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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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皿に乗った料理のありがたみ

「・・・ん・・・あれ・・・?私は・・・?」


奏は目を覚ますと若干混乱していた。いつの間に意識を失っていたのか記憶がないのである。


連日の徹夜の作業で、夜が明けたところまでは覚えている。だがそこからの記憶がひどく曖昧だった。


日中にもかかわらず康太と文がやってきたような夢を見た気さえしているほどに意識レベルが落ちていたということは奏は覚えていない。


「しまった・・・寝てしまっていたのか・・・今何時だ・・・?」


奏が周囲を確認するよりも早く、その鼻にある匂いが漂ってきた。それは料理のにおいだ。ここ数日嗅いでいなかった料理のにおい。その匂いを嗅いだ瞬間に、奏は今の状況をほぼ正確に理解していた。


「康太、文、いるのか?」


「あ、奏さん起きましたか。もうすぐ料理ができますからちょっと待っててください」


「康太、お皿用意して。何でもいいから」


「あいよ」


匂いにつられて起きたのか、起きたから匂いに気が付いたのか、どちらなのかがわからないほどにピンポイントな目覚めに、奏は苦笑しながら体を起こしていた。


体の凝りがとれている。体調も悪くない。強いて言えば空腹であるくらいだろうか。体力も大まか快復しているように思えた。


「・・・すまん、要らん気を遣わせたな・・・」


「構いませんよ。っていうかちゃんと寝てちゃんと食べないと体に悪いですよ。はい、どうぞ」


康太が持ってきた皿の上には生姜焼きとキャベツの千切りが山のように盛り付けられていた。

いっそのこと別々の皿に盛りつけたほうがいいのではないかと思えるほどである。


そして茶碗に豪快に盛られた白米、そして本来入れるための容器ではないようなものに豆腐の入った味噌汁がよそわれていた。


「はい、それじゃ食べてください。全部食べてくださいね」


「これ全部か?私はそこまで大食らいではないのだがな・・・」


「カロリーメイトと栄養ドリンクだけで何日過ごしたんですか?ちゃんと食べないと体にも美容にも良くないですよ。絶対にちゃんと食べてくださいね」


そう言いながら飲み物として緑茶を入れて持ってくる文に、奏は困ったような、それでいてうれしそうな笑みを浮かべて見せた。


「・・・すまん・・・ではいただきます」


しっかりと手を合わせてそういった奏は箸を使って文の作った料理に手を付け始める。急ごしらえだったために家庭料理の域を出ないものだったが、奏にとっては数日ぶりの温かい食事だった。


生姜焼きを口に運び、噛みながら白米を口の中に導いていく。何度もその味をかみしめてから流し込むように味噌汁を口に含んで飲み込む。その後ゆっくりと息を吐き薄く笑みを浮かべた。


「あぁ・・・美味い・・・美味しいよ文」


「ありがとうございます。少し元気になったようで何よりです」


まるでゾンビのような顔色で仕事をし続ける奏を見た時には、さすがの二人もまずいと思ったものだ。


繁忙期に入っているのかは不明だが、それにしたってこの働き方は異常である。


「予算がどうのこうのって言ってましたけど・・・ふつうそういうのってもっと下の人・・・課長とか部長クラスの人がやるべきことじゃないんですか?なんで社長の奏さんがそんなことを・・・」


「いやなに、直接かかわりのある会社との大まかな取り決めをしていただけの話だ。まだ確定ではないから部下もなるべく動かしたくない」

「・・・まぁ、奏さんの働き方に私たちがどうこういうことでもないわ。この会社のルールは奏さんだもの」


「はっはっは・・・私がルールなどといってもしっかり私を監視するような部署もあるんだぞ?まぁ逆も然りだが」


組織の中にはいくつもの部署がある。労働者として働く者たちを助ける組織もあれば、役員を助ける組織もある。だが同時にそれらと逆のことをする組織もそれぞれあるのだ。会社というのは良くも悪くも内外問わず、互いに監視しあい、牽制しあうものなのである。


「あぁ・・・にしても温かい食事というのはいいな・・・久々にまともな食事を食べた気がするよ・・・」


「喜んでもらえて何よりです。次からは出来合いのものでも出前でもいいですから何かしら食べてくださいね」


「社長が出前か・・・なんかイメージできないな・・・ソバとかラーメンですか?」


「この辺りに出前をしてくれるような店はあったかな・・・?割とこの辺りの店は入ったことがあるが・・・出前というのは聞いたことがないな。それにやはり食べるならこうやってできたばかりのものがいい」


探せば弁当屋の一つも見つかるのだろうが、奏としては弁当よりもこうやって皿に乗って出てくる食事を好むらしい。


カロリーメイトやら栄養ドリンクやらで食いつないでいた人間のセリフとは思えないが、切羽詰まるとあのようなずさんな食事になってしまうのだろう。


普段康太と文を連れて行ってくれるような豪華な食事とは似ても似つかないひどい食事をしなければならないほどに奏は追い詰められていたのだろう。


もしかしたら自分で追いこんでいたのかもわからないが、何事も余裕を持つことは必要だなと康太と文はしみじみと実感してしまっていた。


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