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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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二人のこれから

文が康太のことを好きだという気持ちに気付いてから始まったアプローチと、関係性の変化を求めたのに対し、康太は文に好きだと言われてから自分と文の関係性を改めて考え直した。


その結果、康太は文が気づくことがなかった両者の関係性の歪さに気が付いてしまったのだ。


「堂々といえる仲・・・ね。まぁ学校では親戚設定だから堂々とは言えないかもしれないけど」


「それでもさ、俺と文ってただの知り合いか?友達か?それとも親友か?親戚って言葉を使わなかった場合、俺らの関係ってどういうのが正しいんだ?」


康太の言うように、康太と文の関係は言語化が難しい。対等であり、一緒に遊んだり旅行に行ったりもするが、恋人という関係でもなく親戚という関係でもなければ何と言えばいいのかわからないのだ。


親友といえるものだろうか。知人や友人以上であるのは間違いない。男女間でも友情は成立するものだと文は思っているが、それでも康太と文の関係性を正確に表現するには少々二人の関係は複雑すぎた。


何より康太は文のことを親友よりもワンランク上であるようにとらえている。ただ仲がいいのではないのだ。文ならば命を預けてもいいと思えているし、文の命ならば間違いなく救いたいと思っている。


それはもはや親友という枠を越えている。ならばなんであるのか、康太が焦点に当てたのはその疑問だった。


「それで好きだっていう気になったの?」


「んー・・・そこに至るまでにまぁちょっといろいろと思うところがあったんだよ。アリスに前に言われたんだけどさ、お前が俺以外の男子と仲良くしてるっていうか、いちゃいちゃしてるのはちょっと・・・ていうかすごくいやだって思ったわけだ」


その話の内容はアリスから聞いていたため文は驚くことはなかったが、やはり本人の口から聞かされると口が自然と笑みを作ってしまう。


恥ずかしく、もどかしく、同時に嬉しくもある。複雑な気持ちではあるがマイナスではないのだろう。


「それでさっきの話に微妙に戻るんだよ。俺は文とどういう関係でいたいんだろうって思ったわけだ。文との関係がちゃんと決まってないなら今のうちに決めちゃえばいいんじゃないのかって思ったわけだ」


「・・・なるほどね、それで好きっていえば私があらかじめ告白してたわけだから恋人関係になれると。あやふやな感じじゃなくてちゃんと私と関係を作れると」


「そういうこと。思えば今まで文との関係って流れ作業・・・っていうかなぁなぁで済ませてた感があるからさ・・・まぁ魔術師としての活動が主だったから仕方がないっていうのもあるのかもしれないけど」


魔術師としての関係は同盟関係としてしっかりと枠を作った。その枠でさえ少し雑になってきたのだから一般人としての康太と文の関係はさらにいい加減になっていたのは言うまでもないだろう。


それをより正しい形に、より正確な状態にするために康太は一大決心をしたのだ。


「じゃあ、その・・・康太はわた、私と恋人・・・付き合うってことでいいの?」


「あぁ、俺はそうしたいと思ってるけど・・・」


「・・・どれくらい本気で考えてるわけ?前にあんたずっと・・・その、一緒みたいなこと言ってたじゃない?」


以前康太は文となら一生一緒にいてもいいというようなことを口にした。その言葉の意味が分からないほど文は子供ではない。


つまり康太は文とならば結婚してもいいと思っているということでもある。


まだであって一年しか経っていない状態でそんなことを言うのは時期尚早の様に思えるのだが、文からすれば嬉しい言葉だったのは言うまでもない。


「本気っていうか・・・文と一緒にいたいとは思ってるぞ。ずっと一緒にいられればそりゃいうことないだろうな」


一切否定することなく康太は笑って見せる。文が顔を真っ赤にしてうつむいているのなどまったく気にしていないようだった。


相変わらず恥ずかしいことを気にせずに言う奴だと文は眉をひそめながら康太を横目で見ながらため息をつく。


なぜこんないろいろとポンコツな男を好きになってしまったのだろうかと文は何度目になるのかわからないほどの悩みを頭の中に浮かべる。


だがそんなところも好きになってしまったのだ。惚れたほうが負けという言葉は本当だったなと文は何度目かわからないため息をつく。


「あ、そうだすっかり忘れてた」


「ん?何よ」


「いやさ、俺らせっかく付き合うことになったわけだろ?」


「そうね・・・これからよろしくね」


何が変わるかなどわからなかったが、少なくとも康太と文は付き合うことになったのは間違いない。これから康太が自分の扱い方を変えるのだろうかと文が想像を膨らませていると、不意に康太が自分の顎に手を当ててその顔を持ち上げる。


