攻撃力
康太の攻撃を確実に蓄積されていたゴーレムと土の壁は、解放された物理エネルギーに耐えられずに砕け散る。
そして砕け散るタイミングに合わせるように、康太は噴出の魔術によって壁の向こう側にいる小柄な魔術師めがけて一気に接近していた。
相手からすれば、康太の突進によってゴーレムと土の壁が同時に壊されたように見えただろう。
それほどの威力を持った突進を使ってきていると誤認させたことで、相手の康太に対する警戒度はかなり上昇していた。
もはや遠距離でしのげる相手ではないと判断したのか、魔術師はその体をさらに土で覆っていく。
完成したのは巨大なゴーレムだった。しかも土だけではなく部分的に岩や金属の類で作り出されたゴーレムだ。
これを倒すには骨が折れるなと康太は索敵の魔術を使ってゴーレムの大まかな構造を把握していた。
康太はかつてこれと似たようなものを見たことがある。魔術師本人がゴーレムの中に入り操縦することで比較的安全にゴーレムの操作ができるというものだ。
かつての自分は質量攻撃を使ってゴーレムを粉砕し、ゴーレムの核とでもいうべき部分を分離させることでこれを破壊した。
過去の自分ながら無茶なことをしたなと思いながら、康太が目の前のゴーレムを観察していると、先ほどまでのそれとは全く違う速さで目の前のゴーレムが拳を振り上げる。
今までのゴーレムとは似て非なる動きだ。先ほどの戦闘用のゴーレムも速かったが今回のそれは全く異次元の速さを持っている。
一瞬でも反応が遅れれば攻撃をよけることができずに直撃を受けていただろうと考えながら康太は噴出の魔術を使って相手のゴーレムに対して適度な距離を保っていた。
試しに再現の魔術を放ち、そのゴーレムを攻撃してみるが、ほんのわずかに表面が削られただけだ。
はっきり言って全く意味がない。しかもゴーレムの材料はそこかしこにあるのだ。仮に破壊したところですぐに材料を補充され、修復されてしまうだろう。
魔術師がいるのはゴーレムの胸部の奥深く。そしてゴーレムの核と思わしき物体もそこにあった。
少なくとも強烈な一撃でその部分を露出させるか、あるいはその場所まで攻撃を届かせなければならない。
だが当然ながらその部分に至るまでは特に頑丈な岩などでおおわれている。
蓄積の魔術を直接その部分に使用できれば攻略もできたのだが、ゴーレムの表面部分は土でおおわれ、硬い材質と柔らかい材質を組み合わせて攻略されにくいように構成されているようだった。
先ほどの戦闘用ゴーレムは距離を保って戦うための足止めなどに利用するタイプのもので、今回のそれは接近戦をするために作られたものなのだろう。
小百合ほどの実力があれば、これだけの硬度や装甲をもってしても容易に切り裂けるのだろうが、おそらく康太には無理だ。
ならばどうしようかと康太は悩む。
襲い掛かってくる拳は速い。移動速度もなかなかのものだ。かなりの質量があるにもかかわらずまるで滑るように接近してくる。
先ほどから足踏みをしていないゴーレムに気付き、康太が足元を見るとどうやら地面と同化し地面の形を変換することで一緒に動いているのだろう。
要するにこの辺り一帯がこのゴーレムの足、体の一部のようなものなのだ。よく考えられているなと思いながら康太は襲い掛かってくる攻撃を回避しながら攻略法を模索し始める。
このままの攻撃力では少々分が悪い。康太の攻撃は速射性や手数、そして速度はあるが一撃一撃の威力自体は低い。
拡大動作が康太の持つ魔術の中で最も威力があるだろうが、砂、土、砂利、岩石などの多層構造を作り出したゴーレム相手には威力が分散してしまう可能性が高い。
槍の打突がそのいい例だろう。そして槍の斬撃を用いてもこのゴーレムを完全に切断できるとは思えなかった。
ゴーレムを破壊するだけの威力を持たせて攻略しようとすると、ゴーレムを破壊するよりも早く康太の魔力が枯渇するだろう。
とはいえこのままでは一方的に攻撃されるだけだ。何とかしてこのゴーレムに対して有効打を与えなければいけないと康太は索敵をしてゴーレムを観察すると同時に周囲の状態を確認した。
すると索敵で確認できたのは、文たちのほうに向かおうとしていた粗悪品ゴーレム最後の一体をウィルが破壊した瞬間だった。
康太が小柄な魔術師と戦っている間、粗悪品ゴーレムの数は増えなかったのだろう。ウィルが倒し続ける以上、必ず尽きる。そしてその時が来たのだ。
そこで康太は一つ思いつく。今まで試したことがなかった方法だがやってみる価値はあるだろうと大きく息を吸い、叫ぶ。
「フローウィル!」
康太の叫びにこたえるようにウィルはその姿を人から半液体状に変えて康太のもとに駆け寄ってくる。
滑るようにやってくるウィルは康太の体にまとわりつき、鎧の様にその姿を作り替えた。
「行くぞウィル!息を合わせろよ!」
息などしないがなと自分で思いながらも康太は大きく槍を振りかぶる。
その槍にウィルの体がすべてまとわりつき、巨大な大剣を形作る。そしてその大剣の数カ所から炎が噴出し勢いよくゴーレムめがけてたたきつけられた。
ゴーレムの足に向かって放たれた大剣は、その膝を一撃のもとに粉砕していった。
