文の対処
康太の攻撃は全方位の射撃攻撃。全方位に対して守りを固めなければ間違いなく負傷する。だがだからと言って康太に対して正面の部分の守りを固めなければ間違いなく再現による投擲、そして強力な鉄球の一撃などで防御を突破される。
身を守るために全方位の球状の障壁や防壁を展開しなければいけないのに、一点集中の守りを展開しなければ守り切れないという矛盾。
これを防ぎきるには、テクニックが必要である。つまり二種類の防壁を同時に展開すればいいのだ。
球状の障壁、そして康太の正面に対して分厚い障壁。この二つの障壁を同時に展開できればこの攻撃を防ぎきることができる。
あるいは土属性の魔術で土の防壁を作り出せば全方位の防御は可能だろうが、空中で土属性の魔術はほとんど使えない。
だがそれはこの攻撃の理屈を完璧に理解している人間だからこそできる対処だ。見えている攻撃に対して防御に回れば、当然正面から突き破られる。
つまりこの攻撃に対して、初見であれば対処するためには高レベルの索敵を常に張っていなければ防ぎようがないのだ。
もちろん文はこの攻撃の理屈を理解している。だからこそ、この攻撃の対策はすでに考えていた。
守りに入った瞬間負ける。文は磁力の魔術でその体を強引に真上へと運んでいく。当然真上にも康太が放った火の弾丸や鉄球が存在し、文めがけて襲い掛かってきている。
文は目の前に最低限の障壁を展開してそれを防ぎながらさらに上空へと飛び上がる。
文の動きを追従するように、火の弾丸や鉄球は進路を変えて襲い掛かるが、先ほどの様に全方位に囲うような軌道はしていなかった。逆に文を追従することである程度一方向にまとまった形での攻撃になってしまう。
そしてそれに対して文は強力な障壁を展開し、それらの攻撃を防ごうとする。
文も当然ながら無属性の障壁魔術を扱える。だが彼女はそれを得意としていないのだ。今まで攻撃の練習しかしてこなかったというのもあるのだろう、細かいコントロールができない以上、コントロールなどいらず、全力で展開できるようにその場を動かした。
さすがに康太の集中攻撃ということもあって障壁が砕けそうになるが、何とかすべての攻撃を防ぐことができそうだと文が一瞬安堵した瞬間、その後頭部に強い衝撃が走る。
いったい何が起きたのか、そう考えるよりも早く今度は腹部めがけて衝撃が走る。胸ぐらが何かに引き寄せられ仮面ごと顔面に衝撃が走る。
ここまでくれば自分が何がされているのか、混乱状態の文でも理解できた。
遠隔動作の魔術で攻撃されているのだ。単純な打撃、文が一定の距離にいて防御のために足を止めているのであれば当然のこと。康太はすでに攻撃を放ってその体がフリーになっているのだ。そんな状態で康太が攻撃しないはずがない。
そして一瞬康太のほうに気を取られると、障壁が康太の射撃攻撃によって砕けてしまう。
障壁を破って康太の攻撃が文の体に襲い掛かる。炎が、そして鉄球がその体めがけて一直線に走る。
防御したいところだが、文は頭を殴られたことでほんの一瞬だが意識が飛んだ。その体が炎で焼かれ、鉄球に傷つけられるのに対して何もできなかった。
とはいえ想定したよりも距離がある状態での着弾ということもあって威力はかなり減衰されている。まだまだ戦闘は可能というところで文は康太のいる真下に意識を向けると、康太はすでに飛び上がっていた。
そう、再現と噴出の魔術を使って高々と、文の目の前まで。
その手に持った双剣を文めがけて振りぬくが、文も何もせずやられるほど甘くはない。磁力の魔術を使って緊急回避し康太と距離を置こうとするが、康太も再現、噴出の魔術を発動して文との距離を詰めようとする。
空中での近接戦。地上部分でも勝ち目がない近接戦なのに、空中での身動きが不慣れな文が康太に勝てるはずもなかった。
苦し紛れに電撃を放つが、康太はさも当然のように回避してくる。それもそのはずだ。康太は普段から再現の魔術を使って空中を駆け回っている。空中における機動力は圧倒的に康太のほうが上なのだ。
ならばと、文は暴風の魔術を発動する。空中にいれば踏ん張ることなどできはしない。康太めがけて暴風の魔術を発動しようとするが、康太はそれを読んでいたのか高速で移動し上下左右を縦横無尽に駆けまわる。
全く狙いが定まらない。いっそ竜巻で巻き込んでしまいたいくらいだったが康太との距離が近すぎる。これでは自分も巻き込まれてしまうと文は歯噛みしていた。
ただでさえ磁力の魔術で移動し続けているというのに康太はそれ以上の速度で文に追い付いてくる。
空中の機動力では勝ち目がないと文が考え始めた時、康太が急加速し文めがけて突進してくる。
何とかぎりぎり磁力の魔術をコントロールして回避したものの、すり抜ける瞬間、その足に噴出の魔術を発動し回転しながら文の体めがけて蹴りを放ってくる。
文は反応することができず、その蹴りを脇腹で受け止めてしまった。
強烈な痛みと僅かな体のしびれを覚え、文は致し方ないとあきらめる。
康太相手に玉砕覚悟の行動をしないで勝てるはずがなかったのだ。文はそう考え自分をも巻き込む形で巨大な竜巻を発動する。
空中で動き回っていた康太も、そしてそれを回避しようとしていた文も竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされてしまっていた。
上下左右もわからぬほどに体を振り回され、二人とも三半規管がマヒし始めていた。
康太はその空間の中で文の位置を的確に把握していた。そして文の集中が乱れ、竜巻の勢いが弱くなってきた瞬間を見計らって全力で炎を噴出し急接近する。




