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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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教育方針

小百合の攻撃に対して晴はぎりぎり反応ができていた。あらかじめ攻撃が来るとわかっているために、ぎりぎり回避や防御が間に合っている状態といえるだろう。


だが満足に回避ができたのは最初の数秒だけだった。


徐々に反応に遅れが出てきている。一手、二手、そして何度か攻撃を受け、小百合がフェイントを織り交ぜ始めたあたりから完全に反応できなくなってきていた。


本来予知の魔術などにフェイントは通用しない。どの攻撃が見せかけで、どの攻撃が本命であるかを判断できるはずなのである。


そう、本来ならそれができるはずなのだ。相手が小百合でなければ。


小百合は晴の反応を見て攻撃を瞬時に切り替えているのである。この攻撃は本命ではないと気を緩め次を警戒した瞬間にその攻撃を晴に当て、逆にこの攻撃が本命であると警戒した瞬間に攻撃を取りやめ別の攻撃へと転化させる。


瞬間瞬間、晴の動向を観察して常に自身の攻撃を変化させ続けている。近接戦、しかも刀という部類の話であるのなら小百合は予知の魔術など意にも介さないのだろう。


予知をしているのに攻撃が読み切れない。晴もこの攻撃が普通のものではないと感じ取ったのだろう。

断続的に発動していた予知の魔術を常時発動に切り替える。


晴の処理能力では、小百合ほどの手数、そして攻撃変更能力を前にすればすぐに限界が来るのは目に見えていた。


常時発動型に切り替えて数十秒、小百合の攻撃をよけきる、防ぎきることはできなくても芯を外す程度に回避できている晴だったが、徐々にその処理の限界を迎え頭を押さえて痛みに悶え始める。


動きは著しく鈍くなり、顔からは脂汗がにじみ出始めている。

その様子を見て小百合は小さくため息をつく。


「なるほど、予知魔術の処理を減らすために発動方法を変えていたか・・・相手が手を考え実行し始めたその瞬間に発動すれば確かに処理は少なくなる・・・誰の入れ知恵かは知らんが、まぁまぁマシな判断というべきか」


小百合は目の前にいる晴の様子を見て晴がどのような形で予知の魔術を発動していたのかを把握しているようだった。


それが康太の考えた方法であるというのは理解していないようだったが、晴が自分で考えたものであるとは思っていないようだった。


そして小百合は「だが」と付け足して再び晴に攻撃を仕掛ける。晴はとっさに反応して何とか回避する。常時発動でなければよけきれなかったであろう高速のフェイント。晴はぎりぎり腕で防御し、わずかに後方に跳び小百合と距離を取ろうとする。


「追いきれなくなっただろう?実力者とぶつかればあとだしなんてことはいくらでもある。お前自身の処理能力の問題でそうしていたんだろうが、その方法で相手できるのはせいぜい二流までだ。お前には合わん」


「・・・な・・・なんで俺には合わないなんて・・・いえるんですか・・・?」


「お前は将来的に一流の相手とぶつかることになるからだ。四法都連盟の家の一角、その家の中でトップクラスの素質を持っている以上、それは避けられん」


そう言いながら小百合は攻撃を繰り返す。話している間でも小百合の攻撃は続く。康太の場合ならば止めていた。だが小百合は止めることがない。


晴は小百合の言葉に耳を傾ける余裕がなくなりながらも、無意識にその言葉を聞いて頭の中に入れていた。


康太は小百合の言葉に少しだけ驚いていた。小百合が晴に対して、晴のための指導法を考えていたことに。


康太に対して『自分の弟子なのだから今後戦闘を行うことが多くなる』という理由から徹底的に戦闘技術を教え込んだのと同じように『土御門の中で高い才能を持っている』という理由から、今後高いレベルの者たちと戦うことを想定して指導しようとしている。


小百合は本気で晴や明を指導し、強くさせるつもりなのだろう。


思うところがあるという言葉は嘘ではなかったようだ。


「お前は現段階では近接戦闘の素質が上だろう。その気になれば射撃戦もできる。となれば近距離と中距離を使い分けることのできるオールラウンダーになるのが適切か。予知の魔術を使いながらであれば接近も容易、射撃を当てることも難しくないとなれば最適だろう」


小百合は晴の素質を冷静に分析しながら攻撃を繰り返していく。喋りながらだというのにその攻撃は一切止まることがない。


むしろ先ほどよりも加速している。


晴は常時発動で予知を使っているというのに、今度は体がついていかなくなってきていた。


いくら来ることがわかっても、それに体が反応できなければ意味がないのだ。


リズムを刻むかのように一定の間隔で襲い掛かる小百合の剣撃に、晴はもはやなす術がなくなっていた。


「問題なのはお前自身の反応、そして攻撃技術の拙さ、そして予知魔術との相性の悪さといったところか。予知の処理にお前の処理能力が追い付いていない。そのあたりを伸ばしていくのが必須条件になるな」


もはや晴は意識を保つことも難しくなってきていた。


刀だけではなく小百合の拳や蹴りを体に受け、立っているのがやっとといったところだ。


「まぁ、そのあたりは今後の課題として、今は自分の立っている場所を知れ。先ほどの康太との戦いを見て、今そうしている自分を見て、自分がこれからどうするべきなのか、自分がどれほど弱いのか実感しろ」


そう言って小百合は晴の腹部めがけて思い切り蹴りを放つ。


体重を乗せた小百合の蹴りは晴の体を数メートル転がして完全にノックダウンさせてしまう。


指導しながらボコボコにするあたりやはり小百合だなと思いながら、康太は完全に気絶してしまった晴を引きずって安全なところに退避させていた。














「・・・う・・・うぅ・・・あれ・・・?」


「お、目が覚めたか。気分はどうだ?」


「・・・頭が痛いっす・・・えっと・・・俺・・・」


話しかけてきたのが康太であるということは把握できているらしい、晴は頭を押さえながら何とか体を起こそうと力を籠める。頭痛に加え体の自由が利かないのか、力を籠めようとしている腕が震えている。


痛みで中枢神経が一時的にマヒしてしまっているようだった。体を満足に動かせるようになるにはもう少し時間がかかるかもしれない。


「あの・・・今どうなって・・・?」


「師匠にやられて気絶して、今は明が訓練してるところだ。お前と同じにボッコボコにされてるぞ」


晴が気絶してから起きるまで数分ほどしか時間は経過していない。だがその数分の間でも明は小百合の攻撃を何とか避けようと努力していた。


とはいっても晴ほどうまく避けられてはいない。とにかく気絶だけはしないように致命傷を避けている印象だ。あのままでは小百合に気絶させられるのも時間の問題だろう。


「うぅ・・・あの人魔術使ってないんですよね?」


「使ってないな。実際俺と戦ってるところ見てただろ?」


康太と戦っているときは小百合も魔術を使って攻撃を仕掛けていた。そのため康太に対して使っていた魔術を自分たちに使っていないということくらいは晴にも理解できていた。


だが目の前であのように攻撃されると魔術を使っていたのではないかと思えるほどの速さと鋭さだった。


人間にできる動きではないのではないかと思えるほど、そしてそれについていっていた康太もまた、人ではないのではと晴は考えていた。


とはいえそれは昔の康太を見ていないからそう言えるのだ。昔の康太も今の晴たちと同じような状態だった。


いや、むしろ晴たちのほうがよほど善戦しているといえるだろう。そう考えると彼らが一年間みっちりと鍛えられれば康太以上に強くなる可能性を秘めていることになる。


向き不向きもあるだろうが、少なくともやってみて損はない。


「んじゃアリス、本人も起きたことだし頼むぜ」


「仕方がないの・・・ほれ、頭を見せろ」


不意に背後から頭を掴まれた晴は一瞬体を強張らせるが、背後にいる人物が晴の頭を強くつかんでいるということで全く身動きができなくなってしまっていた。


「そういえば晴ってアリスのこと知ってたっけ?」


「えっと・・・前に会ったことあるような・・・?」


「アリシア・メリノスだ。今からお前さんの傷の治療をするからおとなしくしていろ?」


自己紹介にしては端的すぎる言葉に、康太とアリスを連れてきた文は苦笑しながら晴が治療されるのを見ていた。


見る見るうちにとまではいわないが、先ほどまで痛みに震えていた晴の顔色が徐々に良くなっている。


おそらく体の痛みを取り除いているのだろう。正確には壊れた組織を治療しているのだが、そのあたりの細かい技術は康太も文もわからなかった。


「ほれ、終わりだ。あまり無茶をするでないぞ?」


「あ、ありがとうござい・・・ってちっさ!ちっさいな!」


治療が終わり振り返った先にいたアリスに、晴は目を丸くしてしまっていた。アリスの見た目は幼い子供だ。はっきり言って彼女のことを大人に見ることは難しいだろう。


美しい金髪に碧眼、そして整った顔立ちから一瞬見とれてしまいがちだが、白人の顔立ちというのは日本人からすれば人形のように見えてしまう。


好みであるか否かよりも今晴には目の前にいる魔術師がとても小さいということしか印象に残らなかった。


そんな晴に対してアリスはその顔面を掴んでにやりと笑って見せる。


「礼を言い終えるよりも早く出した感想がそれか?礼儀というものがなっていないな・・・再教育してやろうか?」


「ううぇあ・・・!?す、すんません・・・!」


満面の笑みで凄まれた晴は若干怯えていたが、食って掛かるアリスを康太が強引に引き離したことでその恐怖から解放されていた。


「やめてやれっての・・・晴、こいつは結構すごい魔術師だぞ?この世界で一番かもしれないだけの実力を持ってるすごい奴だ」


「・・・え?こんなにちい・・・えっと・・・かわいいのに?」


小さいといいかけた瞬間にアリスから放たれた殺気によって晴は強制的に言葉を変えさせられた。


アリスにとって小さいことはそこまでコンプレックスではないとはいえ、ほとんど見ず知らず状態だった少年にこういわれるのはさすがにむかついたのだろう。舌打ちをしながら晴をにらんでいる。


「ふん、阿部の血脈で筋の良い奴がいると聞いてきてみれば、こんな礼儀も知らん小童とはな・・・あれの血筋も落ちたものだ」


「む・・・!それは聞き捨てならないっすね、先輩がどれだけすごいっていったってうちの家をバカにするのは許さないですよ?」


「許す許さんの問題ではない。まったく・・・コータ、こやつはお前の後輩なのだろう?もう少し教育というものを施せ」


「って言っても一歳しか違わないけどな。お前からすれば誤差みたいなもんだろ、数百年も生きてるんだから」


「馬鹿者、上の者が下の者を教育するのは世の常だ。でなければ周りの人間に不興を買うのだぞ」


アリスの言いたいことはもっともなのだが、晴は別に康太の直接の後輩というわけではない。教育するだけの義理はないのだがなと思いながら苦笑してしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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