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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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容赦はない

「とまぁこんな具合だ。お前たちにはこれをやってもらう」


準備運動として単純な槍と木刀での近接戦を経て、魔術を使った総合戦闘になった瞬間に二人の動きは激変した。


まだ槍と木刀の近接戦の動きは土御門の双子でもある程度捉えることはできた。だが総合戦闘となった瞬間にその動きがわからなくなった。


小百合の鋭く速い攻撃に対して康太は機動力で対抗し、回避しながら反撃しようと試みていたのだが小百合の攻撃は康太の動きを完璧に読み切っていた。


回避の動きに合わせた攻撃に康太は徐々に追い詰められ、とにかく避けることに集中してしまい反撃する暇がなくなってしまっていた。


無論まったく攻撃できないというわけではない。合間合間を見て魔術での攻撃を試みるのだが小百合にそんな片手間の攻撃が届くはずもなく、康太は全力で回避し続けたせいもあって魔力切れになってしまっていた。


これ以上戦えないと踏んだのか、小百合が動きを止めると康太は落ちるようにその場に倒れこんだ。


「はっ・・・はっ・・・!し、ししょ・・・きょ・・・今日・・・なんか・・・いつもより・・・調子よくない・・・ですか・・・!?」


「気のせいだろう、お前の調子がいつも以上に悪かっただけだ」


「・・・そ・・・そう・・・ですか・・・」


小百合の攻撃をよけるために無茶苦茶な機動力を発揮した康太は自身の体に襲い掛かる負荷に吐き気を催しながらもなんとかふらふらと立ち上がり、修業場の端にやってくると文に抱き留められる。


「大体こんな感じよ。毎日毎日毎回毎回こんなことしてれば強くもなるわよ」


「・・・うわぁ・・・」


「・・・ひえぇ・・・」


二人はそれ以外の反応ができずにいた。康太の強さはてっきり才能によるものだと思っていたのだ。


何せ話を聞く限り康太が魔術師になったのは一年と二カ月前。そんな段階で魔術師になって魔術をいくつか取得している程度だというのにそれほどの戦闘能力を有することができているということは、戦いの才能があるのだろうと、戦いに関して卓越した何かを持っているのだろうと信じて疑わなかった。


だがそうではないのだ。康太に才能があるのかと聞かれれば、康太の師匠である小百合は真っ向から否定するだろう。


康太は天才ではない。特別な才能があるとすればそれは魔術の起源を覗く力と、五感に関係する魔術に関して適性が高いというくらいだ。


はっきり言って戦闘に関しては康太に才能など微塵もない。小百合が出会った時の康太は運動神経がある程度ある普通の中学生だったのだ。


一年と二カ月で康太はここまで鍛え上げた。毎日のようにボロボロになりながら鍛え上げたのが今の康太だ。


痛い目に遭いたくないから必死に努力した結果がこれだ。単純に男だから強くなりたいという思いもあったのかもしれないが、それでも康太は努力で今の力を手に入れた。


それはかつて康太と戦った文もわかっていることだ。あの時の康太と今の康太では天と地ほどの差がある。


それはこの一年で康太が積み上げた研鑽の形だ。


「やっべ・・・吐きそう・・・」


「無茶苦茶な動きしてたもんね・・・小百合さんはよくあれに攻撃を当てられましたね」


「見たことのある動きだからな。その魔術、奏姉さんから教わったものだろう?」


康太が最近使う噴出の魔術は確かに奏から教わったものだ。機動力の底上げに威力の増強、二つの意味でこの魔術は康太が多用する魔術になるだろう。


「一時期あの人も似たようなことをしていた・・・少し懐かしかったよ」


「あぁ・・・なるほど」


小百合の調子が良くなったのではなく、昔同じような手段で戦った者がいたからこその対応の違いだろう。


単純に小百合の経験の勝利だ。康太ではまだ奏の影を追い越すには足りないということだろう。


「文はどうする?今日はやるか?」


「いえ、今日の私は付き添いですから、遠慮しておきます。康太の面倒も見ておかないとですしね」


文はやんわりと断りながらグロッキー状態になっている康太を横にさせて自分の足を枕にして寝かせる。

その様子を見て小百合はそうかと一言言ってから持っている木刀を肩で担いで土御門の双子を軽くにらむ。


「お前たちにもこれをやってもらうぞ。自分たちで望んだことだ、拒否は許さん」


「え・・・と・・・あの・・・」


「最初は晴からだ。確か刀を使っていたな、そこにある木刀を使え。まずは軽く魔術を使わずに打ち合うぞ」


有無を言わさない小百合に、晴はしぶしぶ立てかけてある木刀の一つを手に取る。


刀は小百合が最も得意とする武器だ。同じ武器を使うということでただの打ち合いでも晴にとってはかなりの経験になるだろう。


「目標は気絶しないようにすることだ。せいぜい足掻いて見せろ」


「は、はい!」


晴が勢いよく返事をして木刀を構えた瞬間、その木刀が弾かれてその腹部に小百合の木刀がたたきつけられる。


容赦ないなとそれを見ていた康太と文は眉そひそめてしまっていた。


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