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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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土に囲まれた場所で

魔術師がこの場にやってくると、康太たちはわずかに後退して魔術師を部屋の中に招き入れた。


まずはこの場所に魔術師を足止めする。それは康太が行い、残りの三人はこの場から逃げることを最優先にする。


魔術師が一歩足を踏み入れた瞬間、康太は遠隔動作の魔術を使い、魔術師を引き寄せながら噴出の魔術を使って魔術師に急接近する。


接近されるのを嫌ってか、魔術師は地面の一部を隆起させて康太の進行方向をふさごうとするが、小さな柱が一つできた程度では康太は止まらない。


それどころかその柱を手で掴み、回転の力を加えて魔術師に蹴りを加える。


康太の蹴りをまともに受けた魔術師は壁に叩きつけられる。その一瞬を文たちは見逃さなかった。


康太の背後からすり抜けるような形で通路の方へと逃げる文たちを見て、魔術師は何を思ったか、何もしなかった。


複数人を一度に相手にするよりは康太一人を相手にしたほうがまだやりやすいと判断したのか、それともただ単に文たちを相手にするだけのメリットがないからか、どちらにせよ互いの利害が一時的にとはいえ一致した形となる。


康太はナイフを構え、魔術師は姿勢を低くした状態でその手を地面のほうに向けている。


土御門の二人が予知した通り土属性を扱う魔術師なのは間違いないようだ。


この魔術師がこの空間を作り出したとすれば、高い土属性への適性と魔術師としての素質を持ち合わせているということになる。


相手の好きにさせるのは危険。そう判断した康太は即座にⅮの慟哭を発動し相手の体から魔力を吸い取り始める。


黒い瘴気が辺りに満ちた時点で何かが起きると判断した魔術師は康太の体めがけて全方位から土の棘を大量に発生させる。


康太はそれらを時に足場にしながら回避し、持っていたナイフの一つを魔術師めがけて投擲するが、魔術師の近くにある地面が隆起し壁となってそのナイフを防いで見せた。


床、壁、天井、それらすべては相手にとって武器であり防具。わかっていたことだが面倒だなと康太は考えながらも攻撃の手を止めなかった。


拡大動作を発動しナイフの斬撃を拡大して相手が作り出した壁ごと切り裂く。


魔術師も何かが来るということを予想していたのか自身の足場を隆起させて跳躍してそれを回避して見せた。壁にわずかな斬撃の跡が残る中、魔術師は天井に取っ手のようなものをいくつも作り康太から少しでも距離を取ろうとしていた。


だが康太もそれを逃さない。


遠隔動作の魔術を使って相手の足を掴み体勢を強引に崩すと先ほど壁に防がれてしまった投擲したナイフを同じように遠隔動作で回収し、再び投擲する。


相手は今空中、天井にほど近い場所にいる。体勢を崩しこの攻撃をよけきれるかどうか、康太はそれを見るつもりだった。


襲い掛かるナイフに対して、魔術師は天井の土を隆起させて自分の体にそれを直接当てて見せた。


強引に自分の体を地面にたたきつけるような形でナイフを回避するが、康太の攻撃は続く。


地面に着地しようとした瞬間、噴出の魔術を使い、加速した回し蹴りを魔術師めがけて放つ。着地の瞬間を狙われた魔術師は回避しきれず、なおかつ土を盾にする暇もなかったのか腕を盾代わりにして防御しようとする。


噴出によって加速し、エンチャントの魔術によって強化された回し蹴りは腕だけで防ぎきれるものではなく、その体は弾き飛ばされ何度も地面を転がり壁にたたきつけられた。


好機と見るや否や、康太は回避されたナイフを遠隔動作で回収すると再び拡大動作を発動して斬りかかる。


狭い室内では拡大率は少なくて済むとはいえ、使用しているのがナイフということもあって消費魔力は大きい。斬撃が襲い掛かる中、魔術師は転がるようにして康太の攻撃を回避し、康太の足場の地面を急激に隆起させ、康太の体を空中に投げ出す。


急に体が浮き上がるのを感じながらも、康太は再現の魔術と噴出の魔術を駆使して態勢を整えると相手の魔術師めがけて狙いを定める。


再現の魔術を発動し、ナイフの投擲を再現、その体めがけて襲い掛からせる。


相手は視認できる攻撃だけではなく、見えない攻撃にも敏感なのか、襲い掛かるナイフの投擲を土の壁を作り出すことで防いでいた。


康太はその土の壁めがけて思い切り右こぶしを振り上げ、叩きつける。


拡大動作によって巨大化した拳はその土の壁を砕き、向こう側にいた魔術師にも直撃した。


だが背後にあった土をあの一瞬でクッションになるように柔らかくしたのか、ほとんどダメージを受けていないようだった。


やはり土属性の魔術師は厄介だなと康太は歯噛みしていた。


土属性の魔術師を相手にする場合、空中に投げるのが一番手っ取り早く確実に倒せる手段だ。


魔術のほとんどを地面を媒介とすることで発動するために、空中に投げてしまえば取れる手段が激減する。


だが今この場所は床も天井も地面も土で形成されている。相手にとって最高の場所といっても差し支えない。


今まで土属性の魔術師と何度か戦ったことはあるが、このようなシチュエーションで戦ったことはなかった。


さてどうしたものかと、康太は少し思案していた。


Ⅾの慟哭によって魔力を吸われ、康太の猛攻に対する対処、そして康太に対する反撃で魔力はいっぱいいっぱいなのか、大規模な攻撃をしてくるような気配は今のところはない。


そして先ほどからその視線と意識が部屋の隅で横たわっている魔術師の方へと注がれているのが康太は理解できた。


相手からすれば自分の手勢を回収したいと考えるのは自然な考えだろう。すでに息絶え奪われたウサギよりも、情報をこちらに与えるほうが不利になるということを理解しているからこそ、未だ様子を見たままであると考えていい。


