強さを持ったもの
「あくまでこれは俺たちの意見だ。結局のところお前たちが決めるしかないんだからお前たちが決めろ」
「そうね。ちなみに船越君、序列で上になると強制的に連絡係とか場所取りとかそういうことをやらされるわけだけど・・・それでも上がいいの?」
序列上位に立っている文の言葉だ、彼女がうそを言っているとも思えない船越は眉をひそめてしまう。
船越は確かに序列で上になりたいと考えていた。自分こそが一番であるという証が欲しかった。
三学年通して一番であることはかなわなかったが、それでも一年という学年の中で一番を取れるという意味は大きい。
とはいえ、彼は雑用が大嫌いだ。細かな連絡など絶対にやりたくないと考えていた。少なくとも文が言っているようなことなど自分がやるようなことではないと確信していた。
「一応言っておくけど、序列っていうのはあくまで立場の話よ。戦闘能力とは関係ないわ。それは私とこいつの関係を見てわかってもらえると思うけど」
「・・・ぬぐぐ・・・」
「私は序列に関してはあまり気にしないので、船越君の意見を尊重します。実際私は戦闘では役に立てないわけですし、それなら矢面に立つことになる人の意見を優先するべきかと・・・」
自分のできないこととほかの人間にできることを理解したうえで、現状を把握し誰の意見を通すべきであるのか佐々木は正確に判断できているようだった。
彼女のこの状況把握能力は長年の協会での下積み活動が実を結んでいるのだろうか。学生でありながら彼女の思考は一人前の魔術師に限りなく近い。
自分よりも弱い女子にここまで言われてしまったら、あとは船越の気持ち次第だった。
雑用なんて死んでもごめんだ。佐々木は序列に興味がないという。ならば自分が一番になって雑用を佐々木に押し付けたらどうだろうかと考えた。
自分が雑用をすることなんてない、そんなのは弱い奴の仕事だと考えた瞬間、康太のほうからわずかに殺気のようなものが飛んできているのに気づいた。
「ちなみに、与えられた仕事はきちんとやりきってもらうぞ。俺は文ほど苦労してないからあんまり言えた立場じゃないけど、誰かに自分の仕事を押し付けるとかは厳禁な」
「・・・な、何も言ってないじゃないですか、なんでそんなこと」
「勘だ」
康太の勘も捨てたものではない。長いこと小百合のもとで修業していたのが功を奏したのか、康太の中に眠っていた勘が目を覚ましたのか、船越のわかりやすい反応がそうさせたのか、どちらにせよ康太は船越の考えを的確にいい当てた。
そしてそれは文も同様だ。船越は良くも悪くも顔に出やすい性格のようだった。そのためにいったい何を考えているのかよくわかる。
「康太の言う通りよ。自分に与えられた仕事も満足にこなせないようなら評価はだだ下がりよ。魔術師としては下の下ね」
「うぅ・・・わかりました・・・序列上位は佐々木でいいっす・・・」
別に言わせたわけではないが、船越としてはそんな雑用よりもしっかりと修業や部活などに精を出したいのだ。
そんな些事に振り回されるようなことはない。それならば佐々木に序列の上位を譲ったほうがましだった。
どうせ学校内での評価、それならば協会のほうで活躍してその評価を覆せばいいだけの話だと考えたのである。
「よし、じゃあ嘉吉はとりあえず学校内での魔術師活動はしないってことでいいな?良ければ先輩たちにもそう報告しちゃうぞ?」
「はい、大丈夫です。あの、どの程度の行動まで許されるのか、今のうちに確認したいんですけど」
「わかっているわ。私の方でも先輩たちに確認しておく。あと、もし学校内で一時的にでも活動したくなったなら私か、佐々木ちゃんに言いなさい。先輩たちの許可はとっておいてあげるから」
「あ、ありがとうございます」
嘉吉は学校ではなく、それ以外の場所での活動を望んだ。それが正しいのかどうかは本人でしか決められない。
良くも悪くも学校内でのいさかいに巻き込まれることがなくなったというのは彼女にとって強く影響を及ぼすだろう。
少なくとも康太とかかわる機会が減ったのは間違いない。
「さて、序列や派閥のことも決まったし・・・めでたしめでたしか。こんなことに首突っ込まされるとは思ってなかったよ全く・・・」
「本当にね・・・三人とも、これから仲良くするのよ?特に派閥になった二人、ちゃんとコミュニケーション取ること。いいわね?」
「そんなこと言われなくても・・・」
「やるかどうか不安だから言うのよ。特に船越君。いいわね?」
「・・・名指しっすか・・・?」
「まぁなんとなく暴走しそうなタイプだっていうのはわかったからね。そのあたりはうまく自制して、なおかつ佐々木ちゃんに迷惑かけないように」
「・・・なんで俺ばっかり・・・」
「あきらめろ、それが強さを持ってしまったものの宿命だ。良くも悪くもいろんなものに縛られるんだよ」
強さを持った康太もいろんな意味で面倒ごとに巻き込まれてしまっている。周りから見ればその強さにあこがれもするかもしれないが本人からすればとんだ迷惑でしかないこともあるのだ。




