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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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手慣れてきたのは良いこと?

康太が少女を無事に送り届けてから数十分、文は二人の魔術師を間違いなく協会で待機してくれていた幸彦のもとに送り届けていた。


「予想してたよりずっと早かったね。ビーは苦戦しなかったのかい?」


「えぇ、片方が寝ててくれたおかげでずいぶん楽ができたといっていました。あとはこの二人を尋問して、背後関係を明らかにすればいいだけですね」


「なるほど、ビーもなかなか手際が良くなってきたなぁ、無駄なダメージを与えずに気絶させる術を覚えてきている感じだね」


そう言いながら幸彦は二人の足を掴んで無造作に引きずっていく。平坦だろうと階段だろうと関係なさそうにただただ引きずるだけという印象を受ける運び方だった。


「そんなことわかるんですか?」


「うん、今回は痕跡が残ることを嫌ってか打撃メインだったみたいだけど、打撃を当てる場所が的確になっているね。当てるだけじゃなくて人体の急所になるべく当てようっていう努力が見受けられるよ」


魔術師の体を調べたのだろうか、幸彦は引きずっている魔術師二人に一瞬視線を移すと笑って見せる。


仮面に隠れてその笑顔は見ることはできなかったが、幸彦なりに康太の成長を喜んでいるのが文にも理解できた。


「人体の急所って言っても・・・単なる打撃でそんなに変わりますか?」


「変わる。あんまり打撃を使わない君からするとイメージしにくいかもしれないけれどね。斬撃みたいにどんな場所に与えても最低限の効果がある攻撃と違って、打撃は的確な場所に当てさえすれば一発で倒せる可能性を秘めてるからね」


斬撃ならば、どの場所に当てても血を流させ、相手の体力を奪うことが可能である。人体を相手にしている以上、斬撃というのはほとんどの場所で効果的に相手を傷つけられる優れた攻撃手段なのだ。


だが打撃は違う。打撃は場所によってはほとんど効果が得られなかったり、得られたとしても遅効性の場合が多い。


ボクシングの試合などを思い浮かべればよくわかるだろう。鍛えに鍛えた体で放つ拳でも、一撃で相手の意識を断ち切るというのは難しい。


ただ乱暴に振るっているだけでは的確に打撃で相手を倒すことは難しいのだ。


「ビーの場合、相手を殺したり手足を斬り落としたりとか極端なことはできないだろうから、もう少し打撃を強化したほうがいいだろうって助言したことがあるんだ。たぶんジョアにいろいろとアドバイスをもらったんじゃないかな」


「なるほど・・・そういえばあの人も打撃武器を使ってましたね」


真理の使っている武器は三節棍、三つの節があり部分的にヌンチャクのようにも扱える棒状の武器だ。


刃はついておらず打撃を基本とした攻撃が主流である。何より真理が戦いにおいて刃物の類を使っているところを文は見たことがなかった。


「あの子は治すのも得意だけど壊すのも得意だからね、特に生き物に関しては一家言持ちさ。もしかしたらもう免許皆伝クラスかもね」


幸彦でもまだ真理の修業状態を正確に把握していないようで、そろそろ真理が小百合のもとを卒業するかもしれないということは知らないようだった。


実際破壊に関しての技術のほとんどを継承しているという真理、持ち前の優秀さに加え、学習能力の高さと真面目さも相まっていつ小百合のもとを巣立っても不思議はない。


「バズさんも誰かを倒すときはそういうことを気にしますか?急所とかそういうの」


「そうだね。これは結構多くの魔術師・・・っていうか一般人を含むほとんどの人に言えることなんだけど、案外自分の急所を知らないんだよね」


「自分のっていうと、人間の急所ってことですか」


「そういうこと。喧嘩とかそういうことをする人がいても、たいていが顔とか腹とかを殴る蹴るばっかりで、肝心の急所に当たってなかったりっていうのが結構あるんだよ。知っててなおかつ的確に打つ守るができるのは格闘系のスポーツを本気でやってる人くらいじゃないかな?」


そう言われると、文も人体の急所と呼ばれる部分がいったいいくつあるのか知らなかった。


男ならば股間、女ならば下腹部あたりを攻撃されるととてもつらいことくらいはイメージできるものの、それ以外の場所で考えろと言われてもいくつか知っているくらいで具体的に明示しにくかった。


「えっと・・・確か鼻と唇の間あたりにありましたよね?当たったら痛い場所」


「人中だね。ここは機能的な急所ではなく痛覚的な急所だね。他にもいろいろあるよ。打撃できついのは脇腹、こめかみとかかな」


こめかみ、所謂側頭部と脇腹、特に肝臓のあたりを刺激する部分の打撃は強く人体に影響を残す。


そんなことを知っている幸彦はさすがというべきか、それともやはり小百合の兄弟子だなと思うべきなのだろうか文は迷ってしまっていた。


「今回ビーはそのあたりを狙っていると?」


「そうだね。骨の集まっていない部分をよく狙えているよ。ボディ全般に加えて顎もしっかり狙ってる。気絶させるには十分だね」


今まではとにかく手を出してその結果相手が吹き飛ばされ、その結果脳震盪で気絶するというパターンが多かったかもしれないが、今回康太は意識的に打撃のみで気絶させるようにしたのだろう。


