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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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文活躍中

康太と文が東京都内の各所のホテルを回り、被害者の居場所を確認するための魔術を発動し続けどれくらい経過しただろうか。


すでに日は落ち、五カ所目の測定になろうという頃、康太と文はその場所にたどり着いていた。


「・・・この近辺ね・・・ここまでわかれば十分だわ」


線と線で結ばれた場所はいくつかある。文の発動した魔術の精度が低いために、距離が遠い場所からの測定は地図上で大きくずれをもたらしていた。


だが低い精度を数で補い、康太と文はその場所の特定に成功していた。


場所の特定というよりはその場所の近辺の特定というべきだろうか。どの線が正しいのか、どの範囲が正しいのかわからないために実際に現地に向かって判断するほかない。索敵の魔術を使えば十分に把握できるだろう。問題は誘拐犯の中に魔術師がいるということだ。近くまで行ったとき、魔術師が康太たちの存在に気付く可能性は否定しきれない。


「さて・・・どうするか・・・一度魔力を抜いて歩いて調べるか?」


「相手からは気づかれなくなるかもしれないけど・・・それだと私たちも調べがつかないわね・・・消費と供給を常に一緒になるように魔力量を調整しましょうか・・・そうすればぎりぎり気づかれないかも」


「そんなことできるのか?」


「ちょっとテクニックが必要ね・・・最悪ちょっと生命力を削ることになるけど」


魔力というのは人間の体の中にあるものであるが、もし魔力が枯渇しているにもかかわらず魔術を発動しようとすれば体のエネルギーともいうべき生命力が消費されていく。


当然危険な状態にはなるが、文の言うようなテクニックを使えば常に魔力を消費し続け、体内の魔力をゼロに保ち、常に魔力を補充し続けるという状態が出来上がる。


体をパイプのように見立て、魔術を発動するためだけの器官に変えればいいだけの話であるが、康太も文もそんなことをやったことはなかった。


康太は普段からして魔術を使うためには常に魔力を最大にしておく必要があり、供給量が少ないためにこの方法は不向きである。


対して文は恵まれた素質によって瞬時に魔力を回復することができる。捜索には文が向かうべきだろう。


「私がぎりぎりで探してみる。康太は万が一の時のために魔力を抜いてでもいいから一緒についてきて」


「了解。いざって時は盾になるぞ」


魔力をゼロにしてしまえば康太は一般人と変わらない。とはいえ鍛え上げられた近接戦の能力は残っている。


万が一、相手が気づいて康太たちに向かって攻撃してくるような場合は文は臨戦態勢になり、康太は魔力のない状態で対処するしか方法がなくなる。


「あと長谷部さんにこの場所を一応教えておきましょ。未確定だから信憑性は低いって伝えたうえで」


「そうだな。ついでにもしその場所に被害者がいたら今夜助け出すからって伝えておこうぜ。今何時だ?」


「二十一時ね・・・もう結構いい時間よ、魔術師の時間ね」


「いっそのことそのあたりを探索しに来た魔術師ってことで動いてもいい気がするけどな・・・ダメか?」


「近くに門のある教会もないし不自然ね・・・まぁいないとは言わないけど相手が注目するのは間違いないわよ」


康太たちがこれから行こうとしている場所は都市部ともいえないような地域だ。駅前には多少高い建物があるとはいえ、そこから少し離れると住宅街などが多くなる場所である。


人通りがどの程度あるのかは実際に向かってみないとわからないが、この辺りのどこに犯人たちがいるのか判断できないために少し慎重に行動するほかない。


一般人に魔術を使う姿は可能な限り見られたくないのだ。


「よし、連絡オッケー。んじゃ現地に向かうか。念のため俺はもう魔力を抜いておくぞ」


「了解よ。ちなみに武器の類は?」


「ほとんど持ってない。今回は肉弾戦オンリーが課題なんだ。何せ不自然じゃないような攻撃をしなきゃいけないからな」


不自然ではない攻撃、要するに日常的に槍やナイフを持っているのは不自然だから康太的には自重しているのだろう。


とはいえ戦闘能力がかなり下がってしまうのは否めない。どうするつもりなのかは不明だが、文としては不安はなかった。


康太ならばなんとかするだろうという確信があったのである。


「今のうちに魔力ゼロ発動の練習しておかなきゃ・・・康太、ちょっとだけ索敵発動して確認しててくれる?」


「了解。文さんは今回大活躍ですな」


「はいはい、じゃあ後でご褒美頂戴。何でもいいから」


「はいよ、お任せあれ。苦労を掛けるね文さん」


「それは言わない約束でしょあんた・・・って何言わせんのよ」


康太と文はそんな掛け合いをしながら互いに笑みを作っていた。これから誘拐犯のいる場所に向かおうとしているとは思えないほどのリラックス具合である。


度重なる実戦を潜り抜けた康太たちからすれば、このような戦いはよくあることだと半ば慣れてしまったのだ。


このように笑いあっていても、康太は集中を高めいつでも戦闘をできるだけの準備を進めている。


文はいつでも現地に行けるように体内魔力をゼロにすることで索敵されにくい状態にするため、練習を始めていた。


