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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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康太の理由

「話は終わったか?バカ者ども」


康太と文がアリスと話していると、戦いを見ていた小百合たちが屋上にやってきていた。


「あ、師匠。お疲れ様です」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、大丈夫?」


「っと・・・大丈夫だぞ、兄ちゃんは元気だ」


神加が康太に飛び込んできた瞬間に、康太はその体を受け止めるが、その腕にある火傷が刺激されて渋い顔をする。


仮面をつけているおかげで神加には悟られなかったが、神加を心配させないように努めて明るい声を出そうとしていた。


「なんとも無様な勝ち方だったな。もう少しスマートに戦えんのか」


「無茶言わないでくださいよ、ベル相手にスマートに戦えたらそりゃもう一流ですよ。俺みたいな未熟者にそんなレベルを求めないでください」


「ふん・・・とはいえまた私のほうが優秀なことが証明されたわけだ。二連敗とは情けないなエアリス」


「勝手に言っていろ。勝ったのはお前ではないし、私は彼の努力も知っている。彼のことも応援していた。ベルが勝てなかったのは残念だが、まだこの子に伸びしろがあるという証明でもある」


「負け犬の遠吠えか、情けないことだ。お前の弟子だろうとお前だろうと、対して違いはないだろうに」


「・・・ほう、いうじゃないか・・・何なら今ここで一つ手合わせでもするか?」


「ほう?私相手に喧嘩を売るか。いい度胸だ・・・久しぶりに叩きのめして」


「はいそこまで。師匠もエアリスさんも喧嘩しないでください大人げない。愛弟子が見てるんですからもう少しおとなしくしていてくださいよ」


真理が止めなければそのまま戦いに発展したのではないかと思えるほど殺気と怒気を振りまいていた二人に康太と文は冷や汗をかいてしまっていた。


真理がいなかったら間違いなく戦いを始めていただろう。二人は真理がいたことに心の底から感謝していた。


「師匠、クラリスさんと因縁があるのはわかりますけど、いつもの冷静さはどうしたんですか」


「ん・・・すまんな、こればかりは仕方がない。水と油は決して交わらないんだ」


「師匠、エアリスさんに突っかかるのもいい加減にしてくださいよ。なんでいつもそんなに無駄に喧嘩腰なんですか」


「ふん、合う合わないというのは誰にだってある。私にとってはこいつが、こいつにとっては私がそうだというだけの話だ」


顔を突き合わせればこのように喧嘩腰になっている。この二人は本当に幼馴染なのだろうかと不思議に思えるほどだ。


どうしてこうまで仲が悪くなったのか気になってしまう。


そんな中、小百合と春奈を見比べていた神加が小首をかしげながら康太の外套の端を引っ張る。


「お兄ちゃん、ししょーとエアリスさんはどっちが強いの?」


「え?そりゃ」


「「私だな」」


小百合と春奈が同時に自分のことを指さす。そしてその瞬間に互いをにらみつける。息ピッタリじゃないかとあきれてしまうが実際どちらが強いのかは興味がある。


総合的な戦闘能力で小百合の右に出るものはほとんどいないだろう。だが春奈だって昔から小百合と一緒にいたのだ。その戦闘能力が低いはずがない。


「そこのところどうなんだベル。俺エアリスさんが戦ってるところ見たことないからわからないんだよ」


「んー・・・そうね・・・私よりずっと強いのは間違いないんだけど・・・クラリスさんと比べると・・・」


春奈の一番弟子の文も春奈の実力を正確に把握できていない。康太も小百合の実力を正確に把握できていないのだからそれも仕方のない話なのかもしれない。


そもそも春奈は小百合と違って敵が少なく、戦闘をしていることが極端に少ないせいもあってデータ不足だ。


判断に困ってしまうが彼女たち自身は自分のほうが上だと思っているのだろう。先ほどから仮面越しにメンチを切りあっている。


「アリス的にはどうだ?どっちのほうが強そうに見える?」


「私の私見でかまわないのか?そうだな・・・魔術師の戦いならばエアリス、殺し合いならクラリスといったところだろうか」


「なんかものっそい物騒な発言が聞こえたような・・・殺し合いとかありかよ」


「ありだ。クラリスはそういうところで躊躇するような人間ではないだろう。良くも悪くもこやつは自分の実力を正確に把握しておる」


そういう意味ではお前は間違いなくこやつの弟子だよとアリスは康太の背中をたたきながら笑う。


自分の実力をわかっている。強さを理解しているというのは戦いにおいて重要なことだ。


戦うにしろ逃げるにしろ、自分の実力と相手の実力が把握できなければ判断のしようがない。


康太も小百合もそういう自分という物差しがはっきりとしているために取る手段がわかりやすいのだろう。


「相手を殺さないならエアリスさんが、相手を殺してもいいなら師匠がってことか・・・なんか複雑だなぁ」


「まぁさておきそろそろ止めてきますね。このままだと本当に戦いかねないので」


メンチの切りあいが激しくなっていく二人の師匠を真理は颯爽と止めに行った。


さすがは小百合の一番弟子だとアリスは笑っていたが、それを見ていた文は戦慄してしまっていた。


