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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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一年前の彼は

「話は決まりましたね、今日からうちの店に連れて行きます」


通話を切ってその場にいる全員に視線を移しながらそういうと支部長は大きく脱力して安どの息をついていた。


「いやぁ・・・よかったよ・・・これで向こうのお偉いさんに睨まれずに済む」


「うちに預けたって言ったらそれはそれで睨まれそうですけどね・・・っていうか本当にいいんですか?たぶんボッコボッコにしますよ?」


康太の言葉に双子は身を強張らせるが、支部長は大丈夫大丈夫と笑っている。


「致命傷じゃない限り大丈夫だよ。訓練中の怪我なんてよくするだろうし、その程度は向こうも把握してる。一応向こうに話すときに訓練で怪我をするかもとは言い含めておくよ」


「・・・まぁそれならいいですけど・・・向こうとの話は支部長のほうでお願いしますね?基本うちの修業方針に文句はつけないようにってことも言い含めておいてください」


「わかったよ。いやぁ助かった。やはり持つべきものは優秀な人材だね」


康太のところに、小百合のところに預ければ何も問題はないと思っているのだろう。だが康太は一つ気になることがあった。


「所属期間って一応学生の間ってことになってるみたいですけど・・・?」


「そうだね、今のところ高校生の間ってことになってるかな。その後は経験に応じてどうするかは決めるみたいだよ。ある程度実力がつくまでは正直監視も必要なくらいだと思ってたからね・・・君たちに頼めたのは本当に助かった」


土御門の秘蔵っ子を自分の組織内に組み込むとなれば下手なことをさせられない。危ないことをしないように、危ないことにかかわらないように監視体制を敷くことも視野に入れていたのだろう。


支部長のこの考えは組織の長としては非常に適切かもしれないが、一人の魔術師としては適切とはいいがたい。


「師匠のところに預ける期間に上限は?」


「特に考えていないね。クラリスがもう実戦に出してもいいだろうと思えるレベルになったら訓練は終了してくれて構わないよ。どの程度戦えるのかは報告してほしいけどね」


二人の戦闘能力を正確に把握しておけば依頼を斡旋する側としても判断しやすくなる。今回の訓練はそういったところを測るためでもあるのだろう。


「二人はそれでいいのか?ぶっちゃけお前らのことなのにお前らの意見全く聞かずに進めちゃってるけど」


「い、いえ!先輩と同じ訓練をすればそれだけ強くなれますから!」


「ご、ご迷惑もかけると思いますが、よろしくお願いします」


先ほどのボッコボッコにする発言でやや腰が引けているが、二人としては強くなりたいという意志に変わりはないようだった。


なかなか頼もしい限りだがこの威勢がいつまで続くか見ものでもある。


「それじゃあ定期的にどれくらいの実力になったのかは報告しましょう。二人はもともと店の場所は知ってたよな?」


「はい、知ってます。行き方もわかります」


以前康太の学校の学園祭に遊びに来た時に小百合の店にあらかじめ寄っていたこともあって二人は小百合の店の場所は知っている。


あとは実際に小百合に会わせて今回の話を深くさせるだけだ。


もしかしたらいきなり木刀で殴りかかるかもしれないが、未来予知が使える二人なら躱すことくらいはできるだろう。


「んじゃ支部長、とりあえず今日は帰ります。っとそうそう、今度俺とベルで一緒の拠点を作る予定なんで、いろいろと便宜を図ってくれるとありがたいです」


「あぁ構わないよ。それくらいならいくらでも。くれぐれもその二人を頼むよ」


座りながらではあるが深々と頭を下げる支部長に、本当に困っていたんだなと康太はその苦労を少しだけ知って申し訳なくなってしまう。


何せもしかしたら今以上に支部長に迷惑をかけるかもしれないのだ。


支部長の部屋を出た段階で土御門の双子は恐る恐る康太に質問していた。


「あの・・・実際訓練って何するんですか・・・?」


「さすがに殺し合いとかはしないですよね・・・?」


二人としては訓練で死ぬことは避けたいのだろう。だが実際小百合の訓練は気を抜けば死にかけるものが多い。


さすがに小百合もゲストとして来ている二人に本気は出さないだろうか。そんなことを考えて康太は自分の考えを即刻否定する。


小百合は本気でやるだろう。相手が誰だろうと訓練をするのであれば加減などしない。指導者としての彼女は妥協はしない。


素人同然だった康太に対してもそうだったように、土御門の秘蔵っ子であってもそれは変わらないだろう。


「・・・大丈夫、いろいろと大変だろうけど、一年くらい鍛えられれば今の俺レベルには届くよ」


「・・・いやいやいや・・・先輩と同レベルって相当ですよ?」


「無理ですよ・・・私たちまだ弱いし」


「俺だって去年の二月まではパンピーだったんだぞ?それで今これだ。師匠の訓練の密度は濃いぞ?毎日やれば確実に強くなれる」


「・・・私はあれを毎日やれるあんたに敬意を表するわ・・・あれ毎日は普通に死ねるわよ?私は無理」


一年近く一緒に訓練してきた文でも小百合との訓練はなかなかにつらい。何せ実力差がありすぎる相手と延々と戦わされるのだ。


精神的にも肉体的にも疲労はたまる。それはもう尋常ではないほどに。


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