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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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血と方角

「どうする?現状手がかりが少なすぎるけど・・・匂いで何とか追うの?」


「んー・・・正直匂いで追えるとは思わないんだよなぁ・・・だって相手は車使ってるんだぞ?追えるかっての。なんかもっと別の角度から・・・っていうか待てよ、誘拐したっていっても送られてきたのは手紙だけか?それだけでふつう信じるか?」


「・・・友達と一緒に帰ってた時に連れ去られたって言ってたけど・・・一応聞いてみましょ」


何日か中学生の娘が家を空けたら心配するのが親というものだが、警察が出てきてここまでの大ごとになっているということは確固たる証拠があってのことだろう。


ただ送られてきた手紙だけで馬鹿正直に信じたとは考えにくかった。


次の質問は『今回の件を誘拐事件と断定した理由は何か』である。


『端的に言えば目撃情報と写真です。手紙と一緒に何枚かの写真が同封されていました。手足を縛られ目隠しをされた状態で二枚、目隠しを外した状態で二枚、横にさせた状態で二枚です。背景はコンクリートを打ってある場所というだけ、屋外であることはわかるのですがそれ以上は不明です』


毎回の写真で二枚とっているのは単純に角度を変えた状態で撮影しているのだろう。


とはいえ随分と念入りなことだと思いながら康太と文は眉をひそめていた。


写真の背景から場所がわかるようなことはしないだろう。それにその場所にいたとしてもまた別の場所に移動すればいいだけの話だ。


『写真に写っていた服装は中学校の制服、それ以外のものは身に着けていませんでした。写真を撮られた際は意識を失っていたらしく、目を閉じた状態でした』


「・・・なんか聞けば聞くほど面倒だなこれ・・・随分と徹底してるし・・・」


「・・・その写真のコピーをもらえないか書いておくわね」


「もらってどうするんだよ・・・眺めるのか?」


「情報があるに越したことはないでしょ。難しいかしら」


文がコピーの旨を送ると、その返答はすぐに返ってきた。


『可能です。その写真は私も携帯の中に入れて確認できるようにしてありますから、お二人の携帯に送ることができればすぐに見ることが可能です』


その言葉に康太と文は自分たちのアドレスを紙に書いて長谷部に教える。すると数十秒後に康太と文の携帯に写真のデータの添付されたメールが送られてくる。


合計六枚の写真だが確かに先ほど長谷部が言っていた通りの内容だった。強いて言えば地面の部分のコンクリは荒く、小さな砂利が目立つくらいだろうか。


「どうだ?なんかわかるか?」


「・・・んー・・・確かに屋外だっていうことはわかるけど・・・橋の下とかかしらね・・・」


「あー・・・河川敷とかの一部にこんなところよくあるよな・・・確かにそれっぽい・・・けどそれだけじゃ手がかりとは言えないからなぁ・・・」


「そうなのよね・・・服装を見ても・・・んー・・・」


康太と文が見ている写真に写されている少女。中学の制服なのだろう、オーソドックスなセーラー服を身にまとっている。


これだけで見つけられれば苦労はない。これで見つけることができたのなら世の中の警察だって見つけることができているはずだ。


「じゃあ次の質問、車の車種について聞きましょう。一緒に帰ってた女の子からの証言はあったわけでしょ?」


「そうだな。質問しとくか」


次の質問は『誘拐に使われた車の車種とナンバー、特徴などは何か』である。


『ご学友も混乱しており、証言が曖昧でしたが確認してみたところ白いボックスカーの可能性が高いとのこと。ハイエースの可能性が高いと判断して捜査中です。ナンバーなどは残念ながら記憶できていませんでした。特徴らしい特徴もなかったとのことです』


「ハイエースか・・・誘拐犯とかってよくハイエースを使うっていうよな」


「何その知識・・・またどっかの漫画で仕入れたわけ?」


「いや、何となくそう思った。ドラマとかでもそうじゃん?」


否定はしないけどさと文はため息をつきながらどうしたものかと眉を顰める。


康太たちがわかっている情報はすべて警察が得ている情報だ。逆に言えば警察が得られていない情報を手に入れなければ事件の解決には至らない可能性が高い。


世の中の警察だって無能ではない。取れる手段を取ってどうにかして犯人の居場所を探そうとするだろう。


こういうことは時間をかけないのが常だ。そうなると康太たちにできるのは魔術的な観点からのアプローチである。


「なぁ、特定の人物を探すような魔術ってないのか?これだけ情報が得られてるわけだろ?」


「そんな都合のいい魔術あるわけ・・・いや待って・・・前に師匠がそんなことを言ってたような気が・・・なんだっけ・・・いつ聞いたんだっけ・・・?」


まさかの手がかりに康太はついガッツポーズをしてしまう。破壊関係のことしか知らない小百合とは違い、春奈は役に立つ魔術を多く習得している。


今回のような状況で役に立つのではないかとひそかに期待していたのである。


「探すっていうより導くっていうほうが正しいかもしれないけど・・・なんかあったと思う。ちょっと待ってて、今師匠に確認してみるから」


そう言って文は携帯を取り出して春奈と連絡を取り始める。持つべきものは優秀な師匠なのだなと康太はしみじみと実感していた。


春奈はここまで優秀なのに自分の師匠と来たらと康太は内心ため息さえついてしまっていたが、今の状況では悪態をつくこともできないのでとりあえず康太は歌いながら長谷部に質問を続けることにしていた。


