ようこそ新一年生
「呼び出し?先輩から?」
後日、学年が変わり新しい生活にも慣れ始めたころ、康太と文はいつも通り屋上で昼食をとりながら話をしていた。
「そう、今日の夜三鳥高校の魔術師同盟の話し合いがあるんだって。話し合いっていうか顔見せっていうべきかしら?」
「・・・顔見せってことは・・・そうか、一年生が入ってきたからか。新しい魔術師は何人いるんだ?」
「確認してるだけで三人ね。魔力量はあんたより低い連中よ。他の素質はわからないけど、雰囲気的に危なそうな感じもなかったわね」
三鳥高校に新しく入学してきた一年生。その中にいる魔術師との顔見せが今度行われるらしい。
一年前を思い出すなぁと康太は懐かしくなりながらもあの時のことを思い出していた。
ただでさえ面倒だった小百合の弟子という立場を利用できた数少ない案件だっただけによく覚えている。
「で、また体育館に集合ってか?顔見せっていうかこの高校の魔術師に関しての説明って感じがするけどな」
「そうね。まぁ少なくとも私たちがそこまで気をもむ必要もないでしょう。ただ、一応あんたの名前はそれなりに売れてるっぽいわよ?」
「マジで?俺有名人?」
「協会内では間違いなく有名人ね。小百合さんの弟子ってだけで知名度的には高かったけど、いろいろやらかしてるからなおのことって感じかしら?」
「やらかしたくてやらかしてるわけじゃないんだけどなぁ・・・」
康太は白米を口に運びながら渋い顔をしている。康太自身はそこまで面倒を起こしたいという欲求はない。周りが面倒なことを起こすからその分康太が対応しているだけなのだ。
とはいえ新しく入ってきた一年生というのは少し気になった。魔術師になってから初めて直接の後輩ができることになる。
魔術師自体は慣れあうような人種ではないためにそこまで干渉する必要はないかもしれないが、高校生に上がっていろいろ浮かれている可能性もある。
問題を起こすのであればその前に止めるのが三鳥高校の魔術師同盟の存在意義だ。その際は胸を張って止めさせてもらうつもりだった。
「一年同士で序列とか決めてるのかな?俺と文の時みたいに」
「どうでしょうね、三人いるから一度に決めるわけにもいかないし・・・少なくとも争った形跡はないから話し合いで決めたんじゃないの?」
「なるほど、平和的だな。俺らとは大違いだ」
「私たちの場合は師匠の関係もあったからね。まぁそのあたりはいいわ。とにかく今夜予定を空けておいて。集合はいつも通りよ」
「オーライ。っていうか来年になったら俺らが最高学年かよ・・・なんか妙な感じだよな。あんまり変わってないのに」
「そんなもんでしょ。中学の時もそうだったじゃない」
康太たちから見て一つ上の学年というのはとても大人に見えた。だが実際に自分たちがその学年になってみてもそれほど変化はないように思える。
魔術師になったからというわけではなく、あまり自分自身が成長できていないように思えるのである。
「一応釘をさしておくけど、あくまで顔見せなんだから一年生たちを脅すような真似はしないでよね?」
「俺を何だと思ってるんだよ。平和主義者な俺に向かって失礼な」
「どの口が言うのよ戦闘狂。小百合さんの弟子って時点で平和主義者の選択肢はあんたにはないのよ」
「じゃあ姉さんは?あの人も平和主義者だぞ?」
「あの人も一皮むけば戦闘狂の一種よ。あんたが気づいてないだけ」
以前真理の狂気を目にしている文からすれば、真理も康太もほぼ同類のようなものだった。
もっとも真理のほうが小百合との付き合いが長いせいでだいぶその考えに感化されている節がある。
「とにかく、一年生に余計な圧力かけないようにね?」
「わかったって。とはいっても先に相手が手を出してきたなら容赦しないぞ?止めたければ全力で止めろ」
「わかってるわ。まぁある程度加減はするでしょ?教育するってだけで」
「当たり前だ、殺しはしないしある程度加減もするよ。ボコボコにはするけどな」
その言葉にやっぱりこいつは小百合さんの弟子だなと文はため息をついていた。
