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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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魔術とは

店の奥には和室が広がっていた。一般的な畳にちゃぶ台、それにいくつかの家具。普通に生活できるだけの環境が整っているように見える。


まさかここで修業をするのだろうかと思っていると、小百合は奥から茶の入った湯呑を持ってきた。


茶を出されたのだから一応礼はいわなければならない。どうもと告げて康太は茶をすすり始める。小百合自身も自分の湯呑に茶を入れてちゃぶ台の近くへとやってきた。


「とりあえずこれから何をするかだけ話しておこう・・・お前を魔術師に育てる上でやるべきことが三つある」


三つ。たったそれだけしかないのかとも思ったが、逆に言えばその一つ一つがそれだけ厳しいものである可能性が高い。


「まず一つ目、これが一番大事だ・・・お前の連絡先を聞いておこう」


いきなり連絡先を聞いておくという言葉に康太は脱力してしまっていた。確かに連絡を容易に取る上で必要なことかもしれないが今このタイミングで聞くことだろうかと思えてならない。


しかも魔術師なのに普通に携帯を取り出してくるあたりどういう事なのだろうか。何か専用の魔術師にしか使えないような連絡手段などを用意してくるかと思ったらまさかの携帯電話である。


現代の魔術師はそう言う事は気にしないのだろうかと思い込み、康太はとりあえず互いの連絡先を交換し合うことにした。


康太の連絡先に藤堂小百合という名前が新しく追加されたところで、小百合は茶を飲んだ後で小さくため息をつく。


「さて、一つ目が済んだところで次は二つ目の説明に入ろう。二つ目はお前の魔術師としての素質を調べる。魔術師になれるかどうかの確認といったところだな」


「・・・やっぱり才能とか必要なんですね」


康太があらかじめ予想していたように、魔術師は個人の素質によって大きく左右されるものらしい。


そして康太のその言葉に小百合は小さく笑って見せる。


「やはりその程度は推察できていたか・・・他にお前がどんな風に魔術を捉えているか、一応聞いておこうか?」


「・・・個人の才能によって習得できるものが変わる。魔術にもできることとできないことがある。あと魔術にはある程度リスクが生じる」


その言葉に小百合は口笛を吹いて康太を称賛しているようだった。


やはりバカではないらしいなと告げた後小百合は湯呑に入っていた茶を飲み干した。


「大まか正解だ。個人の才能や特性によって魔術というのは会得できるものや得意なものが異なる。そして魔術にもできることとできないことがある。さらに、魔術の会得、行使にはリスクが生じる」


いくら科学で証明できないこととはいえある程度の法則で成り立っているという康太の考えは間違っていなかったという事だ。逆に言えば魔法のように万能で何でもできるような印象を持たせないために『魔術』と呼称しているのかもしれない。


「もし俺が魔術師になる才能がなかったら、その時はどうするんですか?」


「ん?魔術師になれないからと言って殺すようなことはしない。お前が魔術師になれないなら別の方法を模索するだけだ。まぁそのあたりはいろいろ後で説明してやる」


どんな手段で調べるにしろ、魔術師になることのできる素質の有無を測定するのだ。当然その素質がないという可能性も十分にあり得る事である。


可能ならその素質があればいいなと思いながらも、同時にそんな素質なければいいのにとも思ってしまう。


この期に及んで及び腰になってしまうあたり康太は一般市民という事だろう。ここで物語の主人公か何かだったら意気込んで立派な魔術師になってやるとかいうのかもしれないが、生憎康太にそんな胆力はありはしなかった。


「次に三つ目。お前の魔術師としての素質を確認した後は魔術を教える。比較的簡単な魔術を一つお前に教えてやる。それができるようになればお前は晴れて魔術師だ」


「・・・簡単に言ってますけど、それが一番大変そうですよね」


「まぁそうだな。魔術を覚えるのに大体・・・まぁ人によるが二、三カ月ってところか」


「そんなにかかるんですか!?」


一つの魔術を覚えるのに二、三カ月。口で言うのは簡単だがそれはかなりの時間なのではないかと思えてしまう。


無論素人から魔術を覚えるのだ、もしかしたらそれ以上かかるかもしれないという事も十分にあり得る。


「さわりを覚えるだけならすぐに済むが、一人で確実に魔術を発動できるようになるには鍛錬する以外に手段はない。そう言う意味では才能と努力があって初めて魔術師は成り立つものだ。」


