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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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引渡し

「報告は済んだ?」


「あぁ・・・とりあえず協会の人間が来るまでこの場にいたほうがよさそうだな。そっちはあとどれくらいかかる?」


「まぁかなりかかりそうね・・・もう少し待っててくれると」


そこまで言いかけた時、康太たちは同時にある方向に視線を向けた。それは足音だった。先程まで凍っていた地面を踏みしめる足音。そしてこちらに近づいている音。


それが何者かの来襲を告げるものであるという事は康太にも文にも容易に想像できた。


そしてやってきているのが一体誰か、そこまで考えた時点で康太は自分が放り投げた槍を探そうとするが、思い切り勢いをつけて投げたためにどこに行ってしまったかわからなくなってしまっている。


手元にあるのは数珠一つだけ、これから戦うにはあまりにも情けない装備だ。


文の方は万が一一般人だった時のことを考えて結界を発動する準備をしていた。仮にこの場に一般人が偶然やってきたとしても対処できるように。


だがその考えは杞憂に終わる。二人の足元に康太の槍が投げつけられると、二人はその姿を目にした。


その場にいたのは三人の魔術師だ。魔術師の外套と仮面をつけた三人を目にしたことで康太の警戒レベルは高くなったが、文はその逆、警戒のレベルを下げているようだった。


「ビー、その人たちは協会の人間よ。警戒を止めなさい」


「え?そうなのか?」


文は三人を見てすぐに彼らが魔術協会の人間であるという事を理解していた。彼らの外套に施された特殊な術式が理由である。


「あんたに見えてないだけであの人たちの外套には細工がしてあるのよ。今は私を信用しなさい」


「わ・・・わかった」


近くにいる三人に聞こえないように小声でそのことを伝えてくれたのは文なりの善意だろう。康太がまだ魔術師としての感覚に目覚めていないという事を隠すという理由もあった。


もっとも外套に施されている印を見破れない時点である意味察することができるかもしれないが。


「この魔術師が件の違反者か?」


「そうです・・・こっちのブライトビー、並びに私ライリーベルが打倒、捕縛しました。方陣術はまだ動きかけてますがもう少ししたら核の部分を停止させられます。その後はお任せしても?」


「構わない。こちらはこちらで仕事をしよう」


状況が終わってから出ておいて偉そうだなと康太は思ったが、これ以上康太の仕事が増えないのであれば何でもよかった。


投げつけられた槍を回収し、康太はやってきていた三人の魔術師を眺めていた。三人とも同じ仮面をつけていた。恐らく協会の人間であるということを知らしめるという意味もあるのだろうが、これでは誰が誰なのかわからない。正直不便ではないのだろうかと思いながらも康太は文の近くに歩み寄っていた。


「おいいいのかよベル。あとから出しゃばった奴があんな偉そうにしてて」


「いいのよ、協会の専属魔術師ってあんな感じだもの。一般人で言うところの警察みたいなものね。権限を与えられてる分それなりの対応しかしないわけよ」


いわばお役所仕事ねと文はあえて聞こえるようにそう言った。随分といい性格をしているなと思いながらも康太は協会の魔術師たちを眺めていた。


自分達も魔術協会に登録はしているが、どうやらこの三人の魔術師はその中でも協会という組織の専属魔術師であるらしい。


恐らく協会の定めた規律に違反したものを処罰、拘束する権限を与えられた魔術師であるのだろう。警察といういい方は言い得て妙だが恐らく間違ってはいないのだろう。


お役所仕事というのが何とも秀逸である。


「じゃあ俺らはもう何もしなくていいと?」


「そう言う事・・・って言いたいけど、私達の目的はあくまでうちの生徒の身の安全よ。この後も何かないとは限らないんだから警戒はしていかなきゃ」


「あー・・・まぁそりゃそうか・・・もう結構魔力消費したんだけどなぁ・・・」


先程までの戦いで康太はかなり魔力を消費していた。文との戦いの時と同じかそれ以上に連続で魔術を使用したため、このまま連戦となるとかなり厳しくなりそうだった。


しかも武器も残りは槍と数珠一つのみ。これではまともな戦いは正直期待できそうになかった。


「それは私も同じよ。結構魔力消費したから元に戻すのに時間がかかるわ。本当にマナが薄いところって不便ね」


普段自分はデフォルトでその状態なんだけどなとは口が裂けても言えない。ただでさえポンコツなのだ、自分からその弱点を口にするのは憚られる。


文だけならまだいいのだがこの場には協会の魔術師もいる。どこの誰が敵かもわからないような状況で迂闊な言葉を放つべきではないと康太は自重していた。


「ふぅ・・・終わった・・・それじゃあ後は任せるわ・・・ビー、私達は戻るわよ。いつまでもここにいるのもまずいし」


「おう、了解だ」


どうやら方陣術の核の動きは止められたようで、文はやり遂げた声を出しながらその場を後にしようとしていた。


康太は槍をすべて自分の腰についているホルダーにしまい込むとその後についていくようにしてこの場を後にした。


こうして魔術師として関わることになった最初の事件は幕を下ろすことになる。

文がいなかったらもっと面倒なことになっていたなと、その存在に感謝しながら康太たちは合宿所まで戻ることにした。


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