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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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魔術師の攻防

つららの刃を挟んで向こう側、氷の魔術師はとりあえずこの場から離れることを視野に入れ始めていた。


相手の攻撃がどこから来るのか、そしてどのような魔術を使っているのかが把握できない今、方陣術に割く余裕がなくなり始めている。


方陣術の維持には多大な集中力を要する。だがこのまま倒されるくらいならこの方陣術を破棄してでも逃げなければ後々面倒なことになる。


すでに体のあちこちを負傷している。傷を負った状態でまともに動けるのもあと少しの間だろう。もはや持久戦を行うには不利な状況になっているのだ。


互いに短期決戦以外に取る手段がなくなったことで、幸か不幸か康太にとってはやりやすい状況になったことになる。


つららの刃が消える前に急襲する。康太はつららの刃を飛び越える形で一気に接近しようとしていた。


痛みに悶える魔術師もその動きを把握している。痛みのせいで反応は鈍いが康太めがけて氷の礫を放っていた。


高速で打ち出される氷の礫。まともに当たればそれなりに痛いがそもそも放たれる方向が限られているのであれば回避もできる。


康太は再現の魔術を用いて空中を跳躍し半ば強引に礫を回避して相手の後ろへと回り込んでいた。強引な回避であるために体勢を少し崩したが、その程度で攻撃を止めるつもりは毛頭なかった。槍を構えて突進し、思い切り魔術師に突き出すさなか、康太の槍が唐突に動きを止める。


体ごと動いていたはずの槍は全く動かなくなっていた。一体何が起こったのか、第三者の介入を疑う中康太は一瞬槍の方へと目を向ける。


槍は問題ない、一見すると誰かに掴まれているというわけでもなかった。


だが康太の後方、槍の柄のある空間が丸ごと凍らされていた。


昨夜康太が逃げる魔術師を追おうとしたときに使われた魔術だ。空間ごと瞬時に凍らせる魔術。


あの時は康太を凍らせようとしたものだったようだが、あの時と同じように槍だけが凍らされてしまっている。


これでは康太の地力では槍を扱うことができなくなってしまう。


恐らくは相手の魔術師も康太が後ろに回り込んでくること、あるいは後ろからの攻撃を警戒していたのだろう、大雑把ながら発動された空間凍結のせいで槍を凍らされ全く動かなくなってしまっていた。


予想外の出来事に動きを止めた康太めがけて礫とつららの刃が放たれようとしている中康太は歯噛みしていた。この状況で武器を失うのはデメリットが大きすぎる。攻撃手段として優秀な槍を失うわけにはいかない。だがだからと言って蓄積の魔術で氷を粉砕するには時間が圧倒的に足りない。


康太は瞬時に判断し魔術を発動した。


発動した魔術は分解、凍らされている柄を分解することで切り離し、再び魔術師めがけて接近する。


足元からつららの刃、正面から氷の礫が襲い掛かる中、康太は半ば飛び跳ねるようにしてそれらを回避していた。


もちろんすべてを回避できるはずもなく、つららの刃は僅かに康太の腕をかすめ、氷の礫を全身に浴びながら大きく魔術師から離れることになってしまう。


相手に与えられたダメージはゼロ、対してこちらはダメージをいくらかと槍の一部を失った。


つららをかすめた腕からは僅かに血が流れている。そして体にうちつけられた氷の礫のいくつかが頭に命中したらしく、僅かに額から血が流れていた。


槍の全長の五分の一程を切り離すことで問題なく槍を使うことはできているが、長さが短くなったことで攻撃範囲が狭くなったのは言うまでもない。


武器を失うよりはましな対処だとは思うが、先日凍らされたにもかかわらず同じ手を使われてなおかつ活用されてしまうあたり油断していたというほかない。


とはいえ相手も手負い、こちらも手負いになったとはいえ条件はほぼイーブン、いやまだ伏兵が潜んでいる分こちらの方が有利であると考えたほうがいい。


槍を構えながら康太は魔術師に対して円を描くように移動し始める。


痛みを抱えているとはいえ足が無事なのは僥倖だった。まだ十分に動ける。自分の体のダメージと槍の状況を確認しながら康太は間合いをつめながら再び魔術師に接近しようとタイミングを見計らっていた。


もちろん魔術師もいつ康太が接近してきてもいいように自分の周囲の足元に氷のバリケードのようなものを作りつつある。これを作ることで康太が接近する際に経路を限定しようとしているのだ。


康太が空中で移動できることを考慮に入れてもこれをすることでその動きをいくらか阻害することができる。さらにこのまま氷を大きくし続ければ盾にもできる。


このまま戦いを続けるのが難しいという事を相手も分かっているのだろう、康太は眉を顰めながら走り続けていた。


仕掛けるのならタイミングが重要だ。自分が動き回っているのもあって相手は狙いを定めるのが難しいはず。


こちらの手の内は鉄の数珠が一つ、そしてお手玉が三つ。


これらを使って相手を完全に無力化しなければならない。どうすれば相手を出し抜けるか、そしてどれだけ優位に事を運べるかそれこそ重要な点だった。


現状確認できている相手の魔術は氷の礫とつららの刃、そして空間氷結の三つ。


恐らく方陣術を維持しながらではこの三つが限界なのだろう。まだ維持に必死になっているあたりどれだけ康太を格下であると考えているかがよくわかる。実際康太は圧倒的に格下なわけだが。


康太は意を決して攻撃を開始することにした。このまま状況を維持していれば文がやってきてくれるかもしれないが、何か決定的な隙を作らない限り文は動かないだろう。


余計な手を出して警戒のレベルを上げるよりは完全な不意打ちで仕留める方が圧倒的に確率が高い。


伏兵というのは隠れて存在すら感知されないからこそ意味があるのだ。


手持ちの武器を確認しながら康太は相手の位置を確認する。自分にできる攻撃が限られている以上ある程度手の内を見せることも必要だろう。その為になにをするべきか、康太は意識を集中しながら相手の一挙一動を確認しながら疾走する。