康太が長谷部に対して情報収集をしていると、文の電話が終わったのか、ガッツポーズをしながら康太のほうに歩み寄ってくる。


「わかったわ、いくつか必要なものがあるけどたぶん十分使える。康太、長谷部さんにいくつか持ってきてほしいものがあるからメモ貸して」


「いいけど、どんな魔術なんだ?追跡?」


「・・・追跡っていうのとはちょっと違うかも・・・その人が今どの方角にいるのかを教えてくれる魔術よ。正確な方角は出せないけどどの方向にいるっていうのはわかるらしいわ」


「へぇ・・・必要なものは?」


「私物と血、あと髪の毛でもあれば大丈夫みたい。今日戻ったらすぐに師匠に教えてもらって練度を高めておくから、明日以降、私物がそろったら探し始めましょ」


康太は眉をひそめてしまっていた。私物と髪の毛はまだ手に入るかもしれない。写真に写っていた女の子の髪はそれなりに長かった。彼女の私室に行けばそのくらいは手に入るだろうが、血液となると話は別である。


そんなものは家では手に入らないのではないかと康太は悩んでしまっていた。


「その魔術ってその三つがないと発動できないのか?」


「いいえ、どれか一つでもあれば発動できるけど、複数別種類のものがあったほうが確実、というか精度が高まるらしいわ。普段身に着けていたもの、体の一部、血液、この三つがあれば万全だって師匠は言ってた」


「それは・・・いいんだけどさ・・・その・・・血は無理じゃないのか?本人はもういないんだし」


「無理じゃないわよ。ちょっと運に左右されるけど、須藤さんの家にまだある可能性は高いわ。女の子は一カ月に一度は血を出すんだから」


それが所謂生理の話であるということを康太は思い出す。康太にも姉がいるからそういうものがあるのは重々承知している。


康太の認識としては姉が不機嫌になる日というような認識だったが、実際はかなり血を出しているためにそれらをふき取ったもの、あるいは受け取ったものが家の中にまだある可能性はある。


文が必要なものを書き記すと、数十秒後に再び長谷部の声が聞こえてくる。


『不可能ではありません。探しておきましょう。そろそろ時間が限界だと思われます。次の質問が最後になりそうです』


おそらく昼食をとるなどの理由をつけて駅前までやってきたのだろう。さすがに彼の仕事の邪魔はできないと、康太と文は少し相談してからメモにこう記した。


『被害者を発見した場合、救出を私たちがやるべきか否か。そして救出した場合どのような形で被害者を解放するべきか』


これから本格的に被害者の場所を探すことになる。その場合警察に怪しまれないように行動する必要がある。


もし仮に自分たちが警察のところに届けた場合、犯人たちはどうしたという話になるし、救出する場所を見られようものなら犯人の場所を突き止めたとしてもどうやってと思われるし、面倒なことこの上ない。


なるべく警察にばれず、なおかつ被害者本人にもばれないように解放し、さらに言えば犯人たちを叩き潰さなければいけない。


地味に面倒くさい依頼である。


『状況を見て私に連絡をくれれば、私が担当している地区を教えます。そのあたりに被害者を放置していただければ彼女に『隙を見て自分で逃げた』という記憶を植え込めます。それでひとまず何とかなるかと』


「随分簡単だな・・・そんなもんでいいのかな・・・」


『ですが我々の捜査状況にもよります。もしかしたら一時的にあなた方に被害者を保護していただくことも考えなければなりません。そのあたりもご理解いただけたらと』


「・・・厄介ね・・・状況によっては望まない逃亡生活か・・・仕方がないとはいえ・・・いや、そうもいっていられないか・・・」


場合によっては康太たちが誘拐犯と思われかねないだけにリスクはある。だが適当な場所に被害者を放置すれば、長谷部ではない他の警察官に確保される可能性だってある。そうなってくると証拠の隠滅なども含めて厄介なことになってしまう。


康太と文はメモ用紙に『了解しました。必要なものを手に入れたら連絡をください』とメモに記して情報交換を終了した。


「にしても春奈さん、よくそんな魔術知ってたな。前にだれか探してたとか?」


「知ってたっていうか作ったって言ってたわ。師匠の師匠・・・私も何度かしか会ったことないけど、その人放浪癖があるらしくて、それを探すために作ったんだって」


「・・・魔術を自作ですか・・・春奈さん半端ないっす・・・うちの師匠とはやっぱいろいろと違うよなぁ・・・」


春奈オリジナルの魔術。どのような構造でどのような属性で発動するのかは不明だが、媒体が必要になる可能性が高いために難易度は低くはないだろう。


おそらく康太が扱えるようなものではない。そう考えると文が発動するために覚えるのが一番である。


「覚えてから実用的になるまでどれくらいかかる?」


「今から師匠のところに行って・・・そうね・・・相性にもよるけど・・・一日頂戴。それで何とかものにして見せるわ」


魔術の訓練とは一日二日程度で何とかなるものではない。


だが粗削りではあっても、大まかな発動くらいはできるようになる。発動率も低いし、精度もかなり落ちるかもしれないが捜索中は集中力を高めることだってできるのだ。文ならば魔術を覚えて一日でもある程度使えるまでには至れるだろうと康太は考えていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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