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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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壊せば解決

「ふぅ・・・相変わらずいい仕事するな」


康太は魔術師の体を軽く蹴って気絶しているかどうかを確認した後、通路に退避していた文たちを呼び寄せる。


常にⅮの慟哭で魔力を吸い続けてはいるが、どうやら寝ていても魔力供給ができる程度には練度の高い魔術師であるらしい。


ここのような狭い空間でなければもう少し楽に戦えたかもしれない。とはいえ康太自身も武器の類が持ち込めなかったこともあって広い空間でもあまり関係なかったかもわからないが。


「大丈夫?あんまり威力は出せなかったけど」


「最高のタイミングだったよ。ナイスフォローだ。あとはこいつらを縛っておくだけだけど・・・」


「あ、じゃあ俺やっておきますよ。先輩らは周囲の警戒と調査お願いします」


「ん、任せた。まだ魔力あるから気を抜くなよ?」


ロープをもって魔術師を拘束に行った晴はとりあえず先ほど転がしておいた傷だらけの魔術師と同じ場所に運ぶとその両手と両足をロープで縛っていく。


それを見届けた後で康太たちは周囲の索敵と警戒に意識を向けていた。


「さて・・・あと一人か二人はいそうだけど・・・入り口のほうまでは確認したか?」


「時間が足りなかったわ。とりあえずあと一人くらいはいそうだけど・・・未来はどんな感じなの?」


「・・・ん・・・えっと・・・五分後はまだ地下にいますね・・・何かこの場にあるのかもしれません。そのあたりで固まって話し合ってます」


「話し合ってる・・・?それより先の未来は?」


「えっと・・・十分後・・・やっぱりまだ地下にいます。なんだろ・・・?特に変化はないみたいなんですけど・・・移動はしてますね」


地下空間に十分近くいるだけの意味があるとは思えない。しかも移動中ならまだしもこの場所にい続けるだけの意味を康太たちは考えてしまっていた。


「まぁなんにせよだ。この場所を隠そうとしてる連中がいることは確認できたし、一度協会に連絡してこいつらを連行したほうがいいかもな。これでただ協会に協力してた魔術師だったらかなりごめんなさいな状況だけど」


