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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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基礎を終え

四月ももうじき終わり、もうすぐゴールデンウィークに入ろうという中、康太は神加の前に立って集中力を高めていた。


その手には小さなナイフが握られており、戦闘の訓練をしようとしているのは明らかだった。


「よし・・・準備オッケーだな?」


「うん、いつでもいいよ」


康太が構えた瞬間に神加は目の前に障壁を展開する。


神加が全力で展開した障壁を前に、康太は目を凝らしてナイフを突き出す準備をしていた。だが一向にナイフを突き立てようとはしなかった。


ただ障壁を見つめ続け、何かを探そうとしているそぶりすらある。


そしてそんな状況が数分間続いた瞬間、康太は突如障壁めがけてナイフを突き立てた。


康太が突き立てたナイフは神加の障壁によって完全に防がれ、障壁には傷一つ入っていない。


「・・・くっそ・・・やっぱナイフだけじゃ無理か・・・しょうがない、神加、もうちょっと障壁維持しててくれ」


「うん、わかった」


神加は引き続き障壁を維持し続けているが、さすがに飽きてきているのか、他にも障壁を展開して遊び始めている。


強力な障壁を同時に展開し、維持できるだけの技量をすでに持ち合わせているというのは兄弟子としては喜ばしい限りだが、今康太はその喜びよりも確かめなければいけないことがあった。


康太は自らが握るナイフにエンチャントの魔術を施すと、再び集中し、数分間障壁とにらめっこをした後、先ほどと同じように障壁にナイフを突き立てる。


結果は、先ほどと同じにはならなかった。


ナイフの先がほんのわずかにではあるが障壁を貫通し、障壁に亀裂を生じさせている。


神加の障壁は決して脆くはない。いくらエンチャントによって強化されたとはいえ、本来ナイフの突き程度では壊れるようなものではない。


だが康太がそれをなすことができたのは、あの時、戦いの中で康太が感じた妙な感覚を再び再現したからである。


魔術師が使用していた光る鎧。それを攻撃しているときに覚えた奇妙な感覚。ここが弱い、ここを攻撃すれば傷をつけられる。そういった奇妙な感覚だった。


康太はあえてナイフを持ち、あの時の感覚を思い出しながら障壁相手でも似たようなことができるのではないかと何度も何度も必死に繰り返し、ようやく結果を出すことができたのである。


「よっしゃ!できた!ようやくできた!」


「わー!壊されちゃった・・・」


康太の特訓がうまくいったのはうれしいが、神加としては自分の障壁が貫かれたことが不満なのか悔しいのか、少しむくれてしまっていた。


感情が豊かになったなと康太は少しだけうれしくなりながら神加に礼を言い頭を撫でてやる。


「ありがとうな神加、ずっと練習に付き合ってくれて。退屈だったろ」


「ううん、お兄ちゃんと一緒だから楽しかったよ」


「そっか、そりゃよかった」


康太が微笑みながら神加の頭をなで続けていると、いつからそこにいたのだろうか、二人の様子を眺めていた小百合が小さくため息をつく。


「最近妙なことをしていると思ったら・・・何をしている?」


「あ、師匠。店はいいんですか?」


「真理が来たから任せてきた・・・それより、何をしていた?」


すでに貫かれた障壁は消え、突き刺さったナイフは地面に落ちている。だがおそらく小百合はずっと康太の様子を眺めていたのだろう。先ほどの障壁とそれに対峙していた康太の引き起こした結果を知っているからこそ、小百合はあえて康太に質問したのだ。


何をしていたのかと。


「えっと・・・ナイフで障壁を突破する訓練ですけど・・・」


「そんなことは見ていたからわかる。なぜナイフだ?そしてなぜ付与の魔術しか使わなかった?突破するだけならお前の力なら方法はいくらでもあっただろう」


付与というのはエンチャントの魔術のことである。無属性の付与の魔術が康太が使う魔術であり、付与した物体を強化することができる。


確かに小百合の言うように、障壁を突破するだけならばやりようはいくらでもある。それこそ蓄積の魔術を使ってもいいし、強引でもいいのなら再現の魔術で一気に攻撃をしてもいい。


だが康太はあえてエンチャントの魔術を使った。方法としてはスマートとは言えない。だからその理由を知りたがったのだ。


「えっと・・・あんまり信じてもらえないかもしれないですけど・・・いいですか?」


「信じるかどうかは私次第だ。いいから話せ」


魔術の弱いところがわかるようになったかもしれないなどと、別の人に言えばきっと頭がおかしくなってしまったのだろうといわれるかもしれない。


小百合も笑うかもしれないなと思いながら、とりあえず康太はこの間のことを話すことにした。


「えっと・・・この間幸彦さんから依頼が来まして・・・その時の話なんですけど・・・」


康太はその時地下で戦ったこと、そして地下で戦った光の鎧をまとった魔術師を相手にした時に奇妙な感覚を覚えたことを小百合に話した。話を聞いている間、小百合は終始無言だったが、すべてを聞き終えた後、小さくため息をついた。


「なるほどな・・・そういうことだったか」


「・・・馬鹿らしいと思うかもしれませんけど・・・実際そういう感じがして・・・今それを試してるところなんです。本当に集中しないとできないし、まだぜんぜん成功率高くないですけど・・・」


