格上
康太たちが魔術師たちを縛っていると、短い悲鳴が聞こえたかと思えば先ほどまで黒い球体があった場所に肥満体形の魔術師が倒れ伏していた。
どうやら本格的に酸欠になり、障壁を保てるほどの集中を維持できなかったようだった。
そして障壁が解除された瞬間に文の発動していた電撃によって体の自由を奪われてしまったのだろう。
「ようやくか。なかなか根性あったな」
「そうだな、一応ちゃんと気絶させておくか」
倉敷はそういって必死に酸素を取り込もうとしている肥満体形の魔術師の口から強制的に水を肺へと流し込み、無理やりに気絶させる。
水を操ることができる術師と戦う時はこれを気をつけなければいけないのだ。人間は肺の中に水が入ると強制的に意識が落ちる。
もともと空気を入れるための器官に異物が入るのだから当然と言えば当然の反応なのかもしれないが、陸にいながら溺れるような状態を簡単に作ることができるのだ。
かつて戦った時と比べるとさらに水の微細なコントロールができるようになっている倉敷に康太は感心してしまっていた。
「お前どんどん水の扱い慣れていくな・・・今度戦ったら勝てないかもな」
「二度とお前と戦うもんかよ。この一年でもう懲りた。お前と戦うくらいなら菓子折りもって土下座しに行くわ」
「そこまでかよ、ずいぶんと嫌われたもんだな。こっちは結構助かったからいいんだけどさ・・・お前もいい経験できたろ?」
「あのな、好き好んで戦おうとは思わないんだよ俺の場合。お前みたいに戦闘狂じゃないんだからさ」
「失礼なこと言う奴だな。俺だって戦闘狂ってわけじゃないぞ。仕方なく戦ってるだけだっての。降りかかる火の粉を振り払ってるだけだ」
「どうだか、戦ってるときすごく楽しそうだったぞ?」
「・・・マジ?」
「マジ。生き生きしてたな」
倉敷の思わぬ発言に康太は自分の今までの行動や戦闘時のことを思い返していた。
戦闘を楽しんでいる、生き生きしているなどと言われたのは康太としてもかなり心外だったが、心当たりが全くないというわけではなかった。
自分が徐々に小百合のようになっていくのではないかと不安になりながら康太がその場で頭を抱えていると、肥満体形の魔術師を縛り上げた文が仮面の下でけげんな表情をしながら近づいてくる。
「何やってんのよあんたたち。こいつら運ぶ手段は考えたわけ?」
「あー・・・どうしよっか。来た時みたいにこいつのパラグライダーでぱぱっと何とかならないのか?」
「この人数だからね・・・ウィルの強度が持つかどうか・・・いっそのことワイヤーも併用してってのも考えたいわね・・・ちょっとビー、いつまで落ち込んでるわけ?さっさとこいつら運ぶわよ・・・っ!?」
文が康太に近づこうとした瞬間、文は自分たちがやってきた方向、つまり協会の門を所持している教会の方角を見る。
一体どうしたのかと倉敷が疑問符を飛ばしていると、頭を抱えていた康太も不意に顔を上げる。
「・・・なんか来るな」
「まだあんたの索敵に引っかかる距離じゃないでしょ・・・なんであんたまでわかるのよ」
「・・・勘・・・なんか威圧感が近づいて来る・・・師匠みたいな気配だな」
文は索敵によって、康太は自らの鍛えられた感性によってそれを感じ取っていた。
距離はおよそ二百メートルほど。速度からして歩いてきていることがうかがえる。
急いではいないようだが文はその存在が内包している魔力の量から、康太はその存在が有する気配から警戒のレベルを引き上げていた。
「おいおいマジかよまだ来るのかよ・・・!こちとらもう魔力二割くらいしか残ってないんだぞ」
「・・・ビー、あんたの戦力はどれくらい?」
「装備には余裕はあるけど魔力が心もとないな・・・あと三割ってところか・・・ラストで結構使ったからな・・・」
「今のうちに少しでも回復しておきなさい。私から持って行っていいから」
「サンキュ・・・んじゃ遠慮なく」
康太はそういって黒い瘴気を文へと飛ばしていき、文から魔力を奪っていく。持ち前の供給口に加えて少しでも魔力を回復させようとするが、相手がやってくるまで、山道を歩いていることもあっておそらくあと十分かかるか否かといったところ。
