表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」
966/1515

魔法と技術と血と才能

「なるほど・・・なかなか面倒なことを頼まれたな・・・まさかお前が人質救出とは・・・しかも被害者は一般人・・・考えるだけで嫌になる」


康太はその日の夜、文と別れてから小百合の店にやってきていた。これから自分がやろうとしていることに対して一応報告しておこうと考えたのである。


「ばれないように相手を倒すっていうのはやっぱり難しいですか?」


「倒す相手が魔術師であれば別に難しいことはない。その中学生がどんな状態で放置されているかはわからんが、少なくとも見張りはいるだろう。それを倒した後でその中学生を気絶させればいいだけの話だ。あるいは見張りをおびき寄せた後で助け出すというのもある」


「ふむふむ・・・師匠ってこういうこと何度かやったことあるんですか?」


「・・・こういうのは私よりも真理のほうが詳しいだろう。あいつはそういうことをちょくちょくやっていたからな」


「師匠はやったことないんですか?」


「あるにはあるが・・・全員気絶させてから警察に放り込んだだけだ。大したことはしていない」


隠すつもりが全くない救出劇に康太はあきれてしまっていた。警察からすればいきなり気絶した人間が警察署内に放置されていたということになる。


どうやったのかはわからないが、魔術師としてそれでいいのかとさえ思ってしまう雑な仕事である。


小百合らしいといえばらしいのだが。


「警察には確か奏姉さんの弟子がいたはずだな。それが協力者か」


「はい、長谷部さんって方ですね」


「・・・まぁ協力者がいるのであればそれなりに楽に進められるだろう。文も行動しているんだったな?ならなおさら楽に進む。問題はその魔術師の処遇だ」


「はい・・・一応徹底的につぶしておこうかと・・・あと背後関係もですね。企業間のトラブルっていうか・・・そういう関係になってるので、裏のやつも潰しておこうかと思いまして」


「なるほど・・・まぁいいんじゃないか?奏姉さんのところに迷惑をかけたんだ。その程度の覚悟はしているだろう」


どんな覚悟をすれば奏に手を出してもよいのだろうかと康太は若干困ってしまっていたが、実際奏の会社に不利益を出させているのだ。それも仕方がない話だろう。


目の下に隈を作って、何日も徹夜をしても延々と仕事をし続けている姿を見ては手伝わなければという気になってくる。


何とか力になってやらないと本当に奏が倒れかねない。何とかして彼女の心労を少しでも減らさないとと康太は頭を悩ませていた。


「でも奏さんのところって妙にほかの企業からちょっかい出されてますよね・・・もう少し何というか・・・企業同士で協力とか・・・」


「無理もない。あの人の会社はかなり勢いに乗っているからな。他の企業にいろいろと恨みを持たれていても不思議じゃないからな」


「奏さんの会社って、もともとあの人が立ちあげたものだったんですか?」


「あぁ、最初は知り合いを含めて小さな商社だった。私が稼いだ頭金を使ってうまいこと商品を売り出していって、徐々にその勢力を拡大していったんだ」


「・・・え?ってことは師匠は奏さんの会社の出資者だったんですか?」


「そんな大したものじゃない・・・ちょっと大きく当てたものをあの人への恩返しって意味で渡しただけだ。一企業から見れば大したことのない額だ」


大したことのない額なんて簡単に言ってはいても、小百合がどれだけ稼いでいるのか康太だって知っている。


その貯金額は奏を軽々と超え、こうして話している間にもパソコンを駆使して株やらFXやらで稼ぎまくっている。


こういう才能に恵まれたのは良いことなのか悪いことなのかはわからないが、そのおかげで今の奏があるといっても過言ではない。


なぜ奏が小百合の弟子である康太にあそこまでよくしてくれるのか、今になってようやくわかったような気がした。


小百合に世話になったからこそ、その恩を康太を育成することで返しているのだ。無論かわいい弟弟子の弟子というのもあるのだろう。だがそれだけではないのだ。


「他の企業からすれば不思議だろうな。取れるはずがないような契約を簡単にとってきて、どんどん業績を伸ばしている。当たり前といえば当たり前だ、奏姉さんを含めあの会社には何人も魔術師が在籍しているんだから」


