家の中へ
家の中に案内された康太たちは、男性の案内によってリビングまで通されていた。
康太と文はさりげなく索敵で家の中を確認する。リビングには先ほどインターフォンで受け答えをしていたらしき女性、そして一人のスーツ姿の男性がいた。戻ってきた歩と歩を呼びに来た男性を含めてこの空間に四人。そしてリビングの隣の部屋に二人ほど控えているようである。
いったい何をしようとしているのか、何に警戒しているのかはさておき、自分たちの手勢を隠しておくのは悪くはない判断だろう。
もっとも魔術師である康太たちにはバレバレなわけだが。
「えぇと・・・すいません、ひょっとして別のお仕事の話でもしてたんですか?俺らお邪魔しちゃいましたかね?」
「気にしなくてもいいよ。それで、君たちは何を持ってきたのかな?」
「俺らは何も・・・これからのことと言われて渡されただけです」
「誰から?」
「草野奏」
ここで嘘を言っても仕方がない。康太たちはとりあえず聞かれたことには素直に答えていった。
そして康太と文はわずかにではあるが、この部屋にいたもう一人の男性がわずかに反応したのを見逃さなかった。
「須藤さん、その草野奏というのは知り合いですか?」
「え、えぇ・・・うちの会社と今協力関係にある会社の取締役です。こういう状態ですから連絡も満足にできなかったんですが・・・こんな形で連絡をしてくれるとは・・・」
歩が持っている書類と手紙を横目で見ながら中年男性はいぶかしげに康太たちを眺める。
この状況でやってくる二人組、しかも須藤歩に直接接触しようとしたということもあってかなり怪しんでいるようだったが、康太たちからすればそれはどうでもいいことだった。
「それで・・・その手紙にはなんと?」
「えぇ・・・犯人からの要求で協力会社すべてとの関係を断つようにという旨がありましたよね?そのことを、この草野さんを含め何人かの人には簡単に経緯を含めてお話ししていたんです・・・その返答ですね」
「・・・それで答えは?」
「今はそれでもかまわないと。すべてが終わり次第また別の形で協力すればいいだけの話であるという旨が・・・」
なんとも奏らしい大人な回答だなと思いながらも目の前にいる中年の男性は納得していないようだった。
「あの・・・いったい何の話ですか?」
康太たちも一応知らない話をされているわけなのだからそれらしい対応をしていたが、周りは康太たちを呼んでおきながら康太たちなど関係ないというような空気を出している。
思えば康太たちはまともな警察に関わるのは初めてだなと思いながらも、目の前にいるおそらくは警察官であろう中年男性たちを見比べる。
「あの・・・俺らあんまり歓迎されてない感じですか?」
「・・・いやいや、君たちは気にしないでくれ。あぁ奥さん、彼らにお茶を出していただけますかな?」
「え?あ・・・はい、すぐにお持ちします」
一応は茶に誘ったというのにこの対応。明らかにやる気がないなと思いながら康太は内心ため息をついてしまっていた。
そんな中、リビングに待機していたもう一人の男性、スーツをきっちりと着こなし、なおかつ姿勢もよい眼鏡をかけた男性が康太たちを見てわずかに目を細め、康太と文の座るソファの背後に回っていた。
威圧感があるその気配に康太はわずかに警戒しようかとも思ったが、後ろに回られたくらいで警戒するような高校生はいないなと先ほどまでと同じ姿勢を貫くことにした。
よくよく考えれば普通の高校生は気配を察知することもできないのだから変に意識するほうがおかしいのだと自分に言い聞かせて須藤の妻が出してくれる茶を待ちながら須藤歩のほうに視線を向けた。
「あの・・・ちなみに何で俺ら呼び止められたんですか・・・?お茶はまぁ・・・いただきますけど・・・暇ですし」
「ちょっと康太失礼よ。すいませんこいつバカで・・・」
康太の言葉を遮るように文が頭を下げる。そんな中、中年男性は康太と文を交互に見てから小さくため息をついていた。
「いや、君らを呼び止めたのは特に意味はないよ・・・まぁなんだ、ちょっとした気晴らしっていうべきなのかな?」
「・・・ふぅん・・・まぁゴールデンウィークですから暇なのはわかりますけど・・・奏さんはめちゃくちゃ忙しそうにしてたから大人は忙しいものかと思ってました・・・」
「職業によるのさ。少なくとも俺らみたいな職業は基本的に暇なときはないね。休めるときもあれば休めない時もある・・・場合によりけりってところか」
そんなことを中年男性が告げた後、康太たちの前に須藤の妻が淹れた紅茶が出てくる。康太と文は小さく礼を言ってからそれに口をつけた。
「ちなみになんだけれど・・・草野さんは怒っていたかな?私の都合で勝手にこんなことを言ってしまって・・・」
「いえ・・・怒ってはいませんでしたけど・・・徹夜が続いてたみたいでかなりげんなりしてました」
「あそこまで疲れてるのは珍しかったですね。私たちの方でお手伝いくらいはしたいんですけど・・・」
全く嘘は言っていない。この反応で中年男性は康太たちから完全に興味を失ったようで明らかに舌打ちをした後ため息をついていた。




