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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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協力の強み

次の瞬間、ゴーレムに強い衝撃がかかる。だがその衝撃は大規模なものではない、小規模なものだった。


その衝撃が何らかの攻撃であると小柄な魔術師が気付いたのは目の前に康太の槍、竹箒改の切っ先が最終装甲を突き破って現れた時である。


ウィルの体によって包まれていた竹箒改にはいくつか仕掛けをしてある。その中には蓄積の魔術による強制的な射出も挙げられる。


各パーツに蓄積の魔術によって物理エネルギーを蓄積させることでいざという時に相手の防御を突き破れるように仕掛けをしておいたのだ。


切っ先が目の前に迫った瞬間は驚いたが、槍がその腹に突き刺さる寸前で止まった瞬間に、やはり自分の勝ちだと小柄な魔術師は確信する。早いところこの槍ごと康太を弾き飛ばして安全な戦いに移行しようとした瞬間、康太が笑う。


「ご愁傷さまだ。死んでも恨むなよ?」


康太の声が聞こえた瞬間、竹箒改に仕込まれた武器が発動する。


大蜂針。二つの刃に挟まれる形で取り付けられた巨大な杭、いや針は蓄積の魔術によって勢いよく射出され小柄な魔術師の腹部に深々と突き刺さる。


ゴーレムの中に悲鳴が響き渡る中、康太は竹箒改を回収するためにその先端に噴出の魔術を発動する。


すると巨大な針の突き刺さった部分を噴出の炎が焼きながら康太の体は竹箒改ごとゴーレムから離れていく。


ウィルも一緒にゴーレムから離れると、徐々にゴーレムはその体を保つことができなくなっていき、手や足といった末端から砕け落ちていく。


最後に残っていたのは腹部に巨大な針が刺さり、その傷口を焼かれた小柄な魔術師がいた。


腹部に突き刺さった巨大な針のせいで強烈な痛みが走り、さらにほぼ密閉された状態でその傷口ごと焼かれたせいで軽い酸欠状態にもなったのだろうか、著しく集中力が乱されゴーレムを維持することすらできなくなったようだった。


「ようやく出てきやがったな・・・!もうゴーレムも維持できないか?」


康太の声に対して魔術師は返答しない。ただ空気を吸おうと必死に肩を上下に動かしながら深呼吸していた。


酸欠が深刻なのか、康太のことを見てもいない。いや、意識そのものがもうろうとしていることに康太は気づけた。


腹部に刺さった巨大な針は少なくとも致命傷にはならないだろう。康太が噴出の魔術で傷口ごと焼いたことで出血そのものがほとんどなくなっている。とはいえ臓器のいくつかを傷つけているのは明白だ。このまま放置していては間違いなく危険な状態になるのは間違いない。


だが康太はまだ勝っていない。優位に立っているというだけでまだ勝利していないのだ。完全に勝つまで戦うのをやめるなとは師匠である小百合の教えの一つである。


康太はあえて近づかず、遠隔動作の魔術を駆使して小柄な魔術師の体を思いきり何度か殴りつけた後で強引に投げ、地面に頭からたたきつける。


そしてウィルをその体に巻き付け、顔を覆って完全に呼吸困難にさせ今度こそ失神させる。ここまでやられていながら立っていたこの魔術師はかなりの実力者だったのだろうと康太は考えていた。