だが魔力を吸い取られ、なおかつ康太の攻撃に対する対応ですでに魔力は限界に近くなってしまっている。


この場から逃げようとしているのか、それとも別の何かを考えているのか、魔術師は地面に埋まった状態から抜け出すと目の前にいる康太に視線を向ける。


康太は甘い相手ではない。少しでも隙を見せればそれに乗じて一気に攻勢に転じてくる。


魔術師は一瞬思案した後、姿勢を低くしてまるで突進するような構えを取って見せる。


いったい何をするつもりなのか、康太が警戒していると、自らの背中の土を押し出す形で一気に康太めがけて距離を詰めてきた。


今まで自分から逃げようとする魔術師は多くいたが、自ら接近してくる魔術師は珍しいなと康太は一瞬驚いた。


その構えと突進位置からして、康太の腰あたりに抱き着いて強引に康太を壁際まで押し付けようとしているのだろう。


だが康太は普段の訓練からして接近されることには慣れている。


跳躍しながら突進してくる相手の肩に手を置いて軽く回避しながらもう一方の手に持ったナイフでその背中を斬り付ける。一瞬苦悶の声を上げた魔術師だが、突進は止まらず、その体が壁に叩きつけられる。


一瞬自滅したのではないかと思ったが、康太はその考えを即座に否定する。


魔術師を押し出した土が、どんどん吸い取られていくかのようになくなっていく。その姿が一気に変化していったことで康太は相手が何をしようとしていたのかを理解した。


康太の攻撃は小規模な連続攻撃と、大規模な範囲攻撃。そう判断した魔術師は一瞬の接触だけで攻撃したと見せかけ、康太が手を出せないような状況を作り出したのだ。


一瞬の交錯では康太ができる攻撃は一度か二度、その程度の攻撃なら耐えきれると判断して一種の賭けに出た。


土に周りを囲まれている状態、そして自滅したように見せかけ土の中に埋もれてしまえば攻撃はしないだろうと判断し、この行動に出た。


そして魔術師は賭けに勝った。その体を土で覆いこみ、ゴーレムを作り出すことに成功していた。


それは上半身だけのゴーレム。部屋が狭いためにその体すべてを作り出すようなゴーレムはできないが、上半身だけでその体を覆い、防御することはできる。


康太の攻撃性能では突破できないレベルのゴーレムを判断し、あの一瞬で作り出した、その技術の高さに康太は舌を巻いていた。


襲い掛かるゴーレムの拳を康太は回避しながらその腕にナイフで斬りかかる。


だが土がわずかに削がれるだけで、すぐにその削がれた分がほかの土から補充されていく。


索敵で相手の魔力量を確認するが、魔力にはまだ余裕がある。攻撃と防御を一度にこなせるようになった状態であるために、先ほどまでのような慢性的な魔力不足には陥っていないようだった。


こうなってしまうと厄介だ。やはりウィルを連れてくるべきだったかと康太は強く後悔しながら相手の状態を確認し始めた。


乱暴に拳を叩きつけてくる魔術師だが、徐々にその位置を切り刻まれ倒れている魔術師の方へと移動させている。


おそらくはゴーレムのままあの魔術師を回収するつもりだろう。


そうはさせるかと、康太はあらかじめ準備してあったナイフを取り出すとゴーレムの拳をかいくぐりながらその胸部へと襲い掛かる。


索敵の魔術で相手が胸部にいることはすでに把握している。あの場所へ攻撃してしまえばいいだけの話だ。


再現の魔術で大量に槍での斬撃を繰り出し胸部の土を一気に削っていく中、康太は準備していたナイフを胸部に深く突きさす。


瞬間、康太の仕掛けが発動する。


ナイフの柄の部分に、康太はあらかじめ蓄積の魔術をかけておいたのだ。短い時間だったうえにハンマーなどの道具もなかったために大した力はかけられていないが、相手のゴーレムもそこまで分厚い構造をしていない。


この狭い空間で巨大なゴーレムは作り出せない。康太の読み通り、突き刺したナイフはさらに深々と突き刺さり、魔術師の体の一部に深く突き刺さっていた。


そして突き刺すと同時に、康太はそのゴーレムの胸部めがけて大量に拳を再現していた。


一撃一撃は本来土をわずかに削る程度しかできない威力ではあるが、その胸部の一点に打点を集中した。蓄積の魔術によって威力を蓄積させ、一気に放つことでそのゴーレムに強力な一撃を加えその上半身を吹き飛ばした。


魔術師の体が露わになった瞬間、這うような光が床や壁を伝ってゴーレムに襲い掛かる。次の瞬間、その光をたどるように強力な電撃がゴーレムごと魔術師を襲った。


それが文の援護であることは康太はすぐに理解できた。ゴーレムに包まれた状態での電撃であるために然程の威力は出なかったようだが、相手の魔術師の動きを一瞬ではあるが完全に止めてしまっていた。


康太はここで決めるべきだと判断し、その体めがけて右拳を拡大動作を乗せてたたきつける。


ゴーレムに支えられた状態の魔術師はよけることもできず、その拳を叩きつけられゴーレムごと後方へと叩きつけられる。


勢い良く壁にたたきつけられた瞬間、ゴーレムが徐々に崩れていく。


魔術師の下半身は土に埋もれ、壁に背中を預けるようにして動かなくなった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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