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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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依頼なのだから

「先輩、ありがとうございました!」


「いろいろ勉強になりました!またよろしくお願いします!」


魔術協会の門の前まで来ると、土御門の二人は康太と文に深々と頭を下げてきた。


結果としては依頼を完遂することができないという、正直に言えばお世辞にも良い結果とはいいがたいが、そういう面も含めて良い経験ができたと二人は考えているようだった。


「いや、こっちこそ助かった。情報収集系の依頼だったら問題なく依頼を受けていいレベルだと思うぞ。自信持て」


「そうね、緊急時の対処とか、状況によっての撤退の判断さえできれば、ある程度の依頼は受けても平気だと思うわ。深追いしない、自分たちの実力を過信しない、そこに気をつければもう十分一端の魔術師よ」


康太と文の思ってもみないお褒めの言葉に土御門二人は隠そうともせずにガッツポーズして見せる。


小百合だったら『あんなのが現場をちょろちょろしていたら邪魔でしょうがない』とかいうのだろうが、康太も文もそこまで鬼ではない。


初めてまともな依頼を受けたのだ。いろいろとわからなくても仕方がないというものである。


自分から動き、自分で判断する能力を鍛えられるのは実戦やそれに近い状況での訓練だけだ。あとは本人たちの努力次第ということである。


「ところで先輩たちはこれからどうするんですか?この件に関わっていくんですか?」


「いや?俺たちは別にかかわるつもりはないけど・・・なんで?」


「いえ、なんか消化不良というか・・・中途半端に終わってしまったので・・・きっちり終わらせたほうがいいのかなと・・・」


晴の言いたいことは康太も納得できる。良くも悪くも今回の件は中途半端なところで康太たちにできることが終わってしまった。


何者かがウサギを奪おうとしたのは事実だ。そしてその何者かが組織的な者たちであるというのも把握できている。


晴としてはその組織的なものと決着をつけないのかと気になっているのだろう。


康太も文も、そんなつもりは毛頭なかった。


「なんで俺らがそんなことしなきゃいけないんだよ。ウサギ盗まれかけた本人が報復のために頑張るってことなら納得できるけど、俺らただ依頼されただけだぞ?」


「面倒ごとには深入りしない。私たちに関わりがあるのは依頼まで。背景を知ったからと言ってそこにもかかわらなきゃいけない義務はないわ。それに今までも結構こんな感じだったわよ?」


消化不良という言葉は確かに適切な表現だ。今まで関わってきた依頼や戦闘などは、本当の意味で解決したものは案外少ない。


何者かが背後で手を引いていたり、何かを起こした人物が何者かに口封じとも言えるような殺され方をしていたりとあまり良い結果になったことがない。


そんな状況でも康太たちは深くかかわってこなかったのだ。理由はなぜか。そのものずばりかかわるだけの理由がないからである。


文の言うように面倒ごとに深入りしない。ただでさえ康太は面倒な環境にいるのだ。これ以上の面倒ごとは許容量を超えている。


「なんか・・・思ってたよりあっさりしてるんですね。かかわった事件全部完璧に解決するものと思ってました」


「名探偵でもあるまいし、何でもかんでも解決できるかよ。っていうか魔術師の依頼がそういうものだと思ってたのか?」


「はい・・・なんていうか背後関係まできっちり解決するものかと」


「毎回毎回背後関係とか、その依頼の原因とかがわかればそうできるかもしれないけどね・・・依頼としてくるだけの問題はそう簡単にいかないものが多いのよ。覚えておきなさい、何もかもわかるほど魔術師の事件は単純じゃないし、そんなことができるほど魔術師は万能じゃないのよ」


魔術師は万能ではない。魔術自体は便利な技術ではあるし、やろうと思えば何でもできるような気さえしてくる。


魔術そのものは万能に近いかもわからない。だがそれを扱う魔術師は万能とは程遠い。


それぞれに向き不向きがあり、できることとできないことがある。すべての物事を解決できる、そんなスーパーマンの如き魔術師がいるとすれば、それはもはや人間の限界を軽く超えるような存在だけだ。それこそアリスのような。


「あんたたちの力は現時点でも十分に強い。そこは自信をもっていいわ。私たちにできないことや、真似もできないようなことがあんたたちにはできる。でもだからこそ、あんたたちは特に肝に銘じておきなさい。絶対にできないことがあって、絶対に敵わない相手がいることを」


文の言葉に土御門の二人はゆっくりとうなずいていた。康太と文が自分たちのことを手放しで認め、褒めてくれたことを理解したうえでうなずいた。


この言葉は忠告だ。そしてそれは文と康太のやさしさからきているものであると理解し、文の言葉の通り肝に銘じることにする。


魔術師である自分たちには得意なことがあり、できないことがあり、倒せる相手がいて、倒せない相手がいる。


康太たちがそうであるように、自分たちもそうであるのだと言い聞かせた土御門の二人を見ながら康太と文は一息ついて協会の門をくぐる。


「それじゃまた店でな。気をつけて帰れよ?」


「お疲れ様。また何かあったら手伝いお願いするわね」


「はい、お疲れさまでした」


「はい、おやすみなさい」


二人の同時の返事に康太と文は苦笑しながら門をくぐり最寄りの教会まで戻る。


初めての彼らの実戦は結果だけ見れば上々とは言えないだろう。だが結果に勝るものを康太は得たと感じていた。それは康太自身も、そして土御門の二人もである。


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