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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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次があれば

「副本部長。これで私たちにできることはすべて終えました。これをお返ししておきます」


文はそういいながら今まで守っていた呪いのビデオを副本部長の机の上に置く。


頑丈に施錠されたアタッシュケース、それを見て副本部長は小さくため息をつきながらそれを渡してきた文のほうに視線を向ける。


「そうだな・・・もう君たちにできることはない。これにて依頼完了としようか」


副本部長の言葉に康太と文は内心安堵の息をついていた。これ以上行動しろと言われればそれなりにつらいことになる。


ここで副本部長がストップをかけてくれたおかげで少なくともこれ以上の行動はないと考えていた。


「ブライトビー、ライリーベル。今回依頼を受けてくれて助かった。お前たちの力を今後ともあてにさせてもらおう」


副本部長のその言葉に康太と文は眉を顰める。あてにさせてもらう。それはつまり今後も本部から副本部長の勅命が来る可能性があるということだ。


康太と文からすれば絶対に断りたいところである。特に康太は本部にいい心象を抱かれていないために本部とはなるべく距離を置きたいところだった。


「俺みたいな危険分子を簡単にあてにしていいんですか?いつ暴走するかもわかりませんよ?」


康太は良くも悪くも封印指定をその身に宿している。本部からいい心象を抱かれていないのもそれが原因の一つだ。


それなのに副本部長が、本部のナンバーツーがそんな存在をあてにするなどと言っていいのか。


本来ならば距離を置くべきタイミングで距離を詰めてきた。いったい何を考えているのかわからないために康太たちからすれば警戒して然るべき対応である。


「暴走したらその時はその時だ。少なくとも使える人材であるというのは間違いない。アリシア・メリノスのことを差し引いても、ブライトビー、並びにライリーベル、両名は本部に名を連ねても問題ないレベルであると判断する」


副本部長の言葉に康太と文は目を丸くしてしまっていた。副本部長直々に、康太と文は本部に所属してもいいという判断を下しているのだ。


自分の子飼いにするつもりなのだろうか、副本部長の考えが読めなかったが康太も文も本部に対して何か要求があるわけでも、支部に何らかの不満があるわけでもない。


「仮にそうだとしても、本部に所属するつもりはありませんよ」


「それは当然だろう。私が認めてもほかの幹部が認めない。あくまで実力はそれだけのものがあるということだ」


実力はある。ただそれだけのための発言にしては妙に意味深だった。何かしらの意図があり裏があるように考えられたのだが、康太は眉をひそめながらため息をつく。


「俺よりも本部にふさわしい人間は山ほどいますよ。本部が見逃しているだけでは?」


「それはそうだろうな。本部の目の届かない場所はいくらでもある。今回がそのいい例だ・・・こうして今日もいい人材に巡り合えた」


それは康太のことを言っているのかそれとも文のことを言っているのか、それは定かではないが副本部長は薄く笑みを浮かべているようだった。


康太のことを一番危険視していたと思われる人物だっただけにこの反応は少々予想外だった。


おそらく副本部長は口で証明されるよりも行動で証明されるほうがわかりやすくていいと考えているのだろう。


何よりも実績を重んじるといえばいいだろうか、そういう意味では誰よりも確実で実直な人間なのかもしれない。


「さて・・・では報酬の話に移ろう。金銭で与えるか、あるいはほかの権利を与えることもできるが・・・どちらがいい?」


金銭か権利か。今までとは違う報酬の相談だっただけに康太と文は顔を見合わせてしまっていた。

今までは基本的に金銭での支払いがメインだったためにこういったアプローチが来るとは思わなかっただけに少し困惑してしまう。


「ちなみに金銭だとどれくらいですか?」


「そうだな・・・日本円に直して一人当たり五百万といったところか。本部の依頼、しかも封印指定になりかけている案件であればこの程度・・・いやこの程度でも少ないほうだろう」


今回は直接封印指定を解決したわけでもないために比較的安めの金額設定になっているようだったが、それでも高校生には過ぎた小遣いだ。


一瞬のどから手が出かけるが、そんな康太を制止して文が前に出る。


「権利を選択すると、例えばどのような?」


「そうだな・・・本部にある図書館の閲覧権限を与えよう。必要とあらば本部の施設のいくつかを利用してかまわない」


本来ならば本部の人間しか使うことのできない施設を使用することができる。これはこれで破格だ。何せ本部に所属することなく本部の人間が得ている利権をそのまま得ることができるということなのだから。


