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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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大人の時間

「それじゃあ奏さん、また今度」


「今日くらいはちゃんと休んでくださいね。あと普段も徹夜はなるべく控えてください」


「わかったわかった。もう耳にタコだよ・・・お前たちには本当に世話になった。すまなかったな。ありがとう」


食事を終え、一度帰ることにした康太たちは駅の前であいさつをしていた。


康太と文が奏から離れようとする中、アリスは奏と一緒にいた。


「あれ?アリスは帰らないのか?」


「ん・・・今日はこやつに付き合って酒でも飲もうと思ってな。サユリの店では酒は飲めんから、久しぶりに・・・という奴だ。それにこやつのところならいい酒があるだろうからの」


そういいながらアリスは奏のほうをニヤニヤしながら見つめる。こき使われてやるからその分酒をごちそうしろと言っているのだ。奏も久しぶりに酒を飲んだからか、そして一緒に酒を飲める人間を見つけたからか嬉しそうに「構わんぞ、いくらでもご馳走しよう」と答えていた。


普段未成年ばかりの小百合の店ではほとんど酒は飲まない。小百合自身の酒癖の悪さもそうなのだが、神加が来てからは小百合は一滴も酒を飲んでいない。


教育上良くないと思っているからなのか、それとも酒を飲むだけの余裕がないだけなのか、どちらにせよ身内で酒を飲むような機会も奏はあまり恵まれていないため、こういう誘いは思ったよりもうれしいのかもわからない。


「それではこれからは大人の時間だ。悪いが子供はさっさと帰って寝るがいい。ちゃんと歯を磨くのだぞ?」


「何よそれ、一番子供っぽい見た目してるくせに」


「はっはっは、年齢よりも若く見えるだろう?これでもスキンケアは欠かしていないからな」


実年齢数百歳がスキンケアをしていようとしていなくとも、その程度は誤差のような気がしてならないが今はそのことは置いておくことにする。


見た目が小学生レベルのアリスでは普通の店には入れないだろうから奏のお抱えの店に行くか、あるいは社長室で飲み直すつもりだろう。


酒の良さなどは未成年であるために理解できない康太と文だが、こうやって発散できる場が必要であるということくらいは理解できる。


特に奏は最近働きづめであるということもあってかなりストレスもたまっていることだろう。おそらくアリスはそのあたりを察して奏と一緒にいようとしているのではないかと康太と文は考えていた。


康太と文がいては奏は格好をつけようとしてしまう。だが人類皆年下レベルで年長者のアリスであれば奏も変に意地を張ることも見栄を張ることもないだろう。


片意地を張らずに普段通りの、本来の奏になることだってできるかもしれない。


「わかった。アリス、奏さんに迷惑かけるなよ?」


「もちろんだ。二人の代打でしっかりと働くことを約束しよう」


「ちゃんとバイト代も出すから安心しろ。もっともこいつからすれば本当に雀の涙だろうがな」


バイト代というのが酒のことなのか、それとも現金のことなのかはさておいて康太と文は奏とアリスに別れを告げて駅のほうへと入っていく。最寄りの教会まで移動しなければ帰るころには日付が変わってしまう可能性もある。早々に移動しなければ明日に差し支えると、小走りに去っていった。


「あの二人は本当にいい子だな・・・一緒にいて非常に心が癒される」


「そうだろう?私が目をかけるだけのことはある。あぁいう輩は幸せになってほしいものだ・・・」


奏とアリスは走り去っていった康太と文の背中を眺めながら、それぞれ違う背中を二人のそれから連想していた。


奏の脳裏に映るのは幼いころの小百合の姿、そして自分が今まで育ててきた弟子達の姿だった。


アリスの脳裏に映るのは今まで出会ってきた人の中でも、アリスが味方をしたいと心の底から思った者たち。どれもよい人材だった。魔術師である者もいれば、ただの人間だったものもいる。


「お前があの子に会った時、確かイギリスだったか・・・?どう思った?」


「危うい子だと思ったよ。だが同時に面白いとも思った。見ていて飽きん・・・それに・・・その少し後にわかったことだが・・・あれには少々借りがある」


「ほう?借りとは・・・あの子はいったい何をしたんだ?」


「・・・コータが何かしたというわけではない・・・私の身内がしでかしてしまったというだけの話だ」


奏は詳細を聞いていないためにそれが何のことを言っているのかはわからなかった。アリスの目にはしっかりと康太と一緒にいるデビットの姿も見えていた。それはアリスにしか見えない光景だっただろう。かつて、まだ魔術を習う前だった彼の姿が、アリスには康太と重なって見えていた。


「コータの危ういところをフミがうまくコントロールできればよいのだが、さて・・・どうなることやら」


「大丈夫だろう。あの子はあの子の師匠によく似てしっかりしている。面倒な相方がいるところもそっくりだ」


「相方とはサユリのことか?二人は仲が悪いように見えたがな」


「今でこそそういう関係だがな・・・まあそのあたりの話は戻ってからしよう。今日の夜は長いぞ?」


「望むところだ。私もいろいろと話したいことがある。これもいい機会だからな」


二人の魔術師は笑顔のままあれやこれやと話をしながら奏の社長室に戻っていった。そしてその日は日が昇る寸前まで、二人で酒を飲み、多くを語らっていたのは言うまでもない。


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