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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」
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師匠らしからぬ

「そうか・・・勝手に行ってこい」


もっとも、小百合が普通の反応などするはずもなく、真理から話を聞いた後の反応がこれである。


「あの師匠、一応弟子の戦いなわけですし・・・それに一年経ったって記念でもあるんですから」


「阿呆。最初の頃、それこそ初めて魔術師として戦うというのならばいざ知らず、何度も魔術師として戦ってきたやつの戦いをなぜ見なければならない」


「いやだから一年経ってどれくらい成長したかを見てあげてもいいんじゃないですか?康太君の成長がわかるいい機会ですよ?」


「こいつの成長は私が一番よくわかっている。いまさら何を理解しろというのか。なんでそんな授業参観のような真似をしなければならない」


小百合ならばこのような反応をすることはわかっていたのだが、康太と真理としては複雑な気分だった。


やっぱり自分たちの師匠はこういう人だったなと再度理解しただけである。とはいえ真理としてはこのまま引き下がるわけにはいかない。


せっかくの康太の戦いなのだ。それを見に行かないなんて考えられなかった。以前と同じような状況を作ろうとは思わないが、それでも小百合には見る義務があると思ったのである。


「師匠、そういわないでくださいよ。神加ちゃんの入学式にはちゃんと行ったじゃないですか。それと同じようなものですよ」


真理の言うように、小百合は神加の小学校の入学式にきちんとスーツを着込んでほかの保護者たちと同じように参加した。


仮病を使ってでも自分たちが参加しようとしていた康太と真理からすれば驚いてしまったほどである。


しっかりと写真なども撮影し、神加がきちんと小学校一年生として入学したということを記録していた。

こういうことには無関心だと思っていた小百合なだけに、この反応は少々不可思議なところもあった。


「何が同じなものか。一生に一度しかない入学式に保護者として行けというのであればまだ話は分かるが、別に康太の戦いは一生に一度しかないというわけでもあるまい」


「いやまぁ・・・それはそうかもしれませんが・・・」


「それにだ、康太も文も互いの手の内は知り尽くしているんだ。あっという間に勝負が終わるか、あるいは長期戦になるかの二択だろう。前者なら康太が、後者なら文がそれぞれ有利に事を進めた結果だ」


康太と文の素質の問題もあるが、康太は短期決戦で挑むのに対して文は確実に長時間戦うために行動するだろう。


なるべく早く戦いを終わらせたい、いや康太の場合確実に勝つためにはその一瞬に攻撃を集中するというのが正しいだろうか。


対して文の場合康太がそのように出てくるのがわかっているのだから、康太が魔力切れになるのを待てばいい。そうしてからゆっくりと康太を倒せばいいだけなのだ。


互いの素質の善し悪しもわかっているとこのように戦略も練ることができる。小百合の言うように互いの手の内を知り尽くしているからこその戦いが見られるということである。


「そこまでわかってるならなおさら見に行きましょうよ。せっかく二人が戦うっていうのに」


「こいつらが戦うところなんていつも見ているだろうが」


「それは訓練でしょう?今度のは本気ですよ?本気の戦いなんですよ?」


「普段こいつらが訓練の時も手を抜いていないのはお前も知っているだろう。普段の訓練が総合的なものになったにすぎん」


「だからこそみたいんじゃないですか。康太君としては文さんに勝つつもりですよね?」


「もちろん。完膚なきまでに叩き潰す所存です」


「当たり前だ。負けるつもりで戦いを挑んだのであれば破門していたところだ」


そんなことで破門しないでほしいんだけどなと康太は少しだけ眉をひそめてしまうが、真理としても最初から負けるような考えを持っていなくてよかったと考えているようだった。


去年勝てたのだからと言って今年も勝てるかはわからない。康太はあの時よりも強くなったが文もあの時よりずっと強くなったのだ。


負けるつもりは毛頭ないが、厳しい戦いになるのは否めない。


「師匠、一応春奈さんにも声をかけて見に来てもらうつもりなんですけど」


「・・・あのバカも呼ぶのか・・・」


春奈の話題を出した瞬間に小百合は目を細める。去年康太と文が戦った時も春奈は観戦していた。


今回も同じような状況になるのであればもちろん来るだろう。小百合と違って春奈は弟子想いな師匠だ。


それに春奈は康太にも目をかけている。その二人が戦うとなれば見に来ないはずがないだろう。


「ふむ・・・なるほど・・・あいつが来るというのなら行ってやろう。またあいつの弟子を負かして高笑いしてやる」


「あの、戦うのは俺なんですけど」


「なればこそだ。絶対に勝て。文が相手ということもあって楽な戦いではないだろうが、それでも勝て」


小百合が楽な戦いではないという評価をしたことが康太と真理は意外だった。なんだかんだ言いながら小百合は文のことを評価しているということがわかる一言である。


だが同時にそれでも康太ならば勝てるという確信を持っているようにも感じられた。康太はより一層意気込み、武器の手入れにいそしむことにした。


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