康太はひとまず今の自分の状況とそこから生じた今の訓練の意味を話す。小百合は腕を組んだままため息をついてあきれた表情をしている。


「ようやくお前もそこに至ったか・・・まぁ真理の時よりは早いか・・・」


「・・・え?師匠もそういうのがわかるんですか?」


「阿呆が、障壁を破壊するうえでそんなものは必須技能だ。だがそうか・・・ようやく芽が出たということか」


小百合は何やら考えだして康太の全身を確認しながら小さくうなずくと、よしと小さく声を出して康太の首根っこを掴む。


康太はとりあえず抵抗せず、小百合に引きずられるままに地下の修業場を進んでいった。


「あの、師匠。何するんですか?どこに行くんですか?」


「お前の修業を次のステップに進めるんだ。一年以上かけてようやくだな・・・神加、お前もついて来い」


「はい、ししょー」


次のステップに進むという言葉に康太は耳を疑っていた。今まで小百合がつけた修業と言えば魔術を教えたり、組手をしたり、条件を付けて戦ったり魔術やらすべてを使った総合戦闘だったりと、ほとんど戦ってばかりのものだった。


今更別の訓練をするなどとは想像できなかったのである。


「・・・次のステップ・・・?師匠の修業ってただ戦うだけじゃないんですか?」


「阿呆が。それはお前の戦闘能力を最低限の水準まで引き上げるための基礎訓練だ。常に圧倒的に格上と戦っていればほかの魔術師なんぞに遅れはとらないだろう?」


康太は基本的に修業の時はほとんど小百合や真理と戦ってきた。その戦闘方法は多種多様だったが、常に隙もなく、攻撃的な小百合に対して反撃しようと思えば強引に隙を作るか、ほんのわずかに生じる小百合自身がわざと見せた隙を突くしかない。


そんな状況を日常的にやっていれば、依頼などで戦う魔術師などはほとんどが隙だらけで攻めやすいものに感じるだろう。


今まで康太がほかの魔術師たちに対して優位に立てていたのも、小百合が施した基礎訓練の結果が出ているということでもある。


「・・・じゃあ、今までずっと基礎だったんですか・・・?あれで!?」


「当たり前だ。神加のように幼ければもっと順序良く訓練するんだが、お前の場合ある程度歳がいっているからな。急造で戦闘能力を上げるには実際に戦うのが一番だ。実際それなりに実力はついただろう?」


小百合の言葉に同意するのは癪だが、現段階で康太は日本支部の中でも上位に近い戦闘能力を有している。


小百合の弟子である時点で戦闘に巻き込まれるのは目に見えているということで、小百合はとにかく康太の戦闘能力を上げることに注力したのだ。


その結果かなり無茶な修業になったのは言うまでもないが、急いで戦闘能力を上げるにはとにかく訓練し、実戦を積むしかない。


そういう意味では小百合の行っていた日常的な訓練は最適ともいえるだろう。


「じゃあ・・・次はどんな訓練をするんですか?」


「私が教えられることなんて決まっている。壊すことだけだ。お前にはこれから真理にそうしたように戦闘用の破壊の技術を教え込む」


今まで小百合は康太にいくつかの破壊の魔術は教えてきた。そして先日は方陣術の破壊の技術を教えた。

だがそれはあくまで状況によって使える技術だ。戦いに向いているものとはいいがたい。


小百合はこれから康太に、本当の意味で戦いに使える破壊の技術を伝えようとしているのである。


「でも・・・具体的には・・・?槍とか剣の扱いですか?」


「・・・そういうのも本格的に教えてやってもいいが・・・お前、基本的に私の動きを見て真似ているだろう?それに、もうお前の使う槍術は私のそれとは少し異なってきている。おそらく、奏姉さんのも参考にしてお前が一番振りやすい形に矯正されているのだろうな」


もともと康太の槍遣いは小百合の動きを真似たもの、いわば模倣品である。劣化コピーと言い換えてもいいが、その精度は小百合のそれと比べると数段劣る。


だが康太は小百合だけの指導を受けているわけではない。週に一度は奏のところに顔を出して武器の指導を受けている。


そういうこともあって康太は小百合の技術、そして奏の技術の両方を取り込んでもはや独自の槍術を編み出しているといっていい。


とはいえ、もともと小百合の槍遣いも奏のそれの模倣から始まったものなのだが、康太がそうであるように小百合のそれも奏の槍術とは若干異なっている。似ていることは間違いないのだが。


「徒手空拳も含めるが、お前の技術は私の技術に加え、奏姉さんと幸彦兄さんの技術を合わせたものになっている。私がこうだと押し付けても、逆にお前が戦いにくくなるだけだろう。単純な肉体の戦闘法はこのままお前自身が模索していけ」


「・・・なんか急に師匠らしいことを・・・悪いものでも食べましたか?」


「・・・少しまともに指導してやろうと思ったらこれだ・・・まったくお前といい真理といい、その減らず口を少しは何とかできんのか」


きっとこの段階に進んだ時に真理も似たようなことを言ったのだろう。我が兄弟子ながらやっぱり師匠の扱いは変わらないんだなと康太は少し苦笑してしまっていた。


「とにかくだ、これからお前には戦闘用の破壊の方法を徹底的に教えていく。まずはさっきお前がやろうとしていた『壁破り』を教える」


壁破り。先ほど康太がやろうとしていた障壁破壊の技術のことを言うようだった。


なんとも単純な名前だなと思いながらも康太は引きずられるままに小百合と共に移動していた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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