言葉の節々に暴力的な雰囲気がまぎれている。もっとも康太はそのことに気付いていないかもしれないが。
初めて康太の姿を見ることになる高校一年生。おそらく魔術師としての活動も最低限のものだったはずだ。
日々の修業で手一杯。そんな状態で康太と対面するのはなかなかに刺激が強い。
何せ康太は日本支部の中でトップクラスの戦闘能力を有しているといっても過言ではないのだ。
高校生になってある程度魔術師としての活動が許可され、ある意味大人の仲間入りを果たしたと思っている一年生たちが何を考えるのか、少々不安だった。
粋がって変な行動に出なければいいのだがと文は不安になっていた。
そして康太が冷静に対処してくれるのを期待していた。康太の場合冷静に相手を叩きのめすだろうが、穏便な方向に話が進むことを切に願っていた。
なぜこんな心労を負わなければいけないのかと文はため息をつきながら弁当を食べている康太を横目で見つめる。
もう何度目になるかもわからない、なんでこんなのを好きになってしまったのだろうかという疑問とともに。
康太と文は夜、三鳥高校にやってきていた。
今年入ってきた一年生達との対面。康太たちからすれば初めての後輩ができるということなのだが、康太は堂々とし、文は先輩魔術師たちとのかかわりもあるために少しだけそわそわしていた。
早々にやってきた一年生たちに何かしらやらかさないだろうかと不安なのだ。もっとも、やらかすのは康太ではなく別の誰かかもわからないが。
「体育館に集まるっていうのも久しぶりだな。普段はどっかの空き教室だから広く感じるわ」
「まぁ、最初だからインパクトが強いほうがいいっていうのはわかるけどね・・・そのほうが印象強いし・・・」
「なめられないようにするには演出も必要ってこったな。なんかこう、漫画とかで悪役が一気に姿だけ現してくるようなもんか」
「例えとしてどうかと思うけど、似たようなものかしらね。もっとも、相手からすればあんたがいるってだけでビビるかもしれないけど・・・」
「魔術師としてまともに活動してないなら俺のこと知らないかもしれないじゃんか。最初から怖がられるのはちょっと傷つくぞ」
体育館の正面のステージ部分に位置している康太と文はそんなことを話しながら一年生たちがやってくるのを待っていた。
康太たちより一学年上の三年生はすでに康太たちのさらに上、二階部分にすでに待機している。
あらかじめ場所などを決めて待っているあたり律儀というか細かいというか、こだわりを持っているということがうかがえる。
一抹のなつかしさを覚えながらも康太たちが待っていると文が不意に反応する。彼女の索敵に魔術師の反応が三名引っかかったのである。
「来るわよ、格好いい先輩っぽくしてよね」
「任せとけ。めちゃくちゃそれっぽいオーラ出してやるよ」
いったいどんなオーラだと文は突っ込みたくなったが、扉が開く音を聞いてその言葉を飲み込む。
扉が開いた先にいたのは三人の魔術師。一人は背の高い男、二人はその後ろに隠れるようについてきている女の魔術師だった。
男の魔術師は外套を着ていてもわかるほどに体格もよく、何かスポーツでもやっていたのか筋肉質だ。中学から上がったばかりでこれほどの体ができているということは格闘技でもやっていたのかもしれない。
対して二人の女子魔術師は外套の上からでもわかる程度には細かった。
康太がさりげなく索敵してみると、やはり三人の体格は見た通りのようだった。この時点で三人の序列がなんとなくわかる。
男が一番前にいて他二名がついてきているということから、男子の魔術師が一年生の中では一番の強さを持っていると考えていいだろう。
魔術師の実力は体格で決まるわけではないが、あの体格で迫られれば華奢な女子としては断ることはできないかもしれない。
それにどうせ学校内の同盟での序列だ。上だろうとしただろうとどちらでもいいという康太のような考えの持ち主の可能性もある。
「ようこそ、三鳥高校の魔術師同盟へ。歓迎するよ一年生諸君」
