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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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連携

完全なる無差別攻撃、地面にも空にも木々にも鉄球は猛威をふるいながら突進していく。


その先には魔術師もいた、当然のように康太もいた。


魔術師は空中に飛散したものの姿を正確にとらえることはできなかった。暗闇に加えてその姿が小さすぎたのが原因である。だが見えなくともそれが危険であるという事は理解していた。だからこそ空に向けて氷の防壁を展開していった。


当然瞬間的なものであったためにそれほど厚い氷の壁は展開することができなかったが、鉄球を防御するには十分すぎた。砕けていく氷の中、これを防げば自分の勝ちに近づくという事を確信しながらこの攻撃を防ぎきることができるように祈っていた。


このような無差別攻撃をすれば術者自身も危険になるという事を彼も気づいていたのである。このような手を使ってくるという事はこれが最後の攻撃であるという事を覚悟しているからこそだ。


そしてそれは正しい、康太はこれが最後の攻撃であると覚悟していた。


自らに降りかかる鉄球を外套で防御していく。外套にかけられた蓄積の魔術が襲い掛かる鉄球から康太の身を守っていた。


もうこの外套は着ることはできないだろうと確信しながら康太は槍を振りかぶり、思い切り投擲して見せた。


鉄球の雨が止むと同時に放たれた槍は魔術師めがけてまっすぐに襲い掛かる。魔術など何もかかっていないただの投擲。上に集中していた魔術師はとっさに体をひねる。


康太の槍は脇腹をかすめるように通り過ぎていった。結果だけ見れば服と皮膚をわずかに切り裂いただけである。


これで攻撃はすべて終わったと確信した魔術師は康太に手のひらを向ける。氷の礫に加えてつららの刃も康太へと向かわせるつもりだった。


だが次の瞬間、足に激痛が走る。


反射的に身を屈め一体何が起こったのかと足の方を見ると、何も刺さっていないというのに足が切り裂かれ血があふれていた。


再現の魔術によって投擲した槍を再現した康太は、的確に相手の足を狙い傷を負わせていた。機動力を奪えばもうここから逃げることはできないと踏んだのである。


だがそんなことが相手の魔術師にわかるはずがない。一見すれば何も飛んでこなかったのにもかかわらず唐突に足が切り裂かれたのだ。


一体なぜ、魔術師がそれを考えるよりも早く、康太は魔術師の懐へと飛び込んでいた。


拳を握りしめ全力でその腹めがけて拳を叩き付ける。だがそれだけでは終わらない。


再現の魔術で自らの拳を複数再現し、その全身に拳を叩き付けていく。その体は一度に複数の拳を叩きつけられたことで空中に投げ出された。


強力とは言えないまでも、人間に一度に何カ所も同時に殴られれば当然痛みが生じる。さらに吹き飛ばされるだけの数を打ち込まれたのだ、意識も朦朧とし始めている。だがそれで終わることはなかった。


「いい仕事ね、ビー」


康太に意識を集中しているが故に、相手は気づけなかっただろう、康太が吹き飛ばした先が不自然に暗闇を維持していることに。


そしてその中には文が用意した光球が存在していた。雷の力を蓄えた強力な魔術である。


その光球に直撃し魔術師は感電してしまいそのまま意識を手放すことになる。


黒い煙をあげながら地面に落下する魔術師を尻目に、木陰からゆっくりと文が姿を現した。文字通り止めは貰ったという事だろう。その仮面の下でほくそ笑んでいるのが容易に想像できる。


「いいタイミングだったよ・・・つっても俺が気付かなかったらどうするつもりだったんだ?」


「気づくに決まってるでしょ。あの手はあんたに一度使ってるんだから。もし気づかなかったら大笑いしてやるわ」


康太が気付いたのは文の魔術だった。雷の光球を隠すために光属性の魔術を使って見えなくする。


恐らくは夜にしか使えないような手だろうが康太はそれを一度経験している。


意図的に不自然なまでの暗闇、そしてその中に隠されていた光球。康太はあの暗闇があった時点で文があの場に光球を設置しているのではないかと睨んだのだ。

相手が康太に集中していたからこそ気づかれることがなかったが、それにしたって大胆なことをするなと康太は呆れてしまっていた。


「とりあえずお疲れ様・・・随分ボロボロね・・・」


「まったくだよ・・・こんなのは二度とごめんだ・・・なんだってこんなことになったんだか」


康太は自分が着ていた外套を脱ぐと蓄積の魔術を解除する。すると外套に直撃した鉄球によってもたらされたダメージがすべて外套に発動する。


のたうち回るように一瞬宙を舞った外套はところどころ傷を付けながらゆっくりと地面に落下していった。


「とりあえず止血するわ。こんなのしかないけど」


「あー・・・姉さんがいれば治してくれたんだろうけどな・・・そこは帰ってからだな・・・とりあえずあっちの止血もしてやらなきゃな」


「そう言えばそうね・・・あっちの方もずいぶん手ひどい感じだけど」


「半分はお前の仕業だけどな」


「失礼ね、私はちゃんと手加減してるわよ」


どうやら死なない程度に加減したようだが、その手加減を自分の時にしていたのかと康太は僅かにではあるが疑っていた。自分の時は本気だったのかもしれないというのは少々複雑な気持ちだった。