危険な方向に進んでいるとはいえ、着々と攻撃手段をレベルアップさせているのがわかる。


「まだ粗さは目立つけど、このまま攻撃そのものを狙う場所を洗練していけばかなり効果的に攻撃できると思うよ。素の攻撃力自体も上げたいって言ってたし」


「あぁ・・・そういえばそんなことを言っていたような・・・」


自分より格上の魔術師と戦ってから、康太はとにかく一つ一つの攻撃の威力を上げるように努力していた。


うまくいっているものもあればそうでないものもある。工夫に工夫を重ねているようだったが、それが日の目を見るのはもう少し先のことだろうというのが幸彦の予想だった。






「お待たせ、無事にエスコートしてきたぞ」


文と幸彦が二人の魔術師を尋問部屋に連れて行きしばらくすると魔術師装束に身を包んだ康太がやってきた。


その場に転がされている魔術師二人を見て小さく安堵すると文と幸彦のほうに向きなおる。


「お疲れ様。被害者の意識は?」


「戻らないまま引き渡したよ。バズさん、こいつら引き取っててくれてありがとうございます。ベルだけじゃ不安だったんで」


「はっはっは、気にしないでくれ。どうせ暇だったし、間接的に姉さんを助けると思えば安いものさ」


幸彦としても奏が最近根を詰めている様子を知っていたのか、何かしら力になりたいと考えていたようだ。


何日も徹夜しているようなことが続くようであれば、彼も手伝いに回るつもりだったのだろうか、どちらにせよここまで心配されているのは意外だった。


「さて・・・んじゃさっそくと尋問するか。どこの誰にお願いされたのか聞きださなきゃサリーさんも枕を高くして眠れないからな」


「あの人の場合それがわかっても横になるとは思えないけど・・・まぁいいわ」


文の言うように、仮に今回の背後関係がはっきりしても、そしてその背後関係すべてが解決したとしても奏がベッドで横になる姿を想像することが二人にはできなかった。


というか奏が眠っているところをこの間初めて見たのだ。想像できないのも無理のない話かもわからない。


「内容としては、今回は会社関係の依頼なんだろう?なら姉さんの会社と関わりがあるかライバル会社の仕業って考えるのが妥当かな?」


「ですね。あるいはサリーさんに直接恨みを持っているか・・・こっちは正直あんまり現実味がないですけど」


「そうね、あの人だったら恨みを持っていたらとりあえず叩き潰すとか?」


「うちの師匠じゃないんだから・・・あの人ならうまく立ち回るだろ」


小百合ならば文の言うように徹底的に叩き潰し、二度と敵対しないように心身ともに刻み込むのだろう。だが奏は良くも悪くも会社という大きな組織の長だ。一人で敵を作り排除するよりも、敵を作らずに立ち回る方法に長けているだろう。


それこそ真理のような八方美人な立ち回りをしているのではないかとさえ思える。何より彼女は最近魔術師として活動していないのだ。魔術師から恨みを持たれるというのはなおのこと考えにくい。


「じゃあ会社関係で。企業スパイ・・・いや企業間戦争ってやつか?なんだかすごくドラマとか映画とかで聞きそうな響きだけど」


「そういう意味では前のアイドルも似たようなことしてたじゃない。あれは単純に別事務所からの嫌がらせだったけど・・・今回は一度犯罪にまでなって警察も動いているんだから、このことは支部長にも報告しておかないと」


魔術師として犯罪を行うなとは魔術協会も言っていない。問題なのはその犯罪が公になることだ。


警察が動いてしまっている以上、もはやこの事件は一般の目にもさらされることになるだろう。


そのような行動を起こした魔術師を協会としては放置しておくわけにはいかない。そういう意味も含めて支部長に報告しておかなければならないのだ。


「まぁ報告する前に知りたい情報だけはちゃっちゃと搾り上げちゃおう。喋りたくなくても喋らせるけど」


康太はそういいながらてきぱきと尋問の準備を進めていく。恐ろしく手慣れた準備姿に文は少しだけ悲しくなっていた。


「あんたこういうのに慣れてきたわよね・・・なんていうか・・・一応高校生としてどうなのよ?」


「高校二年生です、特技は拷問と尋問です。喋りたくない秘密があっても強引に喋らせることができます。なんかよくね?」


「よくない。履歴書とかに絶対書かないでよね?」


「書かないっての。てか書けないっての。どこの世界に履歴書に拷問だの尋問だの書く人間がいるんだよ。サイコパスか」


いくら康太でもそこまでぶっ飛んだ行動をするほど馬鹿ではない。せめて運動が得意ですとか武術を少しかじっていますとかその程度に済ませるだろう。


康太の近接戦闘の技術は特技というに値するだけのものだ。拷問や尋問も一種の特技と言えなくはないだろうが、公に自慢するようなものではない。


「でもなかなか手際がいいよね。この部屋は毎回使っているのかい?」


「えぇ、支部長が俺がやろうとしてることに気を回していろいろ用意してくれるんですよ。本当に助かってます」


康太からすればいちいち道具を用意しなくても尋問のための道具が用意されているのは非常にありがたい。


幸彦がパッと見た限り、そこにあるのはほとんどが日用品だ。尋問をする相手を固定する椅子とベルトだけは少々特殊かもしれないが、それ以外のものはすべてほかの用途で使われるものばかり。


「これは誰から教わったんだい?クララかい?」


「いえサリーさんです。師匠だと壊しちゃいますよ。こういうのは壊さずに延々と苦しめるほうが効果的ですから。うまく痛みを持続して、新鮮な痛みと恐怖を与えるのって結構難しいんですよね」


生かしながら痛みを与え続けるというのは単純に壊すというのとはまた別の意味で高度な技術だ。

それを淡々と行える康太は成長したのか、それとも悪化したのか。文は判断できなかった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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