三年生の代表の魔術師が声をかける中、一年生たちはようやくこちらを認識したようだった。
初々しい反応だなと思いながら、康太はステージの上に座ったまま三人を眺めていた。
危険な威圧感は全く感じない。本当にただの一年生魔術師という印象だった。隠れてとんでもない修業をしてきたということもなさそうである。
「あんたらが、この学校の先輩たちか」
「そうだ、初めまして、我々は君たちを歓迎しよう」
お決まりの文句とともに三年生の魔術師はこの三鳥高校における魔術師同盟の存在意義と現在の派閥の状況、そしてこの魔術師同盟に入るかどうかを一年生たちに問いかけていった。
現在の派閥は三年生と二年生で完全に分かれている。そのどちらについても構わないし、逆に一年生だけで派閥を作り三すくみ状態にするのも構わないということを告げ、視線を康太たちがいるステージのほうに移した。
かつて自分たちがそうであったように、この一年生たちにも同じように勧誘するのだろう。
この同盟の目的はあくまで外敵が来た場合は排除し、内部で面倒な動きをしそうになったら止めるという単純明快なものだ。
別に入らなくても問題はない。だが所属しておいたほうが後々の魔術師活動の練習程度にはなる。
明確な縄張りが決まっているわけではないために練習ともいいがたいが、今後同盟を組んだり協定を結ぶなどするような魔術師が現れた場合の予行くらいにはなるだろう。
「・・・わかりました・・・じゃあ俺たちは俺たちで、一年生で派閥を組ませてもらうっす。強いかどうかもわからない先輩らに従うことはできないんで」
代表として返事をした男子魔術師のなかなかに強気な発言に康太は思わず笑ってしまっていた。
自分の戦闘能力に自信があるのか、それとも先輩である康太たちの実力を知らないからこそそう言えるのか、どちらにせよ剛毅なことだと声には出さないが康太は小さく笑い続けた。
面白い一年生が入ってきたものだなと思いながら、康太はわずかに目を細める。
「ていうか、この高校の派閥とか何の意味があるんすか?ほかの派閥に勝つとなんかいいこととかあるんすか?」
「・・・基本的にはこの学校内での活動はしやすくなる。現段階では二年生が主にこの学校内での活動に幅を利かせている状態だ」
三年生魔術師は面倒な一年生であることを理解したのか、康太たちに矛先を向けさせているようだ。
別に康太たちは学校内で魔術師としての活動などしていない。この間康太と文が戦う時に場所を使わせてもらったのと、普段屋上や購買部の近くで昼食を取ったり話をしたりしている程度だ。
体のいいいいわけ、というよりは矛先の転換だ。だが実際康太たちが三年生たちよりも強いのは事実。そう考えると間違っているわけではないために、そこまで強く否定することも、またそのつもりも二人にはなかった。
「・・・へぇ・・・じゃあそこの二年生の先輩二人に勝てば、この学校内では好き勝手やっていいんすか?」
「好き勝手・・・というわけではない。先ほど言ったように魔術の存在が露呈しない程度の活動ならば・・・好きにしていい。この学校を拠点にするのも、この学校内で主に活動するのも好きにするといい」
またずいぶんと思い切ったものだなと康太と文は上にいる三年生に向けて少しだけ視線を向けていた。
抗議するつもりはないとはいえ、そこまで認めるのかと少しだけ驚いていた。
仮に一年生たちが、自分たちも使用するというか活動の範囲内となるこの学校そのものを拠点にするということは、常に一年生たちの許可を取ったうえでこの学校内に入るということになる。
頭を下げるかどうかはさておいて、それなりに見返りが必要になるかもしれない。
「・・・なるほど・・・なら二年生の先輩がた、今ここで決めませんか?同盟内での序列ってやつ。今は先輩たちが一番なんでしょ?」
血気盛んな一年だなと康太と文は苦笑しながらも一年生たちを見る。
魔力量的には確かに康太のほうが上というレベルだ。おそらく素質的にはあってもB程度だろう。少なくとも文ほど恵まれた素質の持ち主はいなさそうだった。
「どうする?ベル。まさかの相手からのご指名だけども」
「・・・どうするもこうするも・・・この同盟内でのトップは三年生よ?勝手に私たちが決めるわけにはいかないわ・・・どうなんです?先輩方。一年生たちはこの場で序列の決定を求めているわけですが・・・よろしいので?」
文は言葉にわずかに威圧感を含めながら三年生たちに問いかける。
この腕白な一年生たちの望みをかなえてやってもいいのかと、本当に良いのかと念を押すような形で問いかけると、三年生はわずかに首を横に振ってため息をついていた。
「一年生たちがそれを望み、君たちにそれに応える意志があるならば止める理由はない。好きにしなさい」
「・・・はぁ・・・わかりました・・・で、どうするの?ビー」
「もちろん応えてやろうじゃんか。上下関係はしっかりしておかないとな。なめられないように注意しないと」
康太はそういいながら楽しそうに立ち上がって軽く準備運動をし始める。魔術師として一年生と戦うのであればそれなりに準備したかった。
相手は三人いるのだ。一度に相手にするならばそれなりに本気にならなければ不意を打たれかねない。
だがそんなことを思いながらも、男子魔術師の後ろに隠れるように存在している二人の女子魔術師の目にわずかにおびえがあることに気が付いた。
「ところで一年生諸君、戦うのはいいけどさ、誰が戦うんだ?三人一度か?それともそこの男だけか?」
その言葉に男子魔術師は後ろを振り返り、女子二人が戦う意志がないということを確認してわずかに舌打ちすると自分一人だけ前に出る。
「俺一人で十分ですよ。先輩くらいの相手なら」
あまりにも康太の実力を把握していない発言に、文は吹き出しそうになるのを必死に我慢していた。
文も油断しているわけではない。相手には康太と同レベルの実力があるのではないかとかなり警戒している。
だがその身のこなしやその魔力の量、そしてその装備から見ても魔術師になってからほとんど実戦をこなしていないのがわかる。
彼がなぜそんなに自信満々なのか不思議なほどだった。
康太はステージから降りると大きく伸びをしながら体をほぐしている。本当にこれからやるつもりだと思えないほどに朗らかな空気を纏っていた。
「一応聞いておくけど、魔術師としての経歴は?今何年目?」
「七年目っす」
「お、じゃあ俺より魔術師歴長いな。よろしくね先輩」
「・・・先輩は何年目っすか?」
「俺?この間一年経った。まだまだ新米だよ」
康太の魔術師としての経歴に、一年生の魔術師は隠そうともせずに失笑する。完全に油断しているようだった。
だが七年も魔術師として行動してきて康太のことを知らない、ブライトビーの仮面やその呼ばれ方などを知らないということは、協会にはあまり行かずに修業だけをやってきた可能性がある。
かつての自分のようだなと文は少しだけ懐かしさを覚えながらもステージの上に座り、自分は戦わないという態度をとっていた。
「・・・いいんすか?二人がかりでもいいんですよ?」
「必要ないわ。こいつが負けるなら私がいても同じだもの。ビー、私は手を出さないから、ほどほどに頑張りなさい」
「あいよ、頑張る」
距離があるとはいえ直立すると相手の大きさがわかる。康太よりもずっと体格がいい。これほど恵まれた体格の人間に会うのも珍しかった。
幸彦ほどではないとはいえ鍛え上げられた肉体に、幸彦と同程度の身長を持っている一年生魔術師に康太は笑みを作りながらストレッチをつづけた。
「そういえば名前聞いてなかったな。君の名前は?」
「・・・トール・オール」
「いい名前だな。初めましてトール君、三鳥高校二年生『ブライトビー』だ。以後よろしく」
康太が名乗った瞬間に女子魔術師の一人が仮面をつけた状態でもわかるほどに大きく動揺したのが確認できた。
どうやら康太の名前を知っていたようだ。愛称までは知らなかったところを見ると最低限の情報しか知らないのだろう。
とはいえ、もう遅い。喧嘩を売られて黙っているほど康太は寛容ではないのだ。
「合図はどうするんすか?」
「いつでもいいぞ。あんまり物を壊さなければいつでもどこでも何でもどうぞ。普通は合図なんてないんだから」
普通の戦いは合図などない。出会い、互いに戦意を見せた瞬間からすでに戦いは始まっているのだ。
そのあたりを理解していないということは、やはりトール・オールの実戦経験は皆無というところだろう。
不意打ちを仕掛けてもよかったのだが、康太は一応先輩の立場だ。後輩相手に不意打ちを仕掛けるというのは先輩としてのちっぽけなプライドが許さなかった。
それに康太は見てみたかったのだ。ここまで自信満々に勝利宣言する彼の実力のほどを。
康太の言った通り、合図はなかった。トール・オールは魔力を活性化させると康太めがけて発光する弾丸のようなものを大量に飛ばしてきた。
まず小手調べ、康太はそう感じ襲い掛かってくる光の弾丸を軽く避け続ける。
弾幕というには少々薄い。相手の動きを制限したいのであればもっと多角的な攻撃を仕掛けるべきだが、そのあたりを理解していないのか一方向から一方的に弾丸をばらまき続けている。
途中で康太はわざと外套にその弾丸を当ててみるが、外套が弾かれただけで感電するようなことはない。電撃の類ではなく、光属性の魔術であると康太は判断していた。
着弾の瞬間に弾けるような音が聞こえたことから、物体に当たると同時に炸裂しダメージを与える魔術だろう。牽制程度にはなる魔術のようで、康太はなるべく当たらないように努めていた。
そして弾丸が康太に襲い掛かる中、康太の頭上に炎の塊が顕現し始める。
光の弾丸で動きを封じ、あの炎で一気に勝負を決めるという腹積もりなのだろう。
他に魔術を発動していないか確認しようと索敵の魔術を発動するが、康太の周りにそれらしいものはない。トール・オールの周りにも、防壁のようなものすら存在していなかった。
攻撃に集中していて攻撃されることを意識していない。いや、あの体格だ、ある程度攻撃されても耐えられると思っているのだろう。
単調ではあるが最低限考えてはいるようだ。初めての戦闘ならこんなものかなと、康太は小さくため息をつきながらわずかに姿勢を低くする。
瞬間、康太は無属性のエンチャントと肉体強化、そして噴出の魔術を同時に発動し一気にトール・オールとの距離を詰める。
その体に襲い掛かる光の弾丸のほとんどは回避し、物理的に避けられないものだけを腕で払いのけ、一瞬で彼我の距離をゼロにした。
そしてトール・オールが康太の接近に対処するよりも早く、その顔面めがけて全体重を乗せたドロップキックを放つ。
噴出の魔術に加え無属性のエンチャントによって打撃力が強化されている状態での全体重を乗せた蹴りに、トール・オールの巨体が大きく後ろへと運ばれる。
だがそれよりも速く康太はその背後に回り込むとその首根っこを掴み、一本背負いの要領で思い切りその巨体を投げ、体育館の床に叩きつける。
うつ伏せになる体勢で叩きつけられたトール・オールは受け身を取ることすらできず、大きくバウンドした。
そしてそのバウンドした体を見ながら、康太は噴出の魔術を使い高速の回し蹴りを叩きつける。
康太の蹴りが顔面に叩きつけられ、バウンドによってわずかに宙に浮いていた体が勢いよく回転する。
その体めがけて康太は腰を落とし、右拳を構え、正拳突きを放つと同時に拡大動作の魔術を発動する。
巨大化した康太の拳は回転しているトール・オールの体を捉え、その巨体を勢いよく吹き飛ばした。
体育館の壁まで一直線に吹き飛ばされたトール・オールは、勢い良く壁に激突しそのまま崩れ落ちる。
僅かに痙攣しながら倒れ伏すその巨体は全く起き上がる気配がなかった。康太の連撃を受けて気絶してしまったのだろう。
あれだけの攻撃を連続して受ければ無理もないと周りにいた文と三年生の魔術師が同情する中、康太は小さくため息をつく。
「なんだ、こんなもんか。もうちょっと加減してやればよかったかな」
誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




