訓練の内容
康太と文は土御門の双子を伴って小百合の店にやってきていた。土御門の双子は必要以上に警戒しているように見えるがそんなに警戒しても仕方がないのではないかと思えてしまう。
さすがの小百合も店を開けた瞬間に殴りかかるようなことはしないだろうと高をくくって店の中に入るといつも通り小百合は店の奥にある居間でくつろいでいた。
ちゃぶ台に煎餅、そしてノートパソコンという鉄板の姿かたちでその場に座している。相変わらずというかなんというか我が師匠ながらぶれないなと思いながら康太はとりあえず小百合に話しかけた。
「お疲れ様です師匠、例の双子を連れてきましたよ」
「ん・・・ご苦労・・・よく来たな二人とも」
小百合にしては珍しい歓迎の言葉に康太は少しだけ驚きながらも全員分の茶を用意するべく台所へと向かう。
小百合が誰かを歓迎するなんて今までなかったことだ。たいていいやそうな顔をするのが常なのだが、やはりこの双子にはいろいろと思い入れがあるのかもわからない。
だがよくよく考えてみればそれも当然かもしれない。小百合はこの双子が赤ん坊のころから知っているのだ。
付き合いの長さで言えば康太よりもずっと長いことになる。いろいろと昔から面倒を見ていたのかもわからない。
「それで、訓練をしてほしいということだったな」
「はい、最低でもこいつらが依頼で自分の身を守れる程度には強くなってもらわないと危なくて依頼を出すことはできないと」
「過保護なことだ・・・多少現場で危ない目に遭って自分で学習するということも必要だろうに」
「そうは言いますが、今回は組織間でのメンツもありますから、支部長の顔を立ててここは多少目をかけてやるべきかと」
康太はちゃぶ台に全員分の茶をだしながらその場に座り込む。
小百合は訓練をしてやるつもりは満々なようだが、土御門の双子の顔を見て眉を顰める。
「この二人はあまり乗り気ではないのか?」
「いえ、乗り気じゃないってかボッコボッコにされるってわかってるのでそれにビビってるのではないかと」
「・・・あぁ・・・まぁそうだろうな・・・確かお前たちが京都に行ったとき少し稽古をつけてやったんだったか?」
「はい、本当にちょっとですが」
以前京都に行ったとき、確かにこの双子には魔術師としての訓練を施している。とはいえ時間が短かったためにほとんど初歩の部分しか教えることはできなかった。
あの訓練の本質、いや本番である痛みを伴った訓練はまだ行っていない。
痛みを覚えている状態でも問題なく魔術を発動できるだけの精神状態を維持できるようにする。それこそが小百合の訓練で培われるものだ。
「あの・・・ちなみにどんなことするんですか?」
「どんなことって・・・そりゃあ・・・」
康太は小百合のほうを見る。小百合との訓練はほとんどが戦闘訓練だ。言ってしまえば延々と戦い続けることになる。
体だけで戦うこともあれば、現在の持てるすべての魔術や技術を使って全力で戦うこともある。
もちろん小百合も反撃してくる。いや、むしろ積極的に攻撃してくる。康太目線で言うと回避しながら反撃するというのが正確である。
「何のことはない、ただ戦えばいい。条件設定くらいはするが、お前たちはただ生き残ればいいだけだ」
生き残るという物騒な単語に双子は泣きそうな表情で康太のほうを見る。
死ぬことはないだろうといっていたのに話が違うという感じだ。無論小百合が意図的に強い言葉を使っているだけなのだが、そのあたりは二人に言っても理解できないだろう。
要するに小百合は死ぬ気でやれと言っているのだ。
木刀などで殴り合うことに変わりはないだろうが、木刀を真剣だと思ってやるべき訓練なのだ。
実戦では訓練と違って相手が気を遣ってくれるということはまずない。相手だって人を殺したくないという心理が働くかもしれないが、働かない可能性だってあるのだ。
魔術師とはそういう生き物である。目的のためなら人を殺すことも厭わない。そういう人種だっているのだ。
依頼を受ける以上、殺されないように身を守る術が必要だ。そういう意味では小百合の言っていることは間違っていない。
「実際に殺しはしないわ。死にかけるくらいよ」
「そ、そうなんですか?」
「私だってたまに一緒にやってるけど、普通に生き残れてるわ。気絶はするけど」
気絶するまでがワンセットみたいなところがある小百合の訓練では如何に気絶しないようにするか、如何に致命傷を避けるかが重要になってくる。
だが文の話を聞いても不安がぬぐえないのか、双子は互いに視線を合わせておどおどしてしまっている。
「とりあえず師匠、俺らが普段どんなことやってるのかだけ見せたほうが手っ取り早いと思いますよ?」
「そうだな。百聞は一見に如かずというか・・・わかった、それじゃあ下に行くぞ。康太、準備は任せる」
「了解です。最初は軽くしますか」
そう言いながら康太は一足先に地下へと駆け下りていく。その数分後から康太と小百合の訓練が始まり、土御門の二人が目を丸くするのは言うまでもない。