「そうなんですか!?えー・・・今まで気づいてなかった・・・」


「おそらく社内にいる魔術師たちも自分たち以外に魔術師がいることに気付いているものは稀だと思うぞ?東京で索敵を張るようなやつがいれば少し広いものを発動しただけで縄張りに触れる可能性がある。意図的に魔力を抜いている奴もいるだろう。今度気が向いたら聞いてみるといい」


「・・・そうですね・・・でもいいんですか?そういうのっていろいろと・・・その・・・魔術の悪用的な感じでダメなんじゃ・・・」


「魔術を悪用してはいけないなどというような魔術師はいない。魔術はあくまでツールだ。それをどれだけうまく操れるか、そしてどうやって隠すかが一番大事なことだ。少なくともあの人とその部下はそのあたりをよく理解している」


奏の部下は非常によく教育されている。時に利益だけを求めて突っ走るような場面でも冷静に状況を判断できる。


時として魔術を使うことはあるが、それは必要に駆られたときだけだ。あまりに使いすぎれば不自然に思われる。そういった場面でも自制できるだけの意思をあの会社の人間は持っている。康太もそのあたりは日々見ていて感じていることでもある。









「というわけで、姉さんにちょっと相談したいんですけど・・・一般人にばれないように魔術を使う方法を教えていただけたらなと」


「また唐突に不思議なことを言いますね・・・まぁいいたいことはわかりますけれど・・・にしても、康太君もそういうことを気にするようになりましたか・・・」


弟弟子が成長していることが嬉しいのか、真理はしみじみとしながら何度か小さくうなずいて見せる。


今まで魔術師としての活動を隠しては来たものの、一般人のいるところで魔術の発動を控えていただけの話で実際に隠せていたかは微妙なところである。


だが今度の依頼はそういうわけにもいかない。近くに一般人がいるような状態で魔術を使わなければいけない可能性が出てくるのだ。


相手が目隠しをされているかどうかにもよるが、いろいろと面倒くさいのは間違いないといえる。


「なんかコツみたいなのがあれば知りたいんですよ。いちいち記憶消したりしなくてもいいようにしたいですし・・・」


「そうですねぇ・・・では単純ではありますが心構えを一つ。一般人を前にした場合『魔法』を使ってはいけません。それを意識しましょう」


「・・・?・・・あの・・・魔術は使えますけど魔法って・・・魔術以外に魔法の技術もあるんですか?」


「あー・・・微妙に理解できていませんね・・・。康太君が初めて魔術を見た時、どう思いましたか?魔術と魔法の区別はつきましたか?」


「・・・いえ、ぶっちゃけ何が違うのって思いました。そもそも魔法と魔術は何が違うんですか?」


「魔法なんてものはありません。ですが一般人から見れば私たちが使える魔術はほとんど魔法のように見えるでしょう。十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないという言葉があるように、それがどのような技術であるのかを知らなければ、目の前に起きている現象は見る人からすれば魔法と大差ありません」


「・・・はい・・・そうですね・・・俺もちょっと前までは師匠とかがどうやって攻撃してるのかわかりませんでした・・・」


魔術師歴の短い康太からすれば、他の魔術師たちが使う普通の魔術でも高い技術力を持って操られているように見えることがある。


実際にそれらを使ってみると大したことはない、あるいはちょっとしたコツで何とかなるものだったりする。


実際にその技術の詳細を知らなければそれらは途方もなく難易度の高いものに見えてしまうものであるのは魔術についてあまり知らない康太だからこその感じ方なのかもわからない。


「一般人や、他の魔術師にどのような魔術であるのか、どのような現象であるのかを知られたくない場合はその魔術が超常現象ではないように見せかけなければなりません。どういうことだかわかりますか?」


「えっと・・・見えない魔術を使えってことですか?」


「半分正解です。例えば康太君が手のひらからいきなり水や炎を出したら、普通の人は魔法を使っているか、あるいは手品を使っているかと思い注目しますよね?」


「まぁ・・・そうだと思います」


「ですが康太君が何かのホースや如雨露などを持っていたら、水を出しても不思議ではないですし、ライターのようなものを持っていれば火を出しても不思議ではない。そうでしょう?」