この二人をさも当然のように止められるのは真理くらいだろうなと心底感心しながら。











戦いを終えた康太と文は小百合たちを先に帰して二人だけで屋上に座り込んでいた。


四月が始まったとはいえまだ夜は冷える。康太と文は肩を寄せ合うように近寄りながら少しだけ気まずそうにしていた。


気まずいのは主に康太だった。先に帰して少し話があると文に呼び留められたのが今こうしている理由なのだが、先ほどから文が一向に口を開こうとしないのである。


「・・・あー・・・あの・・・文さんや?」


「・・・」


「えっと・・・なんか話があるんじゃなかったのか?まだそれなりに寒いし、その・・・早めに帰らないか?」


いくら康太たちが魔術師の外套を着こんでいるとはいえ寒いものは寒い。魔術によって防寒もできなくもないが、そこまでするほどの気温ではない。


早いところ帰って傷をいやし、明日に向けて休みたいところだったのだが、文が話があるという以上康太は断る理由がなかった。


「・・・文さん?文さんやい」


「・・・ねぇ康太」


文がようやく口を開いたことで康太は一瞬身を強張らせていた。先ほどのやり取りで何か問題のある行動をしたのではないかと少しだけ不安だったのである。


「あんたさ、どうして私の告白にオッケーしたの?」


「え?なんでって・・・」


「ずっと悩んでたんでしょ?その決定打が知りたいのよ。私があんたのことを好きになった時みたいに理由はないのかもしれないけど、答えを返すきっかけが知りたい」


文が康太を好きになったのは魔術師としての活動の時がきっかけだった、文は康太がなぜ返事を返せるようになったのか、そのきっかけが知りたかったのである。


康太が日ごろ悩んでいたのは知っていたし、ちゃんと考えてくれているのは知っていた。


告白前よりも文のことを考えてくれているのも理解していたし、そういう気持ちもちゃんと感じ取れた。


だが康太がなぜ文に対して告白の返事ができるようになったのかが気になったのだ。それを聞かなければ文は前に進めない。それほどに。


「えっと・・・文に告白されただろ?あれからいろいろと考えてたんだけどな?アリスに助言もらったり、一緒に暮らしたりしただろ?」


「うん、まぁいろいろあったけどね」


文からすれば恥ずかしい思い出もあり、思い出すのは少し嫌だったが、今となっては悪い思い出ではない。


「何度か文のことを真剣に考えてさ、この間土御門のところに行っただろ?」


「そうね。それで?」


「魔術師関係の話になっちゃうんだけどさ、俺と文の関係って何なんだろうなってちょっと考えた」


康太と文の関係。康太と文はただの魔術師の同盟、クラスメートでもなければ恋人というわけでもなかった。


学校では親戚という嘘をついているが実際は赤の他人だ。


「俺らと晴や明が同盟を組むってなったときにさ、魔術師として初めて赤の他人っていうべきなのかな?俺ら以外の同盟相手ができたじゃん?」


「そうね、アリス以外では初めてかも」


「そうなったときにさ、俺と文の関係っていったいどの位置なんだろうなって思ったんだ。晴や明との同盟よりは上位だとは思うんだけどさ、それって説明しにくいだろ?」


対等な関係とはいえそれらの説明をどのようにすればいいのか、康太が悩み考えたのはそこが始まりだった。


康太と文との関係性。もっと言えばブライトビーとライリーベルの関係性はいったいどのようなものなのか。


一応二人はアリスとも同盟を結んでいるが、それとはまた別、康太と文が結んでいるそれは対等でありながらほかの同盟とは全く違うものであるように思える。


「同盟って言ってもさ、ぶっちゃけ別に同盟が解消されたら一緒に関係も解消ってことはないだろ?っていうかもはや同盟ってほとんど形だけみたいな感じあるし」


「互いの利害の一致とかそういうのではないわね。どっちかっていうと一緒にいるのが楽だから一緒にいるというか、一緒にいると楽しかったり、うれしかったりするから一緒にいるわ」


「それって同盟とは違うだろうし、何よりそれを口で説明するのはこっぱずかしいだろ?じゃあどう言えばいいんだろって」


「・・・それで?」


「魔術師としての関係の後はさ、普通の俺たちの関係って何だろうなって思ったんだ。魔術師じゃないただの俺たちの関係。ぶっちゃけ魔術がなかったら俺らって絶対関わってなかっただろ?クラスも違うし部活も違うし・・・」


魔術師としてのブライトビーとライリーベルではなく、八篠康太と鐘子文の関係性。


魔術が関係なくなれば康太と文は完全に赤の他人だ。学校における虚偽の親戚関係などもなく、本当に関わりのないただの赤の他人になってしまう。


康太はそれがいやだったのだ。


「ただの俺たちになった時、なんていうか・・・文とのつながりが欲しいっていうか、文と俺がちゃんとかかわってるっていうか・・・んー・・・説明が難しいな・・・こう、堂々と言えるような仲であるようにありたかったっていうか・・・」


康太は何とか文にもわかるように説明しようとしているが、康太自身自分の気持ちを言語化することになれていないのか、それとも自分の気持ちをまだ正確に把握しきれていないのか、説明というには少々言葉足らずで、たどたどしいその説明に文は目を細めた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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