「・・・なんだか思ってたよりもずっと地道な作業なんですね」


「当たり前だ、世の中に気軽に手に入る都合のいい力なんてものはない。あるとすればそれは偽物かあるいは外見だけ取り繕った飾り物だけだ」


小百合の言葉に康太はほんの少しだけだが驚いていた。


気軽に手に入る都合のいい力なんてものはない。


仮にそれが魔術だろうと何であろうと、その力にあるのはたゆまぬ努力の結果だ。仮にそこに才能というものが必要だとしても、それと同じかそれ以上に必要になるのは努力である。


まるで教育者のような事を言うのだなと思いながら、案外まともなことを言うものだと康太は小百合を見る目を改めていた。


この人も恐らくは努力の末に魔術師になったのだろうと。ただの理不尽な人間ではないのだと、そう思い始めていた。


「さて、それじゃあさっさと事を済ませてしまうか・・・」


「・・・あの・・・とりあえずどんなものでもいいんですけど、魔術を一回見せてもらえませんか?」


康太の申し出にそう言えばそうだったなと、小百合は近くに何かいい的は無いだろうかと探し始める。


実際に見てみないことには信じることもできない。今までの苦労を水泡に帰さないためにも最低でも魔術というものを実際に見てみたかった。


「そうだな・・・じゃあこれでいいか・・・よく見ていろ。今から私が使うのが普通の魔術だ」


普通の魔術。それが一体どんなものなのかは知らないが小百合は目の前になにも入っていない茶碗を置いて見せた。


何の変哲もないただの茶碗だ、康太が触って確認したが市販で売られているような安っぽいものである以上の感想は抱けない。


小百合が茶碗から距離をとって指を振ると、茶碗に変化が生じていく。茶碗の中心部分から亀裂が入っていき、数秒後には砕け散ってしまっていた。


「お・・・おぉぉぉぉぉ!手品みたいだ!」


「それが魔術だ、もっとも相当簡単なものだがな。魔術の存在に関しては信じたか?」


今まで康太が魔術そのものを疑っていたことを理解しているのか、小百合は薄く笑いながら砕けた茶碗を片付けた後で立ち上がる。


「じゃあ簡単な説明も終わったところで、さっそくはじめるとしようか。お前今日はもう予定はないな?」


「あ・・・はい、あとは家に帰るだけですけど」


さすがにあんなものを見せられては魔術の存在を信じざるを得ない。これで小百合が康太から金銭などの類を巻き上げようとしているのであれば何かしらのトリックではないかと疑うところだがそのような気配はないのだ。


ならいいと言いながら小百合は康太について来いと告げてどこかへと歩き始める。


居住スペースの奥はさらに何かがあるのだろうかと思いながらついていくと、小百合は階段の前で一度足を止め、階段の隣にある納戸の扉を開いて見せた。


その中には店のそれに負けず劣らず訳の分からないもので満ちていた。胡散臭いもので満ちている状態を見て康太はあることを聞いてみたくなった。


「あの・・・表の商品って魔術的なものに関係とかあるんですか?」


店に置いてあった商品の数々、それはほとんどが用途不明なものばかりだった。そもそも売るつもりで置いてあるのかどうかも疑問な程奇妙な物品ばかりである。


この建物は何屋に分類されるのか、そのあたりも気になっていた。


「表にあるのは九割方ただのガラクタだ。一割ほど魔術的に価値のあるアイテムのレプリカが置いてある。一冊だが魔導書の写本も置いてあったはずだ」


ひょっとしてあの妙な本だろうかと康太は思い返す。読まなくてよかったと思いながら康太は小百合が何かやっているのを黙って眺めていた。


「ちなみに売り上げとかってどうなんですか?そもそも売れるんですか?」


「あくまでそれなりだ・・・この店自体私のものじゃない。この店は私の師匠から半ば強制的に押し付け・・・譲り受けたものでな、売り上げなどあってないようなものだ」


たまにバカっぽい学生がオカルトグッズとして買っていくがなという付け足しを聞きながら康太は戦慄する。


小百合の師匠という事は康太から見れば師匠の師匠ということになる。そんな人がこの店をやっていたのかと思うと不思議だ。あのマネキンももしかしたらその師匠の持ち物なのかもしれない。