もしウィルが自分と一緒にいなければ間違いなく負けていた、それほどの相手である。


康太は持っていたワイヤーで魔術師の体を縛り上げると文たちのほうに意識を向けた。


未だ文たちは戦い続けている。文たちからやや離れた場所に何やら黒い球体があり、文と倉敷は氷を操る魔術師に対して攻撃を仕掛けているようだった。


倉敷の水が徹底して凍らされ、文の電撃による攻撃もうまく作用していないように見えた。

周囲に満ちた水と氷が電撃の通り道を作りにくくしているのだろう。


倉敷との魔術の相性は良いほうである文ではあるが、氷を作られるせいでその相性の良さが悪い方向へと向かってしまっているようだった。


とはいえすでに一人を倒し、一人はあの黒い球体に閉じ込め、最後の一人を倒そうとしている状態であれば加勢する必要がありそうだった。


康太は即座に体に取り付けてあったホルダーから炸裂鉄球の入ったお手玉を取り出すと勢い良く上空へと投げつけ噴出の魔術でさらに上空へと飛翔させる。


十分な高さへと移動すると同時に中に封じ込められていた鉄球を蓄積の魔術によって射出させ、収束の魔術によって細身の魔術師めがけて襲い掛からせる。


文や倉敷の攻撃の対処に夢中になっていた魔術師は康太の攻撃が来ることを全く予想していなかったのか、攻撃が直撃する寸前まで鉄球の存在に気付いていなかった。


その体に鉄球が襲い掛かる中、文と倉敷は康太の攻撃が来たことで康太が勝利したことを理解したのか、このまま勢いに乗ろうとそれぞれ行動を開始する。


文は氷を足場に魔術師めがけて接近し、倉敷は文の邪魔をしないように援護するように水を展開していく。


康太は適度に火の弾丸の魔術や鉄球を魔術師めがけて放ち続け相手を牽制していく。


文は手元から鞭を取り出し、周囲にあった砂鉄をその鞭にまとわせていく。


鞭の射程距離に近づくと文は勢いよく鞭を魔術師めがけてふるう。波打つように魔術師めがけて向かっていった鞭はしなりながらその体を捉えようとするが、寸前のところで細身の魔術師が氷の盾を作り出して防御してしまう。


だが文もその程度は読んでいるようだった。鞭の周りにあった砂鉄が魔術師の周囲にぶちまけられると、文は鞭を通して電撃を魔術師めがけて放つ。砂鉄が付着し周囲にもまき散らされたことで魔術師は電撃が直撃してしまい、その体を硬直させる。


だが魔術師はまだ動いていた。砂鉄が分散したことで威力も分散してしまったのである。文に対して攻撃しようとその姿を視界に収めるが、次の瞬間噴出の魔術によって高速で移動してきた康太がその首筋に蹴りを直撃させて魔術師を蹴り飛ばす。


