二人の相談
「ということなんだけど、どう思う?」
「どう・・・と、言われてもな・・・拠点か・・・んー・・・」
アリスの話を訓練後で息も絶え絶えな康太にすると、康太は肩を上下に揺らしながら必死に呼吸し文の、というかアリスの提案を頭の中で反芻していた。
「悪くはないと思うぞ?思えば今までそういう場所はなかったからな。って言っても今絶対に必要かって言われると微妙だけど、早くても別に損はないだろうしな」
「あんたもそう思うの?」
「将来的に住む場所にもよるだろうけどさ、拠点を確保するっていうのは大事なことだと思うぞ?状況によっては場所取り合戦しなきゃいけなくなるし」
奏の拠点周囲で行き場をなくした魔術師たちを追い出したことを思い出しながら康太はようやく息が整ってきたのかその場にゆっくりと横になる。
あの時魔術師たちは拠点にする場所がなく、仕方がなしに奏の活動範囲内に入ってきてしまった。
偶然居合わせた康太と幸彦、そして拠点の主である奏が撃退し追い出したわけなのだが、将来康太たちがそのような形にならないとも限らないのである。
「それにあれだ、ちょっとした秘密基地みたいな感じで格好いいじゃんか。いろいろと改造してみたいぞ?普通の家じゃそういうのできないだろ?」
「・・・あー・・・ひょっとして家具の裏側に武器が隠してあるとかそういう改造してみたいの?」
「してみたい。あれは男の夢だろ」
なんとも単純な思考をしているなと文はあきれたが、康太の言い分がわからないわけではないのだ。
だが文としては二人の拠点を作るということの意味をもう少し理解してほしいなと思ってしまうのだ。
「あのさ康太・・・その・・・二人の拠点になるわけでしょ?」
「そうだな。姉さんとか神加とかアリスとかは遊びに来ると思うけど、基本は俺たちの拠点だろ?」
「二人きりになれる空間っていう意味でも・・・その・・・いいんじゃないかってアリスは言うんだけど・・・」
二人きりになれる空間。それがどういう意味を持つのか康太だってわかる。二人はすでに付き合い始めたのだ。
多少歪で、互いに距離感がわからなくなっている節はあるが、二人きりになるときにどのような行動をとればいいのか康太も理解している。
文が恥ずかしそうに康太を見下ろし、康太はそんな文をニヤニヤしながら見ていた。
「・・・何よその顔」
「いやいや、文さんも乙女ですなぁ。そういうことがしたいなら言ってくれればいくらでもぐへぁ!」
にやけた表情をしている康太の腹部に文の拳が突き刺さると、康太は悶絶し始める。文はそんな康太を眺めながらため息をついて話を先に進めることにした。
「茶化さないで。ここじゃ神加ちゃんもいるから情操教育的によろしくないし、かといって師匠のところも・・・なんていうか無理だし、外でなんて絶対嫌だし、私の家やあんたの家も無理でしょ?」
「そ・・・そうだな・・・ワンチャン俺の家なら暗示とかかければ不可能ではないけど・・・」
文の家と違い一般人しかいない康太の家ならば文と二人だけでいる時間を作るのは不可能ではない。
だが第三者の目がある可能性がある状況で康太と二人きりになるというのは文としては少し避けたかった。
別に康太といちゃついているところを見られるのが恥ずかしいというわけではなく、二人の時間を邪魔されたくないというだけの話だ。
「そういうこともあって一つ部屋を借りようと思うわけよ。あんたとしてはどういう場所がいい?」
「どういう・・・まぁ交通の便がいいほうがいいよな。コンビニとかそういう店が近くにあるのもありがたい」
「なんか新居を探す条件みたいね」
「似たようなもんだろ。魔術師の拠点にしたって一緒にいる空間にしたって過ごしやすいのが一番だ。もしかしたら大学に進んだあとそこで生活するかもしれないしな」
「・・・そっか・・・そういうのもありなのよね」
康太たちは今高校二年生になった。来年になれば大学受験を控える時期になる。もし大学を二人とも近い場所、あるいは同じ場所にすればそこに住んで一緒に通うということも不可能ではないのだ。
再び同棲することになるが、文としては反対する理由はなかった。
「とりあえず師匠とか姉さんに相談してみるか。二人とも何となくもう察してるみたいだしさ、相談しておいて損はないと思うぞ?」
「・・・そうね・・・一応人生の先輩なわけだし、相談してもいいか」
小百合がどう考えているかはさておいて、少なくとも真理は相談すればしっかりと返事を返してくれる。
新しく拠点を作るのもそうだが、新しい生活環境を作るということに関して多少なりともアドバイスをもらえるかもしれない。
真理はすでに大学生なのだ、そういった面でも康太と文に的確な指摘をしてくれる可能性が高い。
とりあえず康太と文は神加と訓練をしている真理のもとに相談しに行くことにした。