ウィルと噴出の魔術の合わせ技、巨大な質量の武器などは康太の膂力だけでは扱えないが、ウィルの補助に加え噴出の魔術によって推進力を得たことで強力な威力を持った一撃に変化する。
ゴーレムの足を粉砕した康太はそのまま大剣を振り切った勢いのまま噴出の魔術を使い体ごと回転して再びゴーレムへと斬りかかる。
足を砕かれたことによってバランスを崩したゴーレムだが、その腕を前に出して康太の攻撃を防ごうとしていた。
だが康太の振るった大剣の一撃はゴーレムの腕を簡単に粉砕する。康太は勢いのまま噴出の魔術を駆使してゴーレムの背後に回ろうとするが、相手もそう簡単に背後へ回り込ませてはくれなかった。
拡大動作の様に一撃の威力が強く、なおかつ広範囲に攻撃できるタイプの魔術と違い、噴出の魔術は移動にも攻撃にも使える汎用性の高い魔術だった。
多大な魔力を消費する拡大動作とは違い、噴射の魔術で使う魔力量は瞬間的であれば割と低い。大剣を操るような使い方であればその消費魔力は康太が普段使っている火の弾丸の魔術よりも少し多い程度だ。
高い威力の攻撃を連発できる。これは今の康太にとってかなりの利点だった。
康太は噴出の魔術を使いゴーレムの本体めがけて大剣を振るう。表面の土や内部にあった砂利や岩を砕きながらゴーレムの体を傷つけるが、粉砕するまでには至らなかった。
即座に噴射の方向を逆方向に変え強引に距離を取りつつ内心舌打ちをする。
高い威力を得たとはいえ今の威力ではゴーレムの腕や足を砕くことはできても胴体部分を砕くだけの威力は得られない。
「まだ足りない・・・か・・・」
実際にやってみて、何層か装甲は砕けただろうが内部に至るまでの損傷は与えられていないのは理解できた。頑強な防御を崩すにはさらに強い攻撃を放つか攻撃の方法を変えるほかない。
康太は地面に散らばったゴーレムの破片の岩を見てウィルにそれを回収させた。
槍の先端に作り出されているウィルの大剣がさらに大きさと質量を増し、もはや身体能力強化をかけた状態でも康太には持ち上げることがやっとの重さになっていた。これでは明らかに武器としての利用は不可能だろう。
質量を増せばその分威力は増す。速度を増せばその分威力をあげられる。
どちらを上げるか、そこはもう少し実験が必要そうだった。重くなれば重くなるほどそれを動かすのにもエネルギーが必要なのだ。
魔術的に言い換えればそれだけ出力を高くしなければいけない。瞬間的とはいえこれ以上出力を上げれば連続攻撃は難しくなるだろう。
「この形じゃダメだな・・・やっぱ原点回帰するか」
大剣の形も威力が分散するため良いとは言えない。康太はそこで自分が一番使い慣れた形にすることにした。
形作られたのは槍だった。巨大で貫くためだけに作られたかのような形の円錐状の槍。
魔術師もこの形を見て康太がいったい何をしてくるのか理解しただろう、まるで正面から受けて立つとでもいうかのように両腕を再生させ、その腕を盾にして体を守る。
相手からすれば正面から受けるだけの理由はない。だがもし、この攻撃を受け止められれば康太はおそらく本当に攻め手を失うと考えたのだろう。
多少賭けになっても、全力の攻撃を受け止めたという事実を康太に与えたかったのだ。そうすれば戦いの流れは一気に変わる。
小柄な魔術師たちの目的はあくまでビデオの回収。その目的のために康太たちが邪魔なだけだ。
逆に言えば康太が戦意を失えばそれほど楽なことはない。相手に実力差を教え込むことができれば戦いにおけるモチベーションにも影響する。
全力で攻撃しても本体に傷をつけられないというのはそれだけの意味を持っているのだ。
相手のその意図を康太は正確に理解していた。ゴーレムをまっすぐに見据えて満面の笑みを作る。
「上等だ・・・!突き崩す!」
待ち構えるゴーレムに対して、康太は深呼吸をして体の中の魔力を高めていく。巨大な槍から炎が噴出され、その体を前へ前へと進めていく。
康太自身も歩みを進め、徐々に、徐々に加速していく。
その槍をまっすぐに、一撃を叩き込むために。
噴出の魔術の出力を最大まで上げ、康太は一気にゴーレムへと突っ込んでいく。
ゴーレムも自身の体を地面に固定し、完全なる防御態勢を作り出す。
康太の槍の矛先はゴーレムの中にいる小柄な魔術師に向けられている。ゴーレムを倒すには術者を倒すのが一番手っ取り早い。
康太は迷いなく、ゴーレムの体に槍を突き立てた。
両腕を容易に貫き、その体の表面を、内部の装甲を貫きながら槍は進んだ。
だがそこで槍は止まる。ゴーレムの体の構造で言えば、最終装甲を貫きかけたところで止まっていた。
小柄な魔術師には届いていない。
その事実を確認して小柄な魔術師は勝利を確信していた。この攻撃も防ぎきれるのであればもはや康太にこのゴーレムを攻略する術はないと思ったのだ。
あとはこの槍の攻撃をうまくいなしながら康太を攻略するか、康太が逃げ出すまで粘ればいい。近くで戦っている文と倉敷はこのゴーレムに対する有効手段をほとんど有していない。
もはや勝利は目前だという確信の中、その声が聞こえた。
「何勝った気になってんだ?」
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




