同級生たち
康太と文が互いに知り合いであるというのを知っているからこそ同級生の友人たちは特に気にすることなくその様子を眺めていたが、ふと文の友人の一人が口を開いた。
「そう言えばさ、鐘子さんと八篠君って親戚同士なんだよね?」
「え?うんそうだけど」
「俺がそれを知ったのはつい最近だけどな」
余計な事言わないのと文がたしなめる中、女子たちの視線は文に集中している。もちろん男子たちの視線も同様だ。
何故康太が知らなかった親戚関係を文が先に知っていたのか、そして二人がどのような親戚関係なのか気になったのである。
無論家庭環境に無為に突っ込むようなことはしたくないために概要だけ聞ければ充分なのだ。それ以上の興味がないのはこの場にいる全員が理解している。
「そもそも私だって学校探索の時にあんたとすれ違わなければ思い出さなかったわよ。なんか見た顔だなって思って調べたり親に聞いたりしたら親戚だったってだけで・・・」
「ふぅん・・・じゃあ別に示し合って同じ高校に来たってわけじゃないんだ」
そんなことしないわよと文は小さくため息をついている。
その場の思い付きでついた嘘にしてはそれなり以上の説得力がある。理由があったわけではなく偶然であり、当人同士もほとんど知らないような親戚同士であれば親も連絡を取らない可能性が高い。
何より面倒だからこれ以上聞かないでくれというオーラを康太と文が出している。これ以上この話はやめておこうと互いにこれ以上深入りするつもりはないようだった。
「そっちは部活動は何なんだ?文がテニス部なのは知ってるけど」
「みんなテニス部だよ。基本部活で集まっちゃうからね・・・」
「やっぱそうなるよな。にしても女子のテニスか・・・華やかそうだよな」
「実際はそうでもないよ?結構汗かくしなんていうかがむしゃらだし・・・」
「男子テニスとそう変わらないよね。時々練習試合組まされるからたまったもんじゃないよ」
どうやら男子と女子で別れているテニス部の中で交流があるようだがそれほど待遇が異なるというわけではないようだった。
むしろ女子からすれば自分達よりも強い男子たちと戦えるという事もあってなかなか密度の濃い練習を日々送っているらしい。
男子のそれについていけるだけの体力と技術があれば十分に女子の間では通用するだろうが、どれほどのものなのか康太たちは全くイメージできなかった。
「康太は一度テニスやってたのよね?中学の時だったっけ?」
「あぁ、何打ってもホームランになったからさすがに転部したよ。あぁいうのをセンスがないっていうんだろうな」
「ボールに反応できてるなら運動神経はあるんだろうけどなぁ・・・何がダメなんだろうね?」
「今度教えてあげようか?それなりに上手だけど」
「いや遠慮しとく。練習の邪魔しちゃ悪いし何より文にこき使われそうだ」
「あら酷いわね、そんなことあまりしないわよ?」
少しはするつもりなのかよと康太がため息をつくと周りの友人たちは笑っている。
実際康太は運動神経は決して悪くはない。動体視力も反応速度も筋力も同級生の中ではそれなりに高い方だ。
ボールを見てから打ち返すことくらいはできるししっかりラケットにボールを直撃させることもできる。問題は狙った場所に打ち返すということができない点だろうか。
基本全力で打ち返すために大概がフェンスを越えてのホームラン。どんなに微調整しようとしてもどうしても大きなアーチを描いて明後日の方向へと飛んで行ってしまうのである。
いくら筋力があってもセンスがなければどうしようもないという典型的な例だろう。走る才能があっただけまだましという事だろうか。
「にしても二人は最近親戚同士って知ったのに随分仲良いのね。なんかすごく慣れてる感じ」
「ん?そうか?」
「そうかしら?そこまで気にしたことなかったけど」
普段小百合の訓練を一緒に受けて苦労を分かち合っているというのもあって康太と文はそれなりに仲が良くなっている。
同級生の中で唯一存在している魔術師という事もあって互いの実力を理解しているし人格的に信頼している。
それは他者から見れば十分以上に仲が良い友人のように見えただろう。あってまだ一ヶ月も経っていないようにはとても見えないほどだ。
「まぁあれだ・・・こいつ地味に猫被ってるからな。そう言うのが無くなるとずけずけといろいろと」
「はい余計なことは言わないの。あとで酷いわよ?」
康太の首根っこを掴んで黙らせながら文は全くもうと苦笑して見せる。猫を被っているつもりなどないのだがと多少心外であるようなそぶりをしているが、康太からすれば文の仕草は自分と一緒にいる時に比べて非常にわざとらしい。
なんというか余所行きの動作に見えるのだ。自分と二人の時はもっと雑だし何より攻撃的だ。
もちろん正体を隠すという意味ではそう言う演技も必要なのだろうが、あまりに露骨すぎるような気がしてならないのである。
「とりあえず次どこに行くか決めましょ、さっき言ってたケーキが美味しいお店とかいいかもね」
「うん、それはいいんだけど・・・そろそろ放してあげたら?」
シャツを引っ張られ続けているために呼吸が苦しくなり始めている康太は後で仕返ししてやると心に決めながらもだえていた。
文に解放された康太がその場に倒れ込むのはその数秒後の事である。