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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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遭遇まであと

「確認できました。近づいてきてるのは鹿みたいですね。かなり大きいです」


「そうか・・・北海道には鹿がいるんだっけ・・・確か天然記念物だったような・・・?殺したらまずいわよ?」


「わかってるって。追い払うよ」


数分後に接近する鹿の存在を認知し、文は索敵によってその方角と距離を正確に康太に伝達する。


康太はその場所を確認して意識を研ぎ澄ます。康太の索敵では未だその影は捉えられていない。単純に索敵範囲が狭い康太の索敵ではまだ発見できないだけの距離に鹿はいるのだ。


だがそれでも十分。康太は集中してから目を細め、強い殺気を鹿のいる方角へとむける。


野生の鹿に対して威嚇をするということに意味があるのかはわからないが、少なくともこちらが敵意を持っているとなれば鹿は逃げ出すだろう。


草食動物は基本的に害意ある者からは逃げようとする。それなりの理由がない限りは争いを避けるのが彼らの理論だ。


「・・・あ、未来が変わりました。鹿との接触は回避できたようです」


「よしよし・・・今のでウサギが変な影響受けてなきゃいいけど・・・とりあえず未来はどんな感じだ?十分後とかは何もないか?」


「少なくとも何もありません・・・それより先の未来だと・・・ちょっと待ってくださいね」


遠い未来を見るためにはそれだけ集中力が必要なのか、明は目を瞑って大きく深呼吸し始める。


「四十五分後・・・何かを見つけたようです。場所、方角共に不明ですが・・・かなり警戒しているようですね」


「警戒?静かにしてるわけじゃないのか?」


「はい・・・先輩はナイフを装備しています。臨戦態勢に入っています」


康太が臨戦態勢に入るだけの何かと接触したということは、つまり第三者の魔術師の介入があったとみるべきか、あるいは康太が戦わなければまずいような動物が現れたのかの二択だ。


「ベル、一応依頼を受けてきてる魔術師の詳細を確認しておいてくれ。もしかしたら先に動いてた魔術師と遭遇したのかもしれないからな」


「了解。違った場合は戦闘?」


「もし相手がウサギを確保してたら戦闘だ。奪い返す、あるいは殺す」


その言葉に土御門の二人がわずかに反応する。別の魔術師がいたということはウサギを探すために活動しているということでもある。


それが協会からの依頼を受けてやってきている魔術師ならばいいが、もしそうではなく、ウサギを逃がそうとした可能性のある魔術師だった場合、交戦もやむなしと康太は考えていた。


「・・・先輩・・・もし俺らがフリーだったら、ウサギを俺たちに預けてくれませんか?」


「いいけど・・・なんでだ?」


「先輩らが足止めしてくれれば、俺たちでウサギを連れて協会まで逃げます。予知しながら逃げれば逃げられる可能性は高いです」


康太と文は一瞬顔を見合わせて考え込む。確かに未来予知と索敵の魔術を併用すれば逃走はかなり容易になるだろう。


未来の情報を常に取得できるということはかなりの強みだ。特に相手の動きと自分の動きを把握したい逃走状態であればなおのこと。


逃げ切れる可能性は十分にある。二人に任せても問題はないように思える。


問題は無傷でウサギを相手から奪還できるかというところである。


「相手からウサギを奪い取れるとは限らないぞ?」


「先輩ならできると思います。お願いします」


康太の実力を信頼しての頼みに、康太は苦笑してしまっていた。まさか自分の実力をあてにしているとは思わなかったのだ。


難しいことは康太に丸投げ、なんともたくましい考え方をする奴だと康太は苦笑し、文はあきれてしまっていた。


「まぁ、次に遭遇するのが人か動物かもわからないんだから、警戒は最低限にね。動物が相手だった場合ちょっと面倒なことになるし」


山もかなり奥のほうにやってきている。康太の追跡がゆっくりであるためにそこまでの速度が出ないとはいえすでに人間の領域を遠く離れているのだ。


この山の中は動物のテリトリーとなっている。目標以外の動物との遭遇は可能な限り避けるべきではあるが、進んでいる限り必ずどこかしらで遭遇することはわかっていることである。


それが凶暴な野生動物ではないことを祈るのみだ。


「って言っても・・・ここで二匹も探さなきゃいけないわけでしょ?前途多難ね・・・いつ見つかるか分かったもんじゃないわ」


「こういう場所で探す場合は人海戦術が基本だからなぁ・・・見つけようとして見つけられるものでもないし・・・」


山の中で何かを意図的に探そうとした場合、当然かなり多い人手が必要となる。それこそ山狩りに近いことをしなければならないだろう。


相手が小動物ならなおのこと、索敵が得意な魔術師に捜索を依頼するべきなのだ。そういう意味では康太と文、そして土御門の二人というのは適正な人員だと思うが、それでも全く足りないのが正直なところである。