次の瞬間、康太は何の前触れもなくその唇を文の唇に押し付けていた。


早い話、キスをした。


何が起きたのかわからず、文は完全に思考停止してしまっていた。そんな文を見ながら康太は満足そうに口を離してわずかに舌で唇をなめると一言。


「ご馳走様」


と言ってのけた。


数十秒後、ようやく思考能力が正常に戻った文はまず康太に対して右ストレートを叩き込んだ。













「ほっほう?それでそれで?キスしてその後どうなったのだ?」


「・・・なんでそんなに興味津々なのよ。高校生の恋愛なんてあんたの好みじゃないでしょうに」


翌日、文はいつも通り小百合の店に修業しに来た際にアリスにつかまって尋問のようなものを受けていた。


正確に言うならアリスが興味を持って強引に文を連れ出したのだ。そのせいで一時修業が中断になってしまっている。


「馬鹿者め、乙女に取ってどんな恋愛だろうと面白いのは言うまでもないだろう。何よりお前たちの話だ。可能ならば子供を作る瞬間まで聞いておきたいものだな」


それでも実際にのぞき見をしようとしないあたりまだ有情というべきか、文は複雑な気分になりながらもため息をつく。


今まで相談に乗ってもらったり協力してもらったりしていたためにここで邪険にするというのは少々薄情に思えてしまったのだ。


「まぁあれよ・・・康太もいきなりキスしたのは悪かったって謝ってくれて・・・その後で・・・一応・・・その・・・」


「もう一度か、もう一度したのか!?」


「・・・したわよ・・・悪い!?」


「いやいや悪くなどない。なるほどなるほど、二人の仲は順調に進んでいるということだな。応援した甲斐があったというものだ」


康太と文の進展具合にアリスは満足なのか、何度もうなずきながら満面の笑みを浮かべている。


ここまでご満悦なアリスは久しぶりに見るなと文は眉をひそめながら再度、今度は気持ち大きくため息をつく。


「で、これから二人はどのように生活するのだ?」


「どのようにって・・・別にいつも通りだと思うけど・・・」


「何を言っている。せっかく付き合うまでこぎつけたのだろう?ならばもっと突っ込まなくてどうするか」


「今までも結構突っ込んでた気がするんだけど・・・」


付き合う前から風呂の中の話ではあるが裸の付き合いをしたり、互いに裸を見たことがあったりといろいろと前に進みすぎたような気がするが、アリスはそれ以上を求めているようだった。


文としてはもう少し今のままでもよいのではないかと思っているのだが、アリスはもっと前へ、もっと先へ二人が進んでくれることを望んでいるのだろう。


「付き合う前と後で変化がないのでは二人が互いの気持ちを伝えあった意味がないというもの、ここはひとつ大きく生活環境を変えるべきではないのか?」


「・・・とはいっても、もう二人で暮らすのは難しいわよ?あの部屋はもう引き払っちゃったし」


あの部屋というのは康太と文が一時期一緒に暮らした幽霊が出たという事故物件の話である。


奏の依頼で康太と文は三月末まであの部屋で一緒に暮らしていた。だが依頼も解決し、すでにあの部屋は問題がないということもあって部屋を引き払ったのだ。


あの部屋は今奏が管理している。誰かに貸しているのか別の何かになったのかまではわからないが、康太と文が暮らしていける場所でなくなっているのは間違いない。


「ならば今度はお前たちが個人的に借りればよい。カナデならそれなりに安く貸してくれるだろうよ」


「別荘的な感じにしろってこと?いやいや、高校生でそんなことする意味は」


「あるな。人目をはばからずにいちゃいちゃできるぞ?誰も気にすることなくいろいろとできるのだぞ?」


「そ・・・れは・・・そうだけど、必要ないと・・・思うわよ?」


アリスの言葉に文はその光景を想像しながらもわずかに動揺を隠せなかった。決してそういう行動をとりたくないわけではない。


人目をはばかることもなく、堂々と康太と一緒にいられるような空間があればこれ以上ない幸福だろう。


幸いにして二人とも金銭的には恵まれている。それだけ多くの依頼をこなしてきたということだが、それを使えば二人で暮らすことくらいは容易に可能だ。


「それにだ、二人とも拠点がなかっただろう?ここで二人の拠点として一つ作っておいてもいいと思うのだよ」


「・・・拠点って魔術師としての?」


「そうだ。私は今この店の地下を拠点として借りているが、二人ともそういうものはないだろう?」


アリスは確かに小百合から地下の一角を借りる形で生活、および魔術師としての拠点を築いている。


もはや魔術師の拠点というよりただの趣味のスペースになりつつあるが、アリスが個人的に借りているのは事実だ。


対して康太と文は確かにそのような場所がない。小百合や春奈の店や修業場を中心に活動しているが、個人的な拠点というものは存在しないのだ。


「二人ともまだ修業中の身、そういったことが早いのは理解しているがこれもいい機会と思って拠点を作ってしまうのも一つの手だと思うぞ?結局のところこれからずっと一緒にいるのなら早いか遅いかの差だけだ」


「・・・んぅ・・・確かにそういわれると・・・そうかもしれないけど」


長く生きてきただけあって人を説得するのが上手い。こういうところがアリスの厄介なところだ。


新しい新居、ないし別荘としてではなく拠点としての場所の構築。そういう形でならば作ってもいいかもしれないと文は思い始めてしまっている。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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