彼女の返答
「い、いやいや、君だって最初は未熟なうちから活動していたじゃないか。それを考えれば別段不可能というわけではない」
「あれは師匠や姉さん、それにベルが一緒でしたからね。ベルは前々から高い実力持ってましたし・・・それに比べるとこの二人は・・・」
「良くも悪くも未熟、成長幅は大きいかもしれませんけど・・・自分の身を自分で守れる程度にならないと連れていくのはやめたほうがいいと思いますよ?」
康太と文に同時にそういわれては支部長としても反論できないのだろう。何せこの二人についていかせようとしているのだ。
土御門の双子の実力を把握できていない状況ではこの二人の発言はかなり信頼度が高い。そんな状態で無理やりに話を進めるほど支部長も無茶苦茶ではない。
「じゃあ・・・そう!そうだよ!君たちのところである程度訓練をしてもらって、それから実戦に連れていくのはどうだい?それなら君たちも戦力を作ることができるだろう?」
「よその家の魔術師を自分の手で強くしろと?将来敵になるかもしれない相手を?支部長にしてはずいぶんと無理を言いますね」
康太の言葉に双子は「敵になることなんてあるかなぁ?」と疑問の言葉を告げているが、将来何があるかなんて誰にもわからない。
未来予知で見たとしてもその未来だっていつかは変わるのだ。文はともかく康太はかなり綱渡りな魔術師生活を送っている。組織的に仕方がなく双子が敵に回ることだって十分にあり得るのだ。
「そもそも、俺らが鍛えるってことはつまり間接的に師匠に鍛えてもらうってことですよね?それを俺たちに伝えるだけで了承させるのもどうなんですか?せめて師匠に一言いれたほうがいいでしょう」
「う・・・た、確かにそうだね・・・ちょっと連絡してくれないかな?クラリスのところでこの二人を鍛えるように・・・本当に最低限でいいんだ。せめて実戦で身を守れるレベルまで」
「・・・師匠の最低限をわかっていってるんですか?」
「・・・ま、まぁダメでもともとさ!お願い!」
おそらく支部長としては組織同士の溝を可能な限り少なくしたいからこそこのようなことを言い出したのだろう。
小百合ならば昔から四法都連盟とのつながりがあったためにそこまで面倒なことにはならないと踏んでいるのだ。
支部長としても人となりをある程度把握しているために、いきなり土御門の双子を人質にすることも殺すなんてこともないことは把握できている。
実戦経験を積ませてほしいと言われたからには何かしら依頼を出さなければ角が立つ。だが依頼を受けさせて怪我をさせても角が立つ。
ならばある程度強くなってもらって康太たちに同行させればその危険性は限りなく下がることになる。
支部長としてはこれが現時点でできる最善なのだ。康太と文がこの土御門の双子と知り合いだったのはまさに天の助けというべきだろう。
『もしもし、なんだ?』
「師匠、お疲れ様です、今電話平気ですか?」
『問題ない、本題に進め』
とりあえず小百合に電話した康太は、今回の事情を軽く説明することにした。
話が進むにつれて小百合の口から洩れる舌打ちやため息が増えているのは気のせいではないだろう。
『・・・確かお前たちは拠点についていろいろと話を聞きに行ったはずだったが・・・なんでそんなことになっている?』
「いやそれは俺に聞かれましても・・・で、いいですか?それともダメですか?」
康太の問いに小百合は何やら唸り始める。拒否したいのか、それとも受け入れたいのか、その声音からは判断できない。
『一つだけ確認だ、訓練とはどの程度だ?』
「えっと・・・支部長曰く実戦で自分の身を守れる程度が好ましいみたいですね。怪我をさせても組織間でいろいろと面倒そうって感じです」
康太の言葉に小百合はふむふむと小さくつぶやいてから小さく息をつく。
『わかった。その二人を私のところで預かろう。今日この後連れて来い』
「え?いいんですか?てっきり断るかと」
『あの二人を鍛えてやれば向こうに貸しも作れるだろう。それに早いうちから教え込んでおいたほうがいいだろう?』
「・・・あー・・・そういうことですか」
子供の頃に植え付けられた感情というのは大人になっても染みつくことが多い。子供の頃のトラウマから逃れられないというのは多くの人間にあることだ。
つまり小百合は現段階で『小百合の一派には勝てない』という先入観を土御門の双子に植え付けるつもりなのだろう。
何というか転んでもただでは起きない人だなと康太はため息をついてしまう。
『それに、個人的にあの二人の面倒を見るというのは悪い気はしない』
「・・・へぇ・・・師匠にしては珍しいことを」
『あいつらが赤ん坊のころから知っているからな。いろいろと思うところがあるんだ・・・とにかく連れて来い』
「わかりました。じゃあ話が済み次第連れて行きます。あ、支部長、師匠と話しておきますか?」
康太が携帯を手に取って差し出すが、支部長は手をクロスさせて首を勢い良く振っている。話すのは嫌だというサインだがそこまで嫌がることはないのではないかと康太はため息をついてしまう。