「その時は一緒に謝ってあげるから。まぁウサギ二匹に関してはちょっと残念だったけど・・・仕方ないわね」


本来であれば生きたまま確保したかったところではあるが、戦闘があった時点である意味仕方がない。


魔術師だって万能ではないのだ。生き死にに関しては特に。


「ベルは索敵続けててくれ。俺らはこの辺りに何かないか探して」


「うわ!」


晴の驚きの声が響くと同時に、康太は警戒態勢に入る。次の瞬間目に映ったのは腕だけのゴーレムを作り出して晴と傷だらけの魔術師を掴んでいる土属性の魔術師がいた。


気絶したと思っていたが、どうやらもう覚醒したらしい。あるいは気絶したふりでもしていたのだろうか。


しぶとい奴だと思いながら攻撃しようとするが、晴を盾にするかのように前に出されすぐに攻撃するわけにもいかなかった。


「す・・・すいません・・・先輩・・・!」


「・・・ったく・・・気を抜くなっていっただろうが・・・面倒なことを・・・!」


このように口にしているが、もっとしっかりと気絶しているかどうかを確認するべきだったと康太は自らの不手際に内心舌打ちしていた。


小百合がこの場にいたらもっと大きく舌打ちしていたことだろう。ついでに康太に拳骨の一つでも叩き込んでいたかもしれない。


康太にしては珍しく詰めを誤った。


文は即座に攻撃態勢をとるが、晴が人質に取られている時点で攻撃のしようがなくなってしまっていた。


「先輩!俺ごとでいいんで攻撃してください!」


「・・・って言ってもね・・・攻撃しても多分無駄よ?」


そう言って文は晴ごと攻撃しようと電撃を放つが、晴を掴んでいる腕のゴーレムに電撃が直撃すると晴の体に電撃が通るが、その背後にいる魔術師たちには攻撃が通らなかった。


「ほらね?」


「・・・うぅ・・・やられぞんじゃないですか・・・!」


「人質がいても普通に攻撃するベルさんさすがっすね。フレンドリーファイア率の高さは伊達じゃないな」


「いつも私が味方を攻撃してるみたいな言い方やめて。で、どうするわけ?」


「・・・さて・・・どうしたもんか」


遠隔動作の魔術を使えば問題なく攻撃はできるだろう。だがナイフやただの打撃で相手を気絶させられるほどの威力を乗せられるかは微妙なところだった。


常に相手から魔力を奪い取っているが、それでも相手が活動するには十分すぎる魔力が残ってしまっている。


康太たちが歯噛みしていると、魔術師たちはゴーレムごと土の壁をすり抜けるように隣の部屋へと向かっていく。


康太たちも即座にその後を追おうとするが、土の壁が作り出され康太たちの行く手をふさいでいた。そしてその壁には先ほど捕まっていた晴も埋められてしまっている。


「うぅ・・・すいません・・・俺のせいで・・・」


「お前のせいじゃないよ。俺の詰めが甘かった。さっさと追うぞ!」


康太は目の前に土の壁めがけて再現の魔術で拳や蹴りを再現すると同時に蓄積の魔術を発動し、運動エネルギーを蓄積し一気に解放する。


土の壁は簡単に砕け、その先の部屋へと道を作った。


康太たちがその部屋にたどり着くと、魔術師は今まさにその場から逃げようとしている瞬間だった。


地上との空気穴部分に自分たちの顔を当てる形で、先ほどと同じように土の中を移動しようとしている。


もうすでに体のほとんどが土に埋まり、その姿はほとんど見えなくなってしまっている。


「待てこら!逃げると焼くぞ!」


康太は土の中に消えていった魔術師たちを追って空気穴に手を突っ込み噴出の魔術を放つ。手ごたえがないのがわかると今度は火の弾丸の魔術を放ち攻撃するが、着弾した気配はなかった。


逃げたわけでもなく、逃がしたわけでもなく、初めて逃げられた。康太にとって初めての経験だっただけに、康太は自分の失態に歯噛みしていた。


「ビー!ちょっとこっち来て!」


「ん?どうした?」


「・・・ちょっとやばいかもしれないわよ?これ・・・」


文は部屋の中心部に位置している部分に屈みこんで何かを見ていた。それがなんであるのか、康太は近くに行って初めて認識できた。


「これ、方陣術か?」


「そうみたいね・・・しかももう発動しそう・・・たぶん今ほかの場所にある方陣術と連動し始めてるのよ」


「・・・で、なんの術式だ?」


「・・・土属性・・・これは・・・水属性も・・・?液状化・・・!?」


液状化。それは多量に水分を含んだ土壌が振動などによって土台としての本来の強度を保てなくなることを示す現象である。


度々ニュースなどでも取り上げられていただけに康太はその現象をすぐにイメージすることができていた。


「・・・それってやばくないか?この場所で液状化なんかしたら・・・上の建物全部落ちるだろ」


地下空間がある部分が液状化するということはその分、地上部分にも影響を及ぼす。康太たちがいる場所の真上には町や道路などがあるのだ。もし沈下などが起きればそれだけでかなりの被害になるのは間違いない。


道路や建物だけではない、電気ガス水道といったライフラインなどが地下に張り巡らされている可能性もあるのだ。


沈下によってそれらにも被害が出ればかなりの規模の被害が予想される。


「まずいわね・・・二人とも、予知を最大限に広げて。私はほかの場所の方陣術を探す!同調形の方陣術なら連動時間はまだあるはずだから!」


「わ、わかりました!」


「了解です!」


文がこの部屋から出て行ってほかの場所にある方陣術を探しに行こうとする中、康太も後に続いて部屋を出る。


「私は虱潰しで方陣術を探すわ。二人はその補助。魔力供給がされていない方陣術を見つけ次第解体を始める、時間勝負よ」


「あの・・・上の人たちに避難とか促さなくていいんですか?」


「そんな暇はないし、なんて言って避難させるつもり?それにどうやって?魔術で暗示を使っても一人ひとり説得してるだけの時間はないわ。ここで止めるしかないの」


明の言ったような方法も手段の一つではある。だが文の言ったように今は時間がない。大規模な方陣術であるために多少魔力の伝動に時間がかかるとはいえ、発動まで時間がないのは間違いない。


