なのだ。


何をしても問題がないということから、一緒に寝るという意味がどのような意味を持っているのか、文は少しだけ邪推してしまっていた。


事実あの時とは少し状況が違う。何せあの時はまだ正式に康太と付き合ってはいなかった。だが今は康太と付き合っているのだ。


そんな二人が一緒のベッドで寝てどのようなことになるのか、どのような結果が待っているのかは想像に難くない。


「まぁ・・・いいわ・・・あんたは何か置きたいものとかあるの?武器とかそういうの」


「んー・・・下のガレージにバイクを置きたいくらいか・・・あとは武器の類はどの場所でもマッチするからどっちでもいいかな」


和室でも洋室でも康太の装備は十分に映えるし、どこに置いていても康太の心情としては気にすることではない。


康太は見た目よりも本質を重視するのだ。武器を準備する場所ならどちらでも大した違いはないのである。


「しいて言えば畳のある和室がいいな。畳み返しをしてそこから武器を準備するとかやってみたいかも」


「そんなスペースあるかどうかはさておき・・・まぁいいわ。それじゃあんたの個人魔術師部屋は和室ね・・・あそこそんなに広くないけど?」


「そこまで何か入れるわけでもないから平気だって。槍と剣と防具くらいだ。あとは適当に武器の類を入れるくらいで他には特には・・・」


「あんたってゲームとか漫画とかの娯楽用品は部屋に置かないの?てっきり置くのかと思ってたけど」


文は何度か康太の部屋に行ったことがある。年頃の男子らしい漫画やゲームが乱雑に置かれた部屋だったために、てっきり今回の家も同じようになるのではないかと考えていたのだが、康太はこの家にそういったものを持ち込む気は今のところないようだった。


「んー・・・今はそういうのはいいかな・・・拠点って言ったら秘密基地みたいなもんだろ?それならいろいろやりたいことがあるんだよ。ゲームとか置いたら自分の部屋とおんなじじゃん?」


「・・・何が違うのか私には判断できないけど・・・まぁあんたがそれでいいのなら別にいいわ」


男の感性というのは不思議なものである。実際にゲームも漫画もおけるような秘密基地にしては立派すぎる、所謂別荘や別宅に近い形の家屋を手に入れたというのにそこに入れるのが自分の装備だけというのだから。


