壊し方
康太は破壊されたケージの前にそれぞれのウサギが住んでいたケージを確認していた。
それぞれのにおいを確認していくのだが、嗅覚強化を発動しなければ違いなど分からないようなものばかりだ。
絶対的な個体差があるとは思っていなかったが、ここまで違いがないとは思わなかっただけに康太は少しだけ眉をひそめていた。
「ベイカーさん、このウサギたちはなんか薬品とか使ってたってことはありますか?」
「んー・・・たくさん使ってるよ。と言っても常用しているわけではないけれどね。それにウサギによって使っている薬は違うし・・・でも最近は使ってなかったなぁ。移動のこともあって安定させたかったからね」
何かしらの薬を使っているということで区別できればと思ったのだが、そううまく話が進むようなことはないらしい。
康太が必死になって嗅覚強化の魔術を使ってようやく見つけた違いを覚えると、ベイカーは少しだけ興味深そうに康太のほうを見ていた。
「ちなみになんだけどさ、わかればでいいんだけれど、普通のウサギと何か違いはあるかな?」
「それを俺に聞かれても・・・ぶっちゃけ俺普通のウサギのにおいを嗅覚強化で嗅いだことありませんよ?基本動物のにおいは強化して嗅ぐと鼻が曲がりそうになります」
動物に限らず、どのようなにおいも基本的には強化状態で嗅ぐと鼻が曲がりそうなほどに強いにおいなのだが、そのあたりは言っても仕方がない。
というか康太は動物園やらふれあい関係の店などには魔術師になってから行ったことがない。
動物園などは子供の頃に親に連れて行ってもらった記憶があるが、それ以降の康太の記憶の中に動物園というものはなかった。
子供のころから遊園地のほうが好きだったため、動物に特にこれと言って思い入れはないのだ。
「よし、覚えた・・・次は壊れたケージ見せてもらえますか?」
「うん、こっちだよ」
康太を引き連れて先ほど持ってきていた壊れたケージのもとにやってくると、康太はそれを見て目を細めた。
右目を閉じて物理解析を行うと瞬時にそれがどういう状況であるのかを理解できた。まず間違いなく破壊されたものであると確信をもって言える。
今回のことが事故ではなく人為的に起こされたものであるという証拠でもあった。同時にこの依頼の危険度が著しく上昇したという意味を持っているだけに康太は全くうれしくはなかった。
「明らかに壊されてますね・・・気づかれないように細かい部品だけよくもこうまで器用に壊せたもんです」
「へぇ・・・そんなにすごいのかい?」
「出力自体はそこまで大したものではありませんが、気づかれたくないっていう気持ちがすごく出てますね。俺や師匠だったらもうちょっと派手に壊したでしょうけど・・・これはなかなか・・・」
康太はそういいながら壊されたケージのパーツの一つを手に取る。決して経年劣化などではありえない曲がり方をしているパーツを見て目を細めながらもこれをできるだけの相手が出てくる可能性があるということに辟易していた。
正直なことを言ってしまえば威力自体は大したことはないのだ。この程度であれば康太でもできるし、もしかしたら一緒に来ている土御門の二人でも可能かもしれない。
問題なのはその精度だ。
話を聞く限り、搬送中に周りに攻撃を仕掛けるような魔術師はいなかったということになる。つまり一般的な魔術師は普通にエントランスなどの場所にいたということだ。
その中に紛れて破壊工作を行った、つまり最低でも五メートル程度は離れていたということになる。
エントランスの広さを考えれば十メートル以上離れていても不思議はない。それだけ距離があるにもかかわらず、的確に小さな部品だけを狙い撃つような形で破壊してある。それがかなりの高等技術であることを康太は理解していた。
何せほかのパーツには一切破壊の跡がないのだ。力が加わった形跡すらないということはつまりピンポイントで力を加えたということになる。
壊されたのはケージの面と面をつないでいる部分、そしてケージを運んでいた台車のキャスター部分だ。
台車の移動を封じ、なおかつケージを同時に破壊することでウサギたちを自由にすることが目的としか言いようがない。
「どう?やっぱり壊されてたの?」
「間違いなくな。そっちはどうだった?」
「収穫はちょっとって感じね。見た目と特徴くらいよ。そっちは?」
「匂いは覚えた。ケージが壊されてたってことでまず間違いなく誰かしらの介入があると思っていいぞ。良くも悪くもな」
「戦闘になりそう?」
「どうだろうな。ただものすごく器用な奴だって印象・・・壊し方に無駄がない。師匠に見せたいくらいだよ」
康太の言葉に文は小さく「へぇ・・・」とつぶやいていた。破壊に関しては小百合の右に出る者はいないと思っているだけに、康太がこのようなことを言うのが少し意外だったのである。
まるで小百合にこれを参考にさせようとしているように聞こえただけに、康太がこれを行った人物をすでに高く評価しているということがうかがえた。




