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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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勝敗と返事を

空中で巻き上げられていた文は全く抵抗することができなかった。それどころか把握することもできていなかった。


康太の突進を把握することも、自分がいつの間にか康太にタックルされ、地面にたたきつけられようとしていることも。


急制動をかけられ、体がその慣性で悲鳴を上げた瞬間、自分が攻撃されていると気付いたほどだ。


攻撃に次ぐ攻撃、そして自身が作り出したとはいえ竜巻に巻き込まれここまで集中力と意識をかき乱されているとは思いもよらなかった。


文がようやくまともな思考ができたのは康太に馬乗りになられ、その仮面に康太の拳が添えられた瞬間だった。


「俺の勝ちだ、ベル」


「・・・あー・・・あの時と似た状況ね・・・失敗だったわ・・・竜巻に巻き込まれるとあそこまで振り回されるとは・・・」


文は今まで自分の魔術を自分で受けたことはほとんどなかった。仮に相手が同じ魔術を使ってきても対応できるからである。


竜巻で言えば同程度の威力の竜巻をぶつければほぼ相殺できる。そういうこともあって文は今まで竜巻に巻き込まれたことがない。


対して康太は竜巻に巻き込まれたのは今日が初めてではない。康太の兄弟子である真理は文ほどではないにせよ強い竜巻を作り出すことができる。


そういう攻撃を康太は身をもって経験しているのだ。いうなれば耐性のようなものが出来上がっているのである。


この場合は経験からくる対処法が身についているというべきだろうが。


「この状態ならお前が攻撃すると同時に俺も攻撃するからな。お前の持ってる攻撃じゃ対処は不可能だろ?」


「・・・そうね・・・あー・・・また負けた・・・うー・・・!途中までは思い通りだったのに・・・!」


康太と戦うにあたって文はいくつも行動を考えていた。作戦というには少々緻密すぎたかもしれないが、康太の攻撃に対する対処、康太の装備や戦力を削るために必要な行動などを一つ一つ考えていたのだ。


その一つがウィルを封じるための行動である。結局ウィルを封じるには至らず動きを鈍らせる程度に収まってしまったが、あれも使い方によってはもっと別の結果をもたらしていたかもわからない。


「・・・で、あんたはいつまで馬乗りになってるつもりなわけ・・・?そろそろどいてくれないかしら?」


「・・・いや、ちょうどいいから今言おうと思ってさ」


「何を?」


「ベル・・・いや文、好きだ」


康太は馬乗りになった状態で自分の仮面を少しずらし、そして文の仮面を少しずらして互いに互いの目がわかるようにしてからそういった。


文は一瞬呆けてしまっていた。康太がいったい何を言ったのかわからなくてその言葉の意味を反芻していく。


そしてその意味を理解した瞬間顔を真っ赤にしてしまっていた。


「あ、あああああんた!こんな時に言う!?このタイミングで言う!?なんでこのタイミングなのよ!」


「いや、前から決めてたんだよ。一年経って、もう一回戦って、その後に言おうって」


「ちょ・・・ろ、ロマンチックな感じ一切ないじゃないの!もうちょっとこう・・・ムードっていうか・・・!なんか、そういうのがあったって」


「いや、そういうのあんまり思いつかなくて。というか俺の気持ちの整理的にちょうどいいかなって」


文の考えなど一切考慮していない、完璧に自分本位な考え方に文はあきれてしまっていた。


だが、文は自分の鼓動が強く脈打っていることにいまさらながら気づいていた。


馬乗りになられ、両肩を押さえられ、文は今完全に動くことができない。


この状態で康太に何かされようものなら逃れようがない。そういう状況に文はときめいてしまっていたのだ。


「文、もう一回言うぞ。俺は文が好きだ。お前に言われてずっと考えてきて、決心がついた。あの時言われた言葉の返事今返す。お前が好きだから、お前を俺のものにしたい。代わりに俺の全部お前にやる」


「えぁ・・・あぅ・・・っと・・・その・・・」


あの時確かに文はそういった。自分の全部を康太にあげたいと。同時に康太のすべてが欲しいと。


それをいまさらなかったことにするつもりはないし、今もそうしたいと思っているが、目の前で康太にそういわれると文は反応に困ってしまっていた。


体が熱い、そしてその熱が下腹部に集まっているのがわかる。


今自分はとても顔が赤いのだろうと文は理解できていた。力が入らず、康太を押しのけることなどできるはずもない。


今まで夢に見るほどに、康太にこういわれるのを望んでいたのだ。拒めるはずもない。


手足の先が震える。目の前にある康太の顔が近くて、息遣いまで聞こえてくるのではないかと思えるほど。


そしてもう少し近づけばその吐息が肌に触れるほどに康太を近くに感じていた。


「俺は返事したぞ。文、お前の全部俺にくれるか?」


「・・・あの・・・えと・・・う・・・は・・・はい・・・」


なぜか文はそう返事することしかできなかった。なぜもう少しまともな返事ができなかったのかとのちに後悔するが、それでも今文が幸福に包まれていたのは言うまでもない。


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