ご近所付き合い
康太と文は拠点のことを具体的に考えるため、その一環として魔術協会に足を運んでいた。
拠点を構築するにあたって何が必要なのか、正確に言えばどのような申請が必要になるのかなど知ることは多い。
真理もそのあたりはある程度は知っているようだったが、やはり本職の人間に確認したほうがいいだろうと思ったのである。
「ということで話を聞きに来たんですけど」
「なるほど、二人で拠点を持つことにしたんだね・・・ふむふむ・・・そうかそうか」
協会で幸彦を見つけた二人はさっそく話を聞くことにしていた。協会内でいろいろと活動している幸彦ならばいろいろとアドバイスをもらうことができるだろう。
気をつけること、やるべきことは多い。それらを確認するうえでも幸彦にまず話を聞くのは必要なことだった。
幸彦は康太と文が二人で拠点を築くということの意味を理解しているようでうれしそうにうなずいている。
その仮面の下にはきっと満面の笑みがあることだろう。
「わかった、じゃあとりあえずいろいろと説明してあげよう。おいで、資料がいろいろとあるからそれを見て説明しよう」
「資料なんてあるんですか?」
「資料といっても不動産関係の物件紹介みたいなものさ。実際拠点として使う場所はそういうところが多い。まぁ中には全く人の立ち入らない場所を選ぶ人もいるけど・・・まぁそのあたりは置いておこうか」
幸彦が案内してくれたのは魔術協会の中にある一つの部屋だった。魔導書などが保管してある図書館とは違い、そこに保管してあるのは本ではなくファイルの類だった。
所狭しと収められたそのファイルは地方別、そしてさらに五十音順に分かれておりそれらが拠点関係の資料であることは明確だった。
「ここには協会に所属してる魔術師の拠点の情報が記録されてる。二人とも一度は来たことがあるんじゃないかな?」
「えっと・・・ベルはあるか?」
「前に調べてもらったことはあるけど、こういう風になってるのは初めて見たかも・・・これって私たち入ってもいいんですか?」
「大丈夫だよ、僕が一緒にいれば怒られることはないさ。それに君たちもそれなりに支部での評価を上げているからね。それにここに入っているのはあくまで情報だからね。どこの誰にっていうのはまた別の場所に保管してあるから」
どうやらここにしまわれているのはあくまで物件の情報であるらしい。幸彦は適当なファイルを一つ手に取って近くにある机の上に広げていく。
またしても適当に開いたその物件はとあるマンションだった。記されているのは間取りとその周辺の地形、周辺家屋などである。
「見てもらえばわかるけど、ここには近くにある家や店なんかの情報も記載されてる。ここで注意するべきなのは周りの店の営業時間だね」
「営業時間ですか?」
「そう、場合によっては深夜営業をしているような店もある。そういう場所の近くにはなるべく拠点を置かないようにするのが無難だね」
康太たちは高校生であるためにそういった店に入ることはできないが、大人であれば当たり前のようにそう言った店を利用する場合がある。
もし魔術師として活動する場合、そういった店の人間、あるいは客に魔術師としての行動を目撃される可能性がある。
そのためそういった店の近くには拠点を作らないのがセオリーであるらしい。
「でも都市部とかはそういう店が多いじゃないんですか?そのあたりに拠点を作ってる人だって・・・」
「もちろんそういう人たちもいるよ。でもそういう人たちはたいてい共同である程度術式を組んじゃうんだよ。いざこざも多いからその分見えにくくしたりだとか、とにかく見つからないようにする工夫だね。都市部には監視カメラとかも多いからそっちも気をつけないといけないし・・・ってちょっと話がそれたね」
幸彦曰くそういった都市部に拠点を作る場合はその街にどのような店があるのか、どのような警備体制が敷かれているのかを調べる必要があるらしい。
といってもすでにたいていの情報は調べられているために、それらを頭に入れたりその場所を拠点にしている魔術師に情報を提供してもらったりといろいろ手段は考えられるのだとか。
今後隣人になる可能性が高いために、あらかじめ挨拶と一緒に話をしに行くというのも珍しい話ではないのだという。
「なんか思ってたよりもずっと平和的ですね。てっきり見つけたら即刻撃退っていうくらいなのかと」
「あー・・・うーん・・・前に一度そういうのを見せてるから正直否定しにくいんだけど、あれはかなり特殊だよ。実際かなり勧告出してたらしいし・・・とにかく、今後魔術師として活動するならご近所づきあいってとても大事だよ?」
「ははは・・・わかりました、気をつけることにします」
小百合の弟子だからということもあって今まで康太はかなり戦闘面での活動が多かったが、今後魔術師として活動していくうえで毎回毎回戦っているようでは身が持たない。
話し合いで穏便に済ませることができるのであればそれに越したことはないのだ。
そのあたりを幸彦も心配しているのだろう。横で話を聞いていた文は思うところがあるようで何度もうなずいていた。
 




