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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」
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歌え、情報を得るために

「おい、この子たちを玄関まで送ってやれ」


「はい。それじゃ君たち、おいで」


「はぁ・・・それじゃお邪魔しました・・・」


「・・・なぁ、俺ら何のために招かれたの?マジで茶を飲んだだけなんだけど」


「いいから行くわよ」


康太の言葉に中年男性は苛立ちを覚えているのだろう、少し強めに康太をにらんでからそっぽを向いてしまう。


そして康太たちはきっちりとスーツを着込んだメガネの男性の後に続いて家を後にしようとする。


「師匠は疲れていましたか?」


師匠。その言葉を告げた瞬間に康太と文は目を細めて目の前の男性を見る。明らかに先ほどまでと雰囲気が違っていた。


威圧感があるのは変わっていないが、その鋭さが増している。


魔力こそ感じ取れないものの、明らかに何かしらを隠していたのは間違いないだろう。


「めちゃくちゃ疲れてましたよ。五日寝てないって言ってました。仕事してるのはいつものことなんですけどね」


「あぁ・・・あの人は毎回毎回言っても生活環境を直さないですから・・・師匠らしいというかなんというか・・・まぁそれはいいでしょう。初めまして、君たちの話は聞いています。私は長谷部英輔です」


非常に丁寧な言葉遣いに康太たちは若干ではあるが驚いていたが、それでもこの人が奏の弟子なのだなと納得してしまっていた。


一つ一つの仕草が非常に優雅だ。品があるとでも言えばいいだろうか、小百合や幸彦などとはまた別の空気を感じ取れる。


奏の弟子ということもあってまだ二十代であろうにもかかわらず、この立ち振る舞い。よほど奏の教育が行き届いていると思われるこの姿に康太と文は少しだけ安心していた。


「ここだと少し話しにくいだろうからまた後程連絡しましょうか。あとで駅前で落ち合いましょう。昼食時になったら休憩に入りますから」


「わかりました。それでは西荻窪で待ってます」


康太たちはこれ以上会話を聞かれるのもまずいと判断し、即座に家を出て駅前へと向かった。


その間もやはり康太たちには妙な視線がまとわりついていた。おそらく警察の尾行のようなものだろう。この状態であったら面倒なことになるだろうなと思いながら康太と文は駅前のカラオケで時間を潰すことにした。


「にしてもびっくりだな・・・めっちゃ紳士って感じな人だった」


「そうね、あれで髭とかはやしてたら本当にジェントルマンって感じね。無精髭じゃなくてちゃんとした髭」


「あの人今刑事?警部?なんだろ?所謂エリートって奴かな?さすが奏さんの弟子というべきか・・・何番弟子なんだろ?」


「章晴さんが三番弟子・・・だったっけ?一番か二番・・・予想では一番弟子ね」


「いや、俺の予想では二番弟子だな。上と下にすごいのと面倒なのを抱えてすごくやり手になってしまった幸彦さんポジションの人だと思われる」


「あんた幸彦さんを何だと思ってるのよ・・・ていうか相変わらず自分の師匠に対しての扱いがひどいわね」


「いいのいいの。事実なんだから。自他ともに認める酷さが師匠のいいところだ」


それはいいところといえるのだろうかと文は一瞬疑問符を飛ばしてしまったが、これはこれで師弟の絆と思うべきだろうと文はもう何も言うつもりはなかった。


「にしても徹底してたな。さすがに犯人が魔術師だっていうだけはある。何が根拠なのかはもうちょっと確認しないと無理か」


「少なくともあの周りに魔術師の気配はなかったけどね。索敵とかで探しても全くいなかったし・・・」


「どれくらいの範囲で探した?」


「かなり広めにしたわ。一キロまではいかないけど五百から七百メートルくらいかしらね。ちょっと頑張ったわ」


「おぉ、それで見つからないってことはあのあたりにはいないってことで間違いないわな・・・とはいえ・・・手がかり今のところゼロだよ・・・どうするか・・・」


「長谷部さんの情報待ちってところでしょ。においはどうだった?」


「さすがに家のにおいが濃くてな・・・一応女っぽい匂いは覚えてきたけど・・・中学生っぽい匂いではなかったんだよなぁ・・・」


「中学生っぽい匂いって何よ・・・ちょっと変態臭いわよ?」


「だってしょうがないだろ、におい的にそれっぽくなかったんだから。あくまで感覚的な感じだけど」


「・・・じゃあ何?私のにおいって女子高生っぽいにおいするの?」


文の言葉に康太は即座に文のにおいをかぐが、難しい顔をしながら首をひねる。


「あー・・・女子高生っぽくはないな・・・なんていうか・・・んー・・・文のにおいとしか言いようがない」


「そりゃそうだけどさ、なんかもっとこう・・・ないわけ?表現というか・・・」


「女っぽい匂い」


「・・・あんたに聞いた私がばかだったわ」


匂いを覚えることに関して康太はかなりの技量を持ち始めてるが、それを表現するのは未だに苦手なようだった。


語彙力がないというか、説明そのものが苦手であるために仕方がないというべきだろうか。


『二人とも、聞こえていますか?』


康太たちが歌っていると不意に二人の耳に長谷部の声が届く。瞬間文が索敵を最大限に広げると、長谷部の姿は駅前の定食屋で確認することができた。


『すいません、君たちへの注意が予想以上に大きくなってしまっています。同僚が一人君たちの近くで監視しているためにこのような連絡方法を取りました。歌いながらで構いませんのでそのまま聞いていてください』


