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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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ドクターストップ

「これか・・・なるほど・・・こういうにおいか」


康太と文は物品回収後即座に合流して西荻窪の隣駅の荻窪駅にやってきていた。


荻窪駅にあるネットカフェに入り、文が回収してきたカバンごと一緒の個室に入ると中身を確認していた。


康太は嗅覚強化の魔術を発動してさっそくにおいを確認しいつでも追えるように、文は中身を確認して術が使えるかどうかを確認していた。


「・・・長谷部さんもなかなか・・・予想通りのものを持ってきてくれたわ・・・。髪の毛、血の付いたナプキン・・・あと下着・・・下着なのはちょっと予想外だったけど」


「一番身近って意味でもいいんじゃないか?ついでに言えばちょっと血がついてるし」


「まぁ素材としては最適なんだけどね・・・ちょっと複雑な気分よ・・・さて・・・あとはどこで発動するかね・・・さすがにここじゃ集中できないし・・・」


「・・・ちょっと遠いかもしれないけど奏さんのところに行くか?最初どのあたりかの目星はつけておきたいし」


「・・・そうね・・・それがいいかもしれない・・・一度奏さんのところにお邪魔しましょうか。あそこなら結構集中できそうだし」


普段から訓練で使っていることもあって奏の社長室ならば集中するのには事欠かない。


ゴールデンウィーク期間中ということもあって社員も少ないだろうが確実に奏は仕事をしているはずである。


休んでほしいという気持ちも強いため、康太と文はとりあえず奏の社長室へと向かっていた。


いつも通り受付をしてから社長室に向かうと、そこには以前会った時よりもさらに疲労の色が増した奏がもうろうとする意識の中で仕事をしていた。


これはまずいと康太と文は瞬時に判断し、奏のもとに駆け寄った。


「奏さん、顔色やばいです。ドクターストップです。これ以上は仕事しちゃだめです。少し休みましょう?」


「ん・・・?康太か・・・?いや今は昼間だ・・・いるはずがないか・・・学校に行っている時間だものな・・・」


「・・・やばいわ康太、ゴールデンウィークってこと頭から抜けるレベルで思考能力低下してる・・・すぐに寝かせるわよ。力貸して」


「おうよ。はい奏さん、ちょっと来てください、ちょっと横になりましょうね」


「なにをする・・・待て・・・まだやらなければいけないことが」


「大丈夫ですよ奏さん、ちょっとだけ、ちょっとだけ目を閉じましょう?」


奏の仕事がどの程度切羽詰まっているのか康太たちには分らなかったが、このまま彼女を放置していたら本当に倒れかねない。せめて数時間でもいいから休ませてやらなければ過労で倒れても不思議はない。


というか康太と文が両脇を抱えて持ち上げている時点で全く奏からの抵抗がない。力を籠めることさえもできなくなってきている。


支えていなければ倒れてしまうのではないかと思えるほどに弱っている状況だ。こんな状況では組み手をしてもすぐにやられてしまうだろうといえるレベルで奏は疲れ切ってしまっているようだった。


「康太、あんたマッサージとかできたわよね?奏さんにやってあげなさい。そのまま眠らせてあげなさい。ちょっと身体能力強化とかもかけながら」


「そうだな。体力回復にはそれが一番か・・・後なんか食べるものとか作っておいたほうがいいと思うぞ。ゴミ箱の中カロリーメイトとか栄養ドリンクばっかだ」


「わかった。ここって調理できる場所あったかしら?」


「あっちに水道がある。確かIHのやつだけどあったはず。フライパンと適当な皿しかないけど・・・」


「なんかすごい雑ね・・・せっかくあるのに使ってない感じがプンプンするわ・・・食材もないわよね・・・ちょっと私調べてくる。必要だったら買い出しもしてくるからその間部屋の片づけと奏さんを寝かしつけるのお願いね」


「了解。はい奏さん、こっちですよ」


「康太?なぜここにいる?学校はどうした?」


「今日はお休みなんで奏さんの様子を見に来たんですよ?はい、ソファに行きましょうね」


「いや・・・仕事が・・・」


「ちょっとマッサージしてすっきりしてから仕事しましょうよ。そのほうがはかどりますって」


「・・・そうか・・・?そう・・・だな・・・そうかもしれない」


康太は話しながらさりげなく暗示の魔術を発動して奏の思考を誘導する。奏ともあろうものが康太の暗示に引っかかるほどに疲労が蓄積し、思考能力が落ちてしまっている。


康太にとってこれが初めて魔術師相手に暗示が成功した例となるのだが、この状態で成功しても康太は何も嬉しくなかった。


「すまんな康太・・・軽くでいいから頼む・・・肩と・・・背中と・・・腰が・・・」


「わかってますよ、全身くまなくやりますから。リラックスしててくださいね」


康太はそういいながら奏に身体能力強化の魔術を発動し、軽くマッサージを始める。触れた瞬間にわかってしまうほどに、奏の筋肉は凝っていた。


これが社会人なのかと少し社会人になるのが怖くなりながらも、康太は奏の体をもみほぐしていく。


やがて奏は康太のマッサージが気持ちよかったのか、うつ伏せの体勢のまま寝息を立て始める。


康太がマッサージを始めてから数分と経たずに奏は寝てしまった。これほど簡単に寝てしまうとはどれほど疲れていたのだろうかと、康太は目頭が熱くなってしまっていた。


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