魔術師としては正しいのかもわからないが、今までの康太の生活からすると少しだけ疑問にも思った。


「そういう文は?何を部屋に置くんだ?」


「ん・・・せっかくだからいろいろやってみようと思ってるのよ。いくつか試したいものもあるし、ということでベランダは使わせてもらうわよ?」


ベランダを使うという言葉に康太は首をかしげる。


ベランダで行うことなど洗濯ものを干すくらいしか思い浮かばなかったが、文には何か考えがあるのだろうとそれ以上話を聞くことはなかった。


「さて・・・それじゃまずは家電系をそろえましょうか。まずは必需品からね・・・冷蔵庫、電子レンジ、ポット・・・」


「あとテレビとエアコン、それに各種プレイヤーもほしいな・・・扇風機とかも一応買っておくか」


康太と文は二人で大型家電量販店にやってきていた。ここに来れば大抵のものは何でもあるといわんばかりに、所狭しと家電が置かれている。


店員の売り文句に店内放送が康太と文の耳に届く中、二人はとりあえずキッチン系の家電を見て回っていた。


「ところでさ、今回の拠点を利用するのって具体的にどういう時だ?普段は基本的に師匠の店にいるし・・・たいてい作戦会議するときも師匠の店だろ?」


気軽にアドバイスを受けられるという点に加え、もし何か必要なものがあってもそろえやすいという点から小百合の店は拠点としてはかなり優良物件だ。


生活するための基本的な機能を有しているうえに、修業をすることができるだけの広い空間もある。

店長兼家主の愛想が最悪ということを除けば、現存する魔術師の拠点の中でもトップクラスの条件の良さといってもいいだろう。


その小百合の店を出てまで康太と文があの家に居座るだけの意味は今のところないといってもいい。

ある一つの条件を除けば。


「そりゃ・・・その・・・えっと・・・」


そういって文は近くにいる康太の手を掴もうと手を伸ばす。小指が触れ、緩やかに絡みつくように康太と手をつないだ文は伏し目がちに康太のほうを見る。


「二人きりになりたいときとか・・・一緒にいたいときとか・・・それじゃダメ・・・?」


「・・・おっぉう・・・文さんがすごく女に見える」


「私はいつでも女よ!・・・あんたの女よ・・・」


始めの言葉は大きかったが、その後の言葉は非常に小さく、康太に聞こえたかどうかも怪しいほどの声だった。周りの音にかき消されても不思議ではないその声に、康太は機敏に反応して満面の笑みを作って文に詰め寄る。


「・・・ん?あとのほうが聞こえなかった。もう一回言ってくれ」


「嘘つきなさい!絶対聞こえてたでしょ!」


ばれたかと康太は笑いながら力強く文の手を握り返す。文の口からこのように言ってくれるというのは珍しいために康太は非常にうれしかった。


康太と文は付き合っているのだ。公然といちゃつくのはさすがに人目が気になるが、二人きりになる空間がせっかくあるのだから活用しない手はない。


「ところでさ・・・あんたって普段いちゃつきたいとか思ったりするわけ?なんかあんたってそういうの淡白そうに見えるんだけど」


「そうか?そうでもないぞ?私は健全な男子高校生でございます。いろいろと欲求がはびこっている次第でございます」


「何よその妙な言葉遣いは・・・でも・・・ふぅん・・・そうなんだ」


普段の康太の様子からは文はそういったことは想像できなかった。精霊の影響で涙を流すとき、いつも文の胸元に顔をうずめているが康太がそれらしい反応を示したことはあまりないのだ。


そのためてっきり康太はそういう欲求が薄いと勝手に考えていたのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。


「ちなみにだけど、具体的にはどんな欲求?あ、ちゃんとここが公共の場所だってことを考えたうえで発言しなさいよ?」


「わかってるっての・・・そうだな・・・深呼吸したい」


「は?深呼吸?どういうこと?匂いを嗅ぎたいってこと?」


「あー・・・ちょっと違う、においがかぎたいのは間違ってないけどそういうことじゃないんだよ」


匂いを嗅ぐのではないのならば一体どういうことなのだろうかと、文は眉をひそめてしまっていた。

深呼吸というとそれ以外思いつかなかったのである。


以前文の服の中に顔を突っ込んで深呼吸したことがあるためにそれと似たようなことかと思ったがそういうことでもないらしい。


「んー・・・じゃあヒント。人工呼吸」


「人工呼吸・・・?・・・っ!はぁ!?え?はぁ!?」


たった一つのヒントで文は康太が何をしたいのかをほぼ正確に理解したのだが、その意味が本格的にわからなかったために疑問符が大量に飛び交ってしまっていた。


人工呼吸で深呼吸。つまり康太は文とキスをした状態で呼吸をしたいということである。


互いの酸素を交換しながら延々と呼吸だけを行う。はっきり言ってしまえば無駄な行為である。


徐々に酸素よりも二酸化炭素のほうが増えてくるため、循環呼吸にも限りがある。そんなことをしている状況を想像して文は少し顔を赤くしてしまっていた。


「あんたって変態なの?なんでそんなことしたいのよ」


「だってあれだぞ?相手は自分の中にある空気を吸うんだぞ?相手が空気を出してくれないと呼吸できないし、自分もまた然りだ。なんかこう・・・良くね?」


「・・・ごめん、その気持ちはちょっと理解できないかも・・・」


「何事も実践あるのみだ。今日帰ったら早速やってみようぜ」


「ちょっ!本気!?なんでそんなこと」


「俺がやりたいから」


何と欲求に正直なことだろうか。二人きりになれる空間でしかできないような行動であるのは認めるが、ここまで早く行動に起こすとは思っていなかったために文は少し困惑していた。そして内心少しだけ期待もしていた。呼吸さえも康太に支配されるという事実に。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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[一言] (´・∀・` )アラアラ(ºдº)アッー!!!!↑(´・∀・` )アラアラ
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