文の試算ではおそらく早ければ五分後には液状化が始まると考えていた。


この地下空間が広いのは運がよかった。もし狭ければもうすでに液状化が始まっていても不思議はなかった。


この術式はすべての方陣術に魔力が伝達され次第一斉に発動されるタイプ。ならばまだ猶予はあると文は考えたのである。


「あの・・・もし間に合わなかったら・・・?」


「その時は私たちも仲良く生き埋めね。ぎりぎりまで踏ん張るけど・・・もし間に合わなければ私たちも退避するわ」


「ベル、ちょっと俺さっきの方陣術見てくるな」


「わかったわ、変なことしないでね。さぁさっさと作業に移るわよ。時間ないんだから。とりあえずこの部屋から出口に向かってずっと進むわ」


文と土御門の双子はとにかく索敵と予知を集中し、周囲に何があるのか、方陣術があるのかないのかを確認し始めた。


周りが暗いということと、ここに来るまで走っていたということもあって見逃していた部分は多い。それらを確実に確認していく以外に方法がなかった。


時間が足りない。いくら証拠を隠滅するためとはいえ、まさかこんな手段に出るとは思わなかったと文は自分の想像力不足に歯噛みしていた。


十分に考えられたことだったのだ。地下にある以上、証拠を隠滅するためには崩落させるのが一番楽だ。


相手の魔術師がそういう手段に出るという可能性を少しでも考慮するべきだった。


だが後悔しても仕方がない。文は少しでも方陣術を探そうと躍起になっていた。


「ベル、方陣術壊しておいたぞ」


「わかったからあんたも手伝って!探すくらいならあんたでも・・・ん・・・?」


方陣術のあった部屋から出てきた康太の言葉に、文たちは一瞬疑問符を浮かべて康太のほうを見る。


今一体なんといったのか、理解が追い付かずに文たちは思考停止してしまっていた。


「・・・ビー、今なんて言った?」


「だから、方陣術壊しておいたって。術はもう発動しないだろうけどどんな状況かだけ見てくれないか?」


「・・・」


先ほどまでずっと方陣術を探していた文たちは沈黙したまま視線を合わせて大本の方陣術があった場所に駆け込む。


そこは先ほどの空間とは全く異なる場所になってしまっていた。先ほどまではただ四角いだけの部屋だった。ところどころに空気穴がある程度の部屋だったのに対して、今は部屋のところどころに大きく亀裂が入ったり、隆起している場所や逆に陥没している場所が目立つ。


場所によっては土が砂のように変化してしまっている場所なども見受けられた。そしてその中心、方陣術があった場所には依然方陣術が残されている。


だが文はそれに触れ、解析してその方陣術がすでに破壊され機能停止していることに気がつけた。


注がれていた魔力はすでに霧散してしまっている。他の方陣術とつながっていたであろうリンクもすでになくなってしまっているようだった。


「・・・あんたこれどうやったの?物理的な破壊・・・じゃないわよね?」


「ん・・・師匠から教わった方法で壊しただけだ。おかげで魔力が空っぽだけどな」


康太はそういいながら笑っている。いったいどのような方法を使ったのか文は想像もできなかった。


「あの先輩・・・これ一体どうやったんですか?」


「ん・・・やったことは単純だぞ?もともとあった術式に自分で術式を書き込みながら大量の魔力を一気に叩き込んだだけだ。属性も波長も無茶苦茶にしたやつをたんまりと」


「・・・は・・・?」


康太の説明に文は開いた口がふさがらなかった。


方陣術とは電化製品で言うところの制御回路のようなものだ。あらかじめ決められた働きをするためには、適切な魔力を注がなければいけない。波長、属性、量、それらを少しでも間違えれば術は適切に発動しない。



すでに魔力を注ぎ込まれ、発動までもう間もないという状況で方陣術に新たな術式を書き込み、さらに無茶苦茶な魔力を注ぎ込むということはつまり、電気が流れている状態の電化製品の回路に手を突っ込んでそこに新しい制御端子を接続してそこから電気を流し込もうとしているようなものである。


「あんた・・・おっそろしいことするわね・・・!何が起きるかわからないような方法で壊すなんて・・・!自殺行為に等しいわよ・・・!」


「師匠曰くこれで死んだことがないから大丈夫だろうって言ってたしな。実際何度もやってみたけど術式の暴走って割と単純なものが多いから死ぬことはないぞ」


康太がやった行為は、文の言うように一種の自殺行為に等しい。方陣術は適切な魔力を注がずに大量の間違った魔力を注ぎ込むとショート、つまりは術が発動しない状態になる。これも一種の破壊方法であると康太は教わったが、すでに臨界に近づいている方陣術に関してはこれだけでは破壊できない。


