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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」
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手慣れた結果

康太は布袋をかぶせ二人の魔術師の視界を封じた。


ここからはいつもの通りだ。いつもの通り片方を起こし、尋問し、その途中でもう一人を起こして魔術が使えないように集中力を乱しながら適度に悲鳴を聞かせ、恐怖心をあおりながら尋問し続ける。


尋問とは相手の体をいたぶるのではなく、相手の心をいたぶるものであると康太は理解していた。


心に強い力を持った人間ならば、尋問しようが拷問しようが口を開くことはない。だが心を痛めつけ、心が弱まれば、話してもよいのではないかという気持ちが芽生える。


苦しい、痛い、辛い。そういったマイナス方面の感情や感覚は人の心を弱めていく。そしてそんな目に遭いたくないと誰でも思うのだ。


だからこそ話してしまう。そういうものだった。


康太は相手の心をどのようにすれば強く傷つけ、弱めることができるのかをこれまでの経験からおおよそ理解していた。


ただ痛いだけではだめだ。その痛みが延々と続くことをわからせなければならない。針を少しずつ体に刺していったり、指の爪を少しずつはがしていったりと、末端部分、ごく一部などに強い痛みを与えてやればいい。


ここで重要なのは先ほど康太も言ったが、壊しすぎないことだ。完全に壊してしまえばそれ以上痛みを与えられない。だからこそ加減して、それでも最大限に痛みを伴う方法を模索し、それを今実践している。


悲鳴が部屋の中にこだまする。文は仮面の上からでもわかるほどに顔をしかめている。そして幸彦もあまり顔色が良いとは言えなかった。


無論康太だっていい気分ではない。悲鳴を浴びて喜ぶほど康太は人格が歪んではいないのだ。


「や、やべでぐれぇぇ!だ、だずげでぐれぇぇぇぇ!」


悲鳴を上げても、命乞いをしても康太は手を止めない。康太が聞きたいことを、康太が知りたいことを話すまでこの手が止まることはない。


すでに康太は彼らに質問をした。どのような依頼を受けたのか。依頼をしてきたのは誰であるか。その背後関係などは知っているか。


魔術師であればそう簡単には答えないようなことを康太は聞いた。依頼を受けた内容を話せば当然依頼主に危害が及ぶだろう。


そして依頼主の情報を簡単に流すような魔術師に誰かがこれから望んで依頼をするとは思えない。


康太がこうして話を聞こうとしている行為は、魔術師たちの体と心、そして彼らが今まで持っていた信用そのものも壊しかねない危険なものなのだ。


生半可なことでその話が聞けると思っていない康太からすれば、長丁場になるのは覚悟の上だった。


だがそれでも、一秒でも早く話してくれと願いながら康太はその手に持った針を指先に突き立てていく。

針治療のようにゆっくりと。だが刺す場所は適切なツボの位置などでは決してない。むしろ神経が集中し、痛みを増す場所を狙って突き刺していた。


布袋の下が涙と涎と鼻水で汚れながら、叫び続けて呼吸さえも満足にできないような状況でありながら、喉が裂けるのではないかと思えるほどに大声を上げながら、それでも魔術師は康太が求める言葉を言おうとはしなかった。


なかなか強情だなと思いながら、康太は小さくため息をついてから片方の魔術師に小声で話しかける。

そしてもう一人にも同じように話しかけた。


康太に話しかけられた二人はわずかに足を震わせていた。康太が何を言ったのか、文と幸彦には聞き取れていなかったが、康太はこのようなことを二人に口にしたのだ。


『お前たちは最初から生かしておくつもりはない。あの人に害を加えようとしたのだからその罪は死でしか贖えない。だがお前は助けてやってもいい。俺が知りたいことを話してくれるのであれば』


それは暗に相方は殺すがお前は情報を話せば助けてやるという言葉だった。この魔術師だってバカではない。二人が同じ部屋に運ばれ、同じように悲鳴を聞いているのだ。


康太が同じ言葉を相方に言っていることくらい想像ができた。


だが想像できたからこそ、こう考えてしまった。


情報を教えたほうだけを助けるつもりではないか、と。


ここまで痛めつけても情報を吐かなかったということは、情報を二人とも知らないという可能性を考慮したのかもしれない。そこで情報を知っている方だけを生かすという方法をとった。


もしここで話さなければ自分は殺されるかもしれない。ここまでしたのだ。おそらく殺すくらい簡単にするだろうという恐怖が、その体から脳に刻まれた二人は、目の前にいるであろう男の見えない顔が、その姿が具体的な死の形をしているように思えてしまっていた。


死を体現した姿。目の前にいるこの男が自分たちを殺すかもしれない。そんな恐怖が二人を支配していた。


縛られた二人の体から汗がにじみ出る。腕や足から垂れた血とまじりあって雫となって椅子や床を濡らしていく。


片方の魔術師はあまりの恐怖に失禁してしまっている。もう片方は失禁こそしていないが、恐怖から体の震えが止められなくなってしまっているのか、動かせる部分すべてが痙攣しているかのように震えていた。