「・・・まぁ・・・そうですね」


何か一つ道具があるだけで、不思議なものは不思議ではなくなる。無論それがすべての事柄に該当するわけではないが、強く印象に残るということはなくなる。


「これは暗示にも通じる技術ですが、ばれない使い方というのは総じて『意識されない』ということでもあります。そもそも意識できていないのなら気づくこともできない。気づくことができなければ知られることもない。認識しにくい使い方というのが魔術師としては必要不可欠になってくるわけです」


人間の視野というのは広いようで狭い。実際に見えていてもそれを認識できていないことがほとんどだ。


そしてその認識は自らの意識によって行われる。不自然なものや異様なものであれば意識が向くのも仕方がない。だが不自然でなければそもそも意識が向かず、認識することも難しい。


先ほど真理が言ったような、小道具を一つ持っているか否かで印象はかなり変わってくるものである。


体一つでできることには限りがある。そして現代においてはその限りをなるべく広げるために多くの道具を生み出し人々は使っている。


体一つで木をなぎ倒すのは不自然だろう。だがチェーンソーなどを使っていればなにも不思議はない。


体一つで水を出すことは不可能だろう。だが水道からホースを伸ばしていればなにも不思議なことはない。


このように少し状況や環境を変えるだけで不自然なものが自然に見える。一般人を前にして見えてしまう魔術を使う場合にはこのような注意や工夫が必要なのである。


「康太君がどのような使い方をしたいのかはわかりませんが・・・まぁ康太君が使う魔術は基本戦闘用のものですから、おそらく戦うのでしょう。その場合にもいろいろと使い方というのはあるのです。再現の魔術一つをとっても一般人の視点に立ってみればおのずと戦い方は見えてくるはずですよ?」


去年まで一般人だった康太であればそれができると真理は確信しているのだろう。それ以上の詳しい説明はしなかった。康太も何となくではあるが真理が何を伝えたいのかを理解している節があった。


「なるほど・・・見せ方か・・・なんか手品のことを考えてるみたいですね」


「まぁ似たようなものです。観客がいるような状態だと思えばいいのではないですか?でも目的は驚かせることではなくその逆ですが」


このテクニックは手品のそれと違って見せられる側に『別に不思議なことではない』と思わせることが肝要である。


別にそういうことがあっても不思議ではないと思わせることが大事なのであって、先ほど真理が言っていたように暗示にも通じる技術や考え方であるのは間違いない。


「お勧めしないのは痕跡などが残るタイプの攻撃ですね。康太君で言うところの鉄球の攻撃があると思いますが、あれなんかは特別な方法でも使わない限りは不自然に思われてしまうでしょう。なのでベースは再現などの肉弾戦をメインとした戦い方になると思われます」


「そうなりますよね・・・文みたいに体から電気出したら即魔法使いって思われちゃいそうです・・・」


「現象系の魔術はほとんど使えないでしょうね。使えたとしても多少の風の魔法くらいでしょうか・・・やりようによっては電気も使えなくはないでしょうが・・・相手が室内にいるとなると面倒ですよ?しかも一般人も中にいればなおさらです」


「あー・・・なんかもう魔術とか隠さなくてもいいんじゃないかって気がしてきました・・・その被害者も俺の時みたいに魔術師にしちゃいましょうよ」


「そうなるとどんどん魔術師が増えて行ってしまいますよ。それに、仮に魔術師の素質がなかったらどうするんですか?康太君なんかは運よく素質があったので良かったものの、素質がある人間は案外少ないんですよ?」


魔術師の素質というのは三つの要素がすべてそろっていなければ成り立たない。供給口、貯蔵庫、放出口の三つである。


この三つが存在している人間は意外と少ないらしい。しっかりと統計を取ったわけではないためになんとも言えないらしいが、大体一割程度だといわれている。


十人に一人は魔術師の才能があるといわれると非常に多く感じられるかもしれないが、実際に魔術師になっている人間はその一割からさらに限られた人間になる。


何せ特殊な事情でもない限り魔術の道に歩むことなどないのだ。基本的には一般人として生き、一般人として死ぬのが普通の人間である。


康太のように半ば無理やり引きずり込まれたのはかなり特殊な例なのだ。


「魔術の存在を隠しているのは素質のない人間を守るためでもあるということを忘れないでくださいね?大量に死亡したとかいう話が出回ったらそれこそ魔術が危険視されてしまいますよ」