それ故に術式を書き換えながら自らの魔力を無秩序に流し込むという方法をとったのだが、この方法はかなり危険が伴う。


文の言うように『何が起きるかわからない』のだ。基本となった術式のそれに沿うとはいえどのような効果が発動するかわからない状態にしたうえで術式に過負荷を加えて強引にショートさせる。それが康太がやった破壊方法だ。


おそらく小百合との訓練中に何度も同じようなことをやったのだろう。実際に今この部屋に起きている先ほどとは異なる状況は、術式の暴走によって引き起こされたものであるのは想像に難くなかった。


「へぇ・・・そんな簡単に破壊できるんですか?今度やってみようかな・・・?」


「やめとけやめとけ、術式を書き加えるタイミングと魔力を注ぎ込むタイミングをミスするとかなり危険になるぞ。最悪魔力が一気にフィードバックする」


「え?そんな危ないんですか?」


「そりゃすでに完成したものを壊そうとしてるんだ、リスクがあるのは当たり前だろ。物理的な破壊とどっちが楽かって言われると微妙だけどな」


方陣術が描かれている媒体を物理的に破壊しても当然方陣術は破壊できる。だがそれもまた魔力の注がれていない、所謂臨界に達していない方陣術に限られる。


例えば紙に書かれた方陣術に魔力を注ぎ、発動間際の状態で紙を破ろうとすればどのような結果になるかわからない。


注がれた魔力とそこにある術式はそれだけで力を持っている。そんな状態で物理的に干渉すればどのような暴走を起こすかわからないのである。


康太の言うように与えた魔力が周囲に多大な影響を及ぼすことだってあり得る。魔術の隠匿を目的としている魔術協会からすれば、手順を守った解体以外で方陣術の破壊などは行わない。


発動してしまったものは仕方がないため、魔力が尽きるまで待つか、発動しながらでも複数人で解体作業を行うのだ。


基本的に解体作業は方陣術が複雑であればあるほど時間がかかるが、複数人で同時にかかればそこまで時間は要さない。


文ほどの実力の持ち主が五人もいればこの方陣術も五分もあれば解体することができただろう。


無論これはノーリスクで方陣術を破壊しようとした場合の話だ。康太は時間を優先するためにリスクを平気で冒す。


小百合の徹底した訓練によるところが大きいのだろうが、康太は自身に襲い掛かる危険をおおよそ感覚で判断している節がある。これなら大丈夫だと判断した結果、このような行動に出たのだろう。


「お願いだから次やるときは一声かけて。さすがに心臓に悪いわ」


「悪かったよ。とりあえずどうなんだ?うまく壊せたと思うけど」


「・・・ばっちり壊せてるわよ。さすがはクラリスさんの弟子ね、壊すことに関しては一家言持ちってこと?」


文は康太の手によって破壊された術式を見てため息をついてしまっていた。術式を加えるタイミングと魔力を注ぎ込むタイミング、どちらも間違えば暴走の範囲も威力もこれよりはるかに大きくなっていたはずだ。


それをこの部屋一つにとどめられるだけの技量が康太にはあるのだという事実に文は感動さえ覚えていた。


「これだけのことができるってことは、あんたもようやく方陣術が扱えるようになったわけ?」


「いや?まだまだ使えないぞ。俺が教わったのは壊し方だからな。まだ使えるほどにはなってない。適当な魔力を注ぎ込むっていうほうが簡単だったから覚えやすかったよ」


「・・・あぁそう・・・で、クラリスさんが見たらこれなんて言うかしらね。褒めてくれると思う?」


「・・・んー・・・師匠だったらもっとうまく壊すだろうな。まだまだタイミングの見極めが甘いって怒るんじゃないか?」


暴走の範囲をこの部屋の中にとどめている状態ではあるが、小百合からすればこれでもまだ見極めが甘いらしい。


康太の頭の中の小百合ならばそもそも暴走させずに破壊できていただろう。破壊に関しては彼女の右に出る者はいない。小百合のことはあまり尊敬していない康太だがその点に関してだけは認めているところだった。