奥歯がかみ合わず、体の力が抜けていくのか、姿勢を維持できていない。


そして止めと言わんばかりに康太がこう告げる。


話す気がないならそれでもいい。お前たちを見せしめにするだけだと。


それから魔術師たちが自分の知っている情報を話し、康太に本気で命乞いを始めるまで一分もかからなかった。
















「んー・・・やっぱり予想通りとはいえ・・・さすがに本人の名前まではわからなかったか。まぁ仕方ないか」


拷問で得られた情報は、今回の依頼を出した人間の魔術師名だった。仮面の特徴なども教えられたが、あまりに恐怖を植え付けすぎたせいか手が震え、満足な絵を描くことはできなくなってしまっていた。


少しだけ反省する康太だったが、術師名を知ることができたのは大きかった。


ボロボロになった魔術師は協会に引き渡し、一般人に危害を加え、警察まで動かすほどの事態を引き起こした魔術師として厳正な処罰が加えられるだろう。


現時点ですでに十分罰は受けたように思えるが、康太がやったことと協会が下す制裁は全くの別問題だ。

とはいえ、二人を引き取りに来た協会専属魔術師がかなりドン引きしていたのは言うまでもない。


「なんというか・・・相変わらずあんたのやり方はえげつないわね。明日お肉が食べられる気がしないわ」


「ふふふ、そんなに褒めんなって」


「褒めてないわよ・・・まぁ術師名だけだけど、収穫は大きいわね。あとはその魔術師をしっかり調べ上げてとっちめればいいだけね。えっと『ベフ・ノイ』か・・・聞いたことある?」


「ないな・・・バズさんは?」


「ないね。少なくとも僕は関わったことはないかな」


協会の内情に詳しい幸彦も知らないとなると、協会内で主に活動している魔術師ではないのかもしれない。


「もとより会社関係で手を出してきたやつだからな・・・もしかしたらサリーさんみたいに普段は会社に引きこもってるのかもしれないぞ?」


「いや、あの人は引きこもってるというか家に帰ってないんだけど」


「引きこもりとは真逆だよね。まぁ会社の中にずっといるんだからある意味引きこもりと言えなくもないのかもしれないけれど」


奏と同様な生活をしていて、奏の会社が邪魔になったからちょっかいを出しに協会までやって来た。そう考えても不思議はない。


そうなると探すのが面倒になるかなと思いながらも康太はとりあえず探し出せるあてだけは思いついていた。


「とりあえず支部長のところに行って聞いてみるか。教えてくれるかもしれないし」


「一応は魔術師の個人情報なわけだけど・・・教えてくれるかしらね?」


「わからん。でも今回は警察沙汰になってる魔術師捕まえたんだし、それと等価交換ってことで教えてくれると嬉しいな」


「願望入ってるね。僕も知り合いをあたってみようか。何かわかるかもしれないし」


「すいませんバズさん・・・なし崩しに手伝ってもらって・・・」


幸彦は朗らかに笑いながら構わないよと軽く手を振って二人から離れていく。幸彦としても奏の力になりたいという気持ちはあるのだろうが、ここまでしてくれるというのは康太たちからすれば少し申し訳なくもあった。


康太と文は幸彦ばかりに頼ってはいられないと、即座に支部長のもとを訪れる。


「というわけで支部長、ベフ・ノイという魔術師について何かご存知ではないですか?」


「・・・いきなり来たかと思えば随分と唐突だね・・・いやまぁここに来るとは思ってたけどさ・・・」


警察沙汰になった魔術師が康太が普段使う拷問部屋に連れていかれたこと、そしてそこから聞こえる悲鳴や、悲鳴が終わった後に専属魔術師にそれを託したことから、支部長は康太たちがここにやってくることは半ば理解していた。


きっと報告なり、知りたいことがあって自分のところにやってくるだろうと考え、そしてその考えは当たっていた。


「まぁその・・・いいんだけどね・・・聞くのは。でもあれだよ、僕としても簡単に魔術師の情報を教えるわけには」


「さっき引き渡した魔術師二人が警察沙汰になるようなことを引き起こした原因がそのベフ・ノイです。あいつらはその魔術師から依頼を受けたと証言しています」


「・・・なるほど・・・そうか・・・」


支部長個人としては康太に力を貸したくても、支部長という立場からあまり多く康太たちに力を貸すことははばかられる。


あまり力を貸しすぎると、康太のことをひいきしているように見られかねないのだ。支部長はこの日本支部の長、悪く言う人間は少なくないだろう。現段階でもかなり力を貸してくれているほうではあるが、それはちゃんと理由付けをしているからだ。


逆に言えば肩入れをしていると思われない程度に理由さえあれば支部長は康太に協力してくれるということでもある。


それを理解しているからこそ康太は先ほどのように切り出したのだ。


「俺らがそいつを軽く捕まえてきましょうか?そのほうが支部長としても安心できるでしょう?」


「・・・そうだね・・・そんな人を野放しにしていたらまた警察沙汰が発生するかもしれないからね・・・」


「はい。なので教えてください。依頼を出してくれてもいいですよ?」


本来ならばこういった事態のために協会専属の魔術師がいる。魔術が一般人の目につかないようにいろいろと工作し、協会のために行動するのが協会の専属魔術師の使命であり仕事である。


そういう意味では今回のこの事件、専属魔術師たちが主に行動するべき事案なのだが、支部長は康太たちがわざわざやってきたということに少しだけ思うところがあった。


良くも悪くも康太は面倒の中心になることが多い。今回も何かあるのではないかと勘ぐっているのだ。


伊達に小百合を筆頭とした問題児を抱えてきたわけではない。面倒ごとに対するセンサーは人一倍強いのである。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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