「ただしそれは表の商品の話で、実際売っているものはそれなりの儲けはある。もっとも管理がめんどくさいから適当に済ませてあるがな」


「実際?表?裏稼業でもやってるんですか?」


「裏稼業というと聞こえが悪いが・・・ここは実際は魔術に関する道具などを扱っている。それこそ所謂マジックアイテム的なあれだ」


康太はその言葉に若干興味を惹かれていた。魔術的な道具を裏で取り扱っている。設定的に非常にありがちではあるが心が躍る内容だ。


一体どんなものが取り扱われているのか非常に気になるところである。


「ちなみにどんなものを扱ってるんです?そもそも魔術に道具って必要あるんですか?」


「たんに魔術を扱うだけなら道具は必要ない。使用するのはあくまで補助したりする程度だな。他にもいくつか用途はあるが・・・まぁそれはまた今度説明してやる・・・よし開いたぞ、来い」


小百合は納戸の床を開いてその下に通じている階段らしきものを降りていく。どうやら地下があるようだ。こういう秘密の隠れ家的なものは少年の心を刺激する。


この家を所有していた小百合の師匠はよく少年心をわかっている。


一度でいいから会ってみたいところだった。


小百合に続いて階段を降りていくとその下は空気がこもっており、明らかに不衛生な状態で放置されているというのがわかる。


階段の両脇には棚のようなものが陳列しており、そこにはいろんな訳の分からないものが置いてあった。


瓶に詰められた葉っぱや、何かの液体に浸されたトカゲの尻尾のようなもの、さらにはチョークのようなものまで放置してあった。


これは本当に魔術的な用途で使うのだろうかと思えるほど胡散臭いものばかりだった。


「えっと・・・これから俺の魔術師の素質を調べるんですよね?どうやるんですか?」


「あぁそう言えば説明していなかったな・・・ある道具を使う。私の時と同じ調べかたで大丈夫だろう。・・・たぶん」


たぶんと語尾に付けられるとこんなに不安になるのは何故だろうか、康太は眉を顰めながら小百合の後についていく。


階段を下り切った時に広がっていたのは倉庫のような場所だった。巨大な棚が並んでおり、様々な物品が配置してある。なるほど、この物品の数々が魔術に関わる道具なのかと康太はそれらを観察していた。


薄暗い部屋の中にほんのわずかにあるむき出しの電球。何に使うのかもわからない道具の数々。ここだけ見ればここが日本なのかすら疑いたくなってくるような光景だ。


「こっちだ、ついて来い」


「あ、はい!」


倉庫の向こうにある扉を開くと、明らかに異質な空気がそこにはあった。

その理由を康太はすぐに理解できた。嗅いだことのある匂いが漂ってきたからである。


それは鉄分のような、どこか生臭さ残る香り。中学になってから数回しか嗅いだことのないようなにおいだった。


それが血の匂いだと理解できるまで、康太は少し時間がかかった。


タイル張りにされた床と壁、そしてその隅にある排水溝。さらにはその場に不釣り合いなのではないかと思える蛇口とホースがそこにはあった。


そして先ほどの倉庫と同じようにいくつもの物品が棚に飾られている。だがその中でひときわ大きなものがあることに康太は気づけた。


大きな釜のような、鍋のようなものだった。黒い金属でできており、その表面には何やらいくつもの紋様のようなものが描かれている。


魔女が怪しい薬を作るときに使っているような鍋と言えばわかりやすいだろうか。明らかに機能的ではない楕円形をしており、取っ手も何もない。しかも大きさは小さな風呂釜ほどはありそうだった。


これは何だろうかと思っていると小百合がいくつかの道具を持って康太の下にやってきた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


一週間分をまとめてやるんで非常に反応遅れますがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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