「さて・・・流動化の危険がなくなったところで、さっさと上に行こうぜ。さっき取り逃がした連中捕まえないと」


「今から行って追いつけるかしら・・・?さすがに難しいんじゃ・・・」


「いや、追いつきはしない。っていうかたぶん大丈夫だと思うんだよ、二人とも未来予知頼む。三十分から一時間後くらいの未来を見てくれ」


「了解です、ちょっと待ってください」


土御門の二人に予知を頼みながら康太たちは地上への道を戻り始めていた。かなり長い通路であるために走らなければ時間がかかってしまうが、康太はそこまで急ぐつもりはないようだった。


「で、なんで大丈夫って思うのよ。根拠は?」


「あいつらが逃げようとするなら、一番確実な方法は二つ。車とかを使って逃げるか、協会の門を使うか。でも車を持ってたらそもそもこんなところ作らないだろ。少し離れたところにでも拠点を作ったほうが楽だ。そうしなかったってことは移動手段は協会の門だけ」


「・・・あ、そっか、バズさんがいるか」


「そういうこと。あの人なら俺の攻撃の跡とか見てすぐにわかるだろうし、何より傷ついた状態の人間を連れてる時点で怪しいからな。もし協会の門を使わず、治療のためにどこかに潜伏してるなら索敵と俺の鼻で追い詰められる」


康太の考えに文は納得していた。いくつかの可能性を考えて康太は三十分以降の未来を土御門の二人に見せているのだ。


今は地下であるために携帯が通じないが、地上に出た瞬間に幸彦に連絡すればそのあたりに確認は瞬時に可能だ。


幸彦も協会の魔術師として活動して長い。明らかに異常な人間というのは見ていればすぐにわかるはず。

さらに言えばこの状況で負傷し、なおかつ協会の門を使おうとしている相手に対して何の警戒もしないということはないだろう。


「なら地上へは少し急がない?万が一もあるから連絡だけは早めにしておいて損はないと思うわよ?」


「ん・・・そうだな、それもそうか。んじゃちょっと早歩きで行くか。二人ともついて来いよ?」


未来を見続けている二人は返事はせずに少しだけ歩く速度を上げながら康太たちの後についてきている。

魔術を発動しながら体を動かすいい訓練だなと思いながら康太と文はやや早めに地上への道を進む。


「・・・結局後一匹はどこにいるのかしらね・・・今のところ確保できたのはこの子たち含めて六匹・・・もう他の魔術師が確保してるかしら?」


「可能性はあるな。俺らが一度協会に行ったときは一匹もういたし、他の魔術師だって無能じゃないだろうし」


「探すのが人でも何でもなく動物っていうのはなかなか難易度高いと思うけどね・・・精霊を連れてるからって魔力があるわけでもなかったし」


体内に精霊を内包しているからと言って魔力があるわけではない。康太がまさにその状況だが、精霊を体内に入れるだけではなく、きちんと契約しどのような役割を担ってもらうのかを決めなければ精霊を使役できているとは言えないのだ。