「実際危険だとは思いますけどね・・・ちょっと間違えれば人を簡単に殺せるし、修業の段階でも死にそうになるし」


「それは魔術に限った話ではありません。機械などでも同じことが言えます。機械と違うのはその機械によって使い方が異なるように、その人によって使い方が異なるという点にあります。マニュアルのある機械と違って、人のそれはこれという正解がありませんからね。指導者が圧倒的に足りないんですよ」


「なんかこんな話を前に文ともしたような気がします・・・今の時代、魔術師っていきにくいですね・・・」


「そうですね。ですがいろいろと特典もあるでしょう?一般人には見えないものが見られたり、できないことができたり」


「・・・そうですね・・・もう紐なしバンジーしてもビビらなくなったとは思いますよ・・・これがいいことなのかはさておいて」


戦いにおいて空中を駆け回ることの多い康太からすれば、バンジージャンプなどまったく怖くない。


というか魔術師になって二カ月程度の時点で屋上から飛び降りているのだ。今更落下に対して恐怖を覚えるということはもはやありえないのである。


高校生として本来ならば怯えなければいけない場面でも怯えることはないだろう。良くも悪くも康太はすでに普通の高校生とは言えなかった。


「ところで姉さんは一般人の前で魔術を使ったことってあるんですか?暗示とかそういうの以外で」


「もちろんありますよ?私の場合は日中に活動することもありますからそういう場面は割とあります。ただやっぱり人込みでそれを使うのははばかられますね。使うとしたらうまく隠せるような場面だけですよ」


「というと?」


「例えば攻撃なら・・・私が直接攻撃したようには見せかけません。躓いて転んでどこかにぶつけたとか、ちょっと転びそうになった瞬間に車を引き寄せるとか、そういう事故に見せかけることのほうが多いですね」


康太からすればどこかで聞いたことがあるような事柄に、一年以上前の記憶がよみがえりそうになりながらも康太は真理の言葉に耳を傾けていた。


「でもそうすると事故を起こした人は不幸になりますよね?さすがにそれは・・・」


「無論、一般人の人を巻き込むのは申し訳ないとは思いますが、そうしないとさらに被害が広まることが考えられるのであれば止むを得ません。勘違いしてはいけませんよ、私たちは別に正義の味方ではないのです。むしろ私たちは悪の部類にいると思ってください」


魔術師とは正義の側にいるものではない。人の意識を改変し、記憶を操作し、自分たちの思うように動かしている。


夜な夜な活動し怪しげな行為を繰り返し、時には人を傷つけ、器物損壊や不法侵入など日常茶飯事。


そんな存在が正義であるはずがない。そういわれると今更善人ぶっても仕方がないかと康太は頭を悩ませていた。


事実であるが故に何の反論もできないのである。














その日の夜、康太は文の様子を見るべく春奈の修業場に足を運んでいた。


新しい魔術の習得というのはその人物の相性も深くかかわってくる。もし万が一文とその魔術の相性が悪ければ康太がその魔術を発動しなければならないこともあり得るのだ。


そういう意味を含めて文のもとを訪れると、春奈の修業場のちょうど真ん中あたりで座禅を組んで集中している文の姿が目に映る。


一体何の修行か見間違うほどだが、彼女の目の前に置いてあるものによって、それが別に仏道に入るためのものではないことを示していた。


「どうだ文、調子のほどは」


「・・・なかなか難しいわ・・・私が想像してた三倍は面倒くさい魔術よこれ・・・師匠が作ったって時点でそんな気はしてたけど・・・」


「春奈さんが作ったなら普通は使いやすいんじゃないのか?そういえば春奈さんは?」


「教えてくれた後で用事があるからって帰っちゃったわ。もう時間が時間だもの・・・仕方がないわよ」


ふと時計を見るとすでに二十二時を回ろうとしていた。魔術師としてはこれからが魔術師の時間であるといいたいところだが、毎日のように遅くまで活動していたら疲れてしまう。たまには休むことも必要なのだろう。