これは選択するだけ野暮だなと康太と文は互いに頷く。


「なら権利のほうをお願いします。本部施設の利用権限をお願いします」


金銭で五百万を渡されても康太たちからすれば使い道に困るものばかり。ならば継続的に利用できるもののほうが価値があると判断した。


「わかった。権利証を発効しておこう。出来上がったら日本の支部長のもとに届ける。ではご苦労だった。今後も期待している」


成果を出しているうちは便宜は図ってやる。そういっているかのような副本部長の言葉に康太と文はわずかに緊張を強いられていた。













「ふぅ・・・ようやく一息つけるな」


「そうね・・・ようやく慣れた場所に来られて安心って感じだわ」


康太たちはようやく今回の依頼が終わったことで一息ついていた。


京都に行ったり戦ったりとやたらと密度の高い依頼だったなと康太と文はこの依頼をしっかりと終えられたことに大きく安堵していた。


ソファに座り、全体重を預ける形でゆっくりとし始める。


「うん・・・とてもいいことだね・・・でもここでそれを言うのはちょっと間違ってやいないかなぁ?」


この場所はいま二人に突っ込みを入れた人物、日本支部支部長の部屋、つまりは魔術協会日本支部、支部長室である。


毎度のようにやってきている康太と文からすれば、ここもある意味安全区域のようなものだった。


「いえいえ、一応報告を含めて支部長のところにくるのが筋でしょう。何せ今回の依頼は間接的にとはいえ支部長からきてるわけですし」


「まぁそうなんだけどね・・・でも今回はずいぶんと疲れてるね」


「今回はちょっと派手に戦闘しましたからね。私もちょっと疲れました」


康太たちが最近受けることが多かった調査メインの依頼よりも、今回は戦闘重視の依頼という形になってしまっていた。


そのため全力で戦闘をする羽目になったのだが、今回は全力で戦っても勝てない相手が敵側にいたために二人の疲労は今まで以上のものになっているのだ。


「報告しますと・・・本部側からの要請は無事達成しました。けど今回は負けですね。勝てませんでした」


「勝てなかった・・・って君たちがかい?え?どうして!?」


支部長としては康太たちが勝てなかったという事実が信じられなかったようで机をたたきながら勢いよく立ち上がってしまう。


小百合たちには劣るとはいえ康太たちの戦闘能力はかなり高いほうだ。その康太たちでも勝てなかったのであれば何か理由があるのではないかと考えたのだろうが、実際にあの魔術師と戦った康太からすれば理由などあってないようなものだ。


単純に実力が足りなかっただけの話だ。


「いやどうしてと言われても・・・相手のほうが強かったからとしか言いようがないんですけど・・・」


「君たちより強い魔術師って・・・ちなみに相手はうちの・・・日本支部の人間かい?」


「いえ、言葉がちょっと鈍ってましたし日本人じゃないと思います。日本支部所属かどうかはわかりませんけど・・・あ、こんな感じの仮面着けてました」


そう言って康太は近くにあったメモ用紙に簡単ながら仮面の絵を描く。


康太にはあまり絵心がないために本当に大雑把な形となってしまうが、情報としては貴重なのだろう、支部長はその絵をまじまじと眺めていた。


「・・・戦ったのはブライトビーだけ?ライリーベルは?」


「私は一緒にいたトゥトゥと一緒に逃げました。その間ビーが時間稼ぎを。その段階でビーは勝てないと判断して逃走したそうです」


「あの判断は正しかったと思いますよ。もしあと数秒逃げるのが遅かったら細切れになっていたかもしれません」


「君がそこまで言うとは・・・いや・・・まぁ他の支部にも武闘派の魔術師は多くいるから、そういう事態になっても不思議はないのだけれど・・・」


支部長の言うように、日本支部だけが武闘派の魔術師を有しているわけではない。他の支部にも小百合のような武闘派の魔術師は存在している。


どの支部にも総じて問題児はいるものなのだ。支部長の話によれば各支部の支部長はそれらとうまく折り合いをつけて何とか乗り切っているらしい。


そんな話を聞くと支部長という役職は非常に苦労するものなのだなと少しだけ申し訳なくなってしまう。


「戦った感じ、まだまだ手の内を隠している感じはありました。実力的には姉さんと同等・・・あるいはそれ以上、師匠以下であるように思われます。俺じゃまず勝てません」


「結構消耗した状態で戦ったんでしょ?万全の状態だったら?」


「・・・難しいな・・・さっきも言ったけど相手の底が見えなかった。マックスがわからないのに勝てるかどうかって算段は出せない・・・でも」


「でも?」


「次は勝つ。俺に足りないものはいくつも見えた。それを改善していって、次同じように戦うことがあったら、その時は俺が勝つ」


その時康太から放たれたわずかな殺気。純粋にあの魔術師に勝ちたいという気持ちを含め、その欲求が殺気となって漏れたような、そんな感じだった。


文はそんな康太の様子を見て小さくため息をつく。問題は康太が勝てないと思った魔術師が本部と敵対している組織に属しているということだ。


「支部長、今後本部からビーと私あてに依頼が来るかもしれません。もしかしたら日本支部に対しても協力要請があるかも。その場合今回私たちが勝てなかった相手が敵になる可能性は高いと考えてください」


「まぁ・・・そうなるだろうね・・・話を聞く限りだと間違いなく・・・いやぁ・・・ちょっと嫌な感じだなぁ・・・」


「ですが同時に、ビーが勝てないと思う程度には実力がある魔術師です。探すのはそこまで難しくはないと思います」


康太以上の戦闘能力を持っている魔術師となると確かにかなり限られる。不意打ちやだまし討ちではなく正々堂々と正面から戦って勝てないとなると支部の中でも数えられる程度しかいないのではないかと思えるほどだ。


他国の支部が膨大にあるためにそれでも数百人、あるいは千人規模の話になるかもしれないが、それでもかなり数が限られたのは間違いないだろう。


そして今後康太が魔術師として戦っていく中で、一つの目標ができた。あの魔術師に勝つ。


師匠や兄弟子以外に久しぶりに負けた。その事実が、康太をより高みに向かわせようとしていた。


その様子を見ていた支部長からすれば、康太がこれ以上強くなっていくのは好ましくもあり、同時に不安でもあるのだが、それはまた別の話である。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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