今は康太がウサギの痕跡を何とか追えているから何とかなっているが、普通の魔術師ではなかなか見つけられないだろう。


引き続き追跡をし続けていると、明が予知した通り四十五分後、文が何かに気付いて前進を止める。


「・・・いるわね・・・魔術師じゃないわ、動物・・・こっちに来てるわ」


「またかよ・・・鹿か?」


「・・・違うわ、ちょっと待って、もうちょっとしっかり索敵する・・・大きいわね・・・これが熊かしら?」


索敵を切り替えた文は眉をひそめながらもその方角を康太たちに教える。その方角は康太たちがこれから進もうとしている方向でもあった。


「大きさとかはわかるか?」


「・・・んっと・・・少なくとも私たちより大きいわ。四足歩行してる・・・こっちを見てるわね・・・」


「こっちに気付いてるってことか・・・戦闘は不可避か?」


「やってみないことには分らないわよ・・・熊って何にびっくりするんだっけ?音とか?鈴とかがいいって聞くけど」


熊よけの鈴は康太たちは持っていないが、一定のリズムで普段聞かない音などを聞かせると熊は警戒して寄ってこないというのを聞いたことがある。


どれほど効果があるのかははっきり言ってわからない。死んだふりよりは信憑性が高いと思われるが効果のほどはいまいちわかっていない。


「マジで熊に遭遇するとか・・・本当に勘弁だな・・・他の魔術師のほうがまだ何とかなりそうだよ」


「たぶんだけど、他の魔術師は町のほうに行ってるんじゃない?ウサギを捕える優先度的にはそっちのほうが上でしょ」


ウサギを捕まえる目的は実験動物を連れ戻すというのもあるが、一般人の前で魔術的な超常現象を起こさせないようにするというのが主目的なのだ。


そう考えれば一般人が多くいると思われる町の方を先に調べるのはむしろ当然といえるだろう。


康太たちはウサギが逃げた方向が町と山と平野であることがわかっていたからこそ、夜には入れない山を選択したが、他の魔術師ではそうもいかないのかもしれない。


嗅覚強化の魔術が現代の魔術師にとってそこまで必要とされていない魔術だというのがよくわかる現状である。


「・・・こっちに近づいてきてるわね。早ければ数分で接触するわよ?」


「マジか・・・マジか・・・熊相手とか逃げ出したいんだけど」


そう言いながらも康太は持ってきていたナイフを手に取って戦闘態勢に入る。そんな中土御門の二人が何かに気付いたのか周囲を見渡し始める。


木々が生い茂り、視界が悪いが二人はそれをはっきりと見ていた。


「先輩、五分後、ウサギっぽいのが通りすぎます!数は二!」


「はぁ!?このタイミングで!?勘弁してくれよ・・・ベル、索敵に反応は?」


「ないわね・・・ってことは通り過ぎようとしてるってことかしら・・・場所は?ここなの?」


「いえ・・・でも熊もビー先輩もいません。いるのは私たちとベル先輩だけです」


「ってことは俺が熊を足止めしてる間に三人がどっかに探しに行ったって感じか・・・?どっちにしろ嫌な役回りだな」


本当ならば熊との戦闘は避けたいところだが、康太が熊と戦闘すれば問題なく目標と思われるウサギと接触できるのであれば是非もない。


未来を変えて接触できなくなるよりはあえて熊と接触し、康太が足止めをしている間にウサギと接触したほうが良い結果となるだろう。


「ベル、二人を連れて戦線から離脱しろ。方向は任せる。俺は熊を威嚇しながら足止めしてるから」


「了解。殺しちゃだめよ?」


「普通殺されちゃだめよって言わないか?相手は熊だぞ?」


自分たちよりも大きな動物を相手にするなどと康太は初めてだった。はっきり言って勝てるという自信はない。


普段のように武器を多く所持しているのであれば負けるつもりはないが、今康太が持っているのはナイフだけなのだ。万全の状態でない以上勝てる保証はない。


「んじゃ後は任せたわよ。気をつけて」


「了解。んじゃ精々足止めしますか」


そう言いながら康太は腰を低くし、強い殺気を放ち始める。


こちらにひきつけるといいながらも、可能な限り逃げてくれないものかと祈っているようだった。


文たちはそんな康太を見ながらその場を後にする。熊をよけるために康太から少しずつ距離を取りながら斜め後方へ、そして十分に離れてから横へと移動する。


何の打ち合わせもしていないこの行動でも、土御門の二人が見ている未来は変わらなかった。


つまりこの行動は二人が見ている未来にたどり着くための行動としては正しいのだという確証を得ていた。


見た未来の通りの行動をするというのはなかなか難しいものだなと文は思いながらも、康太の無事を祈りながらその場を離れていく。


その姿が見えなくなってもはっきりとわかるほど放たれている殺気。その存在感は索敵など使えない熊でもはっきりと感じ取れるだろう。


熊は本来臆病な生き物だ。子供を守る時以外はむやみやたらにほかの生き物と接触するようなことはない。


熊の繁殖期はまだ先だ。今は冬眠明けの時期であることを考えるとそこまで好戦的ではないと思いたい。

文は康太の無事を祈りながらたどり着けるかもわからない未来を目指して進み続けた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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