「師匠の作る魔術って、基本あの人が使えるためだけに作られるから、ある程度処理能力とかがないと発動すらできないのよ。師匠は処理能力バカみたいにあるし・・・」


「あぁ・・・なるほど・・・天才が自分さえ使えればいい的な感じで作ったとんでも魔術ってことか」


「そうね・・・水と風の魔力を同時に練り合わせて発動するとか・・・体の中で方陣術使ってる気分よ・・・」


「ワォ・・・それじゃ俺じゃ完璧に使えないな・・・水属性使えないし」


万が一のことを考えてやってきた康太だったが、万が一になっても全く役に立てないということを理解して少しだけ落ち込む。


春奈のように高い処理能力を持ち、なおかつそれを扱えるだけの才能があれば困ることはない魔術なのだろう。


文も高い素質に高い処理能力を有しているとはいえ、初めて扱う魔術には苦戦するらしい。


少しだけ文の苦戦する姿は康太から見てうれしくもあるが、見たくないような複雑な気分でもあった。


「で、どうだ?ものにできそうか?」


「まだ発動も危ういレベルよ・・・明日までには何とかする・・・って言っても長谷部さんが例のものを持ってきてくれるかにもよるのよね・・・」


「必要なのは血と髪の毛と身に着けてたものだっけ。手に入るか微妙だよな」


「そのあたりは運ね。あとはそれらがなくてもいいように練度を上げておくのがベターかしら・・・可能な限り練度は上げておくわ」


時間までには何とかしておくというのはなかなか言えない言葉だ。これを簡単に言うことができるあたり彼女は自分の実力などを正確に把握しているのだろう。


限られた時間の中で自身の集中力を維持する術を身に着けているのだ。


「頼もしい限りで・・・俺に何かできることはあるか?」


「・・・そうね・・・良ければ髪の毛と血を頂戴。あと何でもいいから今着てる服脱いで」


「追剥かなんかですか?いやまぁいいけどさ・・・」


康太はとりあえず自分の髪の毛を抜いて文の前に差し出し、履いていた靴下を同じように置く。


「血は・・・あれか?小皿とかに入れたほうがいいのか?」


「方法は任せるわ。血であればなんでもいいの。ティッシュとかにしみこませた奴でもいいわよ」


「ほうほう・・・了解、ちょっと待っててくれ」


そう言って康太は修業場においてあるティッシュ箱を手元に持ってくると、いきなり鼻の穴に指を深く突っ込んだ。


勢いよく突っ込まれた指は、鼻の穴の中の皮膚や粘膜を傷つけたのか、その穴からはゆっくりと血が流れ出てきている。


「よっしゃ、これでいいか」


「鼻血って・・・いやまぁ一番簡単かもしれないけどさ・・・」


康太が鼻血を止めるために使った血にまみれたティッシュを文の前に置くと、用意してほしかった三つのものがこれでそろったことになる。


文は先ほどまで置いてあったいくつかの物品を片づけて康太の髪の毛と靴下と血の付いたティッシュを近くに置くと集中し始めた。


いったい何が起きるのか、康太が目の前に置かれた物体を眺めていると目の前に置かれた物体がわずかに動く。


最初に動いたのは髪の毛だった。髪の毛は宙に浮き、風にあおられるようにゆらゆらと揺れている。


そして次に、ティッシュに染みついた血液が染み出るようにティッシュから浮き出て髪の毛と混ざり合う。


そして最後に反応したのが靴下だった。靴下の先端部分にあった糸が徐々にほつれていき、髪の毛と混ざり合うように何やら別のものが編み込まれていく。


いったい何が出来上がるのか。そう思った瞬間にそれら三つは動きを止めて重力に従って床に落ちてしまう。


「っぶはぁ・・・!むり・・・!無理・・・!ちょ、ちょっと休憩させて・・・!」


「あー・・・失敗か・・・結構難しいのか」


「難しいなんてもんじゃないわよ・・・!複数別の魔術を同時に発動するなら楽にできるけど・・・属性と属性を混ぜ合わせるとか・・・師匠はいったい何を考えてこんなものを作ったのよ・・・!」


文ほどの魔術師がここまで集中しても発動が難しいとなると、やはりかなりの難易度があるようだった。


春奈レベルの魔術師でなければ発動できないとなると、その難易度は上級者レベルをはるかに超えているかもしれない。


誤字報告を15件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