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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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撤退

戦略的撤退。康太はそう決めるとその体の中から黒い瘴気を大量に散布し周囲を埋め尽くしていく。


康太は即座に移動した。炸裂鉄球のいくつかを発射し、相手に攻撃すると同時に足止めをしながら一気に距離を空けようとする。


目の前の魔術師も康太が退こうとしているのを理解したのか、追撃をかけようと魔術を発動するもすでに康太はその場にはいなかった。


大量の氷の刃を強力な風に乗せてあたりにまき散らすその攻撃に、周囲にあった木々が傷つけられ、ものによってはなぎ倒されていく。


風によって勢いを増した氷の刃。さらに竜巻の様に形を変えて周囲のものを引き寄せては切り刻んでいく。


あの風につかまったら康太の今の防御力では防ぎようがない。


噴出の魔術と身体能力強化の魔術を駆使し山の中に逃げ込み高速で木々をよけながら移動し続けていた。


「あっぶね・・・!まだあんな攻撃残してたのか・・・逃げて正解だったな・・・」


自分の通り過ぎた場所に立っていた木々のいくつかが切り倒されたのを確認して康太は自分の判断が正しかったことを再度理解する。


あれだけの攻撃力をまだ残していた。魔力もそうだがまだ康太に見せていない攻撃もいくつかあっただろう。


相手が余裕を持ちながら戦闘をしているのは理解していたが、まさかここまで戦力差があるとは思っていなかった。


康太の残り魔力はすでに一割を切っている。先ほどの戦闘で装備のほとんどを使い切り、残っているのは炸裂鉄球数回分と数本の杭、そして竹箒改と笹船だけとなってしまっている。


先ほどまでの一斉攻撃でも倒しきれなかった相手がこの程度の装備と魔力量で倒しきれるとは毛頭思っていなかった。


どのような手段を使ったのかは知らないが、康太の最後の炎の攻撃も効いていないようだった。


炎、風、氷、そして無属性。おそらくどの属性も高いレベルで扱うことができるのだろう。


それらすべてが戦闘に特化していることを考えると、やはり恐ろしい実力の持ち主だと言わざるを得ない。


正確なことは康太も判断しかねるがあの様子だとまだまだ戦闘続行可能。さらに言えば攻撃も防御も先ほどとは桁が違うものをいくつか持っていると康太は考えていた。


あの状態で後どれほど戦えたか。おそらく相手の次の攻撃を回避しきった段階で康太の魔力が尽きる。


「くっそ・・・まだまだあのレベルを相手にするには実力が足りないのか・・・一発一発の威力が全然低いのかな・・・?」


康太が有している攻撃はどれも威力はそれほど高くはない。いや、正確に言えば魔術師の張る障壁を破れるほどの威力を有していないというべきだろう。


やりようによっては障壁を破る方法もあるが、即座に相手に攻撃を仕掛けることができるほどの威力はない。


相手が高いレベルの戦闘力を有している状態では、互角に戦うことすらできない。障壁一つで完封されることだってあり得てしまう。


策を弄してようやく傷を一つか二つ負わせることができる程度だ。自分の実力を正確に把握しながら康太はため息をつく。


「今後の課題だな・・・これからは攻撃力が高い仕込みをいくつか用意しないと」


魔力量に限りがあり継続戦闘能力が低い康太はあらかじめ攻撃手段を用意しておくことでその戦闘能力を変えるほかない。


あれだけ攻撃したにもかかわらず与えた傷があの程度というのは康太のわずかながらに存在するプライドを大きく傷つけていた。


康太も最初の段階から消耗していた状態だったとはいえ、これ以上戦っても勝つことはほぼ不可能。無茶苦茶をすればもしかしたら勝てるかもしれないが、今回の依頼内容で無茶をするだけの価値はない。


戦いにすらならないのであれば取る手段はすでに決まっている。


戦略的撤退。伊達に毎日のように格上である小百合と訓練しているわけではないのだ。自分の引き際は見極めている。


索敵の魔術を定期的に発動するが、どうやら追跡してきてはいないようだった。多少なりとも負傷し、なおかつ周りに仲間と思わしき者たちが大量にいる状態であればこのまま康太を追うというわけにもいかないらしい。


そういう意味では幸いだといえるだろう。かなり急いで移動してきたためにかなり距離は稼げたが、そのせいで魔力消費がばかにならない。


このまま全力で移動していてはおそらくあと五分もしないうちに魔力が尽きるだろう。


すでにⅮの慟哭の魔力吸収可能範囲からは出てしまっている。自身で補給できる魔力にも限りがあるため全力移動は続けられない。


相手がどれほどの機動力を持っているのかはわからないが、早々に距離を開けることができたのは幸いだった。


とはいえ問題は先に逃げた文と倉敷だ。先に話をした通り、教会で待ち伏せをしているという可能性も否めない。


ウィルがいれば少量の魔力でも一度風に乗ってしまえばかなりの速度で移動できたのだが、すでにウィルを文たちに預けてしまっているために地道に移動するしかない。


康太は必死に山道を全力で走りながら自分の体の中で魔力を常に練っていく。


少しでも身体能力強化を発動し、少しでも噴出の魔術を使って移動速度を高める。今できる数少ないことだった。


「ベル、トゥトゥ、無事でいてくれよ・・・?」


先に逃げた文と倉敷のことを心配しながら、康太は一直線に教会に向けて走っていく。


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