「・・・見つけた・・・隣の通りの建物ね」


康太と文は現地に到着してしばらく地図の線が密集している場所を調査し続けていると、文がそれを発見した。


「どんな状況だ?建物の特徴は?」


「・・・五階建ての建物・・・でも階によっては人がほとんどいないわね、店舗が入ってないのかしら?その五階の一室に縛られた状態で転がされてるわね」


「本人に間違いないか?」


「・・・たぶんね。詳細まではちょっと読み切れないけど、とりあえず写真の女の子に近い形をしてるわ。魔力持ちが近くにいる、これが犯人かしらね」


文は索敵を駆使しながら自身の体内にある魔力を限りなく低くしようと調整を続けている。普段の索敵よりも若干精度が落ちてしまっているが、しっかりと必要な部分は調べることができていた。


「建物の見取り図をある程度作っておくから、あとはあんたの仕事よ?私も現地近くまではいくけど、スピード勝負ならあんたのほうがいいでしょ」


「そうだな。あとは被害者が寝ててくれることを祈るのみって感じか・・・犯人らしき人物は何人?」


「・・・今のところ二人いるわね・・・随分少ないけど」


「必要最低限ってところか・・・休憩一人監視一人の二人体制・・・うまくいけば片方は戦わなくても倒せそうだな」


人をさらうというのはなかなかに労力が必要になる。仮に魔術でさらったとしても、人一人を監視し続け、生かし続けるというのは一人の力でどうにかできることではない。


ある程度人数が必要であると思っていた康太だが、相手が二人しかいないというのは少し意外だった。

最低でも三人はいると思っていただけに少しだけ康太は不思議に思っていた。


「ちなみにごみとかはどんな状況だ?やっぱり普通に置きっぱなしか?」


「そうね、ある程度まとめてはいるけど、基本置きっぱなし。ゴミの中身は・・・主に食事とかそういうのね」


「排泄物とかはどうしてるんだ?その階ってなにもないんだろ?」


「もともと建物になんか会社が入ってたんじゃない?最低限の上下水道は通ってるわよ?使えるかどうかは知らないけど」


建物を作るときに基本的なライフラインの構造はすでに決まっている。あとは建物の持ち主とそれを借りる企業側、そしてライフラインそれぞれを担う会社との契約の如何によってそれらの使用が可能かどうかが決まってくる。


今回の建物の中は基本無人だった。おそらく契約自体はされていないために電気ガス水道といった基本的なライフラインは使えないと考えていいだろう。


だがトイレなどの最低限の設備は壊されないまま置かれている。それらを彼らは利用しているのだと康太と文は考えていた。


「時間的にはもう出歩く時間でもないから、この人数で確定かしらね?」


「どうだろうな・・・一応油断しないようにするけど・・・さて、どうしたもんかね」


二人は移動しながら件の建物の前を通り過ぎ、さりげなくその建物を観察する。周りの建物とほぼ同等の高さだ。移動自体はそこまで難しくはないだろう。最上階に位置しているということもあって侵入もそこまで難しくはない。


夜中ではあるが周囲は比較的明るい。街灯もそうだが建物そのものから発せられる光が多いために暗闇にはなっていない。


都市部における魔術師の活動の弊害がこの明かりだ。こう明るくては魔術師としての活動が難しくなってしまう。


問題は相手を倒すことと、被害者を連れてこの場所から離脱することである。


深夜ということもあってほかの階の人間は少なくなるだろうがゼロになるという保証はない。


しかも街自体がかなり明るいこともあって人の目につく可能性も高い。少なくとも縛られたままだったり、被害者の顔をはっきりと見せるような状況で出歩けば面倒ごとになるのは間違いない。


これでどこかの誰かに被害者を連れているような場所を見られたら康太たちが誘拐犯に早変わりである。

場所が確定できたということもあって長谷部の意見を聞きたいところではあった。


「場所を移して長谷部さんと連絡とりましょうか。あんたも戦闘準備必要でしょ?」


「んー・・・今回は武器の類を使うつもりはないから、店からウィルを連れてくるくらいか・・・」


戦闘をするにしろその場から離脱するにしろ、ウィルの力は絶対に必要だった。


戦うならば武器や防具にもなり、形を変えていろいろとフォローが可能となる。武器をあまり持ち込めない今回の戦いならばウィルの力は必要不可欠である。


「あとは・・・ウィルを回収してくるまでに地形のデータとか建物の見取り図とか頼んでいいか?」


「わかった、やっておくわ。長谷部さんとの連絡もやっておく。近くに取ったホテルで待ってるから」


「了解、この辺り地味に明るいから、そのあたりの対策も頼む。もし外に連れ出すなら見つからないようにしないとだしな」


「そうね・・・仮にも中学生を連れまわすわけだし・・・ある程度は気をつけないと・・・そのあたりも長谷部さんに確認しておくわ。おいておくにしろ、連れて行くにしろ怪しまれないのが好ましいからね」


被害者をどのような形で連れていくのか、回収するのかは長谷部だよりになってしまう。なにせ長谷部も自由に動けるわけではないため、ある程度はあちらの都合に合わせなければならないのだから。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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