「歌いながら聞けってなかなか無理難題を・・・こっちの声は聞こえてるのかな?」


『なお、申し訳ありませんがそちらの声は聞こえていません。ですが紙などに何かを書いてくれればそれを見ることはできます。何か聞きたいことがあればそれを書いてください』


こちらの声は本当に聞こえていないのだろうかと思えるほどにタイミングの良い返答に康太と文は苦笑しながらも今知りたいことを頭に思い浮かべて持っていたメモに簡単に記していく。


まず書いたのは『犯人が魔術師だと思われる根拠』からである。


何をもって今回の犯人が魔術師であると判断したのかが気になったのである。


『今回、犯人から接触を図ろうとしたと思われる痕跡は三回ありました。その一回が師匠のところを含めた協力会社との提携をやめさせることを記載した要求の手紙。そしてもう二つ、これは直接接触を図ろうとしたことがありました。その時は同僚が近くにいたのですが、その後で調べたときに記憶に若干の狂いが確認できています』


記憶に狂い。つまりは記憶を何者かに操作された可能性があるということだ。


『三回目には本人が直接接触をしようとしてきましたが、私が間接的に阻止しました。この時に相手が魔術師であるということを確認しています』


「つまり、直接見て確認したと・・・にしても犯人が何でわざわざ社長に接触しようとしたんだ・・・?娘誘拐してるんだからもう必要ない気がするんだけど」


「何か目的があったんじゃないの?警察の人間が囲ってる状態で会いに行くって相当よ?」


「その結果、相手は警察官の記憶を操作したってことか・・・どっちにしろ妙なことするな・・・あれか、雇われ魔術師だとそのあたりは雑なのかな?」


今回の相手がどのような立場なのかは康太と文は理解していないが、企業からやとわれた魔術師である可能性が高い。


企業に所属している人間が直接誘拐などをすれば面倒なことになるのはわかりきっている。やるならば適当な人間に依頼として頼んだほうが圧倒的に楽だ。おかげで相手が魔術師であるという判断ができたわけだが、それにしても行動が雑すぎる気がしてならない。


『なお、接触の理由に関してですが・・・須藤家から何かを持ち出させようとしていた可能性が高いです。そのなにかは不明です』


ついでのように教えられたことに康太と文は腕を組みながら一瞬考えてからその考えを一度やめて次の質問に移る。


質問の内容は『娘の居場所に心当たりはあるか』というものである。


もっともそれがあれば警察が早々に突入しているだろう。はっきり言って質問の意味はあまりない。


『現段階で心当たりはありません。ですが協会の門を使用して被害者を遠くに連れて行ったというような証言はなく、車での移動に加え、未成年を連れた状態を維持できるような場所である可能性が高いと思われます』


「・・・ぶっちゃけどんなところだ?どういうところだと未成年を連れた状態を続けてても問題ないんだ?」


「普通の家とかマンションとかってことでしょ?誘拐されたのはゴールデンウィークが始まるちょっと前、その時期からずっと一つの部屋に閉じ込めてるってなると、ホテルとかそういうところは難しいかもしれないわね」


ホテルなどはほとんどの場合部屋の在室状態を確認し、室内の清掃などをしなければならなくなる。


そんな場所に一人の女の子をずっと閉じ込めているようなことをしていれば明らかに怪しまれる。


『現在東京都内にあるホテルなどに問い合わせをしている状態です。不審な人物がいればそのあたりの情報が入ってくるはずですが、今のところそういった情報は入ってきていません』


実はこちらの会話がしっかり聞こえているのではないかと思えるほどタイミングの良い返答に、康太と文は若干眉をひそめながらも長谷部の話に耳を傾けることにした。


『なお、送られてきた手紙の封筒は茶封筒、コンビニなどで購入できるもので、手紙の中身は通常のコピー用紙でした。指紋などは検出されず、印刷されたコピー機の種類までは特定できましたが、そこから先はわかっていません』


警察としては使える手段はすべて使って探しているといったところだろう。印刷具合で印刷されたコピー機の種類までわかるあたり恐ろしいなと康太と文は現代の捜査技術に驚いてしまっていた。


次の質問内容は『須藤香織の私物(匂いのしっかりついているもの)を持ち出すことは可能か否か』である。


この文面だけ見れば変態が書いたように思われるかもしれないが、捜査のためにも必要なことである。


『難しいことではありますが不可能ではありません。そこまで大きなものでなくてもよいのであれば、部屋のものを少し拝借することは可能です。あまり長く貸すことはできないかもしれませんが』


「十分、においを覚える時間さえあれば問題ない」


「具体的にはどれくらい?」


「そうだな・・・五分もくれればばっちり覚えるぞ。たださすがに犯罪チックなものは勘弁してほしいけど」


女子中学生の私物のにおいをかぐというだけでかなり犯罪のにおいがするわけだが、そのあたりは今更だろう。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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