文は憤慨しながら適当な布を使って氷の魔術師の足を縛って止血していく。ついでに逃げることができないように拘束すると小さく息を吐いた。


「これで一安心かしら・・・あとはこっちね・・・」


「あぁ、方陣術の方か・・・頼むぞ、一応警戒はしておくから」


「えぇ、任せたわ・・・まだ間に合うといいけど」


間に合う、それは方陣術に組み込まれたであろう精霊が生きているかどうかという事だ。


この方陣術に組み込まれた精霊は一種の暴走状態になってしまう。マナを取り込み続けいつかその許容量を超えてしまうだろう。


その結果どうなるかは康太も身をもって経験している。強烈な吐き気と違和感。あれでさえ軽度の症状だったのだからもし術式によって延々とその存在の中にマナを取り込み続ければどうなるか、結果は火を見るより明らかだ。


「ちなみに・・・こいつってどうなるんだ?」


「こいつ?あぁこの魔術師?協会で拘束して処罰を受けさせられるでしょうね。ここは協会の人間は来にくいけど来れないわけじゃないもの。拘束したって知らせればすぐに来てくれるわ」


これだけのことを起こしたんだからしっかりと罰されないとねと文は上機嫌で方陣術の解体作業に移っていた。時間はかかりそうだが問題なく解体することができるだろう。何とか精霊が無事であれば良いのだがと考えながら康太は転がっている魔術師の方に視線を移す。


文によると手加減していたそうなのだが、実際はどれくらい加減していたのか定かではない。


体がしびれる程度のものであればいいのだがと康太は若干この魔術師が哀れに思えていた。もっともそれも一瞬だ。自分たちの旅行中に面倒を起こすという非常に厄介なことをしてくれたのだからこうなって当然だという気持ちが沸々と湧いてくる。


むしろもう少ししっかり殴っておけばよかったとさえ思えてくるから不思議である。


とりあえず康太はこのことを師匠である小百合に報告しようと携帯を手に取る。文との通話を終了して小百合へ電話を掛けるべくコールを始めると、数回のコール音の後に小百合のけだるそうな声が聞こえてくる。


「もしもし師匠ですか?今大丈夫でしょうか?」


『電話をかけてきたという事はひと段落したという風に受け取ったほうがいいか?それともまた別の面倒事か?』


「いえ、問題なく件の魔術師は討伐できました。今ベルが方陣術を解体してます」


その言葉に向こうから小さくため息が聞こえる。恐らくは安堵の息だろうか、それとも時間がかかったことへの溜息か、どちらにしろ状況が終わったことを小百合は正しく認識した様だった。


『なるほど、上出来だな。しっかりと相手は無力化したんだろうな?』


「えぇ、ベルと合同で叩き潰しました。今はお休み中です。あとは協会の人間が回収してくれればいいんですけど・・・」


『そうか・・・とりあえず御苦労だった。ジョアの奴も心配していた、あいつにも声を聞かせてやれ』


大学の関係で今回足を運ぶことができなかった兄弟子である真理もどうやら心配してくれていたようだ。


相変わらず自分の味方は兄弟子だけだなと認識しながら康太は通話を切って真理の方に電話を掛けることにした。


「もしもし姉さんですか?」


『康太君ですか?大丈夫ですか?怪我したりしていませんか?』


どうやら相当心配してくれたようだ。第一声が怪我はないかというものであるあたり康太がどういう行動に出るかをおおよそ予測していたのだろう。


そしてその予測は当たっていたことになる。実際に無茶をしたのだから。


「大丈夫です、ちょっと負傷はしましたがかすり傷程度ですよ。」


『そうですか・・・よかった・・・こっちに戻ったらきちんと治しますから、すぐに顔を出してくださいね』


「了解です・・・とりあえずひと段落しましたよ・・・」


『フフ・・・元気そうでよかった・・・ベルの方は?』


「平気です。今方陣術の解体を行ってます。あっちはまだ時間がかかるかと・・・」


康太も文も無事であるという事は彼女にとって朗報だったのだろう。わかりやすくよかったと呟きながら小さく息を吐いていた。


師匠である小百合もこういう反応をしてくれればいいのだがと考えながら康太は目の前に転がっている魔術師の方に目を向ける。


「とりあえずこの魔術師を引き渡すまでが自分たちの仕事になりそうです。姉さんの方で協会の動きはわかりませんか?」


『一応既に状況は伝えてあります。もうすでにそちらに到着していてもおかしくない時間だとは思いますが・・・さすがに腰が重そうですね。場所が場所というのもありますが・・・』


マナが薄いというのは魔術師にとってかなり嫌悪する条件の一つだ。だからこそ協会の人間といえど可能な限りその場所に近づきたくないという理屈は理解できる。


だからと言って手を貸さないというのは話が別だ。魔術協会が制定している禁術を使用していることがわかった時点でこの魔術師を制圧することは確定している。


それでもこれだけ出足が遅いのはこの場所が魔術師にとって面倒極まりない場所だからに他ならない。


マナが薄いというだけではなく、ゲートも通っていないというのが出足が遅くなっている原因の一つかもしれない。


恐らくはメンバーの選出だけでも随分と手間取っているはずだ。


『とにかくお疲れ様でした。あとは無事に帰ってきてください。明日には帰れるのでしょう?』


「はい、とりあえず戻ったら店に顔を出します・・・それじゃおやすみなさい」


康太は小さく息を吐きながら報告を終え通話を切る。これで役目は終わりだと思いながら方陣術と魔術師を交互に見て再度大きくため息を吐いた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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