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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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続く痕跡

急造ではなく、きちんと魔術師が拠点として作った場所であれば空調などをほかの建物の設備から取り込むところだが、この地下空間はかなり急いで作られたものであるらしい。そういった一時的な空気を循環させるための施設が見当たらない。


あったとしてもところどころ、地上に向けて空気穴を伸ばしている程度だ。だがそのつくりもだいぶお粗末である。


排水溝の一部につなげてしまっているため、もし大雨が降ろうものならこの地下空間に水が一気に流れ込むことだろう。


これらのことからこの場所を拠点として作ろうとしたわけではないというのがわかる。本当に一時的な、少しの間使えればいい程度の認識だというのがわかる。


「・・・でも、こんな空洞作って何するつもりなんですかね・・・っていうかこんなの作るならどっか部屋を取ったほうがいいんじゃ・・・」


「地上部分は良くも悪くも魔術師が網を張ってるからな。地下なら意識が薄くなってると思ったんじゃないか?まさかウサギがアスファルトを突き破るほどの穴を掘るとも思わないからな」


事実、康太や文もウサギの捜索時はほとんど地上部分に目を向けていた。そういう意味では何かを隠したい人間からすればこの地下空間は最適な場所といえるだろう。


「っていうか・・・これ作った奴・・・もし昨日ウサギが逃げてからすぐこれを作ったとしたら・・・相当な実力者だな」


「そうね。土魔術に関してはスペシャリストってところかしら?」


とはいえ、昨日今日でこれだけの空間を作れるだけの実力を持っているということがうかがえる。多少雑なつくりとはいえこれだけの空間をこれだけ深い場所に作るのは容易なことではない。


何もない山などに地下を作るのと、町の真下に地下を作るのとは難易度が異なる。基本的に建物の下、道路の下はある程度の強度を求められるためにかなり圧力をかけて埋め立てられていたりする。


土そのものの圧力もそうだが、上にある建物の圧力などもあり、土に逃げ場はほとんどないといっていい。


そんな状況でこれほどの空間を作るということはつまり、土をどこかに追いやったか、あるいは土をどこかで圧縮したかのどちらかだ。


すでに高圧がかけられている土をさらに圧縮するにしても、それだけの圧力がかけられている土をさらにどこかに逃がすにしても、かなり高い出力で土を操らなければならなくなる。


「ベルから見てこれを作るのに普通ならどれくらいかかる?」


「私は土の魔術はあんまり得意じゃないから詳しいことは言えないけど・・・平凡な使い手なら一週間くらいはかかるんじゃない?」


「・・・それを一朝一夕で作るか・・・役割分担してたにしても早すぎるな・・・面倒くさい匂いがプンプンするぞ」


「二人はどう?土御門ってくらいだし、土の魔術は得意なの?」


苗字からして土属性っぽいという理由だが、土御門という理由から土属性の魔術が得意なのではないかと康太と文は少しだけ期待していたがそういうわけでもないらしく二人は首を横に振っていた。


「普通に使える程度ですよ・・・少なくとも俺はそんなに使えないです」


「私も同じくです。土御門の中には土属性がすごく得意な人もいますけど・・・別に土御門だから土属性が全員得意ってわけではないですよ」


「そうなのか・・・ちょっとがっかりな気分」


土御門という苗字であるために比較的土属性の魔術は得意だと思っていただけに、康太と文は少しだけがっかりしていた。


無論魔術師の家系だからと言って全員が魔術師になれるというわけではない。魔術師としての素質を持っていないものだって生まれる。


そして当然魔術師としての素質を持っていても、それぞれの属性に対しての適性値は個人によって異なるのだ。


土御門という苗字だからというのは康太たちの勝手な思い込みではあるが、二人が少しがっかりしていた理由を土御門の双子は理解できるためになんとも言えなくなってしまっていた。


四人で地下空間の中にやってきた康太は自分の体から匂う若干のごみのにおいを気にしながら地下空間のにおいをかぎ始める。


暴風の魔術をしばらく流し込んだため、空気は行き届いている。そして康太がにおいをかぐとその匂いはしっかりと残っていた。


空気が動きにくい地下空間、その中にはウサギのにおいがしっかりと残っていたのである。


「ビンゴだ、ばっちり残ってる・・・誰かがウサギをここに持ってきたな」


康太は空気のにおいをかぎながら、同時に地面のにおいも確認し始める。ウサギを連れてきたと思われる魔術師のにおいを確認しようとしているのである。


だがさすがに歩いただけでは匂いを判別できないのか、魔術師本人のものではない痕跡を見つけた。


ウサギの毛、何度も康太が見つけた痕跡の一つがここにある。この痕跡によってこの場所にウサギが連れてこられている、あるいはこの場所に侵入したというのは確定的になったといっていい。


「ベル、この通路の先まで索敵頼む。っていうかどこまで続いてるんだこの通路」


「かなり先まで続いてるわね・・・町の外まで・・・ビー、急いだほうがいいかも」


「了解、走るぞ!」


まっすぐに続く地下空間を四人は走っていく。どれほど先まで続くかわからないこの区間。だが進むにつれてウサギのにおいが強くなっているのを康太は感じ取っていた。


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