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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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本部の思惑と報告

「なるほど・・・そのようなことになっていましたか・・・話を聞く限りビーは無事でしょう。理由も勝算もなく無茶をするようなタイプではありませんから」


「だといいんですけど・・・ていうかアリス、なんであんたジョアさんも連れてきたの?」


「お前たちのピンチだと話したらついてきただけだ。まったく、おかげで全く出番がなかったではないか」


アリスとしては助けを求めに来た文たちを颯爽と助け、渾身のどや顔をしたかったのだろうが残念ながらその役回りは真理に奪われてしまった。


結果的に文たちのピンチはなくなったのだからよいと考えるのだが、どうしても腑に落ちないのか不満そうにしている。


「とはいえ、関係者の一人を連れているとなるとこのままとどまっているのもよくないですね・・・早いところビーが来るといいんですが・・・」


「そうは言いますけどウィルがここにいますからね・・・一気に移動っていうのは難しいと思いますよ?」


「そうですね・・・ビーの機動力はそれなり以上ですが、魔力があってこそ成り立つものです。戦闘後で魔力が限られている状態ではつらいかもしれませんね」


文と真理の考察はおおよそ正解である。康太は残り少ない魔力を酷使しながらとにかく急いで移動しようとしていた。


通常よりも何倍も速く移動できているのはひとえに噴出の魔術のおかげである。


「あぁそうだアリス。こいつを一応副本部長のところに連れて行くんだけど、また通訳お願いできない?こいつ・・・っていうかこいつらか・・・なんかよくわかんない言葉しゃべってたのよ」


「通訳するのは構わんが通訳できるかはわからんぞ?さすがの私も同時通訳にも限りがある。知らない言語は通訳できん」


「あー・・・そればっかりは聞いてみないとわからないのか・・・って言われてもなぁ・・・あれ何語かしら?」


「俺に聞くなよ。俺英語だってあんまり成績良くないんだから」


倉敷も彼らがいったい何語を話していたのかは理解できていないようだった。無理のない話である。文たちは超常現象を起こせるだけの能力を有しているが、その学力は総じてただの高校生と同じなのだから。


「まぁよかろう・・・ではビーが戻ってきたら本部に行くのか。それまでは体を休めておくがいい。見た限りだいぶ消耗しているように見えるぞ?」


アリスの言葉の通り、文も倉敷もだいぶ消耗してしまっている。倉敷に至っては一度魔力を完全に空っぽにしてしまったため、今急いで魔力を供給しているところだった。


文は魔力の消耗こそ少ないものの、かなりの数の魔術を同時に発動し続けていたために精神的にかなり消耗していた。


周りが敵だらけという状況を潜り抜けるために常に気を張っていたため、文の消耗はかなり大きなものになっている。


こうして真理とアリスに出会えたために安心できている今こそ、文はしっかりと休むべきなのだ。


「にしても・・・それだけの大人数で仕掛けるとは・・・その連中もかなり本気でやってきているということか・・・協会を辞することも厭わないという感じかの?」


「どっちかっていうと、ばれるはずがないって感じなのかもね。今回の回収役に加えてこうして待ち伏せまでしてるんだもの・・・私たちが援軍要請してなかったら負けてたかも」


「どうだか・・・ベルならばこやつらを一掃していたのではないか?それができないとは思えんが」


「疲れてる状態で連戦ってやりたくないわ。それはアリスだってそうでしょ?」


万全の状態ならばこの魔術師たちを倒すことくらいは文にもできたかもしれないが、精神的にも疲労していた今の状態で倒せたかは怪しいところである。


少なくとも今の文は万全の状態とは程遠い。


あれだけの人数を一度に相手にしたのは文も初めての経験だった。彼女が思っている以上に疲労は彼女をむしばんでいるのである。


「ビーはどうだったのだ?あれも多人数連戦というのは初めてなのでは?」


「そうでもないと思うわよ?あいつ結構連戦とかしてるっぽいし・・・今回なんて五人同時に相手して抑え込んでたのよ?」


「五人ですか・・・それはそれは・・・ビーもなかなかやるようになりましたね」


康太の戦果を聞いて真理は満足そうに何度もうなずく。自分の弟弟子が成長したことを素直にうれしく思っているようだった。


真理ならばきっと足止めなどではなく五人の魔術師を瞬殺していたのだろうなと文が考えていると、物音が四人の耳に届く。


全員がその方向に目を向けてから数秒間、沈黙が続いたかと思うと物音がした方向から噴出の魔術を使って飛んできた康太が姿を現した。


「ようやくついた・・・あー疲れた・・・!」


「ビー、無事でよかった」


「おう・・・ってあれ?姉さんにアリス。なんで二人がここに?」


「援軍として来てもらったのよ。予想通り待ち伏せがいたんだけど、二人が一瞬で倒しちゃったわ」


文に続くように周りに転がっている魔術師に視線を向けると、さすが姉さんだなと康太は何度もうなずいてその成果に納得しているようだった。


この魔術師たちすべてを真理が倒したと康太は考えているようだった。実際どうなのかは直接見ていた文でさえも理解できていない。


戦闘能力にここまで差があると悔しいという気持ちも浮かんでこないのは仕方がないというものだろう。


「で、これからどうする?本部に行くのか?」


「そうね、こいつらを連れて行きましょ。さっきアリスに通訳頼んだところ」


「さっきもベルに言ったが、私が知っている言語でなければ通訳はできんぞ?まぁお前たちが尋問までやるのかと聞かれると微妙なところではあるが」


小柄な魔術師は敵側の援軍の中で最も戦闘能力が高かった。最後に現れたあの魔術師がいわゆる後始末を行う最終防衛ラインだとするならば、この魔術師はいわゆる主力に値する魔術師であるのは間違いない。