まず第一に行ったのはそのあたりに落ちていた小石を放り投げることだった。ボールを投げるように弱回転させながら魔術師めがけて投擲すると、当然のように回避して見せた。


だがその回避の動きは康太が予想していたよりもずっと大きかった。一メートル以上距離を置いて氷の礫で小石を弾き飛ばすかのように半ば強引に撃ちおとしていた。しかも小石が何か魔術的なものを持っていてもいいように氷の壁を作り出して自分の身を守るようにしていた。あまりの防御に対する徹底ぶりに康太は内心驚いていた。


当然投げたのはただの小石だ。魔術的な効果など何も持ち合わせていない。だが康太が何かを投げたという事が相手にとっては最も警戒するに値することなのだ。


どうやら自分から放たれる全てに警戒の目を向けているようだと康太は眉をひそめた。


この状況では投擲して使う道具は発動できそうにない。


運悪く康太が今有している道具のほとんどは投擲して扱うものだ。数珠もお手玉も相手に投げて発動する。投げたところで氷の礫や氷の壁で防がれてしまうのでは発動したところで意味がない。威力があると言ってもそれはあくまで対人や対生物用の武器なのだ。氷の壁をぶち破るほどの威力は有していない。


地上から進めば氷の礫とつららの刃が襲い掛かってくるだろう。とはいえ無策に空中歩行で突っ込んだところで撃ち落とされるのは目に見えている。


対策も何もしていない攻撃をしないことには相手の不意を打つことはできないだろう。なら自分に何ができるだろうかと康太は眉をひそめていた。


どうにかして相手の隙を作るにはどうすればいいか。


康太は少し考えた後にやりと笑って見せた。仮面をつけているためにその笑みは相手にはわからない。もちろん自分も危なくなる手だがしっかりと準備をすれば防ぐことも可能だろう。


康太は移動しながら小石をいくつか拾い上げ、魔術師めがけて投擲する。そのどれもがしっかりと回避、さらに防御されてしまうがそれでいいのだ。


相手の警戒の値はかなり高くなっている。それこそ康太の一挙一動を見逃さずに対応するつもりなのだろう。


氷の礫で攻撃を行う中でも康太の動きを見逃さない。康太がどのような攻撃をしてきても反応できるだけの準備を整えているという事だろう。


康太にとってはその警戒こそありがたいことだった。康太の方に意識が集中しているというのはつまりそれ以外に目が向いていないという事でもある。


後は任せたぞと内心呟きながら康太は手に持っていた小石をすべて順々に投擲していく。それぞれ放物線を描いて魔術師めがけて飛んでいくが当然のように氷の礫で撃ち落とされてしまっていた。


山なりの軌道では当たり前のように撃ち落される、当然のことだ康太だって放物線を描いて何かがとんで来れば可能なら撃ち落とす。もっとも撃ち落とせるだけの技量がないために大きく避けるだろう。


恐らく相手の想定としては投擲物は魔術的な効果を持ったものであると考えているはず。それが爆発物なのか何か効果を持ったものなのかはわからないが康太にとってはどちらも同じこと。


相手は徐々に投擲物への警戒を強めている。康太が何の効果も持たない小石を投げているというのがある種のブラフであるということに気付いているのだ。


槍を持っている時点で自由に使える腕は一本だけ。その一本も先程負傷しているためもあってか力を込めると痛みが走る。


仕込みは済んだ。康太は意識を集中する。一手順でも間違えば康太が死ぬだろう。それをしないためにも高い集中力を維持しなければいけない。


そんな中あることに気付く、自分の視線の隅に一瞬妙に暗い部分が見えたのだ。


そもそも夜なのだから暗いのは当たり前なのだが、暗すぎるのが気になった。その時点で康太は笑みを浮かべながら自分がやるべきことを理解した。


康太は懐から三つのお手玉を取り出す。再現の魔術を用いて先程の投擲の腕の動作を再現し、同時に三方向へと投擲し、再現の魔術が終了したのを確認すると今度は分解の魔術を発動する。


当然相手の魔術師は三つの物体が三つ康太から投擲されたのを確認するとその三つを撃ち落そうとする。大きさからみて簡単に撃ちおとすことくらいはできただろう。お手玉がお手玉のままの形を保っていたのであれば。


康太の分解の魔術によってお手玉の形を保つべくくっつけられていた接合部分が外され、その中身が外部へと漏れ出していく。氷の礫が直撃することでそれらは空中に飛散していった。


それは鉄の数珠を構成していたのよりやや小型の鉄球だった。三方向に射出されたそれは氷の礫によって撹拌されるように空中にまんべんなく広がっていった。


相手が頭上の異常に気付くのと同時に康太は纏っていた外套のフードを深くかぶり、魔術を発動しながら突進した。


発動した魔術は蓄積。


康太はまだ複数の異なる魔術を同時に発動できるだけの技術は無い。だが同じ魔術であればある程度は同時に扱える。


康太はお手玉の中に仕込まれていた鉄球の蓄積の魔術を解除しながら自らが着こんでいる外套に蓄積の魔術を発動したのである。


空中に拡散した鉄球は鉄の数珠と同じように康太が金槌で一方向から力を加え続けたもの、蓄積の魔術を解除すれば当然鉄球にかかった力が解放され周囲に破壊をまき散らしていく。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


誤字がちょっと多くなってきてまずいかなーと思い始めた今日この頃、今回はちょっと頑張ってチェックしました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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