そのためウサギたちは精霊を体内に入れているだけで会って魔力があるわけではない。精霊が入っている以外は普通のウサギと何ら変わりないのだ。


如何に索敵を用いることができる魔術師とはいえ、広大な北海道の大地で小動物を探すというのはなかなかに苦労するだろう。


康太たちは予知というある意味情報収集系における切り札的な魔術を使える存在がいたからこそこれほどまでにとんとん拍子で進んでいるのだ。


未来の情報を得ることができるというのはそれだけ規格外の能力なのである。戦闘だけではなく、むしろ情報収集において高い能力を発揮するといっていい。


「先輩、教会のところにえっと・・・バズさんと倒れてる人が二人。さっきの人で間違いないと思います」


「お、さすがバズさんだ。控えてもらってて正解だったな。一応連絡しておくか」


地上に出た康太はすぐに幸彦に連絡を取って今後やってくるであろう、あるいはもうやってきたであろう魔術師を捕縛してもらうようにメールを打つ。


幸彦のことだからもうすでに動いているかもしれないが、そのあたりはご愛嬌といったところである。


「問題なのは残ったウサギね。あの魔術師の聞き込みに関しては協会の人に任せたほうがいいんじゃない?」


「そうだな・・・ウサギのにおいをまた一から追うか・・・集まってるウサギとその場にいないウサギで比べて・・・」


康太たちは門のある教会に戻ってくると、教会の門を開いて幸彦が笑顔で手を振っていてくれた。


「お疲れ様です。ゴーレムを使う魔術師と刃物傷だらけの魔術師来ませんでしたか?」


「やぁ、やっぱりこれ君たちがやったのか」


幸彦はそういって協会の椅子に座らせる形で捕縛してある魔術師二人に視線を送りながら苦笑している。


そのダメージの量や特徴から誰が攻撃したのか大まかにではあるが察しはついていたのだろう。そのあたりはさすがというべきか。


「君たちっていうかほとんど俺ですけど。捕まえておいてくれてありがとうございました。逃がしちゃったときはどうしたもんかと」


「まだまだ詰めが甘いってことだね。気絶させたと思ったでしょ。土属性の敵を相手にするときは縛っても安心しちゃダメなんだよ」


周りの地面すべてを自らの魔術の媒体とできる土属性の魔術師は、ロープなどで縛り上げても普通に活動できる。


他の場所、例えば柱などに結び付けてもその柱ごと動くことだってできるのだ。


もっとも、多少荒事に慣れている魔術師であればロープで縛られたところで問題なく切断することくらいはできるのだが。


「いい勉強になりました。ここのところうまくいってたんでちょっと気が抜けてたのかもしれません」


「まぁそれは仕方ないさ。次それをしないようにすればいいだけの話だよ。ところで・・・それは・・・」


幸彦は康太たちが着ていた服に包んでいるウサギを見て目を細めた。明らかに血がにじんでいるそれを見て幸彦もなにがあったのか察したらしい。小さくため息をついて首を横に振って見せた。


「すいません、守り切れませんでした」


「ん・・・仕方がないね。体だけでも回収できてよかったというべきか。精霊は?」


「どっかに行っちゃいました。もうこの中にはいません」


「そっかぁ・・・ベイカーがどんな顔するかだなぁ・・・まぁ今のところこの二匹合わせて六匹回収できてるから・・・あとは一匹か・・・」


康太たちとほかの魔術師たちが回収できているウサギは合計で六匹だ。逃げ出したウサギは全部で七匹。後一匹だけいないことになる。


「とりあえず報告だね。この魔術師たちは僕が処理しておくよ。聞きたいことがいくつかあるからね・・・この人たちの拠点はどこだったんだい?ゴーレムとは別に随分と土にまみれてたけど」


「地下通路と部屋のようなものを作ってありました。随分と急造ではありましたけど」


「ん・・・急造・・・ってことは良くも悪くも急いでいたってことかな・・・?いや、わざわざ拠点を作る意味は・・・?んー・・・ちょっと支部長に報告がてら魔術師にいろいろ聞いておくよ。他に何か気になったところは?」


「一つだけ。こいつら最後の手段としてなのかはわかりませんけど、方陣術使ってその地下空間を液状化させようとしてました。地下空間ごと証拠隠滅しようとしてたんだと思います」


「その方陣術は?何も騒ぎになっていないってことは発動はさせなかったのかな?」


「俺が壊しておきました。一応もう発動はしないと思いますけど、あの地下空間のこともあるんで協会の魔術師に出張ってもらったほうがいいと思います」


「おぉう、さすがあの子の弟子だ。わかった、専属の魔術師たちに出てきてもらうよ。地下の規模はどれくらいだった?」


「結構広かったよな?どれくらいだろ・・・?」


実際に自分たちで歩いたとはいえ具体的にどれくらいの規模だったかは覚えていない。というか計測していない。


「地下空間の入り口はビルの配管なんかと混ぜてあって見つけにくくなっています。通路部分がかなり長くてその先に少し広い部屋みたいなものが二つあります。手前にウサギがいて、奥に方陣術がありました」


「ん、それなりに人数がいないと大変そうだね・・・。わかった、人員は多めにしてもらおう。みんなはウサギを連れて行ったら・・・その後も捜索かい?」


「えぇ、まだ残りの一匹が見つかってませんから・・・どこに行ったのやら」


康太が嗅覚強化を発動しても追えなかったとなると、どこか全く別の場所に向かってしまった可能性が高い。


とはいえ手がかりとして残っているのはにおいくらいしかないのだ。あとは未来予知で定期的に未来の情報を読み解くくらいしかできることがない。


依頼を受けてしまった以上、最後の一匹が見つかるまで探すだけ探さなければいけないだろう。


康太たちと幸彦はそれぞれ報告をするべく支部長とベイカーのもとへと向かうことにした。


誤字報告を20件分受けたので五回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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