康太の貧弱な供給口では完全に魔力が回復する時間ではない。
「しかもクラリスさんに似た気配か・・・どうする?」
「相手の出方によるけど、いつでも撤退できるようにしたほうがいいな・・・ベル、相手の魔力量は?」
「結構多いわよ?私と同じくらいかしら」
文と同程度の魔力を有しているということは相手の魔術師は文と同格の魔術師かもわからないということだ。
魔術師のランクは素質のバランスの良さで決まるため、内包している魔力量だけでは判断できないがそれだけの魔力量を有しているというのはそれだけで脅威である。
特に今のように消耗している状態では、絶対に相手にしたくない相手である。
「相手の敵意とかはわかる?わかれば今のうちから行動できるけど」
「この距離だしなぁ・・・直接会えばわかると思う。どうにでも動けるようにしておけよ。最悪デビットに頑張ってもらって煙幕代わりにするから」
Ⅾの慟哭を使えば魔術師相手にならば煙幕のような使い方もできる。完全に撤退戦を想定した戦い方だが相手が格上である可能性がある以上、一か八かよりも堅実な戦いを求められるのは間違いない。
その人物はゆっくりと康太たちの前に姿を現した。人数は一人。
身長は百七十程度、中肉中背といったところだろうか、その仮面は上下で全く異なるデザインが施されていた。上は角ばった岩のような印象を受け、下半分は滑らかな、水のような印象を受けるデザインだ。
外見的な特徴から、少なくとも倉敷には相手がそれほどに強い人間であるようには思わなかった。
文も、相手の魔力量こそ多いのはわかるが、康太がそれほど警戒するだけのものがあるのかは把握できない。
だがこの場で、この中で、康太だけは冷や汗をかいていた。
自分の間違いであると思いたいほど、自分が思い違いをしていると信じ込みたいほどに目の前にいる人物の気配、威圧感を感じることで撤退の二文字が強烈に浮かび上がってきているのを感じていた。
「ハじめマして。そレらをかいしゅうシにキた・・・ホン、ぶのものだ」
片言の日本語だが、間違いなく自分が本部の人間であると告げたことで倉敷は一瞬警戒を解いていた。
この状況で回収しに来たというのは道理に合っているように思えたからだ。戦力のすべてを倒し、この者たちをすべて引き連れて尋問すれば情報は多く手に入るだろう。
だが康太と文はその言葉に警戒を強くし、むしろ相手が敵であるという確信を持ったかのように構える。
本部の人間がこの場にやってくることはまずありえない。本部は今裏で動いているのだ。相手がどのように動くのか、どのような方法で自分たちにちょっかいを出してきたのかを調べ、なおかつその相手がどの程度の規模なのかを『観察』しているのだ。
たとえ戦闘が終わったからと言って、まだほかにも伏兵がいる可能性があるかもしれない状況でのこのこやってくるほど本部は間抜けではない。
「ベル、逃げるぞ、この連中は置いておいて構わない。とにかく教会まで逃げる・・・」
「逃げるの?三対一なら勝てるんじゃ」
「目の前の相手、師匠と似た気配がする。今は隠してるけど・・・たぶんだいぶやばい相手だ」
小百合と似た気配の相手という言葉に文は戦慄していた。
康太はほぼ毎日のように小百合と訓練している。本気になったときの小百合と対峙するようなことも何度かあっただろう。
その康太が小百合と似た気配を目の前の魔術師に感じているのだ。相手は小百合と同じか、それ以上の実力者であるというのが康太の予想だった。
「ベルとトゥトゥにはウィルを預ける。それで教会まで全力で逃げろ。支部までたどり着けば何とかなる・・・ただ、教会の門の部分で待ち伏せされる可能性も考えておけよ」
「ビーは?」
「最低限足止めする。たぶん五分くらいは足止めできると思う」
五分。文が風を起こしてウィルの空中移動を使っても五分でどこまで移動できるかわかったものではない。
何より足止めをするということは康太がこの場に残るということだ。文としてはそれは容認できないが、康太がそうするといった以上もう聞かないのは理解していた。
「一応、救援を呼んでおく?」
「・・そうだな、頼みたいかも。俺には手に余る相手かもしれない」
康太は槍を構えた状態で前に出る。康太の体からウィルが剥がれ落ち、文を守るようにその体にまとわりついてその一部を鎧に変化させていた。
「・・・そこの一人だけは連れていくわ。万が一の時に人質交換に使えるかもしれないしね・・・」
そう言って文はウィルに頼んで小柄な魔術師をウィルに掴ませる。三人ならば空中で移動できるのは来るときに確認済みだ
「それじゃトゥトゥ、ベルを頼んだ。俺が合図したら行けよ」
康太はそういってゆっくりと近づいていき息を吸う。
「悪いけど、こいつらは俺らが直接本部に連れていく。あんたの手は借りなくていい・・・悪いが引き上げてくれないか?」
まずは会話を試みる。これで相手が引いてくれればそれでよし。引き上げてくれなければその時は、是非もない。
相手が片言の日本語を話したということもあって、正直今の言葉が通じたかどうかも怪しいところだが、康太からすればこちらはすでに警戒している、お前を信用していないというアピールをしているのだ。
そのアピールに気付かないほど相手も間抜けではないだろう。
話し合いをしながらも、何とか引いてくれないかという康太の思惑を相手も察したのだろう。だが、だからと言って引くわけにはいかないようだった。
「そレらは、おれがかい、しゅうスる。にど、めはナい・・・!」
「・・・そうですか・・・そりゃ難儀なことで・・・」
もはや言葉では解決しそうにない。相手がわずかに威圧感を強めたことで、文と倉敷もようやく相手が危険な存在であるということを認識できたようだった。
せめて相手が通常の魔術師のセオリー通りにある程度様子見で弱い魔術を使ってくれればよいのだが、おそらくそう簡単にはいかないだろう。
何せ康太たちはこれまでの戦闘で手の内をいくつも明かしてしまっている。あの相手が今までの戦闘をつぶさに観察していたとしたら、こちらの手の内のほとんどを理解したうえで戦うということだ。
攻略の方法もその手順も考えていたとしても不思議はない。
最初から全力の戦闘になりかねない。康太は呼吸を整えていつでも動けるように姿勢を低くしていた。
康太が戦闘態勢に入ったからか、相手も魔力を高めていつでも攻撃できるようにしているようだった。
とはいえ相手から攻撃することはないようだ。相手が欲しいのは大義名分。そしてそれは康太も同じだった。
これでこちらが攻撃すれば、相手からすれば康太が攻撃してきたから反撃したという大義名分が得られる。
たとえ相手が本部にちょっかいを出した魔術師のチームだったとしても、本部の名を偽ったとしても、先に攻撃してきたのは康太だという大義名分さえあればある程度いいわけにもなる。
逆に康太も相手に攻撃させることでこちらが反撃したという大義名分を得たかった。相手が本部を名乗っている以上自分たちから攻撃すれば不利になるのは明白。
互いに持久戦、互いに相手が動くのを待っているが持久戦になったときに不利な環境になるのは主に自分たちだと康太は考えていた。
何せ周りで気絶している魔術師たちが目を覚まして目の前の魔術師に加勢しないとも限らないのだ。
だが同時に、それは康太たちと対峙している魔術師も考えていることだった。
この場に気絶している魔術師たちがその姿を見たときに、この魔術師に加勢することを恐れているのだ。
本部の魔術師であるという名乗りを上げたのに、本部の人間に加勢をするというのは大きな矛盾を生みかねない。
何よりこの魔術師たちと知り合いだとすら思われなくないのだ。
奇しくも相手と康太たちの利害は一致している。早く戦闘に移行し、打倒、あるいは退避したいと。
緊張状態が続く中、康太が前に出たのに対して文と倉敷は徐々に魔術師から距離を取っていた。
すり足を使ってゆっくりと、本当に少しずつ距離を作る。仮に康太が攻撃を開始しても一度に攻撃されるようなことがないような距離にいなければならない。
いつになったら硬直状態が解けるのか、康太たちが冷や汗を流しているとそれは起きてしまった。
康太たちが捕縛した魔術師の一人が目を覚ましたのかうめき声をあげて首を動かし始めたのである。
その様子に明らかに反応した目の前の魔術師。康太にはその魔術師がわずかに舌打ちをしたのが聞こえていた。
この反応から康太は目の前の魔術師がこの周囲に倒れている魔術師たちの仲間であるという確信を得る。
そしてこの状況を変える一つの手段を思いついた。
「ならそうだ、あんた、こいつらを連れて一緒に本部に行かないか?依頼主のところまで一緒に送り届けようぜ。そうすればあんたも俺たちも納得できるって話だ」
言葉が正確に伝わっているかはわからない。可能な限りゆっくりと、そして丁寧にそう伝えた。
相手はこの魔術師たちを回収したい。しかも本部に所属していると名乗っているのだ。さらに言えばこの人数、人手が欲しいのは明確。
ならば康太たちが一緒に運ぼうというのは道理であり、何より自然な流れだ。
対峙している魔術師も、康太の提案を理解していた。そしてそれがまずいということも理解できていた。
ここで康太の提案を受けるわけにはいかないが、この提案を拒否することが明らかに不自然であることも事実。
目を覚まし、今にもその存在を認知しそうな人間がいるにもかかわらず放置しておくことはできない。
魔術師は魔術を発動し、目を覚ましかけていた魔術師に何か魔術をかける。すると魔術師は急に苦しみだしもだえるが、やがて動かなくなる。
索敵の魔術で調べるが死んではいないようだった。ただ気絶させられただけ。どのような手段を用いたのかは知らないが康太はそれが無属性魔術によるものということを認識できていた。
おそらくは念動力か何かで首を絞めただけだ。単純だがばれにくく、何より自分の手の内もほとんど明かさない。
相手は徹底するつもりだなと康太は目を細めていた。
「随分な手際だな・・・で?どうするんだ?一緒に行くのか?それとも自分だけでやるって駄々をこねるのか?」
「・・・」
康太の再三の問いかけに、魔術師は沈黙を保っていた。
彼の立場から言えば了承などできるはずがなかった。彼は本部と敵対した組織の一員、この場に転がっている魔術師たちの身内だった。
彼らを回収することこそ彼の目的であり、この魔術師たちを本部の手に渡らないようにすることがここに来た最大の理由だった。
ビデオを奪うことはもはや重要ではない。これだけの戦力を抱えている存在を本部に対して隠すことこそが最も重要であるのだ。
そのために取れる手段はもう限られている。穏便に話を進めることはもうできない。先ほどの康太の提案は確信をもって疑っているからこそのものだ。
もうばれないためには目の前にいる魔術師すべてを連れていくほかない。あるいは殺すしかない。
魔術師の纏う空気が一変する。覚悟を決めたかのように放たれる強い殺意に、文と倉敷は行動を起こそうとした。
瞬間、康太も本気で威圧する。相手がなりふり構わなくなったのであれば康太も本気で抵抗しなければすぐにやられると判断したのだ。
相手の魔力が活性化したのを確認し、目の前に現れたのは巨大な炎の塊だった。
速く大きい。これを回避するのは難しい、しかも背後には文たちがいる。回避よりも迎撃、そう感じて康太が動こうとした瞬間にその背後から大量の水が顕現し炎の塊へと襲い掛かる。
康太が攻撃されると同時に倉敷が残った魔力を使って水の防壁を張ったのである。相手の炎の力がかなり強かったこともあり防壁となった水はすべて蒸発してしまうが、そのために水蒸気が周囲に満ちていった。
思わぬタイミングで視界が遮られたことで康太は即座に判断した。これを逃す手はないと。
「行け!あとは俺が食い止める!」
康太の言葉とともに文はウィルを布状に変えると風の魔術を発動し上空へと飛翔する。
上空へと逃げ、そのまま協会のほうへと移動してしまえばこちらのものだ。あとは射程外をゆっくりとでも逃げればいいだけの話である。
だが康太がそんなことを考えていると相手の魔術師は巨大な竜巻を作り出して文たちが逃げるのを妨害しようとする。
文たちは今風の力で移動している。そのため風を巻き起こされると不安定になってしまう。あの竜巻以上の風を作り出さなければ脱出は難しい、いや竜巻より強い風を作り出しても脱出できないかもわからない。
「邪魔すんな!」
康太の腕に取り付けられている盾の中に内包されていた鉄球のいくつかを魔術師めがけて放つが、魔術師は目の前に障壁を展開して悠々と防いでしまう。単調な攻撃では隙を作ることはできないかと康太は歯噛みする。
だが文もこのままなすすべなく落とされるつもりはなかった。
「トゥトゥ、ごめん、ちょっと苦しいかもしれないけど我慢してよね」
「今のほうが苦しいよ!ぐるぐるして吐きそうだ!」
「これ終わったらよけいに吐くかもだから!覚悟してね!」
拒否権は与えないというかのように文は自分の体と倉敷の体に電撃を通し、その体を雷光で覆っていく。
ウィルの形をただの鎧の様に戻すと同時に、文と倉敷の体が不自然に加速する。風の勢いなど全く無視するかのように突破し、竜巻の猛威から逃れて見せた。
文が普段小さな杭を飛ばすために使っている磁力による加速を自身の体にかけたのだ。急加速によって体にとてつもないGがかかるが、このまま康太に迷惑をかけるよりは良いと判断したのだろう。
「さっすがベル・・・無茶するなぁ・・・」
そう言いつつも康太はこの場から文たちが逃げ出したことに安堵しながら、これで存分に戦うことができると小さくため息をついていた。
文たちを逃したことを理解したのか、魔術師は竜巻を止め康太に向き直る。
現在相手が使用した魔術は火と風、そして無属性の障壁魔術。奇しくも康太と同じ属性を操ることができる魔術師だった。
だがそれぞれの魔術の性能が違いすぎる。火の弾丸というより先ほどのは砲弾だ。そして康太は旋風しか起こせないが相手は竜巻を起こせる。
そして康太の炸裂鉄球を簡単に防ぐだけの障壁。相手は完全に康太の上位互換の魔術を扱えるようだった。
あれだけの威力を連続して使ってきたということは、おそらく相手の素質は文と同等のAランク程度はあるとみて間違いない。
長期戦では不利なのは明白。ならば短期戦で挑むほかない。
「行くぞ!デビット!」
康太は文との間につないでいたデビットの魔力吸引を解除し、目の前の魔術師めがけて黒い瘴気を走らせる。
魔術師は黒い瘴気を警戒したのか突風を巻き起こして瘴気を巻き返そうとするが、この黒い瘴気は風に追い返されるようなものではない。
広範囲に散布した黒い瘴気は簡単に相手の魔術師を包み込み、その体から魔力を奪っていく。
自分の魔力が奪われていることを理解したのか、相手の魔術師は即座に手元に炎を起こすとそれを風に乗せて康太めがけて襲い掛からせてきた。
風と共に襲い掛かる炎、単純な射撃系の魔術とは異なり奇妙な軌道を描くが康太に回避できないほどではない。
身体能力強化の魔術を施して炎を回避しながら近づこうとすると、相手は何やらしゃがみ込んでその両手をこちらに向けてきている。
いったい何をするつもりか、相手が何をしようとしてきているのかは不明だったが康太の背筋が一瞬凍りつくような感覚を覚える。
次の瞬間、その両手から広範囲に向けて炎が放たれた。まるで巨大なスプレーの様に拡散する炎。
威力こそ低いが速く、広範囲に広がる炎は康太がいた場所を一瞬で飲み込んでいた。
「あっぶね・・・!」
康太はその炎から逃れていた。噴出の魔術を足に発動することで上空に急速に逃げたのである。
さらに言えばその体全身を無属性のエンチャントの魔術で覆うことで炎に対して最低限ではあるが防御していた。
相手の攻撃が来るとわかってからとっさに反応した。見てからではなくあらかじめ予測できたのにもかかわらず康太はよけきることができなかった。
ほんのわずかではあるが、康太の足は相手の炎からの被害を受けた。とはいえエンチャントの魔術のおかげで外傷はほとんどないに等しい。少し熱いと感じた程度だ。
「さすがに厳しいな・・・!畜生、おれも逃げておけばよかった」
康太は後悔しながらも眼下にいる魔術師をにらむ。明らかに格上の相手だ。まだこちらの手の内を探る段階にあるような気がする。そんな相手に康太は自分の口元がほんのわずかに笑みを作っていることに気付かなかった。
誤字報告を15件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