ならば何かしらの情報を持っていて然るべきだ。それを副本部長に引き渡すまでが康太たちの仕事。逆に言えばそこから先に踏み込む必要は今のところはない。


この小柄な魔術師がどのような言語を使っていたか、康太は理解できなかったがアリスならばという期待はある。


それに待ち伏せをしていた魔術師たちにも事情を確認しておきたい。もし相手の勢力の一員ならば多少情報が期待できるだろうと文は考えていた。


「とりあえず早々に協会本部に行こう。この辺りにいる連中は放置したほうがいいだろ。たぶん本部の連中はこの状況を常に観察してるだろうしな」


そう言いながら康太は視線をあたりに向ける。康太の感知技能をすべて用いても、今この状況で『見られている』と感じることはできなかった。


もしかしたら小百合ならば何かしら感じ取ったのかもしれないが、康太の知覚ではそれを感じ取ることはできない。


「まとめて本部に連れていくっていうのもありだと思うけど?その分収穫が増えるし」


「本部としては大きな動きをしてくれたほうがありがたいんじゃないか?俺らが倒した相手も含めて二十人近い数になるぞ」


「なるほど・・・後始末でこれだけの数を動かせば、確かに目立つか・・・本部はそれを狙ってると」


「俺らが戦ってる時も全く干渉してこなかったからな。本部には本部の思惑があると思っていいだろ。必要に駆られれば動くことになるかもしれないけどな」


こういっているが、康太はこれ以上戦闘をするだけの余裕はなかった。用意してきた装備の八割を使い切り、魔力もほとんどなくなっている。あとは自分自身の戦闘能力とウィルに協力してもらっての耐久戦くらいしかできる気がしない。


これから本部に何か頼まれたところで断ることしかできないのが現状だ。


康太たちは小柄な魔術師を連れて協会の門をくぐり、教会から支部へ、支部から本部へと足を運ぶ。


副本部長への面会は思っていたよりもずっと早くかなった。おそらく副本部長としても成果の報告を待ちわびていたのだろう。


「さて・・・報告を聞こうか」


康太たちが副本部長の部屋を訪れるとその声が聞こえてくる。アリスがすでに翻訳してくれているということで康太たちは目の前に小柄な魔術師を転がしながら一息ついてから話を始めることにした。


「襲撃してきた人数は十五人程度、かなり集団戦に長けた奴らでした。戦力を断続的に出してくれたためにこちらとしては助かりましたが・・・一斉に襲い掛かられたらどうなっていたか」


康太の言うように、もし一斉に襲い掛かられていたら康太たちは負けていたかもしれない。いや間違いなく負けていただろう。


相手がそれだけ戦力を温存していたということは決してこちらをなめていないということに他ならない。相手も人間だ、ミスをしないという保証はないというところだろう。


「情報を流した時点でこうなることはわかっていた。あとは我々の仕事だ。お前たちは十分に釣り餌としての役割を果たしてくれた。感謝しておこう」


「そりゃどうも・・・こいつはどうする?一応結構な実力を持ってたやつを引きずってきたけど・・・」


「ありがたい。情報源として丁重に扱わせてもらおう。こちらの意向を察して数を限定してくれたことにも感謝を述べておこうか」


やはり人数を少なくして正解だったかと康太は安堵の息を吐きながらも、同時に少しだけ眉を顰めた。


「だけど気をつけたほうがいい。相手に・・・うちの師匠クラスの人間がいた」


「・・・デブリス・クラリスと同レベル・・・と?」


「戦ってみた感じ・・・まだ相手は本気を出してなかったからマックスがどの程度かはわからないけど・・・師匠と似た威圧感は感じた。たとえ本部の人間でもなめてかかれる相手じゃないのは間違いない」


本部が警戒している相手の中にはそれだけの戦闘能力を有している人間がいる。しかもあのクラスの人間が一人とは思えないのだ。


最後の手段として回収役としてやってきたとしても。おそらくそれ以上の実力者をまだ控えさせているとみて間違いない。


「その魔術師には勝ったのか?」


「いや、無様にも逃げ帰ってきた・・・情けないと笑ってくれてもいいですよ?」


「・・・いや・・・了解した。気をつけておこう」


忠告を含めた康太の言葉。康太自身が逃げ帰ってきたということに、勝てなかったという事実に副本部長は事態の重さを理解したようだった。


康太が勝てないと思える相手。今まで康太の身内以外ではそういなかった。結果的に勝てなかった相手はいる。だがそれはまだ康太が未熟すぎたころの話だ。


ある程度戦闘能力を得た今の状態で勝てない相手というのはかなり限られる。それだけの相手が敵側にいるという事実。それは本部側としてもかなり重い事実として受け止めなければならないだろう。


報告は終え、あとは本部側からの通達を待つだけだが、これ以上の行動続行は不可能に近い。

そのあたりを告げるべきだったかなと康太は少しだけ後悔していた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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