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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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達成か否か

「なるほど・・・土に方陣術を書いて、それを魔術で浮かして移動、そして発動・・・発動し終えたら片づけと一緒に周りの土と同化させる・・・うまいやり方ね・・・参考にしようかしら」


「参考はともかく、ここで何かされたのは間違いないな。ここからいなくなってるってことは・・・転移したのか?」


「あんたね・・・転移の魔術の魔力消費量どれくらいだと思ってるのよ・・・精霊召喚した時のこと忘れたわけ?」


精霊召喚で用いられる方陣術もまた転移の術式の一種である。あの時は一種の精霊を呼び出すのに文が数時間魔力を注ぎ続けてようやく発動できたのだ。


「やっぱり実体がある奴を飛ばすのってかなり魔力がいるのか?」


「かなり魔力が必要ね。私はそこまで転移系の術に詳しいわけではないけれど、ウサギくらいの大きさを転移させるなら・・・そうね・・・あっちの町に飛ばすのに私が一年くらい魔力を注ぎ続ければ・・・たぶん発動できるんじゃないかしら」


「一年・・・そんなに必要なのか?」


「私も詳しくないっていったでしょ?っていうか一年以上かかるかもしれないわね・・・そもそも協会のあれは大地の力そのものを使ってるんだから、ぶっちゃけ個人の力の限界を圧倒的に超えてるのよ?あれと同等の力を得ようとなると・・・」


「あー・・・なるほどな・・・そういえばそんなこと言ってたな・・・」


魔術協会が使用している協会の門。あれも一種の転移魔術の一つだ。だが良くも悪くもあの術式はこの大地、いや星そのものの力を使っているといってもいい。


そうやって複数の場所から力を利用してようやく発動できているのが転移の魔術だ。


それを個人の力で使おうものなら相当な魔力が必要になるのは言うまでもない。


精霊のように物体ではない存在を呼ぶだけなら、まだ魔力消費も抑えられる。だが物質があり、肉体があるようなものを別の場所に転移させるとなれば相応の魔力量を求められる。


文のように恵まれた素質を有していても覆せるようなものではない。


「ここに来たのが偶然だとしたら、転移っていうのは考えにくいか・・・いっそのこと手っ取り早く空でも飛ばすか」


「先輩・・・空を飛ぶのは手っ取り早くないと思うんですけど・・・」


康太にとって空を飛ぶことはもはや難しいことではない。だが普通の魔術師にとって空を飛ぶことは一種の夢である。


無論不可能ではない。念動力などを扱える魔術師にとって、空を飛ぶことはなんら難しいことでもないのだ。


「浮かせるとそのあたりににおいはつかないの?」


「ん・・・自発的に飛んでくれるなら痕跡残りそうなもんだけど・・・念動力で飛ばされてたら残ってないかもな・・・匂いの原因って汚れとか体毛とか古くなった細胞だし」


痕跡として残る匂い、これらはその場に残った物質的なものである。匂いそのものを発するものが残っているからこそその場ににおいが残るのだ。雨の日などににおいが残りにくいのは単純にその物質が流されてしまうためである。


念動力でウサギをもし空中に持ち上げていた場合、その体から落ちる体毛なども一緒に浮かせている可能性が高い。


そうなるとにおいが残っていなくても納得だ。問題なのはここから先ウサギの行く先をたどる術が完全に途絶えたということである。


「あぁ・・・過去の映像が見れたらどこに行ったのかわかるのに・・・お前らそういうのは見えないんだろ?」


「俺らが覚えてるのは未来視だけで・・・土御門にそういう魔術はないです・・・」


「ごめんなさい、お役に立てなくて・・・」


「何言ってるのよ。二人が手伝ってくれたおかげで捜索がかなり楽になったのよ?すごく助かったんだから」


過去の映像を見ることができれば事態は解決と言いたいところだったが、そこまでのものが見られるほど土御門の二人も万能ではない。


康太のがっかりしたような態度に二人は少し申し訳なさそうにしているが、文が必死にフォローを入れている。


実際晴と明のおかげで捜索がかなり進んだのは事実なのだ。康太たちにできるのはここまで。これ以上は踏み込むことはできなさそうだった。


晴と明が必死に未来を予知しているが、康太たちが何か手掛かりを得られているという未来は見えないようだった。


おそらく康太たちの今の技量ではこれ以上探すのは不可能なのだろう。


「仕方ない・・・俺らの依頼はここまでだ。引き上げよう」


「そうね、さすがに限界かしら」


「え!?あきらめちゃうんですか!?」


「依頼・・・失敗ですか・・・?」


晴と明が意外そうな、そして申し訳なさそうな声を出している。自分たちのせいで依頼を失敗してしまったと思っているのだろう。


そんなことはありえない。先ほど文も言ったが、これほど早く結果を出せたのも、この結論を出せたのも二人の存在が大きい。


二人がいなければ、康太と文は今頃まだ山の中をさまよっていたかもしれないのだ。


「しょうがないだろ、さすがに俺らの追跡能力じゃこれ以上は無駄だ。いつまでも相手に報告を渋るより、さっさと報告して依頼主に次の動きをさせたほうがいい」


「何より、状況を説明しておくっていうのは必要なことよ。それに私たちは半分以上のウサギを捕まえたのよ?成果としてはまずまずってところ・・・パーフェクトではないにしろ、ぎりぎり及第点といったところね」


別の魔術師に依頼したほうが展開が早くなると予想して康太たちは早々に引き上げてベイカーのもとへと向かうことにした。


魔術師にとって向き不向きがあるとはいえ、この奇妙な終わり方は康太と文にとって妙なしこりを残すことになる。


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