「ようベル、悪かったな三人も任せちゃって」


「構わないわよ、最初はあんたに五人も任せちゃったし・・・そっちは終わったの?」


「問題ない。あとは二人・・・いやあと一人か」


蹴り飛ばされても未だぎりぎり意識を残していた細身の魔術師の頭部に対して遠隔動作で思い切り蹴りを放つと魔術師は脳震盪を起こしてそのまま意識を手放す。


残りの戦力は障壁を展開したまま砂鉄に覆われてしまった肥満体形の魔術師だけとなっていた。


「おい、なんかすごいかっこよく飛んできたけどなんだよあれ、ライダーキックか?」


「お、うれしいこと言ってくれるじゃんか。頑張ってみた甲斐あったな」


空中に飛び出してから噴出の魔術を行使し急加速、収束の魔術によって狙いを定めて蹴りを放つ。


落下のエネルギーも加えたその攻撃の威力はそれなりに高い。しかも空中で体勢を変えることなく一直線に向かっていったことから確かにライダーキックに見えなくもなかった。


「あんたの新しい火属性の魔術ね。なかなか汎用性高そうだけど・・・あれクラリスさんから教わった奴じゃないでしょ?」


「あぁ、師匠から教わった奴はもっとえげつない。これはサリーさんに教わった奴だな。汎用性高くて助かるぜ」


移動に補助、間接攻撃に直接攻撃とその使用法は多岐にわたる。とはいえその使用用途はほとんどが戦闘にかかわるものなのだが、それはもはやいまさらと思うべきだろう。


「で、あの黒い塊はどうするんだ?いつまでもあのままってわけにもいかないだろ」


「基本的には放置でもいいけど・・・攻撃で障壁を破るにしても硬すぎて・・・あんたの遠隔動作なら何とかなるでしょ?」


「何とかなるけど・・・ちょい待ち・・・」


康太はそういって黒い球体の内部を索敵によって調べてみる。すると中には息も絶え絶えな肥満体形の魔術師が入っていた。


特に何をされたわけでもないのにかなりつらそうに見える。


「・・・なぁベル。ひょっとしてあれ空気穴とか開いてないのか?」


「そうみたいね。だから放置でもいいのよ。あぁしてれば最終的には勝手に自滅してくれるんだもの」


空気の穴がないような状態で球体の障壁を展開すれば当然ほとんどの攻撃を通すことはなくなるだろう。

だが攻撃を通さないということは逆に言えば空気なども新しく入ってこないということになる。


普通に呼吸する人間がいて密閉空間でどれだけまともに呼吸でき、まともに意識を保つことができるのか康太たちは正確には理解していなかったがいつか酸欠を起こすのは目に見えていた。


だからこそ文は放置していいという指示を出したのだ。障壁にまとわりつく砂鉄の重さによって障壁を動かしにくくなり、障壁を解除すれば周囲にある砂鉄と一緒に電撃が襲い掛かる。


仮に瞬間的に障壁を消したり展開したりすることができたとしても、それでは取り込める酸素は微量だ。

その程度では状況は好転しない。酸素不足によって意識レベルや集中力が下がれば自然と障壁は解除されるだろう。わざわざ文たちが危険な思いをしなくても勝手に倒れてくれるのであればそのほうが圧倒的に楽だ。


「定点発動系の炎の魔術を覚えてたらよかったんだけどなぁ・・・そうすればさっさと酸欠にできたのに」


「そうね・・・まぁ周りの魔術師を捕縛しながら待ってましょ。周りに電撃仕掛けておくから魔術師の後片付けよ」


「あいあい。にしても結構な数になったな・・・九人に四人・・・十三人か・・・これだけの数をよくも倒せたもんだよ・・・」


倉敷は自分たちが倒した魔術師の数を見て驚いている。ここの戦闘能力で言えば康太たちに劣るものばかりだったが、ある程度戦闘慣れしている康太たちにここまでくらいついてきたのだ。


その経験はバカにできない。連携もしっかりできていたし、何より多人数の戦術も確立されていた。


確かに組織的な存在であるのは間違いないだろう。あとはこの魔術師たちを副本部長のもとに届けることができれば依頼完了となる。


文は黒い球体の中にいる魔術師の見張りと攻撃の準備を、そして康太と倉敷は周りで気絶したままの魔術師たちをそれぞれワイヤーなどで縛り上げていた。


簡単にほどけないように厳重に縛り付けることで時間がかかってしまう。人数が人数なのだ。それも仕方のない話かもしれない。


「ところでよ、こいつらってかなり外国人っぽいけどさ、日本に簡単に来てて大丈夫なのか?密入国的な問題で」


「そりゃばれれば問題だろうな。その前に協会に連れていくしかないだろ。ここに放置しておく選択肢は最初からないってことだ」


出国手続きもない状態で勝手に国を出入りしているものがいるなどとそれこそ問題だ。この魔術師がどこから来たのかまでは知らないが、もし目撃証言がほんの数時間前にあった場合移動時間の関係で矛盾が生じる可能性もある。


もとより副本部長に引き渡す関係で協会に連れていくつもりはあったが、魔術の隠匿という意味でも連れて行かなければいけないのだ。


これだけの人数を一度に運ぶのは容易ではない。最悪の場合は協会そのものに協力を打診する必要があるだろう。


ウィルに協力してもらうパラグライダーでは一度に飛べる人数にも限度がある可能性がある。康太たちを含めると十六人もの人間を一度に飛ばすのだ。一人六十キロ程度としても九百六十キロ。衣服や装備、体重の個人差などを含めれば一トン近い重量を飛ばすことになってしまう。


さすがにそれは難しいかもしれないのだ。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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