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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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師弟の才能

「それで、なぜお前たちはここに?頼んでおいた仕事は終わったのか?」


食事をある程度進めて余裕が出てきたのか、なぜ康太と文がここにやってきたのかという疑問に気が付いたのだろう。


逆に言えば今まで二人がここにいる理由に意識が向かないほどに憔悴していたということだが、そのあたりは今は置いておくことにする。


「実は魔術で被害者の場所を探そうと思ったんですけど、まだその魔術を使いこなせてなくて・・・都内で集中できるところっていうとここしか思い当たらなかったので・・・」


「ほう?人探しの魔術か・・・文もなかなか良い魔術を知っているな」


「知っていたのは私じゃなくて師匠ですけど・・・師匠のオリジナルなんです」


「あの子がか・・・なるほど、小百合と一緒に駆け回ってただけはある。文が難しいというくらいだ、康太では発動すらできんだろうな」


「そうなんですよ、なので文頼りになっちゃってるわけです」


被害者の近くまで行けば康太もある程度役に立てるのだろうが、かなり距離が離れてしまっている現状では康太は完璧にただの役立たずになってしまっている。


今康太ができることは文を陰ながら応援することくらいなのだ。なんとも情けない限りである。


「まぁいい、この場所は好きに使いなさい。書類を焼き捨てるようなことがなければどのように使っても構わんぞ。ソファや机を壊すくらいなら構わん」


「そんな過激なことはしませんよ。ちょっと集中するくらいですって。康太じゃないんですから」


「俺だって訓練の時なるべく物を壊さないように注意してるんだぞ?失礼な奴だな」


「はいはい、ごめんなさいね・・・というわけで奏さん、さっそく発動させてもらってもいいですか?お食事中に申し訳ありませんが」


「構わん。好きにしなさい。私はその様子を眺めさせてもらおう」


「なんだか緊張しますね・・・康太、奏さんが食べ終わったら後片付けお願いね」


「あいよ。そっちは頼んだぜ」


「任せて」


そう言って文は地図を広げて今自分たちがいる場所をマークすると持ってきた物品を地図の上に広げる。

大きく深呼吸し、文は集中を高め始める。目を瞑り、一定のリズムで息をしながらゆっくりと手を前に出す。


「なるほど・・・媒体を必要とする魔術か」


「やっぱり珍しいんですか?」


「いや、珍しいことはない。というかお前もすでに媒体を必要とする魔術を覚えているぞ?」


「え?そんなの俺覚えてませんよ?」


媒体を必要とする魔術というと、文が今やっているように特定のものが必要であるという魔術である。


媒体がなければ発動することができないがその分効果は高い。あるいは処理能力を必要としないものが多い。


文の使おうとしている魔術の場合、必要なものも処理能力も必要な代わりにその発動効果範囲が恐ろしく広いというのが特徴である。


「お前の覚えている再現、遠隔動作、拡大動作などは自分の体や持っているものを媒体として発動する魔術だ。だから体を動かさないと発動できないだろう?」


「・・・あぁ・・・そういわれれば・・・」


康太の使っている魔術の中で、自身の体の動きを必要とするものは多い。それらは自らの肉体とその動きを媒体とすることで発動するタイプの魔術だ。


そのため処理が少なく済み比較的初心者向きの魔術だといえる。初期に小百合が再現を康太に教えたのはそういうわけがあるのである。


「やっぱり媒体っていうのはあったほうがいいんですか?」


「媒体そのものにも特徴や癖がある。効果を増すものもあればその逆も然りだ。不純物となることもあり得るからな・・・」


「なるほど・・・火の魔術を発動しようとしてるのに水を媒体にしたら意味がないみたいなものですかね」


「そういうことだ。場合によっては面白いことになるだろうが、たいていは不発か、術そのものが変化することがある・・・動き出したな」


文の集中がピークに達したのか、置かれていた髪の毛と血液を含んだナプキンが反応し、ナプキンから血が抽出されて空中に浮き始める。


同時に下着から糸が出てきて、髪の毛をからめとるような動きをしながら血と混ざり合い、ゆっくりと一本の糸へと変化していく。


「・・・なるほど・・・髪の毛を血を使って本人のもとに戻そうとしているのか・・・?いや、衣服などについている本人の情報を使っているのか・・・?なかなか面倒な術式を組んでいるようだな」


見ただけであの魔術がどのようなものであるのかを分析しだした奏だが、そのすべてを理解することはできなかったのだろう。眉をひそめながら唸っている。


「文が言うには水と風の魔力を混ぜ合わせて・・・こう、変な魔力を作り出して発動しなきゃいけないらしいですけど・・・」


「なるほど・・・随分と使用者にやさしくない魔術だ・・・あの子らしいというべきか・・・良くも悪くも自分が使うためだけの魔術だな・・・それを発動できる文もさすがというべきだろうか・・・」


自分が理解できればいい、自分が使えればいい程度の認識しかない状態で作られた処理能力を度外視した魔術。奏の言うようにそれを発動できる文はさすがというべきだろう。


伊達に春奈の一番弟子ではないということだ。


「・・・よし・・・きた・・・!できた・・・!」


文が目の前の光景を見て笑顔を作る。その瞬間康太は文の近くに駆け寄り、地図上で方向を示している糸を見る。


まっすぐに指示したその方角に沿うように、文は地図に線を引き始める。


「方角はあってるな・・・ってことはこの一直線上に被害者がいるのか」


「そうなるわ。誤差があった場合距離によってはちょっとあてにならないかもしれないから別の場所でも試しましょ。奏さん、すいません、お邪魔しました」


「いや、こちらも助かった。お前たちのおかげでかなり回復できたよ」


「今度はちゃんと休んでくださいね。この件が終わったらお手伝いしに来ますから」


「すまんな、バイト代は弾んでおくよ」


奏は申し訳なさそうに、それでもうれしそうに笑いながら康太たちがあわただしく出ていくのを見て小さくため息をつく。


子供に気を遣われてしまうという情けない一面を見せてしまった自分に少しだけ苛立ちを覚えていたのだ。


だが同時に康太と文がどんどん頼りになるようになってきたことが嬉しくもある。かつて弟子を育てていた時も同じような感情を抱いたことを奏は思い出していた。


康太たちは奏の社長室を飛び出すとすぐさま別の場所を選定するべく動き出していた。


とはいえあまりに近すぎても意味がない。奏の会社のある位置からかなり離れた場所にするべきであると考えた場合、おのずと場所は限られてくる。


「まずは都内にいるかどうかを判別したいわ。索敵の場所は八王子でどうかしら?」


「東京の西の端か、いいんじゃないか?角度的にもどっちに向かうか気になるし」


「あとは何度もやって精度を上げていくしかないわね・・・どこか集中できるところは・・・」


康太と文は電車で移動しながら八王子付近で何かないかと探し始める。だがそれらしい場所はない。少なくとも康太と文が安心して魔術を発動できるような場所は思い当たらなかった。


「いっそのことホテルでも取るか。ホテルの中って監視カメラの類あったっけ?」


「・・・いいかもしれないわね、八王子の駅前でホテルを取りましょ。そこから魔術を発動してそれで判別。一泊分お金が無駄になるけどスピード重視よ」


「よし、他にも測定する場所の近くにあるホテル予約しておくぞ。全部ビジネスホテルでいいよな?」


「怪しまれないようにダブルを取るのよ?シングルに二人乗り混むとちょっと文句言われるかもしれないから」


了解といいながら康太は即座に測定したい場所を選定し、その駅近くにあるホテルに予約の電話を入れていく。


未成年とはいえこちらは魔術師だ。ある程度不審に思われても何とかなる。宿泊自体はしないかもしれないがホテルからすれば別に損をする話でもないのだ。


チェックアウトの手続きなどが面倒かもしれないがそのあたりは明日以降やればいいだけの話である。


「ちなみに今何時?」


「十六時・・・もう結構いい時間になっちゃったな」


「仕方ないわよ、西荻窪から奏さんの会社まで行って、そこで料理したりしてたんだから・・・逆に今日の夜までに場所を特定できれば」


「おう、運が良ければ今日中に片が付くな。さっさと被害者助けて奏さんに楽させてやろうぜ」


康太はやる気満々だ。良くも悪くも奏の力になれるというのは康太からしてもうれしいのだろう。


何せ今まで奏には世話をかけっぱなしだった。小百合のような傍若無人な師匠とは比べ物にならないほどに良く指導してくれたものだ。


幸彦もそうだが、小百合の兄弟子は基本的に二人とも人格者だなと康太は考えていた。実際は小百合と同じくらいに破天荒な一面もあるのだがそのあたりは置いておくことにする。


「じゃあ俺は必要なホテルをどんどん予約してチェックインして回る。文はその場所に向かって魔術の発動と方向の記録。頼んだぞ」


「任せて。分担作業ね、仕方がないとはいえ・・・」


「俺はそっちは力になれないからな。その代り体を使うのは任せろ。夜も大活躍してやるから」


「頼んだわよ。私じゃそっちはたぶん役に立てないだろうから」


文の使う魔術は良くも悪くも現象系の魔術が多い。光属性の魔術などで自然に暗闇を作ることくらいはできるが、逆に言えばそれ以外の魔術はほとんどが不自然な現象となってしまう。所謂魔法のように見える魔術ばかりだ。


康太のように肉弾戦が秀でているというわけでもない。人質救出の際文は完全にフォローに回ることになるだろう。


康太と文は八王子に到着すると同時に近場のホテルへとチェックインする。未成年ということで少しホテルの従業員は訝しんだが、文が暗示の魔術を発動し不自然ではないように思いこませた。


文の手際に康太は内心舌を巻くが、今はそんなことをしている場合ではない。文は部屋へ、康太は外出といってそのままホテルから出ていこうとする。


「じゃあ康太、頼んだわよ、場所はさっき決めた通りで」


「了解。近場からどんどん回っていくから追いついて来いよ」


完全な分担作業。魔術師として活動しているようには見えないような二人の行動だが、互いにできることをしているという意味ではこの行動は正しいものである。


康太はホテルから出てすぐ次の場所へと移動を開始し、文は部屋の中に入り、監視カメラがないことを確認するとさっそく魔術の発動準備に取り掛かった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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