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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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彼らの自信

「・・・まぁ最初だからこんなものか・・・康太の初期を思い出すな」


「嫌な思い出がフラッシュバックしましたよ・・・ズタボロって感じですね」


数分も経たないうちに晴は小百合に叩きのめされてしまっていた。


最初こそもともと有していた剣道の技術で立ち回ろうとしていたのだが、小百合が剣道のルールに合わせることなどあるはずがない。


相手の剣をわざとずらしてその隙に攻撃を当てたり、相手の手や足を掴んだりしてそのうえで木刀を叩きつけたりと、半ば喧嘩のそれに近いのではないかと思えるような戦い方をしていた。


小百合の本来の剣術、康太と戦っているときに見せていたとにかく速く鋭い剣撃ではないが、今の晴は小百合が本来の剣術を使うまでもない、そういうことなのだろう。


何度も何度も木刀で叩きのめされ、晴は地面に倒れ伏してしまっていた。一種の私刑のようにも見えたこの光景、康太は懐かしいなぁと思いながら晴を引きずって広い場所へと移動させていく。


「次、明」


「え・・・?わ、私もですか?」


「当たり前だ。得物はどれを使う?それくらいは選ばせてやる」


双子の片割れが全く抵抗もできないうちに叩きのめされてしまったことで、明は完全に戦意を喪失してしまっていた。


無理のない話かもしれない。近接戦闘ではまだ晴のほうが技術が上だったのだ。その晴が手も足も出なかった時点で明が勝てる道理などない。


「せ、先輩・・・」


明は助けを求めるような表情をして康太と文に視線を向けてくるが、康太と文は助けるつもりはなかった。


二人が強くなろうと小百合に訓練を申し出たのであればそれを止める権利は康太たちにはない。


止められるのは双子本人、いや小百合だけしかいないのだ。もう訓練を終えるには実力を身に着ける以外の方法がない。


自分たちがいったい何を求めていたのかをようやく理解したのか、明は泣きそうになりながら康太が普段使っている練習用の槍を手に取る。


刀相手であればリーチのある槍のほうがまだ有利に事を進められると考えたのだろう。


一般的な考え方だ、決して間違ってはいないのだがそれは相手との技術が拮抗していた場合に限られる。

晴の時と同様、明は徹底的にボコボコにされてしまった。


普段小百合は康太との槍の訓練になれていたということもあって、非常に手際よく明を無力化し叩きのめしていた。


「相変わらず女の子だろうと容赦なしね」


「当たり前だろ。俺と姉さんが止めなければ神加にも同じようなことするつもりだった師匠だぞ?女子供に対して手加減するような繊細さはあの人にはないよ」


康太はため息をつきながら明が必死にその身を守ろうとしているのを見て少しだけ申し訳なくなってくる。


後で真理かアリスを呼んできて治療したほうがいいなと思いながら、とりあえず無力化されてしまった明を引きずると二人を起こすことにした。


猛烈な攻撃で気絶してしまっていた二人は康太によって起こされ、起きた瞬間に自分の体に残る鈍い痛みに気付いて顔をしかめる。


「っつぅ・・・!あれ・・・?」


「・・・うぅ・・・痛い・・・」


二人の反応はさておいて小百合はまず晴の腕をつかんで強引に立たせた。腕も木刀で打たれていたからか、晴は痛みに苦しみながらもなんとか立ち上がる。


気絶してすぐに立ち上がるのはあまり良くないのだが、小百合のことだからそのあたりは気にしていないのだろう。


速めに回復のできる二人を呼んできたほうがいいなと、康太は文に視線を送る。文もその意図を察したのかアリスがいつもいる場所へと駆けていった。


「適度に痛みを覚えたな。ではもう一度だ。次は予知の魔術を使っていいぞ」


「え・・・?使っていいんですか?」


「そうだ。それで私とまた木刀で戦うぞ」


そう言って転がっていた木刀を投げつけると再び小百合は構える。


先ほどまでとはまた少し雰囲気が違う。予知の使える魔術師を相手にするのであれば単純な肉弾戦というのは愚策中の愚策といえるだろう。


相手に未来を読ませないようにするのが手っ取り早い。不可視の攻撃をする、あるいは攻撃密度でよけきれなくするというのがベターな選択だろうが小百合はそんなことをするつもりは全くないようだった。


「あの・・・いいんですか?」


「構わん。お前に予知されたところで結果は変わらんからな。せいぜい足掻け」


小百合のその言葉にさすがの晴もほんの少し残っていたプライドが刺激されたのか、気を引き締めて自らの体の中に宿る魔力を活性化させる。


木刀を構え、小百合の動きを予知にて確認していく。


あらかじめ攻撃が来るとわかっていれば避けられる。避けることはできなくても反応するくらいはできる。


晴は全神経を研ぎ澄まし、集中しながら小百合の攻撃に備えていた。


以前京都に行ったときに近接戦における予知魔術の使い方は康太から考案されそれ以降も何度も訓練してきた。


小百合の剣撃もきっと捌ききることができると晴は絶対の自信を持っていた。


魔術さえ使えれば何のことはない、きっとそう考えているのだろう。晴はこの数十秒